「にぃに、もって来たと。 これこれ、この本、覚えとぉ?」 「えへへー、懐かしかでしょ? にぃににも、読んでもらったことあるもんね」 「やけん、私とーっても嬉しかと! にぃにに、読み聞かせば、おねだりしてもらえて」 「なんかね? 読み聞かせしてあげるのって、 にぃにより、わたしがおねーさんになれちゃったみたいな気ばしよるし」 「それに……『やっとにぃにに恩返しできる!』って、 そぎゃんふうにも、感じ取るけん」 「やけん、ね? この本しか思いつかんかったと。 『長靴をはいたネコ』」 「にぃにぃに読み聞かせばするけんね。 絶対、失敗できんけん―― 私、こいば、もう一回読み返したとよ」 「そうしたら、この本。 結構、難しい漢字とかもたくさんあって―― あのころのちいちゃか私ひとりじゃ、 絶対に読めんかった本って、思って」 「それでも、にぃにぃに、ねぇねぇに、 おねだりをしても読んでもらったの―― 今読むと、理由が、すごくわかる気もして」 「やけん、結構はずかしいけど。 にぃにには、私のこと―― もっともっと、知ってほしかけん」 「今の私も、あのころの私も。 にぃにぃと出会う前の…… ひとりで勝手に閉じこもっちゃっとった、私のことも」 「やけん、読むね? へたっぴいかもしれんけど――」 「にぃにぃのために。 あのころのちいちゃな私のために、私、読むけん」 「――『長靴をはいたネコ』」 ;以下の『』で始まる部分は、読み聞かせ ;「」ではじまる部分は、その間の会話です 『貧しい粉屋が、貧乏なまま、死にました』 『残されたのは、三人の息子と、 粉をひくための水車小屋と、 引いた粉を運ぶためのロバと、 粉を狙うネズミを退治するためのネコだけでした』 『長男は、水車小屋をもらいました。 次男は、ロバをもらいました。 末っ子には、ネコしか残りませんでした』 『長男は水車小屋で粉をひき、毎日のパンを稼ぎました。 しかし自分の分だけで精一杯。 次男と末っ子は、二人でいきていくようにと追い払われてしまいました』 『次男はロバで荷物を運び、毎日のパンを稼ぎました。 しかし自分の分だけで精一杯。 末っ子は、一人でいきていくようにと追い払われてしまいました』 『兄さんたちから追い払われた末っ子は、とほうにくれてしまいました。 「ネコをもらってもパンも買えない。僕はどうやって食べていこう」』 『末っ子が思い悩んでいると、 ネコがひょこひょこやってきました。 「ご主人様には私の他に、何も財産がないのですか?」』 『「着ている服と、冬の服。 はいている靴と、長靴ひとつ。 それから袋。ちいさいのと大きいのがひとつずつ」』 『「長靴だったらちょうどいい。私に譲ってくださいな。 おまけに袋もつけてくれたら、 このネコがなかなか役にたつところ、きっとご覧にいれましょう」』 『「どのみちこのままじゃ餓え死にだ。 長靴と袋をネコにあげるよ。 大きな袋と小さな袋、どっちが欲しい?」』 『「私が入れる大きさがあれば十分です」 「それなら小さな袋でいいね。 僕は餓え死しないよう、なにか仕事を探してくるよ」』 『「パン屋が人手を探しています。 餓え死にしないですんだなら、 来週の今日の[月'つき]の[出'で]に、またこの小屋の前であいましょう」』 『末っ子と別れたネコは、長靴をカポカポ鳴らして、 大きな野原までやってきます』 『「今日はすばらしいお天気だ。 うかれたウサギが、遊びに出るにちがいない」』 『ネコはふくろを大きく広げて、 オオバコとハハコグサ、それからアザミのやわらかいところを、 つみとって中へ入れました』 『ネコはそのまま姿を隠し、 のんびり待っておりますと、 クンクン鼻を鳴らしたうさぎが、袋の中に入ります』 『「はい、ご苦労さん」 袋の口をしめて捕まえ、 ネコはウサギの入った袋をかつぎます』 『「ウサギだったらちょうどいい」 ネコは長靴をカポカポ鳴らして、 大通りをまっすぐまっすぐ、王様のお城までやってきます』 『「[衛兵'えいへい]、衛兵、王様に取次を願い出る。 私は長靴をはいたネコ。カラバ[公爵'こうしゃく]様のお使いだ」』 『衛兵は困ってしまいます。 ただのネコなら追い払いますが、 長靴をはいたネコの相手をするのは初めてです』 『公爵様のお使いということですし、 衛兵は、王様にどうするべきかをお尋ねしました』 『「長靴をはいたネコとは珍しい。 カラバ公爵なる人物は、面白い使者を仕立てたものだ」 面会を許してもらえたネコは、王様の前でかしこまります』。 『「王様、初めてお目にかかります。 私は長靴をはいたネコ。 こちらは、カラバ公爵様からの贈り物です」』 『「やわらかそうな野ウサギだ。受け取ろう。 カラバ公爵殿に、[御礼'おんれい]申し伝えてくれ」 「必ずお伝え申し上げます」』 『次の日にはうずらを捕まえ、 その次の日にはつぐみを捕まえ、 次の次の次の日にはまた野ウサギを捕まえて。 一週間、毎日毎日、ネコは王様に贈り物をしました。』 『「野生の美味を、これほど毎日、生け捕りにしてお贈りくださるとは。 カラバ公爵殿は、狩猟を得意とされているのか?」』 『「カラバ公爵様のご領地は、見回りに一週間かかります。 そのあいだの食べ物をまかなうために、狩りもお上手になりました」』 『「なんと、それほどに広い領地を持つのか。 カラバ公爵にお会いしたい。ご都合はいつがよろしいか」』 『「今はご領地の見回り中です。 戻られましたら、必ずお伝えいたします」』 「ふふふっ――ここ。ね? ここ。 私、ここ、すっごく覚えとったし、勉強になったと」 「プレゼント。お誕生日とか、クリスマスとか、 そういうときだけじゃ、きっとあんまり意味がないって―― ちっちゃいながらに、私、すっごく思ったとよ」 「毎日毎日プレゼントする。 そぎゃんしたら、特別だって思ってもらえる。 そいば、きっと本当のことって、思ったと」 「思ったっていうか……感動した? そのころは、そぎゃん言葉は知らんかったけど―― 『目からウロコが落ちた』って感じで」 「やけん。私もそういう風にしてみようって思って―― にぃにが、覚えてくれとるかは知らんけど、 実際、そぎゃんとしとったとよ?」 「こどもやったけん、物のプレゼントはできんかったから―― 毎日ひとつ、なにか『良かこと』のプレゼント」 「唐揚げばおいしかときは、 わたしも食べたかったところをぐうって我慢して、 『おなかいっぱいでもうはいらんけん』って、 にぃにに食べてもらったり」 「にぃにぃがおめめ、パシパシってしとるときには、 『目ば閉じて?』って――ねぇねぇに頼まれてするときとおんなじに、 まぶたの上を、あったかーくして、やさしくおしたり」 「あげられるものも、お手伝いできることもなかときは、 その日のにぃにぃのいっとう素敵だったとこ、お絵描きしたり」 「お絵描きして見つけた、いままで見つけられなかった 新しいキレイのことを、にぃににだけ、こっそり教えてあげたり」 「そぎゃん、『良かこと』。一日にたった一つでも―― 毎日毎日、にぃににずっと、私、プレゼントつづけとったと」 「今も、毎日。にぃにが帰ってきてくれて、 またプレゼント、渡せるようになったけん」 「うふふっ、その結果、 今こうして私、にぃにぃのとなりで寝とるけん! 毎日毎日プレゼントの効果、きっと、絶大だったとねー」 「こん読み聞かせも、にぃにへのプレゼントになったら良かとね。 そぎゃんと思うてもらえるように、続きも、大事に、大事に読むけん」 「――ん。」 『王様とわかれお城を出ると、ネコは末っ子に会いにいきました。 末っ子は、パン屋の仕事になじみ始めているようでした』 『「ご主人様ご主人様。 あなたはパン屋と公爵と、どちらの仕事をやりたいですか?」』 『「やれるのだったら公爵がいい。 僕にできるかわからないけど」』 『「そんなことなら、やってみてから考えましょう。 パン屋の仕事の、次のおやすみはいつですか?」 「あしただけれど」』 『「さて忙しい!」 末っ子の返事をきいて、 ネコはふたたび、外へ飛び出していきました』 『お城とは反対の方角へ、長靴カポカポ歩いて歩いて、 知らないところまでやってきます。 そこでは痩せた農夫たちが、麦をつくっておりました』 『「私は長靴をはいたネコ。カラバ公爵様のお使いだ。 このあたりを今おさめているのはいったい誰だ?」』 『公爵様のお使いに、失礼な返事はできません。農夫の一人が、頭を下げて答えます。 「このあたりを今おさめているのは、人食いのオーガにございます」』 『「それでは聞くが、カラバ公爵様と人食いのオーガ、 どちらにここをおさめて欲しい?」 「人食いのオーガはごめんです。カラバ公爵ならありがたい」 「人食いのオーガがごめんなら、なぜ追い払ってしまわない?」』 『「人食いのオーガは、変身の術が自慢です。 熊になったり、ライオンになったり。あれには誰もかなわない」』 『「カラバ公爵様ならかなう。 だから、これよりここはカラバ公爵様のご領地だ。 誰かに尋ねられたのならば、そう答えなさい」 「わかりました。これからここは、カラバ公爵様のご領地です」』 『行く先行く先で、人に合うたびそのやりとりを繰り返し、 やがてネコは、古いお城につきました』 『「どうやらここが、人食いのオーガのお城だな。 衛兵のひとりもいやしない。きっと端から食べたんだろうな」』 『ネコは勝手にお城に入り、大声で人食いのオーガを呼び出します。 「私は長靴をはいたネコ。カラバ公爵様のお使いだ」』 『人食いのオーガが中からのっそり出てきます。 ぎょろりとした目に鋭い牙。大口をあけて怒鳴りつけます。 「長靴をはいたネコが、なんの用だ」』 『「カラバ公爵様のご用だ。 お前のものだった領地はすでに、カラバ公爵様のものとなった。 逃げ出すことをゆるすから、荷物をまとめて出ていくがいい」』 『「なにをぬかすかこのネコめ!!」 怒り狂ったった人食いのオーガは、立派なライオンに化けました。 「長靴ごとぺろりと食べてやる」』 『怖がるどころか、ネコは安心した様子。 ライオンの爪をひらりとかわし、ヒゲの形を整えます』 『「ごじまんの変身の術がその程度ならちょうどいい。 象に化けるカラバ公爵の相手ではない」 「なんと、象だと?」』 『ライオンでは象にかないません。 人食いのオーガは困ってしまい、ぴたりと動きを止めました』 『オーガを気にするふうもなく、ネコは安心しきっています。 「小さなものに化けられたなら怖かった。 この袋に入る生き物よりも小さなものには、カラバ公爵様は化けられないから」』 『「勝ったぞ! オレはもっと小さく化けられる」 人食いのオーガは喜びいさんでハツカネズミに化けました。 「はい、ご苦労さん」』 『ハツカネズミを頭から食べ、ネコは長靴カポカポいわせ、 いま来た道を戻ります』 『「人食いのオーガはカラバ公爵様がやっつけた。 お城にいって確かめてこい。 確かめてきたら明日のお昼に、お祝いの[宴'うたげ]を開くのだ」』 『来た道々で、会う人会う人にそういいつけて、 ネコはようやく、末っ子のもとに戻ります』 『「ここから西にいったところに橋があります。 明日のお昼に、その橋を、王様の馬車がわたります」』 『「王様の馬車のひづめの音が聞こえたら、 失礼することがないように、 橋の下で、川の水で、体を洗ってくれませんか?」』 『「どうしてだい?」 「カラバ公爵になりたかったら、そうしてください。 パン屋の手伝いの方がよければ、しなくていいです」 「カラバ公爵になってみたいから、ネコに言われたとおりにするよ」』 『次の日です。朝からネコはお城に行きます。 王様の馬車の先頭にたって、案内します』 『知らない土地に来た王様は、 「このあたりは誰の領地か」と訪ねます。 会う人会う人「カラバ公爵様のご領地です」と答えます』 『「なるほどカラバ公爵殿は、 これほどのご領地をもっておるのか」』」 『感心しきりの王様を、ネコは橋まで案内します。 ついた途端に、しっぽをぴいんと逆立てます。 「なにかおかしい。私が様子を見てきます」』 『橋の下、川では約束したとおり、末っ子が水浴びをしています。 ネコは早口で訪ねます』 『「ご主人ご主人、 服を失くして領地を得るのと、 服はそのまま領地もなしと、 いったいどちらがいいですか?」』 『「服は失くしても領地が欲しい」 「それならあと少しの我慢です」』 『そういうなり、ネコは末っ子の服を川に沈めてしまいます。 驚いた末っ子が声をあげると、ネコも大声で叫びます』 『「大変だ! カラバ公爵様が族に襲われてしまったようだ! 服も馬車も、なにもかも持っていかれてしまったぞ!!』 『声を聞きつけた王様は、おつきのものに命令し、 上等の服と気付けの酒とを届けさせました』 『驚く末っ子に、ネコはこっそりささやきかけます。 「おめでとうございます。 これでご主人は、カラバ公爵になれました」』 『ネコの言うままに服をきて、馬車に乗り込み、 人食いのオーガのものだった、カラバ公爵のお城につけば、 大歓迎の宴です』 『大喜びの王様を、王様のお城に送り届けて、 カラバ公爵になった末っ子は、自分のお城に戻ります』 『「やれやれ、これで当分は飢え死にせずにすみそうですね」 「ネコのおかげだ、ありがとう」 カラバ公爵になった末っ子は、ネコを撫で撫で、聞きました』 『「僕はお前の主人になって、カラバ公爵になった。 父さんもお前の主人だったのに、どうして公爵にならなかったの?』 『「とても簡単なことです、ご主人」 前足を舐め、顔を洗って、ネコはのんびり、答えます』 『「前のご主人は、私に長靴をくれなかったんです」』 「――おしまい!」 「あーーー、お話! 黙って読んだらすぐなのに、 読み聞かせすると、すっごくたっぷり感じるとねー!」 「読むの、結構、緊張したけん、 なんかどーっと、力ば抜ける感じするぅ」 「あー…… だらーっとしてにぃににぺっとりくっつくの、 しあわせよねー、気持ちよかとねー」 「……こぎゃんしあわせば味わえるのも、 『長靴をはいたネコ』のおかげと」 「……ちっちゃかったころの私は、 おうちの中では、全部がねぇねぇのものだって、 私、ひとりで勝手に思い込んでしもうとったけん」 「やけん、さみしくて、こころぼそくて。 こんおはなし―― 私、自分が末っ子のつもりで、聞いとったと」 「あ――けど……そっか。 こんお話、ねぇねぁが一番最初に読み聞かせてくれて、 わたしに、こんご本ば、プレゼントしてくれたけん――」 「ねぇねぇも、もしかしたら…… ううん、絶対にきづいてくれとったんだ。 私が、そぎゃん風におもいこんどるって」 「やけん、きっと。 あのころの私にだってとどくお話、 探して、読み聞かせてくれたんだ」 「『ひーちゃん、がんばれ』って。 『自分のお城ば手に入れて、きっと幸せになれるから』って」 「――ねぇねぇは、一番上のこやけんね。 水車小屋……右田の蔵とずっと一緒にいる他、なかけん」 「そう考えたら、水車小屋ばもらった一番目のおにいさんも、 ロバばもらった二番目のおにいさんも、 逆に……縛られてしまったんかも」 「あー……そっか、いま気づいたと! 長靴をはいたネコって―― ネコって、自由の象徴とね、きっと」 「自由があっても、そこから動かなきゃ飢えて死ぬだけ。 やけん、ネコには長靴ばはかせてあげねば、いけん」 「こぎゃんとハッキリ言葉にできとったわけもなかけど、 こぎゃんふうには、ほんとにいま、考え、まとまった感じとやけど」 「ばってん――ちいちゃかころの私も、 なーんとなくは、そこんところば、わかっとったとよ。たぶん」 「だって私、 『おえかきちょうがわたしのネコさん』って、 そいば、ハッキリ思うとったもん」 「『ネコさんにはながぐつあげなきゃ、きっとダメ』って、 おさないなりに、強く思って」 「やけん、長靴。失くさんように――描き続けたと」 「一枚お絵描きするごとに、きっと私のネコさんは、 長靴をはいた一歩を歩いてくれるって。そぎゃんふうに、思ぉて」 「描き続けたら、歩かせつづけたら、 きっと私のネコさんが、私をカラバ公爵にしてくれるって、思ぉて」 「そうしたら、ふふっ。 ネコさん、私には王子様ばつれてきてくれたと!」 「だいすき。にぃに。王子様。 世界一で一番かっこいい、私だけの王子様」 「嬉しかったと。にぃにが私の絵ば褒めてくれたとき。 にぃにのこと、『私の王子様なんだ』って、あれで、気づいて」 「うれしくて、ドキドキして、そぎゃん気持ちが恥ずかしくって。 あの日の夜には、くまくまとずーっと、おしゃべりばして」 「それで、ネコさん――お絵描きちょうにも、 一生懸命、にぃにぃの、王子様の絵ば、がんばって描いて」 「にぃにの絵、それからもずっとたくさん描いて。 そうしとったけん、稀咲先輩とも知り合えて」 「あ! そっか――やけん、私のネコさん……、 私のこと、公爵様にもしてくれてたんだ」 「だって……今の私って市長さんでしょお。 まだまだ足りんとこらけだけど、 それでも、いうたら、オヒトヨ公爵様やけん」 「あー、でも。そぎゃん風に考えちゃったら、 全部がお話どおりだったら、なんか、ちょっとだけ不安かも」 「だって、こんお話―― このご本に書いてあるバージョンの、 『長靴をはいたネコ』って――」 「『めでたしめでたし』よか 『それからみんなは、ずっと幸せに暮らしました』とか そぎゃんたぐいのこと、まるっきり書いてないでしょう」 「ネコが、『長靴をはかせてくれなかったから』っていうだけで ――あ」 「そっか、うん。だからなんだ。」 だから、『ずっと幸せに』は、暮らさないんだ」 「……翻訳、これ、正確なのかなぁ。 原書だと、どぎゃんふうに、お話ば終わるのかなぁ」 「少しだけ気になるばってん―― 別に、知らんままでも、かまわんと」 「だって、私の『長靴をはいたネコ』はこれだから」 「ねぇねぇが私に読み聞かせてくれて、 にぃにぃが私に読み聞かせてくれて」 「それでいま、私がにぃにぃに読み聞かせてる、これだから」 「お話が終わりになったって、長靴を脱がないネコが、 『ずっと幸せに』はならないみんなが、 きっとその先も、歩き続けるお話だから」 「やけん。私も、私のネコもずうっと、 これから先も、長靴ばはいて、歩くとよ」 「ばってん、一人旅じゃなかとよ? にぃにの隣で、にぃにと一緒に歩くけん!」 ;↓にぃに、と。以降、大あくび 「ずっと、ずうっと、旅のおわりまで、にぃに、と―― ふ……あ……ふぁあ〜〜っ」 「あー、いっつもよりずっとたくさんおしゃべりしたけん、 ちょっとつかれて――すっごく眠かと」 「あかりとか、わたし落とすけん。 にぃには先に、目、閉じちゃってよかとよー」 ;SE 電気スイッチオフ(パチン) 「…………」 ;リップ音。軽く 「(ちゅっ!)」 「えへへっ、おやすみのキス。 読み聞かせの終わりに、してみたかったと!」 「だって、今日だけ、この時間だけ、 私が、にぃにに読み聞かせしてあげたけん。 私が、にぃにのおねーちゃんやけん」 「楽しかけど、明日も続けてみたいけど―― でもやっぱり、私、にぃにの妹で、恋人でいるのが一番やけん!」 「やけん、ね? にぃに、そろそろ寝よお。 ゆっくり眠って、元気に起きて」 「そしたら、明日も、 私と一緒に、歩こうね?」 ;リップ音。しっとり 「大好き、にぃに。 ん……(ちゅうっ)」 「おやすみなさい」 ;終