やってきたのは男の娘 特典SS 【バスタイム】  丸いバスタブを満たす湯に、ゆらゆらと花びらが浮かんでいる。  ふたりで選んだ生花の入浴剤は、とても良い香り。  アプリに指定されたこのラブホテルは、隅々まであなたたちを歓迎してくれた。  バスルームの豪華さと、充実したアメニティにはしゃいで、洗いっこして。今ようやく、湯船に落ち着いたところ。 「照明何色にする? ピンクかわいいね、紫だとえっち。わ、赤はちょっとホラーだねえ」  彼はあなたの隣で、バスタブに付属しているライトアップのボタンを押しては、湯の色が変わるのをおもしろがっている。 「え、レインボーとか。これ何用?」  いろんな色の光がランダムに飛び交う様子に、ふたりで思わず笑いあう。 「やっぱピンクにしとこ。お花の色にも合うし、いい感じ」  入浴中なのでもちろん全裸。メイクも落として、お互いに生まれたままの姿ではあるのだけれど。  かわいいものを全部はぎとってしまっても、彼はとてもかわいい。長い髪をくるりと頭の上でまとめれば、うなじを伝う濡れた後れ毛が、やたらと色っぽさを増している。  花びらを手のひらにすくって眺めてる姿など、ほんとに、ほんとの、女の子みたい。  こうして一緒に湯船につかっていると、彼の性別を忘れそうになる。  でも、彼は、確実に「雄」なのだ。あなたの体はそれを忘れることなどできやしない。  彼に見とれていたら、ぱしゃりと湯がはねて、顔をのぞきこまれた。  なんだか頭の中までのぞきこまれたような気になって、あなたはつい、照れ笑い。 「ね、あっちの壁ってガラスになってるんだね。ほら、部屋。ベッド見えてる」  バスルームの壁はガラスになっていて、寝室が見えてしまう仕組み。曇ったガラスの向こうに、天蓋付きのベッドの形が、ぼんやりとうかがえる。 「さっきまであのベッドで、俺たち、えっちなことしてたんだよねえ」  湯の中で、彼の手があなたの太ももをなでた。その意味に、あなたはひとつ、息を吐く。  彼は気づいているのだろう。あなたの体がまだ、欲情をくすぶらせていることに。  そしてあなたも気づいている。彼の股間のものが、ずっと昂ったままなことを。 「今日って時間、まだ、大丈夫? アプリの質問にはなかったよね。何回えっちしたいですか、とか」  そういえば、アプリに指定されたのは、待ち合わせの時刻だけ。終わりの時間はなかったことを、あなたはのぼせる頭で思い出す。  予定がないことを伝えたら、彼は顔をほころばせた。 「俺も大丈夫。ね、このままここで、していい?」  何をするのかなんて、聞かなくてもわかる。彼になでられ、さり気なく脚を開くように誘導され。そして今はその指先が、あなたの秘部を刺激している。 「おまんこ。泡いっぱいつけて洗ってるときから、ずっと濡れてたよね?」  湯の中で弄られているのに、ぬるぬるとした感触が消えない。あなたの体は彼に触れられることに悦びを隠せない。 「君が俺のちんこ洗ってくれるのも、たまらなくて。途中何回か入れたくなったの、我慢したんだけどねえ」  今愛撫されているのは、あなたの方なのに。あなたに触れながら、彼の息も荒くなっている。  きゅ、と、クリトリスをやさしく摘まれて、喘いだあなたに、彼は甘く囁く。 「ここで、つながろ?」  あなたは誘われるままに、彼のひざの上に体を移動させた。向き合えば、にっこり笑って彼はあなたに指示を出す。 「そのまま座って。ね、ちんこの上」  うつむくと、水面の花びらごしに、彼の昂った男性器が見える。ピンクの照明のせいなのか、雄々しくて立派なのに、これだってかわいく思えてしまう。  あなたはその位置を確かめながら、ゆっくりと腰を下ろした。  ぬるついた肉が、彼の硬さに触れる。それだけで、お互いに声を上げてしまった。  バスルームに反響した喘ぎ声に、ふたりでくすくすと笑う。 「俺も君も、敏感すぎ!」  だってこんなに気持ちがいいことを、我慢するのは難しい。あなたは彼と性器をつなぎ、挿入するひとときを楽しむ。  ずっと欲しかった部分が満たされる感覚に、ふたり、うっとりと溶け合った。 「苦しくない?」  少し眉を寄せて彼は問い、あなたの額に手を触れた。  額に張り付いた髪を一束、指でなぞられ、あなたは大丈夫とうなずいて見せる。  彼はほっとした様子で、ぎゅっとあなたを抱き寄せ、首を伝う水滴を舐めた。あなたがびくりと肩を震わせると、あなたの中の彼も震える。 「つながるの、気持ちいいね、泣きそう」  あなたも同じ気持ちだと伝えたくて、真似して彼の首に口づける。その途端、わ、と驚く声を上げ、彼は体を動かした。湯が波打ち、彼が上目遣いにあなたを見る。  どうやらあなたの行動は、彼を相当煽るものだったらしい。 「今それやばい、もー、ゆっくりのんびり、つながろーって、思ってたのに……」  拗ねた口調とはうらはらに、あなたに与えられるのは満面の笑みと、やさしいキス。  唇を重ねるうちに、どちらからともなく舌を絡ませ、むさぼるようなキスになる。同時に湯の中では、つながった部分を執拗に擦り合う。 「かわいすぎて、我慢むり」  そんなふうに口を尖らせる彼に、かわいすぎるのはどっち、と言いたいけど言えないのは。ばしゃばしゃとはねる水音が示す行為の激しさのせい。  彼の腕は細いのに、うっすらとついた筋肉は、あなたとはつくりが違う。その腕に支えられ密着していると、とても安心する。  彼はかわいくても、確かに雄。その証拠で奥まで存分に突かれ、あなたに快感が押し寄せる。  逃げようのない快楽に捕らわれ、思わず背をそらしたあなたの胸に、ひとひら。花びらが張り付いているのを、彼は目ざとく見つけた。 「おっぱいに花びら、えっちだね」  そして次の瞬間、彼はその花びらを唇に挟み、えへへと目を細める。  目の前の彼の言葉と、表情と、行動と。そのすべてがあなたをたまらない気持ちにさせる。  彼は咥えた花びらを、そっと湯に戻すと、あなたの胸にキスをした。 「こんなに乳首勃っちゃってるから、お花、引っ掛かったんだねえ。でも、だめ。君の乳首も俺のだから」  先端を舐められ、快感があふれる。彼に伝える暇もなく、あなたは絶頂する。 「あは。今、気持ちよくなってくれてる。俺のちんこ気持ちいいんだねえ、すっごいうれしい。君がイくの、俺も気持ちいいから、いっぱいイって」  つながった部分が熱い。無意識に、あなたは彼のものを、さらに強く抱きしめた。  どうやったらいっぱいイけるのか、なんてわからないけど。あなたは彼にしがみつき、こみ上げる気持ちを口に出す。  ――好き。大好き。  快感も、この行為も、そして彼のことも。  あなたの言葉が彼に伝わると同時に、下から突き上げる速度が増した。 「俺も好き……、っ、あー、もう出したいかも。……かも、じゃなくて、……っ、出ちゃう……っ」  ふたりの声が絡み合って、バスルームに響く。  あなたの中を熱いものが満たす。注がれた精を感じながら、あなたの体は再び果てた。  快感と興奮は、行為が終われば去ってゆくけど、生まれた愛おしさは消えないまま。  むしろ、どんどん増えてしまう。 「んん、離れたくない……」  彼はつながったまま、あなたにたくさんキスをした。激しく動いたせいで、まとめた髪がほどけてしまっている。湯の中で彼の髪が広がって、花びらがまとわりついていた。あなたがそれに手を伸ばしたときに、耳に届く、彼の言葉。 「もう、この先は。どうするかは、俺たちが決めちゃっていいんだよね。アプリに頼らなくても」  アプリには決められなかった終わりの時間。  これから先のことは、ふたりが決めること。  あなたが彼と出会えたのは、アプリのおかげ。  これは、アプリに頼った、手軽な恋だ。一瞬で消えてなくなっても、そのときが楽しければいい恋のはずだった。  だけどもう、彼に出会ってつながって、どうしようもなく惜しくなる。 「ね。また会お。君といっぱいしたいことある。えっちだけじゃなくて、ほかにもいっぱい」  いつのまにか湯の中で、つながれた手。絡められた小指に、力が入る。  今、彼もあなたも、同じことを考えているはず。  この恋を手放すことは、とても難しい。