【00】 おかえりなさいませ♪ お外、寒かったでしょう? 雪も降ってきたみたいですし。 さ、早く中へ。 お家から町に下りる時は晴れていましたのに。 ここ、肩に雪が積もってしまっておりますよ ん…しょ お顔もお手々もこんなに赤くなってしまって……お耳も真っ赤です。 わ……冷たい。 姉上の手まで冷たくなってしまいそうです。 ふふ……姉上の手、暖かかったですか? ではもっと、暖かくしてあげますね。 ぎゅ…、んっ…♪ お使い、いつもありがとうございます♪ 姉上にできる事といえば、苦労を労う事くらいですけれど… んしょ…ぎゅぅ〜♪ あ…またやってしまいました…。 貴方がお使いから帰ってくると、いつもこうして抱きしめてしまって……。 いつまでも立ち話をしていたら、疲れてしまいますよね。 そう? 嫌でないのなら良かったです♪ 姉上、貴方を抱きしめていると、とても元気になれます♪ 生きる活力がみなぎる、といった感じでしょうか。ふふふ。 さ、居間へ参りましょう? お夕食の用意も整えてありますから、一緒に食べてあたたまりましょうか♪ ふふ♪ おまたせしました♪ 今夜の献立は、五目御飯に焼いたキジもも肉、野草のおひたし、 山菜と一緒に鹿肉を煮込んだお吸い物になります。 鹿肉には全身を温める効果もありますから、 お外を歩いて冷えたお体も、これですっかり温まるはずですよ。 あっ♪ それでは…、一口目は姉上が食べさせてあげますね♪ お口を開けて……はい、あーん♪ どうでしょう? 美味しいですか? そう言ってもらえて良かったです♪ 貴方のことを考えながら、美味しくなるようにと、作りましたから。 頑張った甲斐がありました♪ たくさんありますので、いっぱい食べてくださいね♪ それじゃあ姉上も…。 いただきます♪ ん…いつものことですが、お使いへ行って下さり、大変助かっています。 でも…本当なら、わざわざ寒い中、麓町まで赴く必要なんてありませんのに。 こんな山奥ではなく、他の方たちと同じように、町のお家に住めたらと…。 町へ行くにしても、姉上が行ければ良いのですが……。 ふふ、貴方はいつも「気にしてない」と仰って下さいますよね♪ その優しい言葉に幾度も救われております。 貴方だけですから。 姉上のことを理解して認めて下さるのは。 ですが、私が町に行けなくなったのは、私が悪いのだと一番わかっているつもりです。 覚えていますか? もう何年も前になりますが…。 姉上の鬼の血が目覚めて…麓の町で、人々を傷つけてしまった事…。 ……いえいえ、決して貴方のせいではありませんよ? ですからどうか謝らないでください。 貴方が…弟が、里の子ども達に虐められているのを見て 知らぬ顔をするなど、姉上は……とても出来ませんでした。 私は姉として当然の事をしたつもりですので、そこに後悔はありません。 結果として、鬼の血が目覚めてしまって…。 気付いたのは、多くの方に怪我をさせてしまった後でした。 そして、それが町の方に恐れられてしまう原因となってしまいました。 幸い、誰かの命を奪うことは無かったのですが。 ええ、私達姉弟には鬼の血が流れているものの、 ……貴方には顕現する事はありません。 これは私たちの祖先が関係している事ですから。 私達の母方の家系を辿っていくと、伊吹の鬼に当たります。 血の繋がった姉弟なのに、私しか鬼の血が目覚めないのは、 これが関係しているのでしょう。 女である私だけが先祖返りをしているのです。 そんな半妖の私は、普通に暮らしている人にとっては恐ろしい存在。 ですからもう、気軽にお外を歩く訳には行かないのです。 …姉上の事、気遣って頂いてありがとうございます。 私、それだけでとても嬉しいです。 ですが、普通の人達から見れば、畏れる存在に変わりはありません。 いくら言葉を重ねたとて、その印象を拭い去る事は難しいでしょう 姉上の頭に生えている角を見れば、嫌でも鬼だと気づくはずです。 それだけで、人々に恐怖心を与えてしまいます。 それに加え、いつまた鬼の血が目覚めるかわかりません。 こればかりは姉上も……どうしようもありませんから。 人々の目に触れぬ山の奥で、ひっそりと暮らす事が、 私達にとっても麓の人たちにとっても、良い事なのだと思います。 麓の町までお使いへ行って頂く度に思い出してしまうんです。 こんな大変な思いをさせてしまって…と。 ふふ、ごめんなさい♪ 少ししんみりとしてしまいましたね。 せっかくお体を温めようとしていたのに、これではかえって寒くなってしまいます♪ いけませんね♪ さぁ気を取り直して、ご飯を頂きましょう♪