肉がぶつかる音がする。 パンパンとリズミカルに。 粘着力のある水音に交じり、苦しそうな女の嬌声が混じる。 全裸の女は大きな怪異に組み敷かれ、押し潰されるような形で、怪異の欲望を受け入れている。 唯一、耳元につけられているのは片方だけのピアス。 耳元につけられている真珠のピアスの白は、 まるで、所有の証の様に――闇の中で鈍く光っている。 ぽっ、ぽぽ。ぽっ、ぽぽ。 怪異は愛を囁く。 ぽっ、ぽぽ。ぽっ、ぽぽ。 それは多分、誰にも分らない。 ぽっ、ぽぽ。ぽっ、ぽぽ。 組み敷かれている、正気を失った生贄にさえ。 ぽっ、ぽぽ。ぽっ、ぽぽ。 もう伝わることはない。 ぽっ、ぽぽ。ぽっ、ぽぽ。 怪異とは、現象だ。 人の噂話が現実を折り曲げて作ってしまった「歪み」だ。 数十年前では信じられないスピードで、世界中を行き交う情報は、怪異の種類と生成スピードを増やした。 ――この「八尺様」という怪異も同じだ。 村に伝わっていた何らかの「信仰」に、インターネット上の噂話が紐づき。 ――「現実」に侵食した。 そして。「現実」に侵食した怪異は、より強い噂を作り出す。 自分自身をより確固たるものにするために、「現実」に自分を刻み付ける。 ――同じ名前の怪異を何体も生み出して。 自分たちの影響力を広げていくのだ。 ぽっ、ぽぽ。ぽっ、ぽぽ。 怪異は愛を囁く。 ぽっ、ぽぽ。ぽっ、ぽぽ。 それは多分、誰にも分らない。 けれど。 それはこの「個体」の話。 ぽっ、ぽぽ。ぽっ、ぽぽ。 耳を澄ませると、きっと。 ――貴方を求めて、貴方の耳元で囁く、貴方を狙う「個体」がきっと――いるはずだ。 気を付けて。――それに魅入られたら。 その声はとても甘美に―――。 ぽっ、ぽぽ。ぽっ、ぽぽ。 ぽっ、ぽぽ。ぽっ、ぽぽ。 ぽっ、ぽぽ。ぽっ、ぽぽ。 ぽっ、ぽぽ。ぽっ、ぽぽ。 ぽっ、ぽぽ。ぽっ、ぽぽ。 ぽっ、ぽぽ。ぽっ、ぽぽ。 ぽっ、ぽぽ。ぽっ、ぽぽ。 ぽっ、ぽぽ。ぽっ、ぽぽ。 ぽっ、ぽぽ。ぽっ、ぽぽ。 ぽっ、ぽぽ。ぽっ、ぽぽ。 ぽっ、ぽぽ。ぽっ、ぽぽ。