【足音】 【扉を開く音】 【正面・9】 【ため息】 「……ようやくいらっしゃいましたわね」 「予定時刻から一分三十秒程の遅刻ですわ。  全く……どういう時間感覚をしているのかしら」 「これだから男というのは……。  繊細さも常識も無く、臭くて毛深くてただただ下品で……」 「ああ、失礼致しましたわ。  本題に入りましょう」 「ここに呼ばれた理由くらいは、お分かりになっていますわよね?」 【ここから、ゆっくり移動しながら、9→10→11→10→9→16→15→16→9】 【足音】 「あなたが学校にこっそりと持ち込んで……お仲間と楽しんでいた、  あのいかがわしい本についてですわ」 「え? あれはもう先生にこってり絞られた?  ……はぁ……まったく、分かっていませんわね……」 「格式高く、規律正しく、伝統輝かしい我が校に……。  あのような問題を、あのような物を、持ち込んだということ……」 「生徒たちの規範となり、そしてルールの体現である生徒会長として……。  断じて、許せるものではありませんわ。ええ……」 【ここまで】 「今回、お呼びさせて頂いたのは他でもありません。  あなたへ……『退学の勧告』をさせていただこうかと」 「ええ? ……ふふ、当然の話ですわ」 「ここは格式高き学園! 清廉にして瀟洒な生徒の為の学びの場!  自己研鑽に励み、将来の紳士淑女を目指す生徒達の聖域!」 「そして何より……ここは、『優秀な人間』が学ぶ為の場でもありますわ。  それを選別するためのシステムも機能している……」 「……とは言え、あなたのような『不出来な方』が紛れ込むことも……。  まあ、あるといえばありますわ。仕方ありません、人間の手で運用されるのですもの……」 「本性をひた隠し詰め込んで、優秀な人間に見せかけるような、狡猾な『下衆』。  そういうものが紛れ込んでしまうこともまあ……少数ですがありますわ」 「とは言え、容赦なく排除する、というのもわたくし、胸が傷んでしまいますわ  ですからわたくし……あなたに、『自主退学』、をお勧めさせて頂きますわ」 「感謝してくださいまし? わたくし、とても穏当な対応をさせて頂いてますのよ?」 「……うん? あまりにも罰が重すぎる? 厳しすぎることに皆不満を持っている?」 「はぁぁ……分かっていませんわねぇ……」 「この学校は、あなたの思うような、俗世的で楽しい学び舎ではありませんわ。  心清く、気高く、そして素晴らしき……『上に立つべき人間』を育て上げる為の場」 「厳しいのは当たり前。皆それを分かっていて規則を守っているのですわ。  全ては……無知蒙昧たる愚民の方々の、上に立つ人材を育成するために!」 「この際はっきりとお伝えしましょうか。  この学校に、あなたのような、俗物は必要ありませんの」 「ええ? 勉強を頑張った? 受験も合格した? 学費も払っている?  だから? それで? それは皆当然にやっていることですわ?」 「それをまるで、資格があるように主張する時点で……  あなたに、この学園を生きる資格は、ありませんわぁ」 「……あらあら、そんな風に震えて俯いていては、何も伝わりませんわよ?  曲がりなりにも我が校の生徒ならば、背筋を伸ばして、顔を上げなさい?」 「あなたが退学なされた後も、学園の品位を落とすようなことをしてもらっては困りますわ。  ほら、早く顔を上げて……はぁ、少し待てと? 何を取り出そうというのです?」 「……スマートフォン? はぁ……全く……。  校内への持ち込みは禁止されているはずですが、そんなことまで守れませんか?」 「……画面を見ろ? はぁ……録音や録画での脅しのつもりですか?」 【1】  ふふふ、そんなもので、まさかどうにかできるとでも思っているので……」 「……ん……?」