XX21年 10月18日(月) 中間テストが終わって、ピアノのレッスンでした。 合唱コンクールで弾く曲を弾いて、 先生にアドバイスをもらいました。 レッスンの最後に先生が、 「さゆちゃん、本当に上手になってるね。  これだったらきっと、クラスのみんなものびのび歌えるんじゃないかな」 と言ってくれて、すごく嬉しかったです。 ああ、合唱コンクールが楽しみだなあ。 10月19日(火) 合唱コンクールまで一週間を切りました。 中学生最後の合唱コンクール、さゆのクラスはみんなやる気に満ち溢れています。 もちろん、さゆもです。 クラスみんなで協力して、金賞を獲れるように頑張ろうって空気が、 青春って感じですごく素敵だと思います。 さゆはピアノを習っているのと、両親が音楽を仕事にしているという理由で伴奏をやっています。 今日の練習でもバッチリでした。 本番まで頑張るぞ~。 10月20日(水) いつも通りの授業が終わって、クラスみんなで合唱コンクールの練習をしました。 さゆは、練習の時間が楽しみすぎて、6時間目の数学の時間があまり集中できませんでした。 先生ごめんなさい。 練習はとてもいい感じでした。 最近ずっとさゆは、ミスすることなく弾けています。 クラスのみんなに、ピアノ上手いねとか さすがミュージシャンの子だねとか言われると、嬉しくなります。 10月21日(木) さゆの頭の中は、合唱コンクールのことでいっぱい。 今日の練習では、音符を追うだけでなく、どう表現するか、という話になりました。 他のクラスはきっと、楽譜通りに歌うということに重点を置くだろうから、 そこから先の表現をやってしまおうという作戦です。 学級委員でさゆの友だちのりほちゃんは、 「ここのスタッカートをちょっと過剰にやっちゃって、休符長めに聞かせる感じとかどうかな?」 と、音符の解釈を具体的に話していて、 クラスメイトの内藤くんは 「原田さ、最後のとこさ、ドカーンって感じで弾いて良くね?」 と、抽象的に話してくれました。 さゆは、こういうの本当に好きです。 みんなで一つのものを、より良い方向に仕上げていく感じ。 ああ、なんて心地良いんだろう。 なんて楽しいんだろう。 10月22日(金) 今日は3時間目に音楽の授業がありました。 合唱コンクール直前の授業内容は、 最初に自分たちの合唱を録音して、 その後にそれを聞いて感想を言うというものでした。 正直に書くと、とってもいいと思いました。 みんなとっても素敵な歌声です。 さゆ、このクラスで良かったなあと思いました。 みんな、練習頑張ったもんね。 本番まで残り数日、さゆも伴奏の練習をたくさんやりますよ! 10月24日(日) ボーっとして、アニメを見たりして一日が終わりました。 学校がないと退屈です。 夜ご飯のシチューが美味しかったです。 10月25日(月) 明日は合唱コンクール。 ついに本番です! クラスのみんなは歌の練習をすごく頑張ったし、 さゆも伴奏の練習頑張ったし、 今日のピアノのレッスンで先生にもバッチリって言われたし、 きっときっと、明日はすごく良い一日になると思います。 遠足の前の日のような気分だなあ。 ドキドキワクワクして、眠れなさそう。 でも頑張って寝ようと思います。 10月26日(火) 今日のことは、きっと一生忘れないと思います。 今日は合唱コンクールでした。 書いていて手が震えています。 さゆは、失敗しました。 とてもひどい失敗です。 本番中、曲の途中で、 今までに聞いたことのない、その曲に似つかわしくない音がピアノから出て来ました。 さゆが間違えたということが、すぐに分かりました。 途端に、目の前の鍵盤に触れるのが怖くなって、でも弾かなきゃいけなくて、 頑張って弾いたら、また間違えました。 こんな日記、書かない方がいいのかなあ。 思いだして辛くなっています。 その後も、さらにその後も、間違いだらけの演奏をした後、 さゆの演奏は止まってしまいました。 曲が止まった瞬間、クラスのみんなも、聴いていた人たちもみんな、 さゆの方を見ていました。 クラスのみんなの表情……驚きや、憤りを感じた表情を見たとき、 さゆの目から涙が出て来ました。 逃げ出したかったです。 みんなの頑張りをさゆが踏みにじったことが許せなくて、辛くて、 さゆはいなくなりたかったです。 泣きながら演奏を再開して、ボロボロのまま曲は終わり、 男子の誰かが、うぜえと言っていて、 女子の誰かが、最悪と言っていました。 さゆは、ずっと泣いていました。 どうしてこんなことになったんでしょうか。 お母さんにこのことを話したら、辛かったねって言って抱きしめてくれました。 だめだ。だめだ。 さゆはだめなこだ。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 10月27日(水) 学校に行くのが怖かったんですけど、頑張って行きました。 みんな、さゆと話そうとしてくれません。 クラスのみんなが、さゆに敵意を持っているように感じて怖いです。 夜ご飯の時、お母さんがこう言ってくれました。 「今日さゆが学校に行ったとき、お母さんすごいなって思ったんだよ。  心折れてさ、休んでも仕方ないって思ってたから」 お母さん、ありがとう。 10月28日(木) 学校に行くと、「戦犯」という文字が黒板に大きく書かれ、 「はらださゆ」とルビが降ってありました。 これ、いじめだ。 さゆがいじめのターゲットにされたんだって気付くのに、 そんなに時間はかかりませんでした。 「これ書いたの誰!? マジありえないんだけど!」 さゆの後に登校してきたりほちゃんが怒りながらそう言って、 黒板の文字を全部消してくれました。 りほちゃんありがとう。 でもこれ、全部さゆが悪いんだよね。 だってさゆが合唱コンクールでミスしなかったら、 こんなことにはならなかったんだもん。 自業自得だよね。 クラスのみんな、ごめんなさい。 10月29日(金) 音楽の授業で、合唱コンクールの話題になりました。 男子の一人が、伴奏ミスがなかったら俺らが金賞だった、 みたいなことを言って、とても悲しい気持ちになりました。 そうしたら、内藤くんが 「そんなこと言うな。原田だって好きでミスしたわけじゃないんだぞ」 って言ってかばってくれました。 内藤くん、ありがとう。 10月30日(土) 今日は学校お休みです。 先週までは、学校がない日は退屈だと思っていたのに、 今週は学校がない日がすごく嬉しく思えます。 この一週間で、と言うか、この一週間のうちのたった一日で、 いろんなことが変わってしまいました。 クラスのみんなはさゆと話そうとしないし、さゆはみんなのことが怖くなってしまいました。 さゆがみんなを傷つけて、怒らせてしまったからです。 みんな、ごめんなさい。 あれだけやる気に満ち溢れていた合唱コンクールを、さゆ一人のミスで台無しにしました。 さゆはさゆのこと、嫌いだなあって思いました。 うん。さゆはさゆのことが嫌いです。 さゆって、いらない子だ。 みんなを嫌な気持ちにさせる、いらない子だ。 この前黒板に「戦犯」って書かれたの、悲しかったなあ。 でもあれは本当のことで、全部さゆのせいだし、 戦犯のさゆに悲しむ権利なんてないし。 ああ、嫌い。 大嫌い。 さゆはさゆが嫌いです。 10月31日(日) 今日はお父さんもお母さんも音楽のお仕事で家にはいません。 一人で家にいるとどんどん心が沈んでいきそうだったので、公園に散歩に出かけました。 ベンチに座っていたら、どこからともなく、みゃあ、ってかわいい声が聞こえました。 ふと隣を見ると、なんとそこには、かわいいかわいい猫ちゃんの姿が。 ここ数日の暗い気持ちが少しだけ晴れました。 さゆは勝手に、その猫ちゃんを「みゃーちゃん」と命名し、一緒にベンチでくつろぎました。 ああ、みゃーちゃんはかわいいなあ。この公園に住んでるのかなあ。 さゆがご飯を持って行ったら、なついてくれるかなあ。 とか考えていたら、みゃーちゃんは警戒したような感じで公園の奥に走って行ってしまいました。 みゃーちゃん、また会えたら嬉しいなあ。 11月1日(月) ピアノのレッスンを辞めることにしました。 11月2日(火) 「うちの学校って文化祭ないじゃん。  だから合唱コンが最後の思い出になるはずだったのに、  誰かのせいで最悪だったよね」 さゆに聞こえるように、クラスメイトが話していました。 クラスの中でもカースト上位の女の子、坪田さんでした。 坪田さんは、合唱コンクールの練習のとき、すごく頑張っていたのを覚えています。 頑張っていた人にこういうことを言われるのは仕方のないことです。 でも、辛くて、悲しくて、さゆは耳をふさぎました。 11月5日(金) 一気に居場所がなくなった学校生活において、 唯一の救いはりほちゃんで、彼女だけはさゆに話しかけてくれます。 そして、今日は彼女だけでなく、 この前音楽の授業でさゆをかばってくれた内藤くんも、お昼休みに話しかけてくれました。 さゆはとても嬉しかったですし、何故かりほちゃんはもっと嬉しそうでした。 今さゆがおかれてる状況って、いじめなのかな、それとも違うのかな。 いじめって言うか、嫌がらせ? ちょっとよく分からないですけど、とにかく今日は、久しぶりに学校で人と話せて嬉しかったです。 このことを、みゃーちゃんに報告しようと思って 放課後に公園に行きましたが、みゃーちゃんはいませんでした。 11月6日(土) お休み。 ホッとします。 11月7日(日) 今日もみゃーちゃんがいる公園に行きました。 みゃーちゃん、今日は来てくれるかなって思ってベンチで待っていたら、 みゃあって鳴き声が聞こえて、気が付けばさゆの隣に座っていました。 今日もかわいいみゃーちゃんは、ベンチでさゆとひなたぼっこをした後、 この前みたいに公園の奥へ走って行きました。 みゃーちゃん、この前よりも心を開いてくれている感じがしました。 嬉しかったなあ。 今度、ご飯持っていってみようかなあ。 11月8日(月) 休み時間になると、誰かが大きな声でさゆのことを悪く言います。 たまに、りほちゃんや内藤君がかばってくれます。 さゆは、休み時間よりも授業の時間が好きです。 その時間は、傷つくことがないから。 11月9日(火) 苦しい 11月10日(水) 今日はお父さんとお母さんと三人でご飯を食べに行きました。 お母さんの大きな仕事が終わったので、お疲れ様会です。 さゆのお母さんはドラマーで、ドラムがすごく上手だし、 ステージに上がったらとってもかっこよくて人気者です。 お父さんはベースの先生で、当たり前ですけどベースはすごく上手で、 生徒さんもたくさんいます。 お父さんもお母さんもこんなにすごい人たちなのに、さゆは……。 さゆが学校でいじめ……いやがらせをされているということ。 その原因が合唱コンクールでの演奏ということ。 言えません。 言えるわけがありません。 さゆは頑張って明るく振舞って、お母さんにお疲れ様と言いました。 11月16日(火) 今日は具合が悪かったので、学校を早退しました。 本当のことを書くと、クラスにいることに耐えられませんでした。 帰りに、みゃーちゃんがいる公園に行って、 ベンチに腰掛けて休んでいたら、涙が出て来ました。 さゆは、何でさゆなんだろう。 みんなの中学生最後の思い出を壊して、相応の報いを受けているのに 被害者みたいな気分になって。 さゆが悪いことは分かっているのに、どうしてこんな考え方をしちゃうんだろう。 うん、やっぱりさゆはさゆのことが嫌いです。 そんなことを考えてしくしく泣いていたら、みゃーちゃんがやって来てくれました。 今日のさゆは本当にいっぱいいっぱいだったので、 みゃーちゃんにたくさん話を聞いてもらいました。 ひとしきり話をきいてくれたあと、優しい声で、みゃあって言って、 みゃーちゃんは公園の奥へ行きました。 少し楽になったよ。みゃーちゃん、ありがとう。 11月17日(水) 明日も明後日も学校。 行きたくないなあ。 11月24日(水) 今日から期末テストです。 11月26日(金) やった! やったあ! 日曜日に、りほちゃんと内藤くんと三人で遊びに行くことになりました。 期末テストが終わった後、りほちゃんが誘ってくれたんです。 わぁ~、お友だちと遊ぶのがこんなにもワクワクすることだったなんて! 楽しみ楽しみ。 ウキウキです。 11月27日(土) 「さゆ、何かいいことあった? 嬉しそうだね」 夜ご飯の後、お母さんにそう言われました。 明日、りほちゃんと内藤くんと遊びに行くのが楽しみすぎて それが顔に出ちゃってたみたいです。 そのことをお母さんに言おうとしたんですが、 何故か恥ずかしくなって 「別にぃ~」 って言っちゃいました。 11月28日(日) とっても楽しい一日でした。 今日は、りほちゃんと内藤くんと三人で遊んで来ました。 駅で待ち合わせをして、急行電車に乗って隣の町まで遊びに行くという流れです。 電車の中では、高校に入ったら毎日電車に乗って通学するのかな。 みたいなことを話していました。 電車を降りた後、最初に行ったのは洋服屋さんです。 りほちゃんと一緒にいろんな服を見ました。 りほちゃんはしきりに内藤君に意見を求めていて、 彼女の選んだ服を内藤君が良いと言うと、 私たち気が合うかもね、みたいなことを言って、嬉しそうにしていました。 その後、ファミレスでご飯を食べました。 さゆは、ドリアとドリンクバーです。 ドリンクバーでさゆのオリジナルカクテルを作って席に戻ろうとすると、 内藤君とりほちゃんの会話が聞こえてきました。 「でも、薬師寺(りほちゃんの苗字です)って勇気あるよな。  原田がああいうことになって、それを助けて。  俺、薬師寺のそういうとこ、すげーいいって思う」 「私はさゆの友だちとして、当然のことをしてるだけだよ。  でも嬉しい。ありがと」 そんな2人の会話を聞いて、さゆはとっても嬉しくなりました。 「話は全て聞かせてもらった! ここはさゆの奢りにするからたくさん食べてっ!」 そう言いながら席に戻りたかったのですが、もちろんそんなこと出来るわけもなく 「ここのドリンクバー、種類がいっぱいあって迷っちゃった」 という謎の言い訳をして、着席したのでした。 その後も三人でたくさんお喋りをしました。 こんなにたくさん人とお話したのは久しぶりで、すごく楽しくて、 さゆ、りほちゃんと内藤君っていうお友だちががいて本当に良かったと思います。 帰りに、ゲームセンターの中にある写真を撮る機械で記念撮影をすることに。 内藤君は恥ずかしそうに、俺はいい、撮らないでいい、と言っていましたが、 りほちゃんがいいじゃん撮ろうよと何回も言って、最終的には一緒に撮りました。 写真は、さゆとりほちゃんは笑顔で、内藤くんは何とも言えない表情をしています。 ああ、素敵な一日だったなあ。 りほちゃん、内藤くん、ありがとう。 11月29日(月) 期末テストが返って来ました。 なかなかいい出来だと思います。 11月30日(火) 今日も期末テストが返って来ました。 数学がすごくいい点数でした。 りほちゃんと内藤君は、それぞれ別のお友だちと仲良くしていて 今日は学校で誰とも喋らなかったけど、 この前の楽しい思い出があるので苦しくなかったです。 12月2日(木) 今日は穏やかな一日でした。 休み時間に誰とも話さなかったけど、 でも大声でさゆのことを悪く言う人もいませんでした。 12月3日(金) すごく寒い一日でした。 内藤君とお昼休みにお話ししました。 12月4日(土) みゃーちゃんと公園でひなたぼっこをしました。 最近、みゃーちゃんはさゆになついてくれている感じがして嬉しいです。 12月6日(月) よく分からないことが起こっていました。 学校から帰る途中、さゆは教室に忘れ物をしていることに気付いて、 取りに帰りました。 そうしたら、教室で坪田さんたちと、何人かの男子たち、 そしてりほちゃんが話をしていました。 何だかすごく怖いムードで、教室に入ることが出来ませんでした。 とは言え、忘れ物を持って帰らないというわけにもいかないので、 さゆは、気付かれないように教室の入口の近くに立って、話が終わるのを待ちました。 教室の中での会話が聞こえて来ます。 坪田さんの友だちで、クラスのカースト上位である岩屋さんが、 「薬師寺マジでエグいわ。そんなん普通やる?」 みたいなことをりほちゃんに言って、 「いいからやって。あなたたちも楽しんでるんでしょ?」 と、りほちゃんは返していました。 何だかさゆは、この会話を聞いてはいけない気がして、 みんなが帰るまで、教室から離れた階段に隠れて待つことにしました。 教室から誰もいなくなるまで、そんなに時間はかかりませんでした。 坪田さんと岩屋さんが、 「薬師寺が一番悪いよ。ちょっと引くわ」 「だよね。引く。あいつ怖い」 みたいなことを話しながら帰っていました。 りほちゃん、どんな話をしたんだろう? 悪いとか怖いとか、どういうこと? もしかして、さゆを守るために戦ってくれたとか? 今、さゆの頭の中には、はてなマークがいっぱいです。 12月8日(水) 今日は三者面談でした。 面談が始まる前に、先生に、 さゆがクラスメイトにいじめと言うか、いやがらせと言うか、 そういうことをされているのは黙っていて欲しいです。 と伝えました。 先生はわざとらしく、原田さん、そんなことされているの!? と、驚いていました。 知っていたくせに。 ううん、だめ。 さゆはこのクラスの頑張りを無駄にしたんだから、 先生もさゆに怒っているんだ。 全ての発端はさゆなんだから、被害者みたいな考え方をしちゃだめ。 三者面談は何の問題もなく終わりました。 さゆの志望校はそこそこ難しいところですが、恐らく大丈夫と言われました。 夜ご飯の時、お母さんに、 「さゆって学校だと静かなんだね。何か困ってる?  何かあったらお母さんかお父さんに言ってね」 と言われました。 大丈夫だよ、と返しました。 12月9日(木) 「いじめとかいやがらせとかそういうのはよくないからね~。やっている人がいたらやめなさいね~。  先生は今注意したからね~」 ホームルームの時間に先生がそう言いました。 それを聞いた坪田さんが 「いじめなんてありませんよ! ねえ原田さん、ねっ!」 って言ってきて、さゆはどうしていいのか分からなくて、黙っていました。 そうしたら坪田さんが、原田さんに無視された傷ついたこれはいじめだとか、 そんなことを大声で言いだしました。 先生は坪田さんを無視して、ホームルームを終わらせました。 何だか気持ちがざわざわしたので、 帰りに公園に行ってみゃーちゃんに話を聞いてもらいました。 12月10日(金) またひどくなってきてる 12月12日(日) 明日、学校行きたくないなあ 12月13日(月) 休めばよかった。 12月15日(水) 最近、さゆへの嫌がらせがひどくなっています。 具体的には、坪田さんがいつも大声で、さゆのことを悪く言います。 ホームルームの時に無視されたとか、 頑張った思い出を壊されたとか。 辛いけど、どれも事実だから反論は出来ません。 りほちゃんや内藤くんがいない間に言われると、誰も助けてくれません。 って、助けを期待したらダメですよね。 だって、もともとはさゆのせいなんですから。 さゆが悪いんですから。 12月16日(木) 学校を休みました。 12月17日(金) お昼休みに坪田さんが 「ねえ原田さん今日何で来たの? もう来ないでいいんだけどさあ」 って言ってきて、さゆが泣きそうになっていたら、りほちゃんが助けてくれました。 りほちゃんは今までに見たことがないような怖い顔で、坪田さんに怒っていました。 内藤くんもやってきて、さゆの味方をしてくれました。 しばらく言い争いが続いた後、 坪田さんがクラス全員に向かって、 「もういい。こいつら今後無視な?」 って言いました。 みんな、坪田さんには逆らえません。 さゆは、りほちゃんと内藤君も孤立させてしまいました。 12月19日(日) 明日からどうなるんだろう。 12月20日(月) ああ、やっぱり。 坪田さんをはじめとするクラスのカースト上位にいる女子たちが、 りほちゃんと内藤くんを無視しはじめ、男子もそれに続きました。 さゆのせいで、大変なことになってしまいました。 休み時間にそのことを二人に謝りに行きたかったのですが、 謝るときにきっと泣いてしまうし、 それを坪田さんに見られたらまたいろいろ言われると思って、 何も出来ませんでした。 12月21日(火) 学校が終わった後、内藤君と一緒にりほちゃんのおうちに行きました。 三人で話がしたい、とりほちゃんが言い出したからです。 さゆのせいで今りほちゃんたちが無視されていることを怒られるのかと思いましたが、 そうではありませんでした。 「今私たち、クラスで孤立してる。  だからさ、私たち三人は、卒業まで仲良くしよう?  私、内藤君とさゆが一緒だったら、今の状況でも全然平気だから」 りほちゃんがそう言ってくれたのを聞いて、さゆは泣きました。 いっぱい泣きました。 ごめんね、りほちゃんも内藤くんもごめんね、さゆのせいでこんなことになっちゃって。 さゆは謝っても謝り切れないよ。 そんなことを言いながら泣いていました。 りほちゃんはさゆの頭を撫でてくれて、大丈夫だから、と言ってくれました。 内藤くんも、気にすんな気にすんな、と言ってくれました。 さゆは、お友だちに恵まれているなあと思いました。 うん、卒業までの間、耐えよう。 12月23日(木) クラスの人には無視されてるし、坪田さんはいろいろ言ってくるけど、 でもりほちゃんと内藤くんがいるから大丈夫です。 12月24日(金) 終業式でした。 明日からしばらく学校に行かないでいいことを考えると、ほっとします。 12月25日(土) 今日は家族でクリスマスパーティーをしました。 みんなでチキンとケーキを食べました。 とっても美味しかったです。 お母さんがお酒を飲んで酔っ払って 「こんな私でもさあ、愛する夫がいて、可愛い娘がいてさあ、  そこに美味しい食事もお酒もあってさあ、もう最高な人生ってわけよ」 みたいなことを言いだして、お父さんはお水を飲むことをすすめていました。 こんな私でも、ってお母さん言ってたけど、 お母さんも自分のこと、嫌いなのかなあ。 さゆみたいに。 そういう意味じゃないのかなあ。 12月27日(月) ずっと受験勉強していました。 夜ご飯は、お母さんがバンドのリハ(練習のこと)でいないので、 お父さんがお好み焼きを作ってくれました。 12月28日(火) 受験勉強をしながら考えていることがあります。 さゆは、高校に入ったら、自分の人生をやり直したいです。 新しい友だちと、新しい人間関係で、もう合唱コンクールみたいなミスをしないで、 楽しい高校生活を送りたいです。 だから頑張ろうと思います。 さゆが行こうとしている高校は、少し倍率が高いところなんですけど、 頑張ります。 12月31日(金) 今日はお母さんのライブを見に行きました。 ステージでドラムを叩くお母さんは本当にかっこいいし、 歓声を浴びているのを見ると、何だか誇らしい気持ちになります。 ライブが終わってお母さんのところに行くと、 「さゆ、大丈夫だった? 音楽聴くの怖くなかった?」 って聞かれました。 大丈夫、楽しかったよって答えました。 今日はフェスというイベントで、たくさんの人が出演する日だったので、 さゆはいろんなバンドのライブを見ました。 うん。 さゆは、学校ではいろいろあるけど、それでもりほちゃんと内藤くんがいてくれるし、 家族は自慢したくなるような素敵な家族だし、 こうして音楽を楽しむことも出来るし、大丈夫。 大丈夫です。