ネタバレ&前日譚、ヒロイン視点となります。 (前の主関連のお話になりますので、「百合以外見たくないわ!!」という熱いお方は、 そっ閉じいただければ幸いです。 *************************************************  学校の帰りだった。 自分が、まだ「普通」だった頃。 それは塾の帰りに起こった。  ――暗闇に包まれ、私の「普通」は終わった。  その「ヴァンパイア」は終始笑っていた。 吐息は鉄の匂いがして、ひどく不快だった。 それなのに。 真っ赤な目に見つめられた私は、意志とは裏腹に自分の足を大きく開いて、「彼」を望んでしまった。 体中に尖った犬歯を突き立てられ、溢れた血を啜られ。 好きでもない人に、自分の中に入り込まれて。 ドロッとした液体を放たれた。 「普通」なら、そんなことをされれば、痛みで泣き叫ぶだろうに。 私は強制的に発情させられ、痛みも快楽にすり替えられて。 ただただ、快楽を訴え続けた。  「初ものなのに、都合のいい穴」  「コレクションに追加してやる」  「人間がヴァンパイアのお手付きになれるなんて光栄だと思え」    こうして、私は、穢された。彼の"所有印"を刻まれて。 「ヴァンパイア」の「いつでも使える日替わりのオナホール」の1つになった。  「普通」を失ってから数日後。 私は病院に行った。 体順に刻まれた牙による傷は不思議と治っていたけれど、酷く盛り上がってしまっていたからだ。  けれど、病院に行っても治せなかった。 「ヴァンパイアから印を刻まれることは光栄なことだ」 病院の先生は、そう笑って言っていた。 亜人である先生にとって、私は「患者」ではなかったのかもしれない。  ――あの日から、私の服は肌を隠すものとなった。  傷跡は私からすべてを奪った。  「普通」の学校生活も。  「普通」の恋をする機会も。  「普通」の家族との関係性も。    誰が、突然発情し。 自慰行為をしながら、ヴァンパイアの呼ぶ場所に移動する女を――愛してくれると言うのか。 友人も、好きだった人も、家族も。私から距離を置いた。 私は――すべてを失った。 死のうとしても、「ヴァンパイア」の許可がなければ死ねない私にとって。 この世は地獄でしかないのに。 生きていることを強要された。 ――たまに使う「オナホール」として、暖かいままでいることを――私は強要されたのだ。  全てを失った私は、夜の世界に堕ちた。 ――ここなら、私のような穢れた存在でも、生きていく余地がある。 煌びやかな世界の影の部分なら、私が黒くても問題ない。 ここでなら、生きていける。 死ぬことを許されない私が、辛うじて息ができる。 ――そう思ったから。  「やっぱり女は若い方がいい」  「お前は可愛くない。でも、たまには使ってやらないとな」    20代後半に差し掛かった私を使いながら、私を食らうヴァンパイアの男はそう口にする。 殺してくれればいいのに、首を絞めても死ぬ直前で解放される。 快楽に暴走する体の奥底にある私の心は、冷たい視線で男を見上げている。  ――あぁ。殺したいほど憎んでも、相手が死ぬこと何てない。  だから私は祈る。一秒でも早く終わりますようにと。  ――無力な人間が、亜人になんて勝てるわけがない。  この世には神様なんて――いないんだから。   *************************************************