ヤンキーな幼馴染がお姉ちゃんと呼んできます 特典SS 【新しい覚悟】 「ねえ、また俺を無視する気?」    ゴミ箱を持って校舎裏へと向かう彼女を追いかけてきた俺は、彼女の細い腕をつかんでひきとめた。  振り返った彼女が俺に向けたのは、ほんの少しの恐怖とほんの少しの好奇心、そしてたくさんの期待のこもったウルんだ眼差し。  それを目にして、俺の中の乾いた部分がうるおって、ともにジワジワと熱が全身に滾ってくる。      最近やっと気づいた、彼女のこの視線。  あれ以来、お姉ちゃんはまた学校で俺と目を合わせようとしない。  まあ、俺がいつもの仲間とたむろってるからだろーけど、廊下ですれ違うときなんか露骨に後ずさりして逃げやがって。    でもあれ以来、ふと気づくとお姉ちゃんが俺をジッと見てる。  視線を合わせずに、目だけでチラ見すれば、かなりの高確率でお姉ちゃんがこっちを見ているのに気がついた。    あのお姉ちゃんが今、俺から目を離すことができなくなってる……    そう思うと、どうしようもなく胸が高鳴ってくる。  あの日のあの出来事が、ウソでも幻でもない現実だったのだと確信させてくれる、お姉ちゃんのあの目。  それを知った俺は、今日までずっとこの機会を待ってた。    普段部活があるお姉ちゃんは、俺と同じ時間に帰れない。  俺は俺でつるんでる仲間との付き合いもあるし、今更電話もできねーし。  つーかお姉ちゃんの番号なんて知らねーし、SNSも知らねーし。    お姉ちゃんが俺に興味を持ってくれてるのは間違いない。  避けられてるワケじゃねーのも間違いない。  だけど、あの日一瞬昔に戻れたと思ったのが全部幻だったのではないかと思うほど、俺たちの日常はあれからなにも変わらなかった。   「なあ。あのアプリ、まだ持ってるんだろ?」    いや、変わりきれなかったのは俺のほうかもしれない。  分かってたはずだ。  俺たちの関係は、あの日、完全に変わってしまったのだと、ちゃんと理解していたはずなのに。   「『お姉ちゃん』。今日またあのアプリで俺を誘えよ」 「え……?」 「したいんだろ、俺と」    つかんだ腕を引っ張って、人気のない校舎裏の壁にお姉ちゃんを囲い込むように押さえつける。  少し乱暴に引っ張ったから、お姉ちゃんが持っていたゴミ箱が音をたてて転がって、周りにゴミをまき散らした。    今更だけど、チッセーよな、お姉ちゃん。  昔はいつも俺を包み込むように抱きしめてくれてたのに、今ではすっぽり俺の腕に囲い込めそうだ。    手首を顔の両脇で俺に押さえつけられて逃げ道を断たれたお姉ちゃんが、またあの目でジッと俺を見上げてくる。  おどおどとしつつも、どこかすがるような、めちゃくちゃエロい、俺の欲望をかきたてまくるあの目。    いっそ、ここで欲望のままに無理やり犯したい……。    そんなガッツいた欲望はなんとか押し殺し、余裕そうな表情を顔に貼りつけてお姉ちゃんの耳元で囁く。   「お姉ちゃんの子宮、また俺の精液でドロドロに溶かして欲しいでしょ」    チラ見すればすぐ横に、真っ赤に染まったお姉ちゃんの顔と首筋。    ああ、やっぱり。  お姉ちゃん、マゾっ気あるよな。  こんなひでーこと言われてんのに、今うれしそうに震えたの、伝わってくんだよ。    そのまま顔を寄せ、腕の中で動けないお姉ちゃんの赤く染まった耳を嬲る。  最初は優しくチロチロ舐めてたけど、全然反応しねーから意地になって耳を口に含んでグッチュグッチュと思いっきり犯した。  っと、突然お姉ちゃんがガクンと膝を折るように崩れ落ち、そのままズルズルしゃがみこんでいく。    あー、クソ。  よく見たら、自分で自分の口塞いで必死で声上げるの我慢してたっぽい。  なんだよこれ、マジでカワイすぎんだろ。    お姉ちゃんが死ぬほどカワイイ。  カワイすぎて、苦しい。  苦しすぎて俺、もうこのままくじけそう。    お姉ちゃんの視線を追いかけるように、俺もお姉ちゃんの目の前にしゃがみこむ。  そんで、お姉ちゃんの顎を引き上げて、俺とまっすぐ視線を合わせてやった。  惚けた顔を俺に晒すまいと、視線をさまよわすお姉ちゃん。   「お姉ちゃんの耳、俺の唾液でドロッドロ。どんだけ耳よえーんだよ」    指摘された途端、お姉ちゃんが赤い顔をよけい赤くして、今舐められていた自分の耳を両手で必死に押さえた。   「隠すなよ。お姉ちゃんがキモチよくなるとこ、もっと見せてみろよ」    そう言って、そっとお姉ちゃんの唇に触れるだけのキスをする。  今一瞬、物足りなそうな顔をしたな、お姉ちゃん。    それを見てズクンと湧き上がってくる劣情の脇で、小学生の頃の俺が冷めた目で俺を見て笑った。   『汚ねーの。お前もお姉ちゃんも、欲望ばっか』    そう言って笑ってる。  途端、中途半端な覚悟の俺が顔を出す。    もっと普通に愛したかった。  もっと優しい時間がほしかった。  もっとキレーでカッコイー恋愛を、俺だってしてみたかった……。    でも、そんなのは今更だ。  やっと取り戻したお姉ちゃんを、俺はもう絶対に逃すつもりなんかねえ。  身体から堕ちてきたお姉ちゃんをつなぎ止めるには、俺にもそれなりの覚悟が必要だ。    脳内の過去の自分たちを指さしてせせら笑う。    手ぇひとつ握れなかったお前らに、文句言われる筋合いなんかねーんだよ!    身体からだっていい。  性欲処理だってかまわない。  抱いて抱いて抱きまくって、お姉ちゃんが俺以外考えられなくしてやるだけだ。  理性ふっ飛ばしてすがりつきながら俺を求めるお姉ちゃんを、何度も何度も犯して洗脳して、俺を、俺だけを好きで好きでたまらなくしてやる!  そしていつかゼッテーに、自分から俺が好きだって言わせてやる!    脳内で独り吠えた俺に、また過去の俺が笑う。   『そんなのは、目の前のお姉ちゃんを笑わせてやってから言えよ』    あああああ。  お姉ちゃんは笑ってくれない。  俺に笑いかけてくれない。  涙目で俺を見つめてるお姉ちゃん。    笑ってほしい。  お姉ちゃんに。  前みたいに俺に優しく笑いかけてくれよ──。    脳内で小学生の自分に言い負かされた俺は、これ以上お姉ちゃんの顔を見てられなくなった。    だからお姉ちゃんを抱きしめる。  顔を見ずに抱きしめて、自分勝手にその耳に囁く。   「今日の夜7時。この前のマッチングの継続申請入れて。それでまた会えるから」    押し付けるように吐き捨てた俺は、座り込んだままのお姉ちゃんを置き去りにしその場を逃げ出した。    もう後ろは振り返らない。  まだ動けないままのお姉ちゃんも、お姉ちゃんに守られていた頃の弱い自分も。    そして、まだ未練たらたらの、初恋から覚められない純な自分も。