ヤンキーな幼馴染がお姉ちゃんと呼んできます 特典SS 【恋愛サバイバル】 ※彼女視点のお話です。閲覧の際にはご注意ください。 「なんでお前がここにいるんだよっ!」  パコルの予約ホテルの部屋。  入ってきた春樹くんに怒鳴られた。  だって仕方ない。  こうしないと春樹くん、知らない女の子とシちゃうらしいし!  覚悟して来たホテルで焦る春樹くんの姿を目にして、ほんの少しだけほっとした。  こんな見た目になった今も、春樹くんは優しい春樹くんのままだった。  でもそんなこと思えたのは、最初のほんの数分だけ。  隣に座った春樹くんが、話すうちにどんどん暗い目になっていく。  私はただ一緒に話がしたかっただけなのに……そりゃそれだけで済むわけないか。  ある程度の覚悟はしてた。  だってホテルだし、そういうアプリだし。 「下着姿の『お姉ちゃん』、犯してやるよ……」  だけど現実に春樹くんが来ちゃって、しかもこんな思いつめた目で私を襲うなんて、想像できるわけもなくて。  拒否も拒絶も、できなかった。  だって、私も春樹くんが好きなのだから。  乱暴なこと言いながら、優しく私に触れる春樹くん。  えっちなこと繰り返すのに、何度もキスする春樹くん。  その全部で私が好きだって言ってくれてて。  そっか、春樹くんも私を好きだったんだ……。  それはすごくうれしいのに、返せる言葉が見つからない。  春樹くんが私を想ってくれてたのはわかったけど、こんな思いつめてる彼に自分の気持ちを上手に伝える方法が分からない。  私も好きだよ。  ただ単純に、そう言おうと口を開くのに。  そのたびに春樹くんの行為がエスカレートしてキツくなる。  好きだと言おうとする私の口から、勝手に変な声が漏れちゃって、また口を閉じるしかなくて。  初めての経験なのに、どこまでも私を追い詰める春樹くん。  そのうち与えられる刺激がどんどん激しくなって、頭真っ白になってきちゃって。  もうムリ……!  そう思ってたら、泣きそうな春樹くんの顔が目に飛び込んできた。  そんな悲しそうな顔で、私を抱いてるの?  こんな辛そうな顔で、私に拒否を求めるの?  言ってることとやってること、全部反対じゃない……。  でもね春樹くん。  私に拒否はできないよ。  だって私もあなたが好きだもん。  初めての行為が痛いとか、男の顔する春樹くんが怖いとか。  そんなこと全部忘れるくらい、春樹くんの泣きそうな顔が辛かった。  触れあう肌と彼の吐息。  彼の強い想いが熱をもって全身を包み込む。  それを全部受け止めて、胸がキューッと締めつけられて。  思わず泣きそうになった私を、春樹くんが最後まで抱いた。 「……もう一度犯されたい?」  すすり泣きが聞こえそうなほど、傷ついた顔で私に尋ねる春樹くん。  そんな春樹くんをただ抱きしめる。  こんな顔にしたのは、多分私なんだ。  見た目の変化に戸惑って、声をかけるチャンスすら奪っちゃって。  挙句の果てに突然こんな場所に現れて、春樹くんが困るのも仕方ない……。  全部受け入れたい。  今日だけは。  そう思って最後まで付き合ったんだけど。  ホテルからの帰り道。  春樹くんがなにも話してくれない。  一緒に歩いてるのに、全然こっちを見てくれない。  今度こそ言おう、そう思ってたのに、そんなだとまた決心が緩む。  結局私の家の前まで送ってくれた春樹くんは、そのまま何も言わずに帰ってしまった。  夜、涙が止まらない。  これは失恋なのかな。  今日、行かなければよかったのかな。  ……やるだけやって、もう終わっちゃうのかな。  分かってる。  半分は自分のせい。  結局最後まで何も言えなかった。  でも半分は春樹くんのせい。  結局最後まで何も言わせてくれなかった。  いっぱい泣いた後、私は決心した。  もう一度チャンスがあるとしたら。  今度こそ絶対言おう。  彼が好きだと。  彼が大切なのだと。  彼ともっと話したいのだと。  あと避妊だけはしてほしいって!  ♢  一週間後、体育館裏で彼に詰め寄られた私は一緒にまたパコルのホテルに行きました。  そこで私の平手打ちに春樹くんが打ちのめされたのも、ゴムなしに物申して二度としないって誓ってもらったのも、ずっと大好きだよって言えたのも。  それは全部全部、私と春樹くんの長いながーい恋愛サバイバルの、ほんの最初の1ページ。  恋愛サバイバル(完)