あなたが仲間を募集している勇者の方ですね。 初めまして、私はアリシアと申します。 見ての通り、私は魔法使いですから、前衛がこなせて、できれば魔法の心得がある方を探していたんです。 是非お仲間に、と言いたいところですが、その前に私と一度、模擬戦をしてもらえませんか? お互い冒険者としては駆け出しですし……いえ、だからこそ、パーティを組む前に、実力を知っていた方がいいかと思うんです。 それで、戦闘に勝った方がパーティを組むかどうかを決めるってことなら、お互い納得出来ると思うんです。 ああ、大丈夫ですよ。 今回、魔法は使いませんから。 そもそも私、魔法の燃費が悪くて、下級の魔法でも2、3発しか撃てないんです。 私のお師匠が言うには、実戦の経験を積まないと、ってことなので、旅に出るようになったんです。 まあ、一人だと不安なのでこうしてこの街で足踏みしてるわけなんですけどね。 でもその代わり、こう見えても近接戦闘は結構出来るんですよ? 女だからとか、魔法使いだからとかで油断してると、痛い目見ちゃいますよ? さて、勇者様。 私との勝負、受けていただけますか? ……ふふっ、ありがとうございます。 この街の訓練所なら使わせてもらえると思うので、早速行きましょうか。 さて、ここだったら思いっきりやれそうですね。 勇者様はその訓練用の剣を使ってくれていいですよ。 もちろん本気で当てにきてくださいね。 でないと意味がないですから。 ここの訓練所って、武闘家用の装備って置いてないんですよね。 私は自分用に持ってる訓練用のグローブ、使わせて貰いますね。 あ、まだ言ってませんでしたね。 私、武器を使うのが苦手なんですけど、格闘術は結構得意なんですよ。 足技も少しは出来るんですけど、バランスを崩したり、隙が大きかったりするので、拳だけで闘いますけど、手を抜いてる訳じゃないですから、勘違いしないでくださいね。 ちょっと話しすぎちゃいましたね。 まあ、そういう感じなので……そろそろやりましょうか。 勇者様も、準備はいいみたいですし。 では、始めましょうか! ふふ、勇者様から来てくれないと始まらないですよ? リーチの差がある以上、私からは攻撃しづらいですからね。 ……んっ、結構速いですね。 まだ実戦経験がないとはいえ、流石は勇者様ですね。 でも、それではいつまで経っても私には当たりませんよ。 ほらっ、どんどん攻めてきてください。 ふふっ、今のは少し危なかったです。 ですけど……段々勇者様の癖、わかってきましまよ? 次に攻撃する時に、カウンター合わせますね。 ふふっ、警戒してるみたいですけど無駄ですよ? ほら、来てください! はいっ! はい、宣言通り……カウンターです。 結構いい感じに入っちゃいましたね。 まだ一発入れただけですけど……勇者様の動きは見切っちゃいましたから、この辺りで降参したらどうでしょうか。 まあ、そういっても引き下がらないでしょうし……どっちが上か、ここではっきりさせておきましょう。 ほらほら、私のカウンターが怖くなければ攻撃してきてください。 勇者様が外す度に、顔面にパンチをしっかり叩き込んであげますからね。 シッ! シッ! シッ! シッ! シッ! ん、どうしました? まだ5発しか殴られてないのに、もう心が折れちゃいました? ずっと訓練してきた剣術が一切通用しないなんて、悔しいですよね。 それも格闘家でもない魔法使いに。 ふふっ、私のカウンターが怖くて踏み込めないんだったら、こっちから撃たせてもらいますよ? まずは懐に潜り込んで……アッパーっ! お腹にも一撃っ! ガラ空きの顔面に……ジャブ!ワンツースリーっ! もう一度、アッパーですっ! 倒れちゃいましたね。 剣術はいい線行ってましたけど、体術を使う相手と闘うのは初めてみたいですね。 勇者様、まだやれますよね? ふふっ、そうやって倒れてもすぐに立ち上がれるのは大事なことですね。 でも……。 シッ! 油断しちゃいましたか? 模擬戦とはいえ勝負なんですから、相手が待ってくれるなんて思わない方がいいと思いますよ? シッ! シッ! シッ! 剣を離さないと、ろくにガードもできませんよ? それくらいの判断ができないんだったら、このままラッシュ叩き込んで、寝かせてあげますよっ! ほらほらほらぁっ! 顔を上下左右に揺さぶられて、何も考えられないんじゃないですかぁっ!? 私のパンチ、どうですかっ! これで……倒れなさいっ! ふふっ、流石にもう動けないみたいですね。 このままマウントポジション……とらせてもらいますね。 この体勢、とっても危険なんですよ? このまま殴られたら衝撃が逃げず、よりダメージが入ってしまうんです。 格闘家の人はダメージを抑える方法とか抜け方も知ってるんでしょうけど。 魔法が使えるんだったら、それで防御したり反撃したりすることも出来ますしね まあ、勇者様には抵抗する手段はないでしょうから、私の拳、しっかり味わってくださいね。 まずはフックを撃つように、左右から連続で殴りつけていきますね。 うわ、苦しそう。 かなり効いちゃってるみたいですね。 まだまだいきますよ。 ふふっ、ほっぺたが腫れてきてしまいましたね。 最後に、真上から勇者様の顔めがけて……振り下ろしのストレートを一発、叩き込んであげます。 これ、すごく痛いんですよ。 普通の人だったら、気絶しちゃうかも知れませんね。 このパンチで、顔をぐちゃぐちゃにして、勇者としてのプライドも叩き潰してあげます。 覚悟してくださいね。 せーのっ! ふふっ、鼻血がぴゅっぴゅ〜って出てきましたね。 涙流しちゃって、よだれも垂らしちゃって……ふふっ、壊れちゃいましたか? 勇者様、もう降参してくれますよね? これ以上殴られたら、もう旅に出るのは難しくなっちゃうかもしれないですよ? それは嫌ですよね? それに、勇者様が、女の子の、魔法使いのパンチで負かされちゃっても、そこに悔しさを感じる必要なんてありませんから大丈夫ですよ。 ただ冒険者として、勇者様より私の方が強かったってだけですから。 だから安心して……こ・う・さ・ん、して下さい。 はい、降参ですね。 では、勇者様の負け……ということで。 ふふっ、私のことを恨まないでくださいね?勝負とはそういうものですから。 では勇者様、私が勝ったので、私が勇者様とパーティを組むかどうか決めるという話についてですけど……。 勇者様は技術面についてはまだ不安ですけど、私の攻撃にも結構耐えられていましたから、きっと鍛えれば強くなれると私は思いました。 それに勇者である以上、これから経験を積んでいけば魔法や特別なスキルを身につけることだってできるでしょうし。 ですから……そうですね、私に勝てるようになるまで定期的に模擬戦をするということを条件に、パーティを組む、というのはどうでしょうか? また今日みたいにボコられちゃうかもしれませんけど、勇者様ならすぐに乗り越えられると信じています。 それに闘ってわかったと思いますけど、私、戦力としては申し分ないと思いますよ。 どうですか?悪くない条件だと思うんですけど。 ふふっ、ありがとうございます。 そう言ってくれると信じてました。 これからよろしくお願いしますね、私の勇者様。 あ、あの……勇者様。 少し言いにくいんですけど……最近の私との訓練、何か思うところがあるんですか? いえ、以前は私の攻撃で倒れちゃっても、何度も立ち上がって向かってきてたじゃないですか。 それが最近はすぐに降参しちゃってますよね? それに、剣を持つときの手も、少し震えているように見えるんですけど。 この辺りの魔物なんて私の出番もないまま一人で倒しちゃうのに、私との訓練には力が全然入っていないというか……。 ねえ、もしかして……私と闘うことに、苦手意識を持ってるんじゃないですか? 図星みたいですね。 やっぱり初めて私と出会ったときの模擬戦のことを思い出しちゃってるんですよね。 あれだけ一方的にやられたんですから、トラウマになっても仕方ないとは思います。 でも、勇者様ならいつまでも引きずっているわけにはいかないの、わかってますよね? ですから、少し荒療治になりますけど……今日は私との戦闘ではなく、罰を受けてもらおうかなって思ってます。 具体的には……そうですね、私のパンチをノーガードでお腹で受け続ける、なんてどうですか? ふふっ、勇者様がいけないんですよ? 私との訓練が始まっても、とりあえず降参すれば解放される、なんて心のどこかで思ってたんじゃないですか? でも、そんな甘い考えは捨ててもらわないといけません。 もちろん、今後の訓練でも身が入ってないと判断すれば同じことをさせてもらいますよ。 その時はお腹だけじゃなくて顔面にも撃たせてもらいますけど……今日は初回なので、お腹だけにしておきますね。 ほら、嫌がってないでこっちに来てください。 まあ、嫌でも無理矢理やらせてもらいますよ。 習得してはみたものの、全然使ってない魔法が色々あるので、少し試してみますか。 まずは……時間制限はありますけど物体を生成する魔法です。 うん、こんな感じですかね。 ふふっ、これって知ってますか? 最近、何かの本で見たんですけど、ボクシングリングっていうらしいです。 格闘家は一部の拳闘術をボクシングって呼ぶらしいですけど……私の使うものと似てますよね。 私のグローブも同じ本に書いてあったものを生成してみますね。 で、このロープに勇者様の体を拘束させてもらいます。 次に従属の魔法……これにかかった人は私の言葉に従ってしまうんですけど、使った人のことを好ましく思っている方が効果が強いみたいですね。 要するに恋愛感情の大きさ、ですよ。 だから、魔物とかには使う機会がなかったんですけど……試してみましょうか。 では勇者様、ロープに背中を預けてください。 そのまま両腕を左右に伸ばして、ロープを掴んで……はい、それで大丈夫です。 ふふっ、勇者様にはちゃんと効果が出てるみたいですね。 効かなかったらどうしようかと思いましたけど……えへへ、嬉しいです。 でも、これから始まるのはお仕置きですよ、お・し・お・き。 怖いですか? そうですよね。 私のパンチの威力は、勇者様が一番知ってますもんね。 ほら、頭を撫でてあげますから、頑張りましょうね。 よしよし……。 しばらくこうしててあげますからね。 勇者様、覚悟はできましたか? まずは弱めのパンチで慣れていきましょうね。 パンチ。 パンチっ。 パンチっ! ふふっ、これなら耐えられそうですか? では、下腹部から重点的に攻めますね。 シッ! シッ! シッ! パンチっ! パンチっ! パンチ、パンチ、パンチ! あはっ、手加減されてても同じところを殴られたら苦しいですよね。 ちょっと痛いの、いきますよ。 はい、どーんっ。 ふふっ、あはははっ! 痛みに慣れてきたところに急に強い衝撃が来て、びっくりしちゃいました? ああ、もう……暴れないでくださいよ。 ちゃんと腹筋に力入れてないともっと苦しい思いをしちゃいますよ? はあ……言ってわからないなら、そのお腹でわからせてあげるしか……ないです、ねっ! ふふっ、しおらしくなっちゃいましたね。 勇者様、わかってくれました? これはお仕置きなんですから、勇者様も反省してるんだったら、私の拳を受け入れてくださいね。 ……返事。 ちゃんと聞こえるようにお返事しないとダメですからね。 じゃあ次、お臍のあたりを狙っていきますね。 下腹部を叩かれるよりも苦しいと思うので、頑張ってくださいね。 例えばお臍の上は肝臓や胃袋がある場所ですから、そこを打たれると吐き気が襲って来るんです。 ふふ、想像しちゃったんですか? 勇者様の顔、青ざめちゃってますよ? ほら、いきますよ。 シッ! どうですか? 結構軽く撃ったつもりですけど、やっぱりさっきのよりも痛かったですか? 脂汗が出てますし、よだれも垂らしながら苦悶の表情。 あまりの衝撃に悲鳴も一瞬出なくなっちゃいましたね。 でもその後、情けない声を漏らしちゃって……ふふ、すごく辛そうです。 じゃあ、叩いていきますね。 ほらほら、どうですか? 勇者様の腹筋も、私のパンチで役に立たなくなっちゃいましたね。 弱いパンチでもお腹に響いちゃいますよね。 ふっ! このまま拳を引き抜かないで、お腹にねじ込んであげます。 ほら、ぐりぐり〜っ。 ふふ、私の拳が勇者様のお腹に吸い込まれちゃってます。 はい、抜いてあげます。 ふふ、ぐったりしちゃってますね。 いつもはすぐにパンチを引いてたから、こんな痛みは初めてですよね。 ん、どうしました? 何か言おうとしてますけど、全然言葉になってないですよ? まあ、なんとなく言いたいことはわかりますけどね。 大方、ごめんなさいとか、もう許してとか、ギブアップとか……そんなところですよね? ふふ、必死に首を縦に振ってますけど……もちろん、終わりにするつもりはないですよ? 勇者様のそういうすぐに負けを認めちゃうところを矯正するためにこんなことしてるんですよ? というか、むしろこれからが本番です。 今から勇者様のお腹に、いろんなパンチを撃っていきます。 高速のジャブで叩かれまくったり、アッパーで突き上げられたり、フックで揺らされたり、ストレートで真正面から撃ち抜かれたり、です。 今までとは比べ物にならないくらいに苦しくて辛いと思いますけど……我慢してくださいね。 大丈夫、本気ではやりませんよ。 それでも本当に苦しいと思いますけどね。 じゃあ……いきますよ? ふぅー……このくらいですかね。 勇者様、まだ意識ありますか? んー、起きてるんだったら最後にトドメの一撃を入れてあげるつもりだったんですけど……やっぱり意識飛んでます……よね? なんて、言うと思いました? 勇者様、起きてるんですよね? 何か反応しないと腹パン追加しますよ? あはは、勇者様ったら、女の子のパンチが怖くて、プライドも捨てて気絶したフリですか。 しかもそれもバレちゃうなんて、本当に恥ずかしいですね。 今、どんな気持ちなんでしょうね。 まあ、勇者様の情けない姿はこれまでいっぱい見てきましたし、私は今更何も思わないですけどね。 じゃあトドメの一発、入れてあげますね。 ほら、泣かないで。 勇者様ならきっと耐えられますから。 じゃあ、十秒……数えてあげますから、ゼロと同時に殴りますね。 それで今日は終わりにしてあげます。 はい、じゃあ行きますよ。 じゅーう、きゅーう、はーち、なーな、ろーく、ごーお、よーん、さーん、にーい、いーち。 ゼロっ! はい、これでおしまいです。 勇者様、わかりましたか? これからの訓練で手を抜いていたら、今日と同じことを……いえ、今日よりも痛い目に遭わせますからね。 では、拘束も解いて……ほら、私の体に抱きついてください。 ゆっくり座りますよ。 しばらくは動けないでしょうし、私の胸の中で休んでくださいね。 よしよし、いい子です。 それと……勇者様、ごめんなさい。 従属の魔法。 私への想いが強いほど効果が大きくなる、というものでしたけど…… あなたの心の中、勝手に覗くようなことをしたようなものです。 それに沢山殴っちゃいましたし、私のこと、嫌いになって当然ですよね。 でも、私は……勇者様が私のことを好きって思っているとわかって、嬉しかったです。 本当は私の気持ちは、旅が終わるまでは言わないべきだったんでしょうけど。 勝手にあなたの想いを知ってしまったからには、せめてここで伝えないと公平じゃないですよね。 勇者様、あなたのことを……愛しています。 あなたが話せるようになったら、こんな私とまだ一緒に居てくれるか……教えてくださいね。 あなたがどんな答えを出しても、私は受け入れますから。