「残念ながら、パスワードかかってますよ」  深夜だろう。  枕元に置いているスマホを取ろうとしたけど、シーツの感触しかない。  あくびをかみ殺しながら起き上がると、僕のパソコンの前にいる彼女の手の中にあった。  部屋に時計なんてものは置いてないから正確な時間は分からない。  カーテンをひいた部屋の中はパソコンのディスプレイの光でぼんやり青く照らされてる。  外は車の音もしないから、やっぱりかなり遅い時間のはずだ。 「そんな簡単にどうにかできるようにしとくはずがないじゃないですか」  がしがし頭をかきながらベッドをおりる。  ペタンってフローリングの音がした。  ちょっと冷たい板張りのおかげで睡魔が遠のくけど、やっぱりまだ眠い。  立ち上がると警戒したように彼女が後ずさりするから、笑ってしまった。  緊張して引きつったその顔は、『彼氏』相手にするものじゃない。 「油断も隙もないっていうのは、こういう時に使うものですかね?」  引き寄せて、柔らかい身体をまた腕の中に閉じ込める。  安くて狭いアパートの中、逃げる場所なんてどこにもない。  学生の頃からずっと住んでいる部屋だ。  家賃にカツカツだったあの頃と比べて今じゃ平均年収よりよっぽど稼げてるけど、未だに住み続けてたのは単純に引っ越しが面倒だったから。  そのおかげで彼女と出会えたんだから、人生何が起こるか分からない。  ベッドとローテーブル、仕事用のパソコンに私用のパソコン。  それだけでいっぱいな空間は、すぐにまた彼女をベッドに組み敷ける。  彼女も一緒に寝る用にと買い替えたベッドは、パソコンに次ぐこの部屋での高級品だ。  薄暗い中で彼女の瞳が怯えの色をにじませながらもキッと睨み上げてくる。  背筋がぞくぞくする。  彼女の瞳の中には今、僕しかいない。  そのことにたまらなく興奮するし、安心するし、何より嬉しい。  アパートの隣に住んでるだけ人間なんて、彼女の中では知り合いですらなかっただろう。  顔を合わせて挨拶しても、視線を外してしまえばもうその瞬間に頭の中は他のことで占められて、僕の存在は消える。  そんなもんだ。僕だってここに彼女以外の誰が住んでるかなんて気にかけたことはない。  彼女にとって僕はその程度だった、ずっと。  それが今やこうして真っ直ぐに見つめ合えているんだから、本当に人生は何が起こるか分からない。  どんな手段だろうと、行動はしてみるものだ。  すべらかな頬をなでると、小さな肩がびくっと揺れた。 「動画データはそんなあっさり消せませんよ。何カ所にもコピーして保存してるので、そのパソコンやスマホのロックを解除できようが物理的に壊そうが無駄です」  僕と彼女が『恋人』だという関係を維持するために必要なデータを、そんな簡単に消せるようにしておくはずがない。  ぷるんとした唇に引き寄せられるみたいにキスをする。  柔らかい身体が緊張したのが伝わってくる。 「そもそも『彼女』といえども、パソコンやスマホを勝手に見ようとするのはマナー違反ですよ。お仕置きです」  薄手のパジャマの上から胸に触ると、拒絶の言葉を吐いて彼女が逃げようとする。  細い腕をつかんで押さえつけた。  さっきまでの睡魔はもうとっくにどっかにいってしまってて、密着した時から下半身は痛いくらいに張りつめてる。  彼女の身体に硬くなってるモノを押し付けると、抵抗の力が弱まった。 「そうそう。僕も慣らす前にちんこねじ込んで痛い思いはさせたくないですからね」  するすると彼女の身体を覆う衣服を剥いでいく。まるでプレゼントの包装紙を開ける子供にでもなった気分だ。  何度彼女とこういうことをしても、毎回新鮮な喜びと期待にわくわくしてしまう。  ディスプレイの淡い光に照らされて浮かび上がる身体にそっと舌を這わせ、やっとたどり着いた乳首に音を立てて吸い付くと押し殺した声が上がった。  自分でよく弄っていた彼女の身体はとても敏感だ。  心を伴っていなくてもよく反応するし、とても濡れやすい。  乳首をかわいがってあげながらおまんこに手を伸ばすと、もうベッドに垂れちゃうんじゃないかなってくらいにあふれていた。  両手で口を塞ぎ、必死に声を我慢しようとしてる姿もたまらなく可愛い。 「お姉さん、本当に可愛い。大好きです」  指を挿入しながら、彼女の顔を見下ろした。  耳まで真っ赤にして涙を浮かべながら、僕から与えられる快感に翻弄される様子を。  水揚げされた魚みたいにびくびく跳ねる身体も、シーツを蹴るつま先も、全部僕のせいでの反応だと思うとそれだけで射精してしまいそうだ。 「おまんこひくひくしてます。イきたいですよね」  そう言うと彼女が首を横に振った。  明らかすぎる嘘に、思わず笑ってしまう。  ああもう、何もかもが愛おしい。 「お姉さんほら、ちゃんと意識してください。あなたはいま、オモチャじゃなくて僕にイかされるんですよ」  言いながら彼女の中の感じる部分を、焦らすことなく刺激してあげる。  か細い悲鳴をあげながら、背中を丸めて、おまんこがびくびくびくーって痙攣した。  力の抜けた太ももを抱えあげて、自分のパジャマのズボンから先走りのにじんだものを取り出す。  彼女の目の焦点が合う前に、それを一気に突き立てた。  手で抑えていない、感じいってる嬌声が上がる。  壁越しに聞いていた抑えたようなものじゃなくて、我慢しきれない本気の声。  近所に聞こえたかもしれないけど、この声を耳にして無理やりされてるなんて思う人間はいないだろう。  組み敷いた身体を揺さぶりながら、でも、とも思う。  こんな時間にこんなことしてたら近所迷惑だろうな。  ここのアパートの壁のうすさは僕が一番よく知ってるし。  今はお互いの家を行き来してるけど、もっと良いマンションとかで同棲するのもアリかもしれない。  きっと彼女は嫌がるだろうけど、お願いの仕方なんていくらでもあるし。  ああ、うん。いいなそれ。  僕はほとんど在宅ワークだから、朝は彼女を見送って夜は出迎えて。毎日そんな暮らしができたらすっごく楽しいだろう。  仕事を辞めたいって言うならそれでも構わない。  まぁ四六時中、僕と二人きりなんて状況を、自ら望むとも思えないけど。  泣きながらシーツを握りしめる彼女にキスをする。 「この部屋、ずっとカメラで録画してるんです。データは自動クラウド保存で」  信じられないと目を見開く彼女に、にっこりと笑いかける。  聡い人は大好きだ。  ちょっとやそっとデータを削除されても、こうして一緒にいる日数だけ彼女を繋ぎ止める手段は増えていく。  背筋をせり上ってくる射精感に逆らうことなく子宮の奥にぶちまけて、つられて絶頂する彼女の悲鳴と締めつけを楽しむ。  『他人』から『恋人』になれたんだ。  逃がしてなんてやらない、一生、どんな手段を使っても。