;//////// ;Track0 タイトルコールとこの音源の楽しみ方 ;//////// ;環境音 蝉しぐれ ;9/前遠 「……あああ、暑い。 暑ぅて暑ぅて、とろけてしまいそお」 「ごぎゃん暑か日に置き去りなんて、 犬神(いんがめ)ちゃん――」 「ううんそもそも、犬神ちゃんとゆきとを呼び出した、 ものべののカミさま、ひどかとよ〜」 「ばってん――ん〜…… カミさまの なさったことやけんね…… あつくても、とろけそおでも ―― きっと、そのことにも大事な意味が――ありゃ?」 ;2/右前 「なんねぇ、これ――紙切れ?」 ;SE 紙ペラ 「よいしょっと―― ん〜?……(呼吸音)―― あー、こぎゃんとつたえればよかゆーこと? ……ゆきに上手にできるとやろか?」 「けど、うん。やらんとねー。 カミさんのおっしゃることやし―― きっと、大事な意味があるけん」 「ええと? 『まずは正面に』って、 正面、正面――こっちでよかとよね?」 ;9/前 「んんっ――えへんっ ;ナレーション(タイトルコール) 「あやかし郷愁譚(きょうしゅうたん)。 雪御嬢(ゆきごじょう)ゆき」 「こんボイスコンテンツば、あなたの疲れをひんやり癒やし、こころを鎮め、体を休め、おだやかな眠りに落ちていただく――そんお手伝いばすることを目的とした、バイノーラル安眠ボイスドラマです」 「あたたかすぎず、さむすぎず。静かなところで―― もしできるなら、お布団の中ばもぐりこんで…… ヘッドホンかイヤホンばつけて、聞いてもらえたら嬉しかと――です」 「……お耳の準備は、よかとですか? よかよーなら、ちょこっと、テストばしますね〜?」 ;3/右、接近囁き 「(ふ〜っ)――み・ぎ・み・み」 ;1/前 「で、正面からの〜」 ;7/左 「ひだりみみ」 ;1/前 「んふふっ、どげですか? もし、右左いれちごーとったら、 今のうち、ささっとなおすと良かですよ?」 「(呼吸音)……ん。あ――良かですか? うふふ、ほんならもーいっかい」 ;7/左 接近囁き 「(ふ〜っ)ひだりのおみみ」 「んふふっ。準備ばこれでよかとね?」 ;1/前 「ほんなら、ね? ゆき……ゆき―― ああっ、いけん…… 頭、頭ばくらくらしよると〜」 「ぅぅぅ〜……ゆき、もうこれ以上がんばれん、けん―― 早ぉ、早ぉに、ゆきのこと、助けに――はぅぅ〜っ、 ゆき、がまんして、まっちょりますけん……」 「ふぁ……もう喋るだけでもあつかけん――(呼吸音)」 ;環境音Off ;3/右 接近囁き 「ね? 旅の方―― なるたけはよぉに……ものべのに」 ;//////// ;Track1 バス停のゆき(体拭き) ;//////// ;/// ;シーン1:夏。山の中のバス駅(バス停+待合駅) ;(状況)ゆきは、バス駅に実質閉じ込められ、次のバスで助けてくれる人が降りてこないかを待ち焦がれている ;/// ;SE 蝉の鳴き声 :SE バスがバス停につく ;SE 誰かがバスから降りる ;SE ブザーがなりドアが閉まり、バスが走り去っていく ;10/右前遠 「にーさーん、おにいさーーーん」 「たすけてー、たすけてー、にーさーん、おにいさぁん」 「あぁ、よかったぁ。 ……気づいてくれたと? くれた……よね?」 ;11/右遠 「あああ〜、そっちじゃなかとよぉ。 こっち、こっち。バス駅ん中っ」 ;9/前遠 「あ! ……ああ――よかったぁ。こっち、この中と。 ね? おねがい。早ぉにたすけて、おにいさぁん」 ;SE ドア開く 「ひっ!? 閉めて!! ドア! 中入って、早ぉに閉めてっ」 :SE ドア閉め(あわてて) ;1/前 「あああああぁ〜。 よかった、よかったぁ、こわかったぁぁああ」 「おにいさん。えへへ――。 ありがと。まっこと、ありがとぉねぇ」 「あんな? うちね……ものべののカミさまにお手紙で呼び出されてな? ここまで来たはよかったばってん――」 「一緒にきとった犬神(いんがめ)ちゃんにな? こぎゃんバス駅におきざりにされて……」 「もろーたお手紙には、 『ついたら役場に来るっスよ』って書かれとったばってん――」 ;顔そむけ 「お外、この暑さと日差しでしょお」 出たらたちまちとろけてしまいそおで…… 怖くて、一歩も出れんかったんよ」 ;顔マイク 「ひょっとしたらもう、 このまま日暮れまで動けんかもって思ぅとって…… とっても、とーっても怖かったとよ〜」 「え? ええと…… あー“いんがめ”って、この辺ではそぎゃんいわんと?」 「いんがめゆーんは、犬神(いぬがみ)のこと。 カミやいうても、本物の神様ちごーて、ただのあやかし」 「狐憑き、いうて――――ああ、知っちょる? やったら、話ば早かとねー」 「あれの、狐でのーて、犬が憑きよったもんが、犬神(いんがめ)憑き。 で、祓われんまま百年も二百年もたってしもーて、もう元の人格と憑いた犬神がとけおーて一体化してしもーたもんが、犬神いわれるあやかしなんよ」 「でな? 犬神ちゃんもウチと出身はおんなじで、 九州は人吉・球磨(くま)ばってん―― 犬神ちゃん、うちと違ぉて、暑さにはもう強い強い」 「バス駅につくなりな? 『ついた! ゆきちゃん、またあとでー』って、 一直線に走っていってしもうて」 「あ、ゆきちゃんて、うちのお名前。 うふふ、うちね? お名前もっとるんよぉ。 良かでしょお」 「むかぁしむかしに、 お山に迷いこんできたふもとの村のちいちゃかこにな? ゆきちゃん、って――あ! そうじゃなく、 いま、犬神ちゃんのことやったとねぇ」 「犬神ちゃんはな? はしゃいじゃうともう、 それだけでいっぱいになっちゃう子やけん。 ゆきのことばすーっかり忘れて……ほんで、置き去り」 「やけんね? もう ゆき。 あつぅてあつぅてとろけそおで――」 ;1/前 右耳方向に接近囁き 「ん……と。ね? 見て、こん汗。 だくだくでしょお」 「もう体までとろけてしまってるんじゃないかって思ぉて。 頭もフラフラ、ぼーっとしてきて――きゃっ!?」 ;1/前 通常 「どぎゃんしたと? おにぃさん。 急にそぎゃんとおっかなか声」 「え? 『熱中症かもしれない』って―― んと……ええっと、‘ねっちゅうしょう”って、 どぎゃんもんとや?」 「『そんなこともわからないなんて、もうかなりやられてるかも』って―― ……んん〜、ゆき、よぉわからんけど、なんねぇ。 ちょこっと失礼なこといわれとるとよぉな――」 ;1/前から3/右に45度動きながら 「ひゃああっ!?」 ;SE とさっ、的な、優しく人体を寝かせる ;1 前(至近) 「お、おにぃさん? どぎゃんしてゆきんこと膝枕なんて――ひゃうっ!?」 ;SE 冷えピタのフィルム剥がす→オデコに貼る 「ぁあ――なんね、これ――ひやっこかぁ―― ひゃっこくてひゃっこくて、おでこ、 とーってもここちよかとよぉ」 「(呼吸音)……(呼吸音)……(呼吸音)」 「ああ……生き返る…… おでこのあついの、ぜぇんぶ吸ってもらえとるねぇ……」 「……おにーさん、ゆきに…… どぎゃんことしてくれよったと? あ! ひょっとしたらおにいさん…… ゆきの……その……」 「んとね、あんね? お耳、ちょこっと貸りてもよかと?」 「うふふぅ。ありがとぉ、ほんなら、お耳ば借りて―― ええとぉ」 ;3/右 接近囁き 「(ごくり)――おにーさん、ひょっとして…… ゆきの、遠縁にあたるあやかし、とかと?」 ;3/右 通常 「え? 『冷えぴったんを貼っただけ』って―― なんねぇ、そん、『ひえぴったん』って」 ;2/右前 「あ、そん小袋にはいっとおと? ふんふん……“きゅうきゅうぽおち”。 よぉわからんけど、 なんだか素敵なもんな感じがするとねー」 ;1/前 「あ、そいば救急ぽおちとや? そん中から――わ! なんぞ、ひらぺったいもんが――」 「あぁ! ゆき、きっとわかったと〜。 んふふ〜そいばきっと、『冷えぴったん』とねぇ?」 ;SE フィルム剥がす 「ほわぁ……透き通った皮が剥がれよって―― そいば、どぎゃんすっと? ん? 顎をあげると? ゆきの? よかとよ―― <貼る> ひゃっ!!?」 「あ……あ! ひゃっこーい。ひんやりー。つめたかとー。 うふふ、わかったばお。 こん『冷えぴったん』ば、 はったところが冷たくなるとね?」 「んふふふっ〜 『正解』? 正解できて、うれしかと。 おにーさんのおかげで――ん……」 「ふぁ…… あ――ん――(呼吸音)」 「おでこも首も、たいぎゃーここちよーなったとよ〜。 まっことありがと。ありがとねぇ。おにぃさん」 「え? 『まだ、脇と鼠径部もひやさないと危ない』って。 わきは、わきの下のことよねぇ? ほんで……そけーぶ? そけーぶって、どこと?」 「ん? なんねにーさん。急に真っ赤になってしもーて。 え!? あ、ひざまくら、おしまいと?――って……」 ;13/後遠 「おにーさーん、どぎゃんしよったとー? いきなりそぎゃんすみっこにいって、 ゆきに背中ばむけてしもーて」 「ん? 『鼠径部は、またの付け根のこと』…… またのつけね……ふとももの根本…… あー! あー、あー、あああ〜」 「んふふっ、おにーさん、紳士なんねぇ。 ありがとおねぇ、たすけてくれて、 そぎゃん気ぃまでつこうてくれて」 「さっきいきなり……うふふっ、 押し倒されてしもうたときには? どぎゃんことになるんかなぁって、 ちょこっとおっかなかったけど」 「うん。わかっとぉよ。 緊急のときやったけん、あぎゃんしてもらわんと。 ゆき、とろけてとろけて…… 消えてしもうとったかもしれんけんね」 「そいやき、ね? 紳士なおにーさんとまた向き合って話せるよーに、 ゆき、そけーぶに冷えぴったん。 すぐに貼ってしまうけん」 「その……ね? ちょこっとだけ、ねぇ? こっちば見んと、待っとって」 ;SE フィルム剥がす 「こおして、ええと――」 「あ、おにーさーん。 今は絶対! 絶対こっちば、見んといてねぇ」 ;SE 衣擦れ 「ん……っと――そしたら、おまたのつけね―― ここんところに――ぺたっ――! あ――ふぁっ」 「ああっ……こいば――確かに、効くっ――と―― ふあぁ――あっ――ひんやり、ひえて―― ここち、よか――……ふぁ」 「あとは、脇、にも……ん――」 ;SE 衣擦れ 「ひゃうっ! あ――ひゃっこ――ん、んふぅっ、 こいば、こぎゃんと、効く――なんて――」 「はぁ――はぁ――はぁ――はぁ―― ふぁぁ……あっ!? やだ、こぎゃん恥ずかしか格好――はしたなかぁ」 ;12/右後遠 「あれ? おにーさん」 ;13/後遠 「んふふっ……振り返りかけとる気ばしたけど、ゆきの早とちりやったみたいね。ごめんねぇ。 ほんなら、もうちょこっとだけ待っとってねぇ。 いま、すぐに整えなおすけん――んしょっ――ん」 ;13/小声/独り言 「ゆきも一応女の子やけんねぇ。 手鏡でちゃあんと、 おかしなことないか確かめんといけんけん」 「ん……ん。 ……うんっ! んふふっ」 ;13通常 「おにーさん、おまたせ。ほんなら、ね? ゆきのおとなり、すわってくなっせ?」 ;15/左遠 「ん? なんねぇ? どぎゃんしてそぎゃん遠かところに座ると?」 「え? 『汗臭いかもって、気になって』って、 やぁ、おにいさんのいけず。 ゆきがとろけて出てきよるんは、水、真水やけんね。 汗臭くなんてぜーったいに――え?」 「そうじゃなくて? ――ああ……まっことねぇ。 いわれたら、おにいさん汗だく……(すんすん)――えっ!?」 :15/左遠(さらに離れる) 「なんでそぎゃんと離れるとー? おにいさん、汗臭いどころか……(すんすん)。 うん、むしろええ香りがしておるとよ?」 「ばってん、そぎゃん汗だくじゃ気持ちわるかろーし。 ゆきが慌てさせちゃって、おにーさんに汗ばかかせてしもーたのもあるし」 「そーだ! うん。えへへっ」 ;1/前 「ゆき、この体質やけんね? 乾いたてぬぐい、いっつもたーんと持ちあるいちょるけん」 「おにーさんの汗、このてぬぐいでふいたげるねー。 ゆきの手――ね?」 ;SE 肌を手のひらでなぜる 「こぎゃんひゃっこいけん。 手ぬぐいごしでも、おにーさんの肌ばひんやり冷やして。 きっと、汗ばおさえられるけん」 「ほんなら、ね? 遠慮は無しで、はずかしがらんで―― 上着、まくって?」 ;SE 衣擦れ 「あ……(すんっ)」 「う、ううん? なんでも、なんでもなかとよ? ゆき――ドキってなんて、してなかと」 「ほ、ほんなら。ええと――拭くとね? ん――<肌拭き>――うふふっ、ひゃっこかったん? きっとすぐに慣れるけん、ちょこっとがまん――ね?」 「もう一回、ね? ……ん――<肌拭き> んしょっ――<肌拭き>―― うふふ、おにいさん、慣れてきたと?――<肌拭き>―― 気持ちよさそう――」 「ほんなら、ね? 今度はばんざーいって、両手ばあげて? (呼吸音)――うん。そのまますこぃし、あげとってねぇ?」 ;2/右前 「……<肌拭き>――よい、しょ――<肌拭き>―― ……ん……(呼吸音)――きゃっ! もう、動いたらいけんよぉ?」 「脇の下やもんねぇ、くすぐったいのはわかるけど―― <肌拭き>――すぐ拭き終わるけん、 ちょっとだけ、がまんがまん。ね?」 「うん。ほんならちゃっちゃと済ませるけんね? ん――<肌拭き>――っしょ――<肌拭き>―― あー……(すんっ)――やっぱり、熱気こもっとーねぇ」 「ゆきが――ん――<肌拭き>――少しでも、涼しうしてあげられるとよかけど……<肌拭き>――ん……と。 うん! ほんなら、反対側ねぇ」 ;3/左前 「くすぐったくても、動いたらいけんよぉ? ん……<肌拭き>――っしょ――<肌拭き>」 「あー、不思議……<肌拭き>――え? ああ…… こっちの方が――ん――<肌拭き>―― 熱気、すこぉし少なかよーな気ばして」 「あー……なぁるほど。ん――<肌拭き>―― 『利き腕の関係かも』ねぇ――<肌拭き>―― うふふっ、そぎゃんんこともあるかもしれんね? ――<肌拭き>――うん、おしまい!」 ;1/前 「ふぁ――あ〜……(呼吸音)」 「え? あ――うん。 拭いとーときは、夢中になって……少しも気づかんかったけど――(呼吸音)――」 「こん待合所の中も……だんだん―― 温度、上がってきてるかもしれん――けん」 「ゆき……すこぉしだけ、息苦しい――ひゃっ!?」 ;SE 携帯プッシュ音 ;SE 電話コール音 「お、おにいさん。急に電話なんてかけて―― どぎゃんしたと? ――あ、『し〜っ』って?」 「ん。わかったと。 し〜〜〜っ」 ;環境音off ;SE 電話出る音 ;//////// ;Track2 ゆきとクールドライブ(乾布摩擦) ;//////// ;SE 車のエンジン音(ドライブ中)+クーラー全開 ;7/左 「あ〜〜すずしか〜、いきかえる〜〜」 「クーラーって、自動車ってすごかとねー。 ありがとぉねぇ、おにいさん。 ゆき、まっこと助かったと」 ;7/左 車窓みてる感じで首をふりつつ 「涼しかうえに、びっくりするほど速ぉに走って―― うふふっ、景色ばびゅんびゅん、飛ぶように流れていきよるねぇ―― はぁあ――おもしろかねぇ、すごかとねぇ」 ;7/左 通常 「いまどきの人間は、こぎゃんと便利な宝物、簡単に借りたりできよるんねぇ。 すごかと――ぎゃんすごかとねぇ。 夏の暑さも冬の寒さも、こいばあったら、ちょっとも怖いことなかろーねぇ」 「……(ため息)―― そりゃ、ゆきみたいな雪御嬢(ゆきごじょう)も―― ん? あ……あああっ!」 「いけんいけん。 ゆき、ばたばたしとって、自己紹介もしとらんかったねぇ」 「ええと――ほんなら。 いまさらばってん、あらためて」 「んと……ゆきば、熊本の、湯前(ゆのまえ)って土地にある山に棲もーとった、 雪御嬢(ゆきごじょう)なんよ」 「雪御嬢ってゆーて――あー…… おにーさんも、やっぱり知らんと? ほんなら、ええと…… そこから説明、じゅんじゅんにしていくけんね」 「ゆきごじょうっていうのは、漢字だと、 雪やこんこんの雪に、御免下さいの御に、 お嬢さんの嬢って書いて、雪御嬢いう、あやかし」 「ゆーか……ふふっ、 おにいさん、見かけによらず肝っ玉すわっとるねぇ」 「こぎゃんと近くに雪御嬢―― 氷と雪を司る、怖ぁい怖ぁいあやかしばすわっとるゆーんに……へ?」 「ふんふん―― 『さっきまでの話と、タオルごしの指よ、かかる吐息の冷たさで、なんとなく』―― あー、そぎゃん雰囲気……ゆきが、普通の人間じゃあないって、感じとったと?」 「……あー。ほんなら――うん。 ほんなら、余計にありがとおねぇ。 ゆきがあやかしってわかっちょって。 その上で、見捨てもせんで、助けてくれて―― まっこと、まっことありがとお」 「え? あ――うん。 よねぇ、感じとっても、信じられんよねぇ。 こぎゃん、車みたいなすごかものを簡単に動かせる世の中に、あやかしば人間にまぎれてくらしとる――なぁんて」 「ばってん、こいば、まっことよ? そん証拠に――んっ!」 ;SE 氷雪系魔法Ef的なの 「雪華(せっか)。雪の華。綺麗でしょお? こいば咲かせるの、ゆき、なかなか上手なんよぉ―― って、もう、おにいさん。 どぎゃんしてゆきの指先ばみてくれんのぉ?」 「え? あ! そぎゃんとね。 こぎゃん速く走っとる車ば、おにーさんが操っとるんやもんね。 脇見ばしたら、危なかとねぇ」 「危ないもんは、片さんとねぇ。 えいっ」 ;SE パリン、ガラス砕ける系 「――はぁい、綺麗に砕けたと――って? どぎゃんしたと、おにーさん。 急に、頭ばもぞもぞ――あ」 「わかったとー。雪華ばみれんかったの、残念やったとね? ほんならね? ゆき、おにいさんの目線の先に、車の外に、ほんのちょこっとだけ雪ばふらせて――ひゃっ!?」 「『スリップするから絶対だめ!』……って、 ええと――どぎゃん意味? ――あ……ああ――なるほどなぁ。 車も人とおんなじように、雪の上では、足ば滑らせてしまうとねぇ」 「ほんなら、車ば止まるまで、ゆき――えへへっ、 おとなしゅうおにいさんの横顔、みとるなぁ? じ〜〜〜っ」 「じ〜〜〜〜〜〜っ――って、あ」 「あんな? おにいさん。聞いてもよかと? よか? えへへ、ほんならちょこっと、訪ねるけどなぁ?」 ;7/首だけダミーヘッドの目線方向に向けて 「こん車。いったどこを目指しとーと?」 ;環境音 Fo ;SE 車のドア開く→閉まる ;SE 足音 ;6 /左後 「ふあぁ……あ――」 ;環境音。洞窟内、F.I, ;以降反響エフェクトかける? 「ひんやりしちょるねぇ。 ああ……ゆきがもともとくらしておった、 市房山(いちふさやま)の山ん中と―― ああ……これなら少しも変わらんねぇ――あ!」 :SE 小走り足音 6/左前→10/右前遠 ;10/右前遠 「ここ――人間のお部屋みたいになっとおねぇ。 床板とたたみばしいてあって…… お布団に、タンスに――」 <引き出し開け>――わ、服やら手ぬぐいやらもはいっとー」 ;11/右 「あ! こっちの奥ば、お台所もあると――お風呂も! はぁ〜、こんなら、お客様だって―― えへへ、お迎えできるとねぇ ;1/前 「……ね? おにいさん、 茂伸の山奥に、こぎゃん素敵な洞窟ばあるなんて―― どぎゃんしてしっとったと?」 「え? 『教えてもらった』――って、誰に? うん……うん―― れんたかあば借りるついでに、役場によって――あ!」 「ゆき、ものべののカミさまからのお手紙でそぎゃん言われとったねぇ。 『ついたら役場に顔をだすっス』って」 「……ゆきがぽかぁんと忘れてしもとったこと。 おにいさん、ちゃあんと覚えて―― えへへ、ゆきのこと、また助けてくれたんねぇ」 「ありがとぉ。 まっこと、ありがと。 うち、おにいさんのおかげで、こころも体も、もう元気ば百倍に――あれ?」 「おにーさんの顔色…… あったときより、ずいぶんと青ざめて――って、あ!」 「ゆきのために、車ん中、ぎゃん冷やしとってくれたけん―― そこからすぐに、こぎゃんひんやりした洞窟にゆきを案内してくれたけん」 「……ああ、おにいさん。 寒いの我慢しとってくれたんねぇ。 ゆき、気づかんでごめんねぇ――え?」 「『慣れないレンタカーで、初めての山道を運転したから、その緊張もあって』……ああ――おにーさん…… からだも心も、ゆきのために、よーさん使ってくれたんねぇ―― まっこと、ありがとお」 「ほんなら、ね? ゆき。手ぬぐいでおにいさんのことくるんで、包んで―― ほんで上からゴシゴシこすってあげるけん」 「そぎゃんしたら、おにいさんのこころも体ももあったまって、きっとほぐれるってゆき思うばってん―― どぎゃんと?」 「あ――えへへっ。 ほんなら――ん――」 ;2/右前 接近囁き 「おにいさんのこと――<タオルがさがさ>―― こぎゃんして――くるーって、つつんで―― うん!」 ;1/前 「ほんなら、まずはこするけんねぇ。 <タオル擦>――んっ―― <タオル擦>……ん―― <タオル擦>……(呼吸音)」 「ん――<タオル擦>―― どぎゃんと? おにいさん――<タオル擦> タオル、二重にしてあるけん――<タオル擦> ゆきのひんやりば伝わらないで――あ!」 「えへへっ――あったまってるならよかったとー。 ほんなら、もーっとすりすりするけん―― ん、っしょっと」 ;2/右前 「ごしごし――<タオル擦>――ごしごし――<タオル擦>―― ん……(呼吸音)――ああ……こん手拭い、まっこと肌触りのよかとねぇ――<タオル擦>」 「ん……<タオル擦>――住処も、こぎゃん細かかもんも――<タオル擦>――ひとそろい、はじめから用意してくれとったとは――<タオル擦>―― まっこと、まっことありがたかとねぇ――<タオル擦>――んっ」 ;8/左前 「ものべののカミさまば――<タオル擦>――犬神ちゃんと、ウチのこと――<タオル擦>――ただ、なんとなしに呼んだんじゃなく……<タオル擦>―― ちゃあんと調べて、よかようにって――<タオル擦>―― えへへっ、お迎え、してくれたんやねぇ――え?」 ;1/前 「そらぁものべのに――<タオル擦>――あやかしたちの――<タオル擦>―― よーさんよーさん、んっ――<タオル擦>―― 集まってくるとも――<タオル擦>――無理のなかとねぇ――え?」 「……『この町にあやかしが集まってきてるの?』って……<タオル擦>―― そぎゃん聞くとは、おにいさん――<タオル擦>―― んっ……ものべののこと――<タオル擦>―― なんも、なーんもしらんと来たと?」 「……(呼吸音)ふん……ふん……あぁ――<タオル擦>――そぎゃん理由で――<タオル擦> 行き先がものべのとも知らんで、駅からバスに――<タオル擦> ―― ――ほんなら、びっくりしたとでしょお」 「車でとおりすぎた町んなかにも――<タオル擦>―― ん? どぎゃんしたと、おにいさん。 なんだか、さっきから急にそわそわ――え?」 「『耳の中に水がはいってるみたい』?…… ありゃ、そら大変やねぇ―― ばってん、おにいさんとゆき、さっきからずーっと一緒 ……(呼吸音)……一緒――(呼吸音)――ああ!」 「それ、ゆきのせいやねぇ。 ごめんねぇ――車ん中で、雪華―― 雪の華、なーんも考えんでパキって砕いてしもうたけん」 「あん時カケラばおにいさんのお耳にはいって―― うん、そう。ずーっと冷やしとったけん、 溶けんでそのままのことって――」 「ばってん、いまこぎゃん風に――<タオル擦>―― ん、こすって、こすって―― おにいさんのお顔も赤ぉなるくらい、体温ばもどってきたけん―― お耳の中で、きっととろけてしもおたんね――あ!」 「そおだ。よかこと考えた―― あんね? おにいさん。ちょこっとまってね?」 ;SE 足音 1/前→10/右前遠 ;10 「ん……ここらの引き出し――<引き出し開>――ん……<引き出し開>――<引き出し開>――なかとねぇ。 あ、ひょっとしたら洗面台の方?」 ;SE 足音 10/右前遠→11/右遠 ;11 「あ、あったあった。えへへ――」 ;SE 足音 11/右前遠→1/前 ;1 「にぃさん、おまたせ。ほんならね? ゆき――」 ;8/左前 接近囁き 「お耳のお水吸い取るついでに―― ふふっ、おにいさんのお耳掃除ば、したげるけんね?」 ;環境音F.O ;//////// ;Track3 ゆきの耳掃除(左耳) ;//////// ;環境音 洞窟内 ;洞窟内の畳の上、ひざの上にタオルをしいての膝枕   ;7/左 接近囁き 「(ふ〜〜っ)」   ;7/左 通常 「こっちのお耳に、水ばはいっとー感じ、まだしよっと? ……(呼吸音)――ん。 ほんなら、まずは綿棒つこぉて、お水吸い取らんといけんねぇ」 「ゆきのあんよに頭ばまかせて――らくぅにらくに。 力まんよーに、うごかんよーに……うふふ、いいこにしててな?」 「ほんなら――ん……<綿棒>――ん……<綿棒>―― (呼吸音)――どぎゃんと、おにいさん。 お水に綿棒、あたっとるような感じばしよる?」 「あ……(呼吸音)――わからんと? ほんならきっと、あたってないとねぇ。 したら……ん。綿棒、すこぉしづつ動かしてみるとね?」 「ん……<綿棒>―― んっ――<綿棒>―― この辺は? ――<綿棒>―― ほんなら、こっちとか――<綿棒+水音>――えっ?」 「あ、お水に綿棒あたっとー? ふふふっ、やったとねぇ。 ほんなら、このまま――静かに静かに、動かさんよーに、動かんよーに」 「(呼吸音)――(呼吸音)――(呼吸音)」 ;7/左 接近囁き 「もうよかとかなぁ? ……よさそ? うん」 ;7/左 通常 「ほんなら、よ――っと――<綿棒抜> どぎゃんと? おにいさん。 あ――すっきりしたと? ほんならよかったぁ。 え? まだ少ぉしだけ違和感ばあると?」 「そしたら……そしたら! 耳かきばして、最後の仕上げに、ちりがみでごしごしって、するんでどぎゃん?」 「ん。わかった。 ほんなら、ね? 今度は竹の耳かきで――ふふっ」 「まずは、浅かところから〜<耳かき音>―― こりこりって――<耳かき音>―― かりかりって――<耳かき音>―― どぉお、おにいさん? きもちよかでしょー」 「んふふっ、ほんなら続けるねぇ? よっ……<耳かき音>―― ん――<耳かき音>―― え? あ――<耳かき音>――さっきの話の? ん〜……<耳かき音>――」 「さっきの話――ああ――<耳かき音> どぎゃんしてものべのに、あやかしのたくさんあつまるか――<耳かき音>―― ん……そん話ば、ゆきも、くわしゅうしっとるわけじゃなかとよ? ばってん――<耳かき音>」 「それでもよかとやったら――<耳かき音>―― ゆきの知っとることなら、なんでも――<耳かき音>―― あ、うん。ほんなら、な? じゅんじゅんに話してみるとね?」 「ええと……<耳かき音>―― 土佐の高知の、こん茂伸は――<耳かき音>―― むかしむかしから、あやかしたちの暮らせる里として――<耳かき音>―― あやかしたちの間では、つとに有名だったとよ」 「ひめみやいう凄まじか法力をもった人間と――<耳かき音>――、 ななつらおいう大妖(たいよう)―― カミさまにも近いような力をもつおおあやかしとが――<耳かき音>―― ひととあやかしが重なり合わんよーに、隣どおしに例えおっても、触れ合うことばないよーに――<耳かき音>――」 「約束ばして、仕組みばつくって……<耳かき音> そぎゃんして、人とあやかしを―― 一つのむらに、ずーっと共存させてきたって」 「……ばってん、そん約束やら仕組みやらの、釣り合いばとるのがまっことむつかしかったいう話で――<耳かき音>―― やけん、外から入ってくるモンを、人でもあやかしでもぜぇんぶ拒むんでた――<耳かき音>―― そぎゃん土地が、むかしの茂伸いう話。――<耳かき音>――で――」 「え? ――(呼吸音)――ああ、うん。そぎゃんねぇ。 おにーさんのいうとおり、昔の茂伸と、今の茂伸では、ガラってちごうておるとね」 「おにいさんみたいな人間の旅人も普通に入れるよーになっとるし――<耳かき音>―― それにさっき、車で走った町中に――<耳かき音>―― 人間たちがくらしをくらすその中にも――ん――<耳かき音>――たくさん、あやかしおったとでしょお」 「ああ……おにいさんは脇見できんもんね――<耳かき音>―― 気づかんかったかもしれんけど――<耳かき音>―― あ! 道ばわたるの、おにーさん待っとってあげたでしょうお――<耳かき音>―― 赤と白の髪の毛ばしたおかあさんと、赤と黒の髪の毛ばした、おじょうーちゃんとを――<耳かき音>――」 「うん。そ。 あのこらは、あやかし――<耳かき音>―― 確か、あかしゃぐまやらいう家守(やもり)妖怪――<耳かき音>――」 「あのこがおる家は栄えるいう――<耳かき音> 縁起のよろしいあやかし……わっ!?」 「なんねぇおにいさん。耳かきとちゅうにゆきのことびっくりさせよったら…… お兄さんのお耳が危なかとよぉ――え?」 「ああ――うん――<耳かき音>―― 『こすぷれ』?いう言葉の意味はゆきにはよーわからんばってん――<耳かき音>―― 二本しっぽをごきげんよーふって歩いとったおねえさん。 あのこも、『こすぷれ』? とちごうて、あやかし――<耳かき音>――。 正真正銘の、猫又さんやねぇ――<耳かき音>――」 「そぎゃん風にね? 今の茂伸は――<耳かき音>―― 『人とあやかしとが、隣り合って暮らせる村』――になっとーと――<耳かき音>――」 「ん……<耳かき音>――。 今の日本ではほとんどなくなってしまった――<耳かき音>―― “端境(はざかい)”のひとつで……(呼吸音)」 「今の日本では、他に一箇所ものーなってしもーた。 『閉じず、ひらかれている、端境』 「やけん……<耳かき音>―― ゆきみたいに、もともとの土地――<耳かき音>―― ふるさとではもう暮らせんよーになったあやかしが――<耳かき音>――、 ぽつり、ぽつりと越してくる村になっとーと――っと」 「ん〜……こっちのお耳ば、だいぶんきれいになったかなぁ? ちょこっとごめんね? おにーさん」 ;7/左 接近囁き 「(ふーーーーーーーっ)。 ん〜――うん! きれいきれい」 ;7/左 通常 「ほんなら、しあげに、えいっ―― <ちりがみでがさごそ>―― うふふっ、どぎゃんと? ちりがみ攻撃」 「あはっ――すっきりしたなら、ゆきもうれしか。 ほんなら、ね? 今度は反対、右のお耳ば―― うふふっ、ゆきにお掃除させてくなっせ?」 ;「ごろーん」にあわせ、7/左→1/前→3/右 「ほんなら、ね? 体ば逆に。 はぁい、ごろーん」 ;環境音 F.O. ;//////// ;Track4 ゆきの耳掃除(右耳) ;//////// ;環境音(洞窟内) F.I. ;3/右 接近囁き 「(ふーーーーーーっ)」 ;3/右 通常 「うふふっ、どぉれどれ? こっちのお耳ば〜――あ」 「……いきなりおおっきいの見つけちゃったと。 まずはそいば、とっちゃってから…… ん――<耳かき音>――」 「よっ――<耳かき音>―― んっ――<耳かき音>―― よし……っと、寄せて――<耳かき音>――ん――(呼吸音)――」 「よいしょっ――<耳かき音>――えへへっ―― はぁい、取れましたぁ」 「あとは……ん――<耳かき音>―― 丁寧に――<耳かき音>―― 丁寧に――<耳かき音>―― え? あ……うん――(呼吸音)」 「茂伸に何ばあったかは、ゆきはしらんと。 ばってん――<耳かき音>―― 閉ざされた端境から、ひらかれた端境に、 ある日、突然がらっと変わって――<耳かき音>――」 「その上――ん……<耳かき音>―― ほどなく、土地神様が御自ら――<耳かき音>―― ゆきみたいな、よそでいきづまっとったあやかしば――<耳かき音>――ものべのに、お招きくださるよーになって――<耳かき音>」 「え? あ……うん。 土地神様ば、土地の神様、氏神様。 そん土地に根付き、そん土地を守り、 そん土地を栄えさせ、そん土地にくらす人間の笑顔を実らせるんが、努めで、喜びいう――そぎゃん神様」 「やけん、ん――<耳かき音>―― ふつうやったら、あやかしをよそから招くみたいな――<耳かき音>―― 土地の人間をおどかしよる可能性があるよーなことは――<耳かき音>―― まちがってもせんよーな気がするとよ。 ばってん――<耳かき音>――」 「こん土地の、ものべのの土地神様は……<耳かき音>―― 球磨の山奥で暮らしとった――<耳かき音>―― 今はもう、犬神ちゃんくらいしか話す相手のおらんよーになってしもとったゆきにさえ――<耳かき音>―― 噂ば届く、それほどに――<耳かき音>――え?」 「……(呼吸音)――あ、そぎゃんと。 "今はもう"――ね。 ばってん、昔は――昔はね? ゆきも、こうみえて結構名高い雪御嬢だったんよ?」 「おにーさんは、ん――<耳かき音>―― 市房山(いちふさやま)ば、しっとーと?――<耳かき音>―― 市房山ば、九州熊本、人吉・球磨で、いっとう高くて―― 綺麗なお山――<耳かき音>――」 「麓ばたどれば、温泉と、おいしかお米と焼酎と――<耳かき音>―― あとはーーああそう! 子守唄――<耳かき音>―― 市房山からはすこぉし離れとるばってん――<耳かき音>―― 五木村(いつきむら)の、五木の子守唄ば有名よねー」 「え? 『どんな歌だっけ』って……<耳かき音>―― んん……ゆき、あんまり歌ば上手じゃなかけど」 「ほんでも、おにーさんが聞きたいいうなら、歌うとね? ……へたっぴぃでも、笑ろーたらいけんよ?」 ;囁くように歌唱 (参 https://youtu.be/UxFIaFhCiEE ;作詞著作権なし(民謡) 作曲著作権ぎれ確認済み 「♪おどま盆ぎり盆ぎり 盆から先きゃおらんと  盆が早よ来るりゃ 早よもどる」 「…………ふうっ――あ」 「んふふ……拍手ば、ありがとおねぇ。 気にいってもらえたんならうれしかと。 ありがとぉねぇ、おにーさん」 「ん? うん。もちろん――<耳かき音>―― ふるさとやけんね。好いとーよ。大好き――<耳かき音>―― やけんほんとは――出て行きたくなんて、なかったと」 「ばってん、仕方なかとよね――<耳かき音>―― 『雪ば司るあやかしが九州にいるのはおかしか』なぁんて――<耳かき音>―― 人間が……(呼吸音)――思うようになって、しもうたら」 「あやかしば、人間の想いの結晶やけん――<耳かき音>―― 願いであっても、畏れであっても、欲であっても、不安であっても――<耳かき音>―― 集う思いが大きければ大きいほど、あやかしの力もまた、大きゅうなる――<耳かき音>――」 「やけんね? ほんの200年くらい前までは――<耳かき音>―― ゆきも、こぎゃんちんまか体じゃなかったとよ――<耳かき音>――」 「背たけばもっと高ぅて、胸もあって――<耳かき音>―― ……ゆきの姿を一目みたくて、凍え死んでもかまわん覚悟で――<耳かき音>―― 里からえっちら市房山へと登ってくるもんも――<耳かき音>―― 何人も何人もおったくらいやったけん――<耳かき音>――」 「……ばってん――<耳かき音>―― 今ではまるきり畏れられんよーになってしもうて――<耳かき音>―― 身体もこぎゃんととろけて縮んで――<耳かき音>―― はぁっ……我ながらなさけなかとよ〜」 「おにいさんにも、ごめんねぇ――<耳かき音>―― 全盛期のゆきだったら、もっとふっくら――<耳かき音>――気持ぉちよかひざまくら、してあげられたんだけどねぇ――<耳かき音>――」 「え? 『今でも十分気持ちいい』――あ。 あははー、おにいさん、お上手やねぇ、 ほんなら――ん――<耳かき音>―― うん。まずはお耳ば――<耳かき音>―― 綺麗に、しあげて」 ;3/右 接近囁き 「(ふーーーーーーーーーーーっ)」 ;3/右 通常 「ちりがみも――<手で揉む>――すこぉしもみこんで、やわらこおして――ん…… <ちり紙でみみごしごし>―― うん!」 ;3/右 接近囁き 「(ふーーーーーっ)」 ;3/右 通常 「うふふっ、綺麗に取っとっと! ほんでね? もひとつおまけに―― えと……おにいさん。 ちょこっとの間だけ――お首、たててくなっせ?」 ;5/後 「ん。そぎゃん感じで。 そーしたら――ん……」 ;SE 氷雪系魔法的な 「……こん氷の櫛で、髪と頭皮ばなぜたげるけん。 ひんやりしてきもちよかーって、 犬神ちゃんにも、大評判なんよ?」 「ほんならね? 力ばぬいて―― ん――<櫛けずる> (呼吸音)……<櫛けずる> (呼吸音)……<櫛けずる> ん……<櫛けずる> 「え? 『よくやってあげてるの?』って――<櫛けずる>―― たまによ、たまぁに――<櫛けずる>―― 一年に一度あるかなしか――<櫛けずる>―― 犬神ちゃん、あぎゃんとかわゆか顔しとるのに――<櫛けずる>―― みだしなみのことば、ぜぇんぜん気にせんたちやけんねぇ――<櫛けずる>――」 「……『それにしては慣れた手付き』って?――<耳かき音>―― んふふっ――そいばね? おにいさん――<耳かき音>―― 犬神ちゃんと知り合うまえ――今から百年よりもっとまえ――<耳かき音>―― ゆきには――よか先生ば――<櫛けずる>――あ」 「ごめんねぇ。うっかり。 おにいさんを、またゆきってば、冷やしてしもーて。 せっかくさっきあっためたとに――あ」 「……おにいさん。――お外、もうきっと暗ぉなっとるし――今日はこのまま、こん洞窟ば――あんお布団に―― 泊まっていかん、と?」 「洞窟の中ば、昼でも夜でも温度ほとんどかわらんけん――あんお布団にくるまっとったら、おにいさんもぬくぬくねむれるろーし……」 「ゆきも……(呼吸音)――そんおとなりで、ふとんばかけんで横になったら……(呼吸音)―― おにいさんのとなりでも――きっと、すずしぅねむれるかなーって――え!」 「あ――あははっ――うれしか。うれしかとー。 おにいさん、お泊りしてくれるとねー。 こん新しいゆきのおうちの、一番はじめのお客様に、なってくれるとねー」 ;3/右 接近囁き 「ほんならね? おにさん」 「ゆきの話の続きば―― むかしむかしのゆきの話ば―― お布団の中で、ぬくぬく――ね?」 ;環境音 F.O. ;//////// ;Track5 ゆきの添い寝(安眠導入) ;///////// ;環境音(洞窟内)F.I. ;1/前  「あ――」 「一緒に寝ると……はううっ――おかお、近かとねぇ。 近くて……近くて……ううっ―― ゆき、こぎゃんすずしかとこなのに、かけぶとんもかけとらんのに――((呼吸音))」 「あぅ〜……ん……おかお、あつぅて―― なんだかあつぅて――とろけそお――え?」 「あ! そぎゃんとね。 おたがい、上ば、天井みれば、ちかくにおっても、 お顔とお顔は、ちかづかんもんねぇ」 「おにいさん、頭よかとねー。 ほんなら、ね? いちにいさんで一緒に、 ふたりして天井むこぉね?」 「ほんなら、いくとよー。 いち、にぃ、さん、えいっ!?」 ;SE 寝返り ;7/左 「(呼吸音・荒――)((呼吸音・やや荒――)(呼吸音――正常)」 「あ……不思議。お顔のあついの、冷めてきたとよ。 おとなりに、こぎゃんと近くにおにいさんがいるのは変わらんばってん―― お顔とお顔が、目ぇと目が、向き合うとらん、それだけで――」 「え? 『イケメンでもないのに大げさ』って…… んん……っと……いけめんって、どぎゃんもんのことと?」 「ふんふん……(呼吸音)――目鼻立ちが整ってること―― うーん? ゆきには、人間の“整ってる”の基準ば、 よーわからんけど――」 「ゆきから見たら……うん。 おにーさん、そん、いけめん? かと思うとよ」 「だって……ね――(呼吸音)―― ゆき、まぶたば閉じても――うん。 はっきり、その裏に描けると」 「おにーさんの目の――瞳の、ひかり」 「おにーさん、そん目の、いちばぁん深いところに、 とっても綺麗な結晶ば、そおっと隠しておるとでしょお」 「……雪の、氷の結晶よりも―― もっと透き通っているほどの、思いの結晶。願いの結晶」 「ん……(呼吸音)―― そん願いがどぎゃんもんか、ゆきにはまだ、そこまでは見えんばってん」 「ほんでも、わかると。 おにいさんが抱えとる思いは、願いは。 とっても大事で、誰にも汚せんもんって、わかるとよ」 「やけん、ね? やっぱりおにいさんは“いけめん”―― って――あれ? あれ? あれ? あれれえぇ」 「ゆき、どぎゃんしたとかねぇ。 おかしぅなってしもうたのかねぇ? 瞳ばとじて、お兄さんのこと思い出してるだけなのに――」 「お顔とお顔、目ぇと目と。少しも、向き合わせたりしておらんとに――」 「……お顔が熱ぅて―― ううん? あれ? お顔だけじゃなく……体全部も――こころまで、ぽかぽかしてきて、ぽーっとしてきて……(呼吸音)――」 「え?――あ! うん。 そぎゃんとしたら、落ち着けそお。 うん。とーってもよかかんがえやねぇ」 「ほんなら、ね? ゆき、おめめだけでなく、 すこぉしおくちも、閉じてみるねぇ――ん……」 「(呼吸音)×4」 「(呼吸音)×4」 「(呼吸音)×4」 「(呼吸音)………ん――。 うふふ。あんねぇ? おにいさん。 お口ずうっととじとると、いろんな音が聞こえるねぇ」 「とくん、とくんって――こいば、人間の音よねぇ。 人間の胸の、心臓のおと」 「こん音やったら、しっとるけん。 むかし、むかしね? おおむかし」 「人吉、球磨に、長ぉ長ぉ、 雪の降り続いてしもうたことば、あってね?」 「そいば、天のカミさんのはからいやけん。 ゆきみないなただのあやかしには、 やませるなんて、とてもできんことやったばってん――」 「人間たちは、よっぽど困ってしもうたんやろうねぇ。 そんなん頼んどらんのにねぇ? 『生贄』ゆーて、女の子をよこしたんよ」 「いてもろうても仕方なかよね、生贄なんて。 雪の山なかずっとおったら、 そのこ、本当に凍えてしまうし」 「やけん、来たとこに返そうて思うたら、 『帰ったら、逃げたと思って殺される』なぁんて、 えらいぶっそうなこと言いよるんよ」 「仕方なかけん、ちょっとは昔っから付き合いある村。 山のこっちの、球磨のむらまで、 ゆきね? そのこをつれてってあげたと」 「『大事に育ててあげてくなっせ』って。おねがいしたと。 そうしたらねぇ。次の日。 雪ば、うそみたいにぴったりやんで」 「まっこと偶然だっただけの―― ううん。ひょっとしたらそいも、天の神様か…… 人吉球磨の土地神さまの、はからいだったのかもしれんねぇ」 「ともかくなぁ? 形としては、その子が大手柄をたてたことになったとよ。 『生贄に送った娘が、雪御嬢様に気に入られて、雪がやむように頼んでくれた』――って」 「で、そのこ――ゆきとおんなじお名前ばした、雪ちゃんが――わりとちょこちょこ――ゆきのところに、お使いにきてくれるようになったんよ」 「んふふっ……氷の櫛で、髪ば溶かしてあげたのも―― 雪ちゃんにしてあげたとが、一番はじまり。 やけんね? うふふっ―― さっきおにいさんが気持ちいいっていうてくれたんは―― 雪ちゃんせんせの、おかげなんよ?」 「そぎゃんして、夏ば来て冬ば来て、夏ば来て冬ば来て――なんどめかなぁ、ひょっこり訪ねてきたゆきちゃんば、いままでと全然、ちごぉてたんよ」 「おなか、ぽんぽこりんに大きゅうしてね? 綺麗におめかしばして―― 頭ばさげて、りっぱにご挨拶しよるんよ」 「『あのとき、雪御嬢様に助けていただいたおかげで、 幸せを授かることができました』って……え?」 「――うん。そぎゃんと。 ぽんぽこりんのおなかの中には、赤ちゃんばいたと。 雪ちゃんね? ゆきに……(呼吸音)…… よかったらおなかに耳ばあてて、聞いてほしかとっ―― うふふっ、おねがいしてくれて」 「なんば聞こえるのかなぁって思うたら。 とくん、とくんって――人間の音。 あったかな音。とくん、とくんって、何度も何度も」 「あんまりあったかすぎるけん。 ……ゆきは、雪御嬢やけん……(呼吸音)…… ――お耳ば、すぐに離したと」 「おなか冷やしたらいけんって…… ゆき、ものすごぉそう思ったけん…… ずうっと聞きたか音だったばってん――」 「ううん、ずうっと聞きたか音だったけん。 ゆき――お耳ばすぐに、離したとよ」 「やけん、ね? うふふ、いまね? しあわせ。 ここちよか音。おにいさんの音。 おにいさんの体の奥からの、とくん、とくんってあったかな音」 「ずうっと聞いていたかった音―― こうして、一晩だけでも聞かせてもらえて……え?」 「『聞きたいなら、一晩だけじゃなくても』――って……えっ?」 「あ……(呼吸音)――あ――う、ん。 もしも叶うことなら……うん。 ゆき、もっと――もっとおにいさんと一緒にいたかと。 あ――けど……」 「けど……ね? おにいさん。 おにいさん、こぎゃん洞窟の中で―― 何日も、何月も、何年も――長くはきっと、くらせんでしょお」 「人間には、おひさまが――あのあっついのが―― どうしても必要だって……ゆきにも、そんくらいはわかるけん――え?」 「『なら、おひさまの下で、一緒に暮らせる方法を考えればいい』……って――あ――え……え、と――はうっ」 「あの……おにいさんも、おもぉてくれると? ゆきと――もっと――ずっと一緒にいたい、って――」 「……(呼吸音)――あ――あ――うれしか―― えへへっ――ゆき、うれしかと。 うれしぅてうれしぅて――いまにもとろけてしまいそぉ」 「ばってん――とろけたら、一緒にいれんよーになっちゃうけんね。 やけん、ね? 一緒に考えよ? おにいさんとゆきが、ずっといっしょにくらせるよーな。 そん仕組み……あ」 「あの、ね? おにいさん。 車の中ばきんきんに冷やしてくれとった―― ああそう、クーラー……あれば、例えば、おうちのお部屋でも――あ――使えると? 使えるんなら、よかとねぇ」 「ほんなら……そこらへんをうまいことできたら――あ――ふあ――ァ――」 「あ……うふふっ。おにいさんもあくび。 ゆきのあくびば、うつしてしもぉたねぇ」 「……うん――うん。……(呼吸音)……よねぇ…… 今日はふたりで、こころもからだも――うふふ―― ずーっと一緒に、たくさんたくさん、うごかしたもんねぇ」 「それに……明日も――おにいさんと一緒にいれるんやったら――今夜無理して――ねむいあたまで――ふぁ――考えんでも……よかよとよ……ねぇ――え?」 「ん。もちろん。 うふふ――子守唄。 まさかゆきが、となりで眠るだれかのために―― おにいさんのために―― 歌える日が来るなんて、ゆめにも思うてなかたと――」 「ほんなら、ね?」 ;環境音F.O. ;静かに歌唱 「♪おどま盆ぎり盆ぎり 盆から先きゃおらんと  盆が早よ来るりゃ 早よもどる」 「♪おどまかんじん かんじん あん人達ゃ よか衆(しゅう) よかしゃよか帯(おび) よか着物(きもん)」 「♪おどんが打死(うっちん)だちゅて 誰(だい)が泣(にゃ)てくりゅきゃ 裏の松山 蝉(せみ)が鳴く――あ――」 ;以下、ずっと囁き 「……(呼吸音)――おにいさん、寝てしもーたと? (呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)―― んふふっ。ゆきの子守唄で、ねむってくれて―― ありがとぉ」 「ほんなら、ゆきも―― うふふっ、おにいさんおやすみなさい」 「ばってん――あぁ――ゆき、ねむれるかなぁ。 うれしゅうて、どきどきってして、ぽかぽかして―― やっぱり、とろけてしまおそぉ」 「やけん、ね? ……おにいさん。 ゆきの、たいせつなおにいさん。 ゆきが、もしもとなりでとろけてしもおたら――」 「そんときには、ね? ゆきのこと、しずくもぜえんぶ……えへへっ―― うけとめてくれたら、うれしいなぁ――ぁ――(あくび)」 「ん……こんどこそ眠れそお。 おやすみ、おにいさん――またあした」 「(寝息X4)」 「(寝息X4)」 「(寝息X4)」 「(寝息X4)」 ;おしまい