貴方は、未来に大きな希望を抱いていた。冒険者となり、世界中を旅し、地位と名誉を築き――そして、女の子にモテるのだ、と。  野望は大きい方がいいと教えてくれたのは、父親だったか学校の先生だったか。あるいは顔も知らぬ本の著者だったかはもう覚えていないが、なにかを始めるきっかけというのは、大体そんなものだろう。特に異性にモテるためという動機は、年頃の少年にとっては大きいものだ。  吟遊詩人を目指す幼馴染に先を越されたのは悔しいが、旅先で再開したらパーティーに加えてやらないこともない――貴方はそんなふうに、未来は明るいものだと信じてやまなかった。  いざ冒険者になろうと思い立っても、勝手に冒険ができるわけじゃない。中にはそういう冒険者もいるらしいが、冒険者登録をしていない者はただの不審な放浪者として扱われてしまう。登録情報は大陸内のすべてのギルドで共有され、発行されるギルドカードを提示しないと公開されない情報も多い。登録さえしてしまえば、仕事のあっせんもパーティーメンバーの紹介もしてくれるのだから、登録しない手はない。  ギルドに足を踏み入れた貴方は、辺りを見渡し、受付カウンターを探す。夕方という時間も関係しているのだろうが、バーカウンターにはたくさんの冒険者が談笑しており、その中には貴方が憧れていた有名な女冒険者の姿もあった。  不自然にならないよう、できるだけスマートに女冒険者を視界の隅に捉え、勇気を奮い立たせる貴方。いつか彼女と一緒に冒険ができたら――夢は膨らむ一方だ。 「迷子かしら」  女冒険者に夢中になるあまり、前を向いていなかった貴方は、すぐ近くから冷たい声を掛けられ、大袈裟に肩を震わせる。そちらに視線を向けると、憧れの女冒険者とはまた違った美しさの女性が貴方を見下ろしていた。  ボディラインのはっきり出た黒のドレススーツに身を包み、大きく開いた胸元からは、インナーなのかそれとも下着なのか判別の付かない白のレースが覗いている。その姿に目を奪われた貴方は、無意識に喉を鳴らしてしまった。  高いヒールを履いているところを見ると冒険者ではないようだが、彼女は魔術師や踊り子の類なのだろうか。 「迷子なら、帰り道はあっちよ」  不躾にも上から下まで見惚れていると、彼女はもう一度「迷子」と口にする。あまりの美しさに忘れていたが、子供扱いされたことに気づき、貴方は一歩前に出る。 「へえ……冒険者登録に? 悪いけれど、お子様はお断りよ」  ギルド中に響き渡るような声でギルドに来た理由を宣言した貴方は、出鼻をくじかれた。それだけならまだしも、公衆の面前で恥をかかされてしまった。  いくら美人だからって、失礼にもほどがある。文句を言ってやろうともう一歩踏み出すと、彼女は受付カウンターの中に回った。 「このギルドの受付は私が担っているの。私がダメと言ったらダメなのよ。ここは子供の来るような場所じゃないわ。暗くなる前におうちへ帰りなさい」  子供、子供と連呼され、恥の上塗りをされ、貴方は全身が熱くなるのを感じた。握った拳を振り上げるのは簡単だが、言葉で攻撃してきているとはいえ相手は女性。物理攻撃ならまだしも、精神攻撃に対して暴力で反撃をしては男がすたる。  貴方は目を瞑り、深呼吸をした。溢れる怒りを落ち着かせ、もう一度宣言する。自分は冒険者登録のためにきたのだ、と。 「……ふぅん」  受付嬢は片眉を上げ、面白くなさそうに声を漏らしながら、一枚の用紙を取り出した。冒険者登録をするための申請書だ。 「そこまでいうのなら、まずはこれを書いてもらおうかしら。上に通すかどうかまでは約束できないけれど。」  差し出されたペンを貴方が受け取ると、受付嬢はカウンターに肘をついた。強調される胸の谷間に視線を奪われそうになったが、そんなことが受付嬢にバレれば、また鼻で笑われるに違いない。そう思った貴方は、折れそうなほどの力でペンを握り、書類に目を通すことにした。  名前、年齢、身長、と、当たり障りのない項目が並んでいる。特技や強み、弱みも、正直に書く必要があるだろう。自分を客観的に見るのは冒険者として大切なことである。慢心していては倒せるモンスターも倒せない。 「あらあら、冒険者登録にきておきながら、手持ちの武器も得意な魔法もないの? 一体どうやってモンスターを倒すつもりかしら。それとも、貴方がなりたいのはモンスターを倒す冒険者じゃなくて、モンスターにお金を配って歩くボランティア?」  記入途中の書類を盗み見た受付嬢が嘲笑うように声に出すと、近くにいた屈強そうな冒険者が酒を噴き出した。貴方はチラ、と視線を走らせ、憧れの女冒険者を探す――いた。どうやら女冒険者の耳には届いていなかったようで、胸を撫で下ろして書類に向き直る。 「剣? 弓矢? それとも銃? 貴方の武器は、なあに?」  馬鹿にしているのを隠しもせず、まるで子供のままごとに付き合ってやっているかのように受付嬢が言葉を繋げる。その度に集中力を持っていかれるが、貴方は必死で抑えた。冒険者には忍耐も必要なのだ。  茶々を入れられながらようやく書き終えると、受付嬢は隅から隅まで目を通す。あらさがしでもしているようだ。  しかし、貴方の予想に反し、受付嬢は「ふう」とやけに色っぽくため息を吐くと、垂れてきていた髪を耳にかけながらまっすぐに貴方を見つめた。 「いらっしゃい。試験場に案内してあげるわ」  書類選考は突破したようだ。あまりの嬉しさに貴方が声を上げるより早く、釘をさすように受付嬢が付け加える。 「私に一撃でも入れられたら……貴方が冒険者となることを認めてあげましょう」  にんまりと笑う受付嬢を見て、貴方の背筋に冷たい汗が伝うのを感じた。彼女のジョブが先の推測通りに踊り子ならば、すばやさはあれど攻撃力は低いはずだ。魔術師ならば、不得手ではあるが逆の属性の呪文で応対するしかない。  膝の震えは武者震いだと自分に言い聞かせながら、貴方は受付嬢のあとを追って奥のドアをくぐった。  試験場とは名ばかりの――まるで闘技場のような空間が広がっていた。ギルドで流行っている賭博というのは、おそらく冒険者同士を戦わせてのものだろう。  どれでも好きなものを使っていいと言われた武器を眺めて、貴方はため息を吐く。剣ならば多少は振り回せるが、弓矢も銃も使いこなせないのだ。  自分の体格でも扱えそうな細身の剣と、頑丈ながら軽い盾を選び、貴方は試験場に繰り出した。 「武器と防具はそれでいいのかしら?」  高らかに、嘲笑うように話す受付嬢は、武器はおろか防具もつけていなかった。体にぴったりと張り付くようなドレススーツでは動きにくいだろうに、着替えすらしていない。それどころか、不安定な高いヒールを履いたままだ。  ――勝てる。貴方は確信した。受付嬢が踊り子だとすれば、足を狙えば転倒させられる。魔術師だとしても、動きやすい服装の自分にこそ勝機はあると見た。  ギルドに足を踏み入れてからの、数々の非礼を詫びさせる時が来た。彼女を打ち倒し、跪かせ、「ごめんなさい」と言わせてやる。きちんと反省できたなら、自分のパーティーに入れてやらないこともない。態度こそは大きいが、受付嬢が美人であることに変わりはない。  まばゆい未来を想像し、貴方は剣の柄を強く握る。こんなにも鮮明に思い起こせるのだから、これは予知夢の類であると疑いもせずに。 「さあ、どこからでもどうぞ?」  余裕しゃくしゃくといった様子で、受付嬢が腕を広げた。どこまでも癇(かん)に障る態度だ。どちらが上なのか、しっかりわからせる必要がある。 「そうそう、言い忘れていたけれど」  いまにも駆け出そうとした時だ。受付嬢は顎に人差し指を添え、記憶を辿るような素振りで言葉を発した。そんなものはお構いなしで攻撃を仕掛けたかったが、相手はあくまで試験官。言葉に耳を傾けないわけにはいかない。ルール違反で失格などと言われては、たまったものではない。  もったいぶっているのか、焦らしているのか、なかなか言葉を繋げない受付嬢に苛立ちを覚え始める。心理戦かもしれないと気付いた時にはすでに遅く、すっかり受付嬢のペースにはまっていた。 「いまはギルドの受付をしているけれど、これでも昔は冒険者だったの」  それまでのクールな印象を覆すように片目を瞑り、茶目っ気を出してウィンクする受付嬢。しかし貴方は見惚れている余裕などなかった。  都会育ちの踊り子か魔術師ならばと思って立てていた戦術が、ぶち壊しになったのだ。元冒険者というからには実戦経験だって豊富に違いない。一見すると手ぶらの女性にしか見えないが、体のラインにぴったり沿った服のどこかに武器を隠し持っているのか。いや、攻撃系の魔法が得意な魔術師という線も捨てきれない。  視界が揺れていることに気付き、何事かと思えば貴方自身が震えていた。呼吸は浅く荒くなり、冷汗が止まらない。  ただでさえ態度の大きな受付嬢だ、容赦ない攻撃を仕掛けてくるに違いない――貴方は認めざるを得なかった。これが武者震いではなく、恐怖なのだと。  しかし、認めたところで状況は覆らない。受付嬢に一撃を入れて冒険者として認めさせるか、尻尾を巻いて逃げるか。答えは当然、受付嬢に一撃を入れて冒険者として認めさせる――だ。  貴方は覚悟を決めると、汗で滑る手で剣を握り直し、走り出した。自分自身を鼓舞するために大声をあげ、受付嬢へと向かう。涼し気な微笑みを崩してやるという一心で剣を振り下ろすも、数秒前まで受付嬢が立っていた場所には誰もおらず、渾身の一撃は空を切る。貴方は受付嬢を追って力のままに剣を振り回す。 「あらあら」 「ふふ」 「そんなものかしら」  貴方が剣を振るう度に、受付嬢が挑発してくる。ギルドに足を踏み入れた時から試験は始まっていたのだろう。志望者を苛立たせ、焦らせ、追い詰める。姑息な心理戦だ。  だが受付嬢のすばやさは本物だった。攻撃こそ仕掛けてこないものの、どんなに剣を振り回したところで掠りもしない。  貴方は焦り始めた。これこそが受付嬢の狙いだとわかっていながら、焦らずにはいられない。貴方の息はとうに上がっているのに対し、貴方以上の速さで動いている受付嬢は息ひとつ乱していないのだ。 「もうおしまい?」  受付嬢は心底がっかりしたように吐き出し、貴方に背を向けた。誘い込まれているとわかっていても、このチャンスを逃すわけにはいかない――貴方は剣を振り上げる。そして次の瞬間、天井が見えた。どうしてか硬い床に仰向けに倒れ込んでいる。 「口ほどにもないわね。少しは楽しませてくれると思ったのだけれど……とんだ期待外れ」  倒れた拍子に頭を打ったのか、脳が揺れてぐわんぐわんする。だが思考は正常だ。受付嬢は終わった気でいるが、まだ諦めてはいない。「一撃入れたら認める」と言っていたのであって、「先に一撃入れた方の勝ち」とは言っていなかった。  いまだぐらぐらする視界に多少の吐き気をもよおすが、貴方は剣を杖にして起き上がる。その姿を見た受付嬢は目を細め、口元を楽しそうに歪めた。 「何度やったって同じよ? いい加減に諦めなさいな」  どれくらいの時間が経ったのかわからない。何度も斬りかかっては、何度も仰向けに倒される。その動作の美しいこと。自分の体が倒れるまでの過程が、まったく見えないのである。  吐き気に耐えて立ち上がろうとしていると、受付嬢が肩をすくめながらやってくるのが見えた。チャンスだ――と思いたいが、いまは指一本動かすのだって難しい。疲弊と、何度も頭を打ったのが原因だろう。  貴方が成り行きを見守っていると、受付嬢は自身の華奢な手を広げ、その指先にキスをした。なにをしているんだ、と疑問に思っていると、その手のひらを貴方の下腹部に当てる。  次の瞬間、言い知れぬ熱さが貴方の下腹部を襲った。奴隷の焼き印でも押されたかのような熱さだ。受付嬢の手のひらが当てられただけだというのに、あまりの熱さに脂汗が出てきた。  振り切るように立ち上がってみたはいいものの、下腹部の熱さも脂汗も止まることはなく、貴方を蝕み続ける。頭を打った衝撃の吐き気だってままならないのだ。剣を杖にしてどうにか立っているにすぎない。 「ふふっ。なにをされたのかって顔してるわね。教えてあげましょうか? 貴方のお腹に、淫紋を刻んだのよ」  淫紋という言葉に聞き覚えはなかった。冒険者を目指してそれなりの本を読んだにも関わらず、だ。しかし本を読んでいたところで、受付嬢が元冒険者である事すら見抜けなかったのだ。百聞は一見に如かずである。 「特別大サービスで、無知な坊やに教えてあげる。淫紋っていうのはね、こう使うの」  そういうなり、受付嬢は指を鳴らした。その瞬間、あなたのペニスが脈動した。なにが起きたのか、貴方は射精してしまったのだ。ペニスに触れられたわけでも、怪しい薬を飲まされたわけでもない。ただ服越しに手のひらで下腹部を触られただけだというのに。  強制的な射精で放心状態に陥る中で、じわりじわりと生暖かいものが広がっていく下着の気持ち悪さだけが鮮明だ。射精したことによる脱力と倦怠感、そしてそれらを上回る絶望感に、貴方は膝から崩れ落ちる。散々仰向けに転がされていた床に、自ら膝をついた。  受付嬢をひざまずかせて謝罪させると意気込んでいたはずが、実際にひざまずいているのは自分の方である。少しずつ正気を取り戻した貴方は、あまりの屈辱に奥歯をかみしめた。この女の前でだけは、一滴の涙も流さないように。 「貴方の男性機能は、術者である私の意のままになったのよ」  なにを馬鹿なことをいっているんだと罵りたくとも、こうもはっきりと力の差を見せつけられては信じざるを得ない。そんな魔術があるなんて知らなかった。だが、これは貴方自身の油断が招いた結果だ。  今日のところは大人しく引き下がろう。修行と勉強をして力をつけ、また改めて登録に来るしかない。震える脚を叱咤して立ち上がりかけると、些細な動きだけでも下着の中の生暖かいぐちょぐちょを感じてしまい気持ちが悪い。 「気分がいいから、モンスターに負けたらどういう目に遭わせられるか教えてあげる」  受付嬢は歌でも歌うかのようにいうと、もう一度パチンと指を鳴らした。立ち上がりかけていた貴方はまたもや射精してしまい、再度崩れ落ちてしまう。  快感を得ているわけでもないのに、ただただ射精してしまう。射精時の気持ちよさこそあるものの、射精にいたるまでの刺激がなにひとつなく、受付嬢の気分ひとつで突然射精させられてしまう――プライドなどかなぐり捨てて、貴方は謝罪しようと試みた。自分が間違っていたと認め、いますぐ帰らせてもらおう。  まだ覚えたばかりの射精を強制的に2度もさせられた後で、なかなか立ち上がることができない。生まれたての小鹿や子馬のようにプルプルと立ち上がってみると、にんまりと笑う受付嬢と視線が交わった。 「淫魔モンスターはね、こうして気絶するまで絶頂地獄を味あわせて……そして、冒険者を捕獲するの」  パチン。貴方にとって悪夢でしかない音が響いた。三回目の射精だ。しかしあまりに短時間に射精させられたせいか、精液は数滴程度しか出なかった。だというのに、出ない精液をどうにか絞り出そうとペニスが必死に脈動する。自分の体が自分のものではないような感覚。  立ち上がりかけていた膝は呆気なく崩れ、貴方は身もだえる。こんな苦痛は初めてだ。流行り病にかかり高熱を出した時だって、いまほど苦しくはなかったように思う。  意味のないうめき声しか出さない口を閉じ、唇を噛んで耐える。両手で股間を覆う仕草はひどく滑稽だろうというのが、辛うじて冷静な意識の片隅でわかった。 「冒険者になることを諦めるなら、その淫紋を消してあげる」  リズミカルに靴のヒールを慣らして近付いてきた受付嬢は、勝ち誇ったように貴方を見下ろす――いや、見下す、といった方が正しいだろう。倒れ伏したあなたとそれを見下す受付嬢の構図は、敗者と勝者のそれだった。  しかし、現実と向き合ったことで貴方の決意が復活する。生半可な気持ちで冒険者を目指していたわけではない。時には敗北することも知っていた。敗北を乗り越えてこそ、真の冒険者となれるのだ。  下半身の違和感は到底忘れられるようなものではなかったが、貴方は立ち上がった。もう先程までの震えはない。しっかりと二本の足で床を踏みしめ、受付嬢をまっすぐ見据える。 「へえ……」  受付嬢は感心したように声を漏らし、赤いリップを塗った唇を舌なめずりした。あまりに煽情的な姿に一瞬ぐらりと来たが、相手は敵なのだと再確認し、剣を握り直すと駆け出した。  強制的に射精させられたせいだろうか。それとも、出ない精液を絞り出そうといまだに脈動が収まらないせいだろうか。下着がぐちゃぐちゃなのもあり、下半身がひどく重たい。しかし貴方の心は晴れやかだった。吹っ切れたといってもいい。  地位や名声、女を目的とするのではなく、対峙している敵を倒すことだけに集中し、剣を振り下ろす――かわされた。攻撃をかわされるのはいまに始まったことではない。さっきまでも一撃も当たっていなかったのだから、気にする必要はない。  そう、たった一撃。たった一撃入れるだけでいいのだ。受付嬢はどこにどのようにして、とまでは指定しなかった。髪でも腕でも足でもなんだっていい。掠りさえすればどうとでもなる。  フェイントなどの小細工が得意ではない貴方は、ひたすら正面から立ち向かう。かわされてもその反動を生かし、ぶんぶん剣を振るう。がむしゃらに剣を振るっているうちに、ついに受付嬢の間合いに入り込んだ。  ――いける。貴方は勝利を確信した。今度こそ自信がある。この距離ならば、間違いなく一撃入れることができるのだと。貴方は剣を振るう――ふりをして、蹴りを繰り出した。渾身のフェイントだ。攻撃方法は問われていなかったのだから、当然体術だってありだろうと踏んで。 「あはっ」  受付嬢は焦るどころかうっとりと微笑み、そしてまた、指を鳴らした。  繰り出した蹴りが受付嬢に届くよりも早く、貴方はその場に崩れ落ちてしまう。四回目だ。もう精液なんて残っていない。しかし受付嬢はつり気味の目じりを下げ、何度もパチンパチンと立て続けに指を慣らす。 「淫紋が刻まれた状態でまともに戦えると思ったの?」  とんでもない快楽地獄だ。こんなの知らない。貴方はもだえ、のた打ち回った。それでも快楽を逃がすことはできず、飲み切れなかったよだれを口の端からだらだらと垂らしながら、動物のような声で呻く。  出すものがないペニスは脈動を繰り返す。もはやそれ自体が快楽となっていた。ぐちょぐちょでぐちゃぐちゃでどろどろの下着の中でペニスはびくびくと震え、揺れて、下着に擦れて快感を呼び起こす。  一体何回、受付嬢が指を鳴らしたのか、もう定かではない。貴方はただただ強制的な快楽に脳を焼かれ、最後の一滴まで出し切ったはずの精液をさらになんとかして絞り出そうと、腰をへこへこと動かすしかできない。  とっくに枯れ果てた精液を送り出そうとペニスは脈動し、睾丸は震え、肛門は呼吸をするかのようにヒクヒクとうごめく。男性機能がフル稼働し、下半身全体がポンプとしての機能を果たそうとして弛緩と収縮を繰り返す。絞り切った雑巾をさらに絞り上げられるような快楽地獄に、貴方はついに「もうやめて」と懇願していた。 「いまなにか言ったかしら? 喘ぎ声がうるさくて聴こえなかったわ」  聴こえていただろうに、受付嬢はわざとらしく耳元に手のひらを寄せる。貴方は声を絞り出し、もう一度、「もうやめてください」と叫んだ。  そして精液にまみれたズボンと下着を脱ぎ捨て、脈動し続ける自身のペニスを両手で握り、「おちんちんのビクビク止めてぇ~!」と懇願する。涙と鼻水、よだれで顔はぐちゃぐちゃになっている自覚があったが、そんなことをかまっている余裕はない。  全身が性感帯になったように、快感を拾ってしまう。そう、受付嬢の冷ややかな視線さえも、貴方を感じさせるには十分すぎるほどだった。まるで汚物でも見るかのような視線を投げかけられた瞬間、貴方は言い知れぬ解放感を味わう。精液とは違う、サラサラしたものがペニスから勢いよく噴き出したのだ。  そのまままた床に倒れ込み、遠のく意識の中で、受付嬢が自身の顔を手の甲で拭うのが見えた。 「……この私に一撃……よくも……」  受付嬢はわなわなと震え、貴方を睨みつける。しかし貴方にはもう反論する気力も、反撃する体力もなく、重たく下りてくるままにまぶたを閉じた。