◆タイトル『ヴェルディグリは緑青に』 ◆あらすじ  次はちゃんと、叱ってやらないとな。  ……私は、魔女なんだから。  森を抜けた先にある家には、魔女が居た。  緑青を纏った、ひとりの魔女が。  街のはずれ、森を抜けた先ーー。魔女ヴェルディグリが住む家に、また、訪れる者がひとり。 ◆登場人物 ・ヴェルディグリ(ヴぇーるでぃぐり。ヴェは、フルネームで発音時のみ、ヴェー。) (一人称:私)ディレクションでは便宜上、魔女で統一します。 ※本作の語り手。こちらの音声のみで、お話が進行します。 :女性。(聴き手役が青年期の設定で)293年は生きている。見た目は若く、本人の予想では30歳前後。だいたい合ってる。設定的な計算上、正確には28歳。 外見は、身長155cm程度、やや細身で不健康そう。ジト目がちで、どちらかと言えばタレ目。瞳の色は緑青(ろくしょう)色。 髪色は明るめの赤茶色で、ごくごく軽い癖っ毛。長さは、今は前髪と後ろ髪はショート、横側が肩甲骨辺りまで伸びている。鬱陶しくなったら そこを切る。雑。 9歳の頃、不老の力を得る。今では不老不死の魔女と呼ばれている。 実際のところ、不死かどうかは本人にも不明。怪我が すぐに治ったりはしない。 かつ、284年の歳月で少女から女性らしい姿になっている為、完全な不老でもない。 (設定上、常人の「16分の1」ほどの老化速度。500歳で、普通の人の約40歳) 「不老不死の魔女」として畏れられている。ただ、本人と ごく一部の人がそう思っているだけで、実のところ都市伝説くらいの怖がられ方しかされていない。それほど知名度も高くない。いじめられたりしたことも無い。 家は、町から 小さな森を越えた先にあり、基本的に一般人は立ち寄らない。大木を基礎にした石+木造建築で、比較的 長持ちするような建て方にしてもらった。 ・少年~青年 ・少年期:9歳ほどの少年。(パート1) 髪は暗めの茶髪で、適当な長さに切り揃えられている。まだまだ身体的に目立った特徴は無いが、心の優しい少年。病気がちの母親が ぎっくり腰になった際に、恐れられている魔女の家を訪ねたのが出会い。 半月に一度くらいのペースで 魔女の家に遊びに行き、いつしか魔女に薬学を習い始める。 父親は建築の技術者で、都市に出稼ぎに出て それなりに重用されており、あまり家には帰って来られない。 ・青少年期:18歳ごろ。(パート2) 身長は180cmほどまで伸びた。健康的な程度には鍛えており、少し筋肉質。髪は肩くらいまで伸ばしており、後ろで一つ結んでいる(いわゆるポニーテール?)。 魔女から術を学んでいるつもりだったが、実際は薬学であることに ここ数年のうちに気づいた。 助手のような仕事もすれば、家事雑用も任される。掃除はもちろん、炊事や洗濯もする。 ・青年期:25歳ごろ。(パート3~5) もはや住み込みで働くようになり、大概の仕事は任されるようになった。 数年間 錬金術の研究を進めるが、自身が求めている成果は得られず 頓挫しつつある。 一方で、薬を開発する方向性で見ると、その研究は大きな貢献となっている。 ◆あらかじめストーリーで提示されない部分 ヴェルデが 不老不死の力を手に入れた、謎の理由です。本編でも中盤で出てきます。 国中を侵した病に、とある少女も侵されてしまう。三日三晩、高熱にうなされ続けたが、父親が飲ませた薬によって一命を取りとめる。 その薬とは、彼女の父親が総帥を務める宗教で、教徒らの祈りが捧げ続けられたもの。 悠久の命を崇拝し、老いと病魔を忌み嫌う教えのもとで、ただの酒に、呪いにも近い力がもたらされた。 彼女はその後、信仰対象ともいえる扱いを受けるが、徐々に成熟していく身体に、信仰が薄れていく。最後には、自身の手で宗教に終止符を打った。 それが、今作から250年以上も前の話。 ◆パート分け 1.寄添う二輪 聴き手役、少年期。 少年、来訪 ~ 時を止める魔法 2.願いの小瓶 聴き手役、思春期くらい。雑用をしながら修行中。 サボり発見 ~ 願いの呪い ~ 約束と、求めているもの 3.俊英の代価 聴き手役、青年期。 俊英の代価 ~ 夕べの出立 4.魔女の幕引 聴き手役、引き続き青年期。 魔女の答え ~ 切り花と思い出 ~ 時を止める魔法? 5.呪いと効能 聴き手役、まだまだ青年期。 小瓶の半分 ~ 残りの数年 おまけ.寝息トラック 本編とは特に関係のない、寝息音声です。 ◆本編 1.寄添う二輪 はーい。う、んしょっと。 ちょっと待ってくれ。 はいはい。 ぁぁ{軽い溜息}、またお前か。 何しに来たんだ? 薬ならこの間、まとめて渡したはずだろう? じゃあ、何しに来たんだ? 用もないのに、何度も来るんじゃない。お母さんが心配するぞ。 んん……。私が何て呼ばれてるか、知ってるだろう。 そう。みんな良くは思ってない、ってことだ。 そんなところに、何度も行ってる奴が居たら、周りはどう思う。 そーじゃない。だれが友達だ。 {軽い溜息}……変な目で見られるんだ。 それでなくとも、お前のお母さんは 身体が悪いんだろう? 何かあった時のために、近所づきあいは ちゃんとしておけ。 分けてやってる薬。アレ、いくらすると思ってるんだ? 無駄にする気か? ん……いや、まあ……そんなに高くはないけど。 まぁでも、お前の小遣いくらいじゃ、そうそう買えるもんじゃないのは確かだ。 それを後払いにしてやってるんだから、少しは言うことを聞けぇ。 えっ。あぁうん……。 ……どうしたんだ、このお金。 そうなのか。……お前、ちゃんと父親いたんだな。 へぇー。一人で寂しいだろうに……良いお父さんだな。 {ほほえむ}。 ぅわ、これけっこう入ってるぞ……。こんなに渡して、お前たち生活できるのか……? そうか……なら良いけど、かえって気が引けるな。 ん? まだあるのか。 {苦笑い}いや別に、お礼が欲しいわけじゃ……お。 お? 見たことない茶葉だ。 これ、どうしたんだ。 ほぉ~、なるほどな。と言うことは、遠方のものか。どおりで知らないわけだ。 ぁぁいや、だけど……。お前たちに飲んで欲しくて、送ってくれたんじゃないのか? ああ。 まあ、それなら良いか。 ん……じゃあ? くれると言うのなら? ありがたく戴いておこう。 ぃや、どうだろう。飲んでみないことには、分からないけど……。 {息を吸う}まあ……お茶を戴いて、出さずに帰すのも悪いしな……。 {笑う}、上がって飲んでいくか? あぁ、じゃあ入れ。今日は特別な。 ただし。 その辺のモノ、勝手に触ったら駄目だぞ。 はいはい。 とりあえず座ってな。 あー、椅子に置いてるのは、テーブルに退けて良いから。 {鼻すんすん}……わりと普通の紅茶か? 淹れ方は……書いてないな。普通で良いか。 なぁ、そっちの棚にお菓子があるから――、 ぁ……ん? なんだ? {呆れつつ笑う}、なんだ まだあるのか? あぁ、{微笑む}……綺麗な花だな。それに立派だ。 へぇー。枯れないのか。それはすごいな。 ちゃんとした切り花だし、高かったんじゃないか? そうか。ありがとう。 だけどなー。これじゃあ貰い過ぎだなぁ。 ぇ、{照れ笑い}んぅ……そうか。 じゃあ……そーだな。 お返しに、ちょっとだけ魔法を見せてやろう。 ふふん……。この一輪の花を……ん、これで良いか。 花瓶に挿すだろう? まぁ待て。これは、物を複製する魔法なんだ……。いま、魔力の流れを辿ってる……。 っ。 あの壁の向こう側に、魔力が集まってる……。 私はコレを持って行くけど……。危ないから、座って待ってるんだぞ。 じゃないと、最悪の場合、お前が二人になっちゃうかもしれない。 よし、これで……、 {息を吸う}……ふんっ……!! {一呼吸}よし……。ふぅー……。 ん? あぁ……成功だ。 見ろ。花が二本に複製されたぞ。よく見せてやろう。 ふっふっふーん。だーろう? まあこれでも、魔女と呼ばれているからな。 え? あぁー、花瓶? んん、花瓶はー……増えなかったなぁ~……。 えっとぉ……そうだなぁ。花瓶は、ほら、重い……から? ちょっと時間がかかる……とか? んー……んぅ、あー……ぁごめん、そんな純粋な目で見ないでくれ……。 実は今のは、魔法じゃなかったんだ。ごめん。 ぃや嘘っていうと……、まあ……嘘だけどさぁ。 ちょっと、驚かせたかっただけなんだ……。許してくれ。 あはは。 ありがとう。 あぁ、それは簡単な話でな。 じつは……。 ほら。 花瓶が増えなかった理由は、ここにも花瓶があったからだ。 {苦笑い}……つまり、増えた方の花は、元々は ここに活けて、飾ってあったんだ。 {少し笑う}、まあ、そう残念がるな。 んー……じゃあ……。 お詫びと言ったらなんだけど、今度こそ、本当の秘密を教えてやろう。 ん? 疑うなら教えてやらないぞっ。もともと、これは言わないつもりだったしなっ。 ふふ、なら素直に聞けぇ。 {ほほえむ}。 {息を吸う}さて。 いま花が増えたのは、まあ、仕掛けがあったわけだけど。 ふふ……。 どうしてこんなに都合よく、同じ花が、ウチにあったと思う? おー、なるほどな。 確かに、良い匂いがするし、淡い青色で綺麗だ。嫌いじゃない。 ただそれは、飾った理由の一つだ。答えとは、ちょっと違うなぁ。 他に考え付かないか? ぉ! ちょっと近づいたな。 でも私は、花屋から買っていない。 そして、お前が買った この花。どういう売り出し文句だっけ? そう。枯れない。 よし。……じゃあ、私は誰だ? あぁ。老いを知らず、歳も取らぬ、不老不死の魔女だ。 これがどういうことか……分かるな? おぉー、正解だ。よく分かったな。 そう。これは私が作って、たまに花屋に売ってるんだ。 まあ、枯れないっていうのは、かなり誇張されてるけどな。 いや、やり方は、もちろん秘密だけど……。 花の時間をな、すこーしだけ止めてやるんだ。 そうすると、普通の花よりも、ちょっとだけ長持ちする花になる。 そしたら、手入れが簡単だろう? 手間も減るし、物珍しさで買う人も増える。 なにより、ちょっと高くても 文句を言われない。 ふふっ……。 まあ、時を止める魔法、ってとこかな。 そんなに褒めるな、くすぐったい。 あぁ。 あと大切なのは、止める時間が 短すぎたり、長すぎたりしないことだな。 短すぎると、次に買ってもらえないし、 長すぎると、また買ってもらうまでが長くなる。 っはは、魔女もお金は要るからな。 まあ、花を飾るくらいには、裕福な客が多いんだろう。 取れるところから、少し取らせてもらうだけだ。 ぁ、おいおい、それは違う。間違いだ。 花を贈ってくれたのは、お前の気持ちだろう? そりゃあもちろん、花そのものも嬉しいけど、 私は、お前のその気持ちだって、嬉しいんだ。 だから、この花が要らないなんて、ひとつも思ってないぞ。 ああ。当たり前だろう。 それにな……実はウチの花にも、魔法がかかってるんだ。 もともとは、枯れる頃合いを見るために、一輪だけ取っておいたんだけど……。 {はにかむ}、同じ時間を過ごせる仲間が出来て、コイツも喜んでるはずだ。 ん? どうした? へ、なにが? 大丈夫だぞ? あぁ。ふふふ。 お、っと。お湯が沸いてる。 そっちの棚にお菓子があるから、出してくれるか? 私は、お茶を淹れよう。 ん? いやそっちじゃない。 危ないから触るなよ。 あー、わかった。動くんじゃない、行くから。 あっ、ぁちょっ……触るなって! こぉらっ!   2.願いの小瓶 どうだー、進んでるかー? おぉい。嘘をつくんじゃない。 誰が勝手に、人の部屋の本を読めと言ったー? 掃除だろ、掃除。私が言ったのは。 こっちはもう、洗面所 終わったぞ? もぉ……。そんなに暇なら、薬の一つでも売ってこい。 ん? ……なに。 んぐっ……うるさい、イスに乗れば届く! だから、乗らなくていいように、お前に頼んでるんだろう!? イス無しで届くお前にな……! ふんっ。分かったら ちゃんと掃除をしろぉ。 {軽くため息}……ほら、私も手伝うから、さっさと終わらせるぞ。 {にやりと笑う}……でないと、休憩出来ないだろう? せっかくのお茶が、ぬるくなっちゃうからな。 おー、最初から その勢いで頼むな。 ……よし。私は下の方をやるから、上は任せた。 んぐッ……うるさいっ。はやくやれ。 {息を吐く}。……で、何の本読んでたんだ? うん。 あぁ、まぁ……これでも不老不死の魔女だからな。 そういう本が多くても、不思議じゃぁないだろう? ははっ。たしかにな。 でも、目の前に居る奴のほうが、よっぽど おとぎ話だと思わないか? {軽く微笑む}だろう? まぁ……{少し恥ずかしそうに笑う}、そういう、不老とか長寿とか、 昔は けっこう、必死になって研究してたんだよ。 ぇー。 んー……。200年くらい前かな? 紙が劣化して駄目になったのは、いくらか捨てちゃったけど。 買い漁ったからなぁー。 ……ただ、今となっては、本棚の肥やしだな。捨てるのはもったいないし。 ん? いや? 私は別に、不老でも不死でもないぞ? あれ、言ってなかったっけ? うん。ほんと。 あぁ、正確には、不死かどうかは分からないな。 だけど、不老じゃないのは間違いない。 ぇぇー? んまぁ、見た目なんて、10年じゃ変わらないようなもんだからなぁ……。 ……だけど、そう考えると、お前とは そこそこ長い付き合いだな。 {軽い溜息}……。 じゃあ……ちょっとした おとぎ話でも、特別に してやろうかな。 ぃ、よいしょっと。 はぁ、休憩! ほら、そっち座りな? はい、手も拭く。 {微笑む}、見て、カップケーキ焼いた。 んふふー。食べて良いぞ。 はーい。 ふふ、それは良かった。 はい。お砂糖ふたつ入れといた。 {一口飲む+吐息}……。 はぁ……。 ……で、何の話だっけ? ぁははは、ごめんごめん。 ちょっと落ち着いちゃったからさぁ……。 んむ、おばあちゃんって言うな。 おばあちゃんって、ゆ・う・な。 {むすっとした感じの溜息}……まぁ、許してやろう。 {一呼吸}……さて。 {息を吸う}昔の話なんだけど……。 あるところに、大きな国があったんだ。 その国は、病にかかっていた。 別に、為政者がどうとか、民がどうとか、そういう比喩じゃない。 不治の病が流行して、みんなそれに怯えてた。 あるところでは、とある信仰が盛んだった。 永遠の命を信じ、老いと病魔を忌みとする……。 もともと、大きな信仰ではなかったけど、 病気の流行とともに、どんどん信者は増えていった。 信者たちはみんな、一心に祈って、願い続けた。 ……祭壇に飾られた、聖水とかいう、ただのキツイお酒にな。 それでも、そんな真実なんか どうでも良くて……、 病が怖くて、支えになってくれるものが、欲しかっただけなんだろうな。 中身は何であれ、小さくて美しい瓶に入ったそれは、何人もの心を救ったんだと思う。 そして、またあるところに、一人の少女が居た。 まだまだ幼い、9歳の女の子だ。 彼女の父親は、とある信仰の重要人物だった。 ただ、家族にそれを強いるようなことはなく、円満な家庭を築いていた。 だけど、転機が訪れる。 少女は、流行り病にかかってしまったんだ。 その頃は 適切な治療薬も無くて、症状が出たら最後、助かるすべはなかった。 数日間 高熱にうなされ、満足に食事もとれず……、 小さな彼女の身体には、残された時間が少ないことは、明らかだった。 彼女の父親は嘆いた。娘の命は尽きてしまうのかと。 そして、すがったんだ。……自分たちの教えに。 当然、聖水の正体なんかは知っていた。気が触れてしまったわけでもない。 ただ娘を救いたくて、救って欲しくて、どうしようもなかったんだろうな。 彼は祭壇から聖水を持ち出して、娘の元へと辿り着いた。 背中を支えながら、ゆっくりと起こすと、小瓶の中身を口に含ませてやる。 だけど、今までにない刺激に、吐き出してしまった。 父親は口元を拭いてやると、 お前を助けてくれる薬だから、今度は我慢して飲み込むんだよ と、頭を撫でながら優しく笑いかけた。 少女は、次の ひと口を含むと、今度はすぐに飲み込んだ。 喉は焼けるように熱くなって、身体の内側から火照っていくような…そんな感覚があった。 そうしたら不思議と、それまでの辛さが和らいだ気がした。 少しだけ穏やかになった娘の様子を見て、父親は安堵した。 それがもし、酒に酔っただけだったとしても……、 娘の苦しみが薄れただけで、心の底から喜ばしく感じたんだろう。 促されるまま、少女はもう一口だけ飲み込んだ。 そして、辛くなったら また飲むように……と渡された、 中身の減った小瓶を抱いて……彼女は眠りについた。 ん? あぁ。 いまのが、300年くらい前の話だ。 まあ、じゃあ……あとは飛ばしちゃうけど、少女は 今もこうして元気だったり、 聖水を持ち出したのがばれて、父親は大変なことになったりしましたとさ。おしまい。 ぁはは。 だって、言いたかったのは、私は不老じゃない、ってトコだからな。 うん。私の話。 病気は治った……というか、次の日には 何も無かったみたいに治まってた。 でもその代わりに、どういうわけか、こんなカラダになっちゃったんだ。 んー……たぶんな。 状況からすると、あの聖水以外、原因なんて無さそうだしな。 まあ、それはともかく……。 あの頃から比べると、ちゃんと背が伸びたり、胸も大きくなったり、成長はしてる。 だから 正確には、身体の時間が 異常にゆっくりになったんだー……、 ……っていうのが、私の見解。 でないと、お前の目の前にいる オトナの女性は誰なんだ、って話になるだろう? ここだよ、ここ……! {ムスッとした感じの吐息}……もー良ぃ。 まあ……大人の身体になって、見た目の成長が止まるまで、 軽く100年は かかったんだけどな。 うん。 だから、歳を取らない訳じゃぁないらしい。 不老不死~、なんてのは、 何十年も変わらない私を見て、誰かが付けた あだ名みたいなものなんだ。 いやぁ、私も最初に聞こえてきたときは、びっくりしたよ? 勝手に 死なないことになってたからな。っはは。 いや…。周りから見れば そういう感覚なんだな、っていうのは、思ったより大事だ。 あんまり、他人と関わり合いになれないな、って考え始めたのも、 そう呼ばれ始めた頃だったからな。 んぇ。 んー……。寂しい、か。 それは、考え方が? 私の状況が? そっか……。……そうだな。寂しいかもな……。 うん。 人は 関わる生き物だからな。 関わりを持ってないと、自分が人じゃないような……そんな気分にもなる。 私が魔女を名乗るのは、そういうコトに対しての 強がりかもしれないな。 あぁ、別に気にしてないよ。けっこう気に入って使ってるから。 何かと都合が良いのもあるけど、カッコイイしな。{微笑む}。 うん。 ぁぁ。{はにかむ}……でも、ここ何年かは、寂しくも なくなったかな。 {微笑む}ぇえ? 変なチビっ子が、お母さんの薬が欲しいんです~、って……この家に来たときから。 っはは。本人だろう? …ふふ。 {一呼吸}……。まあ、そうは言っても……。 不老じゃないなら、死ぬことは出来るんだろうなって、思ってるんだ。 いつか……ちゃんとな。 {苦笑い}、ま、ただの おとぎ話だよ。 ほら、おかわり要るか? ? どうした? 急に。 あぁ…もう要らない本だし、欲しかったらやるよ。 ぁぇ、うん。内容によるけど、なんだ? いや、成果も何も……。 そんな条件出さなくても、だいたいのことは教えてやれるぞ? 仮にも師匠だからな。 あ、そう……? まあ、仕事に差し支えないなら、別に良いけど……。 ? うん。 だけどこんなの、ほとんど空想みたいな話だぞ。 お前だって言ってただろう、おとぎ話だ、って。 ……。 {少し笑う}……それもそうだな。 言われてみれば、自分が一番、おとぎ話だったよ。 自分でも言ってたくせにな、{苦笑い}。 {息を吸う}……まあ、本当に研究したいなら、知恵くらいは貸してやるよ。いつでも言ってくれ。 えっ、いま持っていくのか? ちょっ、おい、掃除は? おい! ちょ……、んん……棚の上ぇ~。 んもー……。 {息を吸う}{溜息}……。 何を求めてるんだろうな、あの子は……。 ……いや。 私か。 んふ……。   3.俊英の対価 おーい、クッキー焼けたぞー。 ……おーい。 おぉい! 食べないのかー。 {軽く微笑む}いいよ。持ってきた。 ちょっとテーブル空けて。 ぁー、ありがと。ほ。 はい、お砂糖いれといた。 {二口飲む+吐息}……。 どう? 行き詰ってる? いやぁ……そろそろ、また落ち込む頃かなー、と思って。 {苦笑い}……。私から見れば、お前の研究は、ちゃんと成果を出してるんだけどな。 方向性は違うけど、ほんの数年で、私の先の先を行ってる。 {微笑む}、それは違う。駄目なんかじゃない。 お前が求めてるものとは、違うかもしれないけど……、 少なくとも、私の手助けにはなってる。 だろう? この何年かでどれだけ、私の薬が良くなったと思ってるんだ? それで、何人のヒトが助かった。 今やってることは、大勢の命につながってる。 私は、それがとても嬉しいし、誇らしいぞ。 ? あぁ……。 {優しく微笑む}、そうか。 やっぱり、お前は優秀だな。 分かっちゃったんだな。 お前の中で、覆らないほどに。 不老不死なんて、有り得ない、って。 ……こんなに早く。 おぃ、なんで謝るんだ? そもそも そんなこと、とっくの昔に理解してる。 私を誰だと思ってるんだ? 不老不死の魔女―― ん……{吐息}。 ……{軽く微笑む}。 なあ。 なに拗ねてるんだ。 じゃあなんだ? むくれてるのか? {微笑む}、そんなふうに見える、ってことだよ。 そう。 これでもな、なんとなく分かっては いるんだよ……お前の考えてることとか、思ってること。 私の研究を引き継いで、でも、思ったようには進まなくて……。 なんだったら、その先は行き止まりで、なんにも無いって分かっちゃって。 そのくせ、思ってもみない方向で成果が出て、それを私が喜んでる。 しかも、私の仕事にも役立つものだから、簡単にやめる訳にもいかない。 ……ちょっと辛いよな。 ごめんな。 でも、私が喜んでるのは、本心なんだ。 それだけは、素直に受け取ってもらえると 嬉しい。 {優しく微笑む}、そうか。良かった。 {一口飲む+吐息}……。 {軽く息を吸う}なあ。一応、聞いても良いか? 違ったら恥ずかしいんだけど……。お前が目指してるのって、私を治すことか? ん……? それ…も? おい。そっちは仮にも師匠として、止めざるを得ないぞ。 私以外、こんな存在 いるべきじゃない。 ぇ。それってお前が―― ぁぁ、うん……。 まあ……何十年かすれば、そうなる。 はは、というか、お前ずっと この家に居座るつもりか? ぁ、うん……ごめん、なさい。 んぅ、だけど……お前が来るまでは ずっと一人だったんだ。別にどうってことない。 いや言ったかもしれないけど、私はもう魔女なんだ。 周りから見ても、自分から見てもそうだ。今さら人間に関わる気なんて無いって。 ぇっ……、{戸惑う息遣い}、そんな顔するなよ。 いまのは、ちょっと弾みで言っちゃっただけだよ……ごめん。 いや、いいよ……。私の為だろう? 気にしてないよ。 でも私はな、それでお前が辛い思いをするのは……、 {言葉を選ぶ息遣い}あんまり、嬉しくないな。 人の時間は短いんだ。もっと大切にしてほしい。 私なんかの為に使うよりも、自分の為に使って良いんだ。 ぅん? なんだよ……。言いかけたなら、全部言ってくれ。 口で言ってもって、じゃあ、どうすれば良いんだ。 ぉおい、どこ行くんだ。 はっ? 今からか? もう暗くなるから やめたほうが良い。帰りが危ないぞ。 ぇ、あぁ……。そう か……。 たまには、それも良いかもな……。 ぁっ、お母さんによろしくな。 ぁ{思案する息遣い}……。{立ち上がる} それと、気を付けるんだぞ。 ん……。 ちょっと、待って……! んぅ……。 あと……{戸惑う吐息}……ごめん。 私、どうすれば良いのか……また今度で良いから、教えて欲しい。 うん。……じゃあ、お願い。 {息遣い}……ん、そっか……! わかった。待ってる。 うん……いってらっしゃい。   4.魔女の幕引 ぁ……はーい。 んしょ。はーい。 ぁ{はにかむ程度に笑む}……おかえり。 うん。 っぁ、そうだ、お腹すいてない? シチューにしたから、あっためたらすぐだよ。 そっか。{微笑む}、お母さんの手料理じゃあ、勝てないかぁ。 んふふ……大丈夫、わかってる。 ほら、上着。 うん。 ……座れば? コーヒーあるよ。 お母さん元気だった? 帰ってきて、喜んでたんじゃない? {微笑む}、そっか。お父さんがいるなら、安心か。 でもまあ、たまには帰ってあげたほうが良いよ。 うん。 はい。お待たせ。お砂糖ふたつ入り。 {微笑む}。 んしょ。 ん? なに? あぁ……うん。 変かな……気持ち悪い? {はにかむ}、そう? じゃあ、良かった。 んんん……それは、言い過ぎ。 ぁいや……んー、どっちだろう。 最初は、魔女らしく話そうーって 思ってたんだけど……何年かしたら、染みついちゃって。 うん。もともとはこんな感じ。 {照れて はにかむ}200年くらい、昔に戻った気分。ふふ……。 {息を吸う}それで。一応……昨日からずっと考えて、出した答えが、これ……です。 魔女、やめようと思って。 うん。だからって、この体が治るわけじゃないけど……ね。 ん……。 正直に言うと……昨日、あれからさ。 なんであんな風に言っちゃったんだろう、って思って……。 それに、ああ言ってはくれたけど……もし、もう戻って来なかったら どうしよう、って思って、すごく悲しくなって。 ちょっとだけ、泣いちゃった。へへ……。 だから、怒って出ていくのは、もう無しにしよ。 んぇ? ぁ……。{少しだけ笑う}綺麗な花……。 ん……じゃあ、この花…買いに行っただけ? {微笑む}、そっか。良かった。んふふ。 ううん、私こそ、あの時はごめん。 {微笑む}、ありがとう。飾っちゃうね。 でも、なんで急に…花? さっき、言いたかったのはー、って言ってたけど。 昔……? んー……。 あぁ、まだ……お前ぁぁん、キミ? がぁ、こーんな小さかった頃ね。{はにかむ}懐かしい。 ん! 笑うなばーか。じゃあお前だよ、お前! もぉ。 ……ふんっ。 {軽い溜息}……。 はい……これで良し。 そういえばあの時も、ウチにあったのと、買ってきてくれたの。こんな風に2本、飾ったっけ。 うん。 ……んでも、それが?  言いたいことと関係あるの? んぇ、顔? ……私、そんなに変な顔してたかな。 ぁぁ……。ふふ、そう。 {はにかむ}、たしかに……そういう存在が欲しいなって、思ったことはあるよ。 寂しそうだったのも、たぶん、間違いじゃないと思う。 だから、小さな希望に すがった頃もあった。 …………でも、諦めた。 不老不死は作れない。もちろん、劇的に老化を遅らせることもできない。 だから逆に、私を治す手段もないんだろうな、って思った。 その結論には、納得してる。 {吐息}……あのさ。 あ。先に言っとくけど、今は違うよ? って話から、はじまるからね。……もう、怒らせたくないし。 そう……? 約束ね。 んとー。いつか……それこそ、不老不死なんて無いんだ、って諦めて、すぐの頃。 私、自分で 命を絶とうとしたんだ。 {苦笑い}、そんなに驚くことじゃないよ。 その頃、目標がなくなって……抜け殻みたいだったから。 だけど、やめた。……怖くなっちゃって。 あぁ……。もちろん、一般的な 死への恐怖~……みたいなのもあったよ? でも、その逆。 うん。 私は、本当に不死じゃないのか……って。 んんぅ、いや、そうなんだけどね。……そんなこと、誰かが言っただけ。 だけど、不死じゃないことを 確認はしてない。 例えば……適当に想像してみてよ。 刃物を何度か刺してみたけど、死にませんでしたー……とか、 猛毒をあおったけど、生きたままでしたー……とか。 でしょ? 苦しみ藻掻いて死ねません、じゃあ……それこそ死んだ方がマシ。 有り得ないとは思うけど、有り得た場合が怖くて……駄目だった。 だから今度は、目的を持つことにしたんだ。 {微笑む}、ちょっとでも、周りのみんなを長生きさせてやろう……って。 そう。 だから、いろんな病気の薬を、作ってみることにした。 作った薬は、売れば生活費にもなるし……私には、時間もたっぷりあったから。 それで、そのうち、魔女なんて呼ばれ始めて……。 何十年か経った頃には、不老不死の魔女、って呼ばれるようになって……。 はじめは、薬にも箔が付くし、わざわざ近寄ってくる人も減るしで、都合が良いなーと思ってた。 でも、どんどん人との交流が減って……減らして……、出来る限り絶とうとした。 本当に魔女に……というか、人間じゃなくなった気で…いたのかもしれない。 まあそれも、いま思えば……、 寂しくないフリをして、強がりを積み重ねた結果……なのかな。 お前と触れ合うまで…そんな事、まるで忘れてた。 ふふっ。というかそもそも、医者に薬が無かったからって、こんなところまで来る? まぁ、お前のお母さん病気がちだし、気持ちはわかるけど……。 あの時は 腰やっちゃっただけでしょ? ははは、そりゃ呻くよ、ぎっくり腰だもん。くふふ。 はいはい、ごめんごめん。……っふふ。 でも、今から考えてみれば、あれがお前との出会いかぁ。 んふん、あれ、いくつの時? へぇ……。今いくつ? えー、そんなになのるかあ。 誰かと こんなに長い付き合いになったの、ホント何年ぶりだろ……。 ん。 んんん……。あんまりね……。 友達でも、恋人でも、長いあいだ一緒に居るとさ。 いつかカラダのことがバレて、気味悪がられるんじゃないか、って……、それが頭にあったから。 だから、友達もあんまり居なかったし、色恋みたいなのも、ほとんど無かった。 んむっ。ほとんど、だから。ほとんど。 いや、バカにされかねないと思って。 うん。 ん……。 ぁ。そういうの気になるほう? そぉ。 {軽い吐息} ……お前は? 良いの? そーいうの。 あっそぉ。 ま……、ずっとウチで研究してるもんね。熱心に。 人聞きが悪いなー。厳しく指導してるだけ。 はぃはい。 {軽く息を吸う}、そういえばさ。 アレってなんだったの? 成果を出したら、何でも一つ教えてください、ってやつ。 むかし言ったでしょ? ほら、私の部屋から研究資料 持っていった時。 いや、覚えてるでしょ? 自分から約束したんだから。 ほらやっぱり。で、なんだったの? あぁー……。ふっ、ふふふ……。 なるほどね。ちょっと前にやってたなぁ、切り花の薬品処理。 そぉっかぁー、あれかぁー。 いちおう聞くけど……あると思う? 時を止める魔法。 ふふっ、分かっててくれて良かった。 ぇへ、ごめんごめん。 でも、あれは~嘘というか、表現の問題じゃない? 切った花が、枯れづらくなるんだから、魔法みたいでしょ? んむっ。詐欺とは失敬な。立派な薬の効能です、あれは。 というか、成果が出てたら、そんな魔法 要らなかったんじゃない? えぇぇ……、それこそ詐欺でしょ……。 啖呵を切るときに、保険を掛けるなー。 {鼻から抜く呆れた感じの溜息}……ふふ。 だけど、その魔法があったとして……、どうしたかったの? うちの薬に 魔法を溶かし込んで、ばらまきたかった? みんな不老不死~、みたいな。 っはは、冗談。 じゃあ……ホントは? ん……。 {吐息っぽく笑う}……お前に? そ。 ……なんで? っ。ぉぉ……んん、お前、すごいな……。 んんっ何でもない。ばーか。 あぁ……うん。 魔法なんて、そんな都合の良いもの…存在しない。 {苦笑い}まだそんなこと言って……。 私が魔女をやめるんだから、お前ももう、諦めるのが筋だと思うけど? いや、約束はしてないけど……。 んー……。 でも、私がまた魔女になったら…怒るんだろう? んふっ。 あっそ。……いいよ、好きにして。 {一呼吸}……。 よしっ。じゃあ不老不死の魔女、最後の魔法を見せてあげよう。 ふふん。このまま、生涯うそつき呼ばわりも 癪だなぁ、と思ってさ。 あっ、期待してないなー? というか、私がこの喋り方になってから、反応 雑じゃない? んん……怒るに怒れない理由を付けるなっ……。 {軽くため息}、まあいいけど。 あぁ、それは内緒。じゃないと失敗しちゃうから。 大丈夫だって。優しくするからさ。 んいしょっ。 じゃあ、ちょっと立って。 このあたり。 で。 あぁー……ちょっと耳かしてくれる? あぁ、ごめん。やっぱり、そのままこっち向いて。 ぁむ……ん……{吐息}……、ぴちゅッ。 {いたずらっぽく はにかむ}、時を止める魔法――なんちゃって。 ぁ……かかった? んふふん、テキメンそうで何より。 どう? 長生き出来そう? あっははっ。それは良かったねっ。 ぁー……んっふふ、大丈夫? {はにかむ}そぉ。 あー、ちょっと恥ずかしくなってきた……。暑い……。 えぇ? そういうの聞くなよなー、ぁぁ違う、聞かないでよねー。 いやぁ、だからさぁ……。 んんん……。 んあぁん、もう。なんか、こう……。 いろいろ考えてたら、なんか急に…愛おしいなー、って思っちゃったの! あんなチビッ子が、こんなに成長したんだなーとか、 怒ってたんじゃなくてよかったーとか、あと…… わざわざ 花まで買ってきて、どれだけ格好つけるんだー……とかさ。 あぁん、でもっ。 お前はずっと……、出会った時から、今もずっと、 魔女の私じゃなくて、人間の私を 見てくれてるんだなぁって思った。 だから私も、人間として接してみたらさ……、 それって、かなり嬉しい事だ、って…気づいた。 自分のことを、ね。 気にかけて貰って……嬉しくない訳、ないから。 あぁ、えっと。 それとも……嫌だった? {にやけ気味に微笑む}、じゃあよかった。 私も見た目はホラ、まだまだ、ね? へへ。 ぉいしょ。 おかわり要る? ? ……っっ、ばぁか、コーヒー! んもぉ、なんでそういうトコ あたま回んないかなー……! こっちが恥ずかしいって……。 うん、新しいの淹れてくる。 ぁちなみに。 勢いでしちゃっただけだから、そっちは当分、おかわり無いからね! ぁっ、いや、今のは違う。 あぁん、もぉ、うるさい! おとなしく待ってて! んんっ、もお、ほんとばかっ。   5.呪いと効能 あ。お皿ありがと。 うん。お粗末さま。 お! 飲む~。 んふん、気が利く~。さすが愛弟子。 {微笑む}ありがと。 {一口飲む+吐息}……ほぁ。 {息を吸う}、さて。 ……これなーんだ? {苦笑い}、シロップではないなー。 んー……。 これさ、昔 わたしが飲んだ、聖水のぉ……残り。 いや、これは本当……。さすがに その嘘はつけないって……。 ん……黙ってるつもりは、無かったよ? ただ、言うべきかどうかは、ちょっと悩んだんだけど……、 んでもやっぱり、言わないのは 良くないと思って。 ぇっ? ぁぁいや、むしろごめんね? ずっと内緒にしてて。 {少し照れてはにかむ}、もう……、はいはい。 ん…じゃあさ。 これ、欲しい? あれ。{微笑む}ちょっと意外。もっと飛びつくかと思ったのに。 んふ…さすが。 {息を吸う}うん。もう調べた。 調べたけど、なにをどうやっても、ただのお酒だってことしか、分からなかった。 それでも、ずっと捨てられなくてさ。 {困ったように微笑む}、未練たらしいよね。 そっかな、ふふ……。 まぁ、要らないんなら、思い切って捨てちゃおうかな。 ? なに、やっぱり欲しい? あはは、寝る前に飲んだら、身体に悪いよ? というか、お酒ほとんど飲めないでしょ? 理由になってないっ。 うん。それを人は、飲めないって言うかなー。 ふふ……。 ……。 {軽い溜息}。 もう一回飲んで、元通り、って……ならないかなー。 ん。あぁ、ごめん。 お前が治してくれるんだったよね、このカラダ。 私が期待しなくて、誰がするんだー って、話だよね。 ぁそう? まぁ、期待しすぎるのも かわいそうか。 ぇ、ぁぁ、ホントに欲しいの? これ。 ぁ{吐息}。 {吐息}そう。 お得意の 保険? ふーん。 {息を吸う}……いいの? 酔っぱらっちゃうよ? ん。{はにかむ}それ、どういう意味で受け取ればいいの? {不満げに息を抜く}ぁーそ。可愛げないやつ。 ほめてない。 まぁでも……じゃあ、捨てるのは やめとこうかな。 ふふ。その日が来ないことを願ってる。 ね。手ぇ貸して。 ほ。 むふん。 べつに? ただのおまじない。 手ぇあったかいね。 {微笑む}、そんなことない。私は知ってる。 たまに いじわるだけどね。 んっふふ……。 {一呼吸}……。ねぇ、聞いて。 {微笑む} 私ね、出来ることなら、元の身体に戻りたい。 治るものなら、治ってほしい。 私は、魔女として生きてきた。 あんまり長い時間だったから、 もう、人間としての生き方なんて、ほとんど忘れちゃったけど……。 もし、人間として歳を取れるなら……すごく嬉しいな、って思う。 でも、その為に、お前の時間を使いたくない。 ん……。 聞いて。 {優しく微笑む}……。 この思いは、たぶん変わらない。 人間の 命の短さは、よく知ってる。 短いけど、それで十分なのも、なんとなく分かってる。 だけど、その間にできることなんて、そんなに多くないことも、理解してる。 {息を吸う}私の事なんて、いつでも諦めて良い。 私の事なんて忘れて、もっと人と出会って、いろんな事を経験して良い。 お前は頭も良いし、物怖じもしない。どこでだって、やっていける。 だから。 {息を吸う}……生きて 死ぬまで、幸せでいてくれ。 私は、お前の気持ちを尊重したい。 大事にするし、受け入れる。 だけど……、私が お前を大切にしたい気持ちも、分かってくれると嬉しい。 ……それが私の、不老不死の魔女としての、気持ちだ。 {優しくはにかむ}、うん。 {一呼吸}。 それと、ここからは、一方的なお話。 ? まだあるよ? ふふん。 私もう、魔女じゃないからね。 まあ……自分勝手な言い分だから、なんとなく聞いれくれれば、それで十分だからさ。 忘れてくれても、大丈夫。 ありがと。 じゃあ続き。 さっきの、聖水を飲む、って話だけどね。 できれば、同じ年齢くらいで飲むのが 理想だなー、って…思ってるんだ。 うん。 ちょっとの差でも、それが何十年にも なっちゃうからさ。 お互い、死んじゃうのがいつかー、なんて 分からないけど……、 どっちかが置いて行かれるのは、仕方ないでしょ? でも……それがどれだけ悲しい事か、私はよく分かってるつもり。 私なら慣れっこだけど、お前に そんな辛い気持ちには、なってほしくない。 だから そんな時間は、出来るだけ短くしたいな、って思ってさ。{微笑む}。 それにさ……えっと。これは、あくまでその時に、考えてくれれば…いいんだけどね? 本当に、このカラダが治せない、って感じた時に……、 本気で、こんなカラダになる覚悟があって……。 それでも、こんな私でも、一緒に居たいって、思ってくれるんなら……。 私、お前と一緒に居たい。できるだけ、ずっと、長い時間。 はふ……ぁあ、うん! 嬉しいな……! ありがとう。 ぁぁまぁ、えと、この聖水も? 絶対 効果があるって訳じゃ、ないけどね? 何百年もののお酒だし……。 お腹壊しちゃうかも。 はは……はッ、はへへ……。 ぁあぁあ、うん。……うん。 ごめん、一人で舞い上がってた……! ぁぁん、えっと……このおまじない、ちょっと良くないかも……。 ここまで全部は、まだ言うつもりじゃなかったんだけど……。 んんん……。 まあ、いつかはね? いつかは……たぶん、言ったと思う。 {コーヒーを二口飲む+吐息}。 {息を吸う}ふぅ。 んんんん……顔が……暑い……。 うるさいなぁ……。 んぅ……。でもまぁ、いまのが…ホントの気持ち。 なんでそんなに余裕かなー……。 こっちは200歳以上 年上なんだぞぉ…? む。おばあちゃんって言うなっ。 おばあちゃんって、ゆ・う・な。 {鼻から抜く感じの吐息}……まあ良し。 {思案する息遣い}……あれ、なんか今みたいな会話、前にもしなかったっけ。 どうだろ。そんな気がする。 んー。 {コーヒーを二口飲む+吐息}。 はぁ……。 ……なんか。 こんな感じが良いね。 うん。 ちょっと色々あったけど、 ちゃんとした いつも通りがあれば……私はそれが、一番しあわせかな。 ふふ。でしょ? ぅいしょ。おかわり淹れてこようか? ぁ、コーヒーのね。 ふふん。はーい。 ぁぁ、そうだ。 {方向転換の息遣い}。まだ、ちゃんと言ってなかったと思うんだけど……。 {息を吸う}。 ありがとう。 んっふふ。 ぅん?  んーー…………{はにかむ}。 {息を吸う}全部かな! っふふっ。