……一応、最後に聞くよ。  本当に応募していいんだね?    ほんとにほんとに、いいのね?  だって~……。  三十九回説明したくもなるよ。  どれだけ言っても『やめる』って言ってくれないんだもん。  じゃあ、三十九回目で最後にするね?  もう一度確認するよ。  『西の魔女ミネルヴァの助手になる、住み込みの短期アルバイト』応募してオッケー?  うん……。  どうしても受けるんだね。  わかった。  でも、ほんとにいいの~?  相手は『あの』ミネルヴァだよ?  じゃあ、これで本当に最後にするから!  三十九回目の説明をさせて?  ミネルヴァは、ここから三十分位行った森の奥に居を構える魔女で、アカデミー史上最年少で魔法薬師の資格を取得した人物です。  そのたぐいまれなるセンスで、これまでに数々の新薬を開発。  今後も活躍が期待される、業界の先駆者。最先端をゆく存在です。  ……ですが、その人柄はつかみどころがなく、謎が多く。  少々とっつきにくい女性として知られています。  正式な助手やスタッフはおらず。  使い魔は動物ではなく、どのように生み出したのかも不明なスライムやゴーレム。それから……植物? のみ。  それでも弟子入りを志願する者は後を絶たず、これまでその多くが、目覚ましい活躍を果たすようになったものの。  その全員が、なぜかごく短期間で彼女の許を離れており……。  また、弟子入り期間中の事を決して語りません。  さらに噂では『人間に化ける薬』を、モンスターに分け与えているとか……。  ちなみに私も以前一度お会いした事がありますが、とっても無口な方でした。  ……ね? やめとこうよ。ね?      へ?  とっつきにくいのはお互い様だからいい~……?  お互い様じゃない。似てないよ!  ぁ。……ごめん。  あんまりよく知らない人なのに、決めつけるのはよくない、ね。  もしかしたら……ほんとはすごくいい人かもしれないもんね。  ……でもね。  少なくとも、あたしはあなたの事。  『変人』とか。『付き合いにくそう』なんて思った事ないよ。  優しいし……かっこいいもん!  ……ていうか、そのせいで……。      ……あ。  ごめんね。  この話はナシだったよね。  ……ごめんね!  ありがとう。  じゃあ、とりあえずミネルヴァの事は置いといて。  お昼の速報聞いた?  国研の所長。  色んなとこから悪行ばらされて、とうとう辞任だって!  やっぱ正義は勝つんだよ。  あの人、あのお金で何しようとしてたんだろうね。  とっくにお金持ちなのに、よくわからないよね。  うん。うんうん!  こうしてあなたの告発が正しいってわかったからには、みんなお礼しに来るかもね。  『やっぱりうちに戻って来て下さい』って、お願いしに来ちゃうかも。      ……そっか。  あ~あ! どうせならあたしも見たかったなぁ。  あなたが所長をやっつける所。  こう……右手で一発、だっけ?      ……二発だった。  あはっ♪ ますます見てみたかったなぁ。  ……まぁ、国の偉い人にもパンチできちゃうあなたなら、ミネルヴァのとこでも大丈夫かなぁ。  でも、あたしとしては、やっぱりこっちの……。  魔法薬局のお仕事の方がお勧めなんだけどぉ……。  後それから、今は職探しやめて。  七月の魔法薬学試験の、受験資格とる方に集中したって、いいと思うし……。  それならうちだって、推薦してくれる人探したり。  課題薬作りの手伝いもしたりして、最大限サポートするし。  ……だってもし受かれば、状況全然変わってくるでしょ?    ……だめ?  ……っ。  そっか。  ……やっぱり、どうしてもこの仕事にするんだね。  試験は……今からじゃ、ちょっと厳しいし。  お金、いるもんね。  おうちに仕送り……しなきゃだもんね。    わかった。  しつこくしてごめんね!  そしたら……♪  はーい♪  連絡したよ。  きっと明日位に連絡来るんじゃないかな?  まだこれ、応募者ゼロなんだ。  だからすぐ、面接に来て下さいって言われると思う!  ん?  どういたしまして♪  あっ。  そうだ。もし採用になったらね? ちゃんと契約書は読むんだよ。  あなたってさ。  普段はすっごく賢くて頼れるのに。  油断してる時とか、疲れてる時とかは、急にダメな人になっちゃうんだもん。  アカデミーの頃『こんなの簡単、すぐできる』とか言って、説明書読まずに作業して。  実験室ふっ飛ばしちゃった事あったもんね。  ふふっ。それならいいよ!  そしたらさ、そうならないためにも。  今夜はおいしいもの食べて、パワーつけようね。  最近変な病気も流行ってるしさ、栄養しっかり取らないと。  すごいの作ってあげるからね。  ……後、最近眠れないって言ってたでしょ?  今夜はあたしが一緒に寝て、子守歌歌ってあげる。  えへへ。楽しみにしてて♪  後……。  あー……。  早速返事が来たみたい。  ……その。他の希望者はいないから、いつでも好きな時に来ていいって。  えぇっ?  雨降ってるよ……? それにもうお昼過ぎだし。  なんか、具合も、よくなさそうだし……。  じゃあ、せめて送……。  ……う。  ……わかったよ。これからすぐ行きますって返事しとく。  あぁ。ミネルヴァが噂と違う、す~っごくいい人で話しやすくて。  あなたの将来に繋がる仕事を教えてくれる、素敵な人でありますように!  ……気を付けてね。  待ってるからね。  後、試験の申請はあと半月位……。  五月二十八日。二時位まで受け付けてるから。  諦めないで。やっぱりもう少しだけ考えてみて!    じゃあ……いってらっしゃい!