……わかりました。  では、そのようにお手続きを進めて下さい。  二十七日に、お送りして。  ……二十八日に、本人を向かわせますから。  はい、ありがとうございます。それでは。  ……どうぞ?  大丈夫よ。もう終わった所だから。  ……そう。  四日後……二十九日からの学会の件で、担当の方とお話していたの。  ……はぁ。  知らない方とお話しするのは緊張するわね。  怖くて怖くて、通信機を持ってからかけるまで、十分以上かかってしまったの……。      ありがとう。でも、そういう訳にはいかないわ。  自分の事ですもの。自分で頑張らないと……。  それより、いかがなさったの?  そんなに急いでいらしたという事は、何か私に伝えたい事があるのではなくて?  ええ。勿論聞くわ。なあに?  うん? 見せて頂戴。  薬草の抽出法の改善案?  ……これは、貴方がお考えになったの?  いいえ。些細な発見などではないわ。  よく考えたわね。私にはない発想だわ……。  工程も、可能な限り無駄を省けるよう、きちんと練られてる。  いつも簡単なお仕事ばかりで、貴方の研究の事はあまり見てあげられてないのに……凄いわ。  ねぇ、私も実際に抽出する様子が見たいわ。  明日にでも、早速一緒にやってみましょうよ。  本当? 楽しみだわ。  ふふ。凄い。  貴方って、本当に優秀でいらっしゃるのね。  あら……。何を仰るの。  この抽出法は、貴方の功績よ。  貴方は『私の論文を参考にしたから、自分の研究とは言えない』と仰るけど。  私も、過去の文献を礎にして自分の研究をしている。  だから、これはやっぱり、貴方がお作りになった物よ。    そうよ。自信をお持ちになってね。  貴方は元々、国研に入れる程の方なのですから。      ……だからこそ、やっぱり、ここは貴方には……。  ……あ、いえ。  こちらの手順が間違っていると言った訳ではないの。  ……でも。  ……もし。  もし、今からでも。本来貴方が歩むべき道に戻れるのなら。  貴方はそうしたいと思う?  たとえば、国研をお辞めにならずに。当初の将来設計通りに働いて。  七月には予定通り、魔法薬学の試験を受ける。  そんな人生があれば、今からでも戻りたいと思う?  そんな風に、本来の夢を取り戻したいと思う事はない?  ……そう、なの?  貴方は、今の暮らしで幸せだと?  ……っ。おかしな事を仰らないで。  貴方は『終わった人』などではないわ。  今からだって、きっと沢山の――……。  ……ぁ。  ……うん。  わかったわ。  ……そうね。  この話は、ここでおしまいにしましょうか。  おかしな事を聞いて御免なさいね。    ……ううん。  とんでもないわ。貴方のお願いなら、いつでも聞きますからね。  また何かをお作りになったら、すぐに見せて頂戴ね。  ……後ね。  実は、私からもお伝えしたい事があるの。      ふふ。実はね、貴方にプレゼントをご用意したの。       そう。貴方に。  三日後……学会前日の二十八日からはアカデミーの近くに泊まるから、貴方はお留守番でしょう?  そのお詫び……と言っては何なのだけれど。  以前私が研究に使っていて、今は街の倉庫に入れている物を、貴方にお譲りしようと思っているの。  ……ふふ。詳しくは言えないけど……。  きっと貴方の役に立って、あなたが喜んでくれる物だと思ってる。  ええ。ぜひ、貴方に受け取って欲しいの。  だから……私が戻るまでは、貴方はそれらを使って、ご自身の研究を進めて。  今後について、前向きに考える時間にして頂きたいの。  ……そうしてくれたら、私も嬉しいから。      ふふ。これが鍵よ。この住所に行って、受付の方にお渡しして。  楽しみにしていてね。      ……あぁ、でもね、恥ずかしいから……できればぎりぎりに取りに行って欲しいの。  私も、直前まで準備するつもりだし。  保管期限は、二十八時の十三時。一時ごろまでだから。  二十八日、十二時前位に出る私と……街までは一緒に行って。  貴方はそのまま倉庫へ行くのはどうかしら。  うん?  ちゅ。  ……まぁ……。  ふふっ。  ちゅっ❤ ちゅっ❤ ちゅっ❤  んっふ……ちゅ❤  れんろ……ちゅっ❤  ちゅっ❤ ちゅっ❤ ちゅぱぁっ❤      ふふ、お返しよ。  そんなに喜んで頂けるなんて嬉しいわ。  私こそ、ありがとう。    でも、そんな可愛いお声を出すのはいけないわ。  『そろそろ学会が迫っているから、人間の私とは絶対にセックスしない』と仰られたのは、貴方でしょう?  このままだと私、約束を破ってしまうかもしれないわ。  ただでさえ他の私ばかり貴方と交わっていて、羨ましくて仕方ないのに……。  ふふふっ。    ええ。おやすみなさい。また明日。    ……いい夢を。