……あー……! 居た……! お待たせー……!  遅れちゃってごめんね。  あはっ。  なんかいつもと感じ違うから、すぐわかんなかった……!  ……えっ?  ……ねぇ。何。  どういう事……?  一体、何があったの?  ……。  ……なるほどね。そっか。  ……そういう事か……。  ……あ。ごめんね。大丈夫だよ。  あたしは平気。  ちゃんと職場に伝えてから来てるから。まだ十分いれる。  心配しなくていいからね。  でも……申請の方はもう時間がないから、聞くね。  このメッセージについて、いくつか聞かせて。  まず……これは、二人で話し合った結果?  例えば。『どうしても試験を受けたいから、手助けして』ってあなたがお願いしたとか。  だからミネルヴァさんは、あなたにこの薬をプレゼントしようと思ったって事なのかな?      ……だよね。  お互い納得してるなら、こんな渡し方する訳ないもんね。  じゃあ、次に。  この薬って、あなたはどの位制作に関わったの?  この話の限りだと『ミネルヴァさんとあなたが二人で作った』って風に受け取れるんだけど……。  もしそうなら。やっぱりこんな渡し方、しないよね?  え?  あぁ……。  そういう事。  この薬は半月前、あなたがあの疫病にかかった時に得られた情報から作られていて。  それからあなたも、抽出法を提案したり、一部の作業において、お手伝いしたりしたんだね。  ……じゃあ、あなたが開発に携わったっていうのも、嘘ではないのか。  ……。  じゃあ、結論を言うね。  つまり、ミネルヴァさんは、共同開発した薬の権利をあなたに譲ると言っている。  そういう経緯なら、あなたにはこの薬を自分のものとして提出できると思う。  推薦状を書いた人が課題薬の研究を……まぁ、手伝ってるのは、よくある事だし。  だから。  あなたが『そうする』って言うなら、あたしは推薦状と薬を受け取るよ。  ……だけど、あなたはそれでいいの?  それを。  それを本当に『自分らしいやり方』って言える?  ……!  そっ、か……。  ……うん。そうだよね。  急にこんな事になって、気持ちの整理、つかないよね……。  いいよ。後少しだけなら時間ある。  もう少し、考えて。  ……じゃあ、その間。  あたしの話聞いてくれる?  あたしね。ちょっとわかった事があるんだ。  ……あのね。  本当はね。今日。  一緒に『よかったね』って言うつもりだった。  昨日、連絡もらった時。  ミネルヴァさん、あたしには  『彼女が受験する気になった。二十八日の一時過ぎに貸し倉庫に行くから、そこで会って、推薦状と課題薬を受け取って欲しい』  としか言わなかったから。  ミネルヴァさん位凄い人の推薦があれば、それなりの薬しか作れなくても、十分受験資格は満たせる。  受験さえできれば……あなたなら絶対受かるし。  そうすれば、ミネルヴァさんのとこを辞めた後も、きっといい所に再就職できる。  色々あったけど……立て直せるって。      ……それから。さっき、あなたの後姿を見た時までは。  ミネルヴァさんとも、すごくうまく行ってるんだと思ってた。  だって、今のあなた。  服とか、髪とかも。すごくおしゃれだし。  『あぁ、ミネルヴァさんが色々用意してくれてるのかなぁ』って。  『あー、仲良くやってるんだなぁ』って思ってたの。  だから、初めてあなたが、ミネルヴァさんの助手になりたいって言った時……すっごい反対した事を後悔して。  『あぁ、あんな事言うんじゃなかった。ミネルヴァさんは噂なんかとは違う、すごくいい人だったんだ』って思って。  でも今は。……今は。  あんな噂が立った理由がわかる気がするよ。      ……あなたも気づいてるんだよね?  あたしがあの時話した事、覚えてるよね。  ミネルヴァさんに弟子入りを志願する人は沢山いるけど。  その多くが有名になって、沢山活躍するようになっているけれど。  その全員が、なぜかごく短期間でミネルヴァさんから離れていて。  弟子入り期間中の事を、話したがらないって。  その理由を。あなたはもう、わかってるんじゃないの?      えっ?  あっ……。  うん、聞くよ。  ……ごめんね、一方的にしゃべって。    いいよ。ゆっくり話して。  大丈夫だから。  ……え?    あ……。  ……うん。そうだよね。  うん。  あなたがミネルヴァさんを好きな事は……その、わかるよ。  うん。もう、わかってる。  うん。  ずっと友達やってるからね。  今日、あなたと話して。すぐわかったよ。  それで?  あなたは、ミネルヴァさんが好きで……。  好きだから、どうしたいのかな?  ……うん。  うん。  ……そっか。  ……うん。わかるよ。  好きな人のお願いは聞いてあげたいもんね。  ……それが、自分にとっては辛い事でも。  『いいよ』って言ってあげたいよね。  だから、迷ってるんだね。  『彼女の言う事の方が正しいのかもしれない』  『今回は従った方が、みんな幸せになるのかもしれない』って……。  でもね。  それはきっと、ミネルヴァさんも同じだよ。  彼女だって、自分が正しいかどうかはわからないまま。  それでも推薦状と薬を作って、悩みながらあなたに渡したんだと思う。  ……あたしは正直、このやり方好きじゃない。  ちょっと勝手だなぁ。あなたの気持ち考えてほしいなぁって思うし……。  でも、ミネルヴァさん自身、それをわかってて、覚悟の上でやってるのは、わかる。      つまり彼女は『正しい方』じゃなくて『したい方』を選んだんだよ。  だから……あなたにも同じ事をする権利がある。  ……あなたは、どうしたい?  うん。あなたの気持ちを聞かせて。  うん。    うん。  ……うん。そうだよね。  あたしもそれがいいと思う。  話しておいで。ミネルヴァさんと。  よし、決まり。    そう。追いかけよう。  何が本当に『貴方らしい』事なのか、あなたが直接伝えるの。    ミネルヴァさんって、学会には前乗りしてるんだよね。  じゃあきっと、今頃ホテルでゆっくりしてるはずだよ。  今から汽車に乗って現地まで行っていけば、全然会えると思う。  はい、鞄開けて。  これ、町の地図。  ホテルは、ここ。  で、こっちは飲み物とお昼ご飯。  あたしのでごめんね。  それから、持ち合わせ足りないと困るから、お金ね。  次会う時に返してくれたらいいから。      んー?  えー?『何で知ってるの?』なんて聞いちゃうの?  ふふ。前に通信した時言わなかった?  この学会。うちも手伝ってるんだよ。  でもって。うちの地区から行く人のホテル手配したのはあたしで。  明日から現地行くから、汽車のチケット持ってるのもあたし!  ふふ。本当はこういうの、教えたり、渡したりしちゃダメなんだけどね。  でも、やっちゃった!  さぁ。急ごう。  ここでただ泣いてるなんて、ちっともあなたらしくないよ。  あたしの知ってるあなたに戻って。  ……納得できない事に『いいよ』なんて言わないで。  そう。その意気。  ……気を付けてね。  いい報告を待ってる。  じゃあ……いってらっしゃい!