ネタバレがありますので、本編終了後にどうぞ! (視点は、「オリジナル」の貴方の視点となります) *******************  「行かないで! 一人にしないで」  栞は泣いていた、大声で、綺麗な声がかれてしまいそうなくらいに。 それを見て、私は笑う。 最後まで、綺麗な姿でいたいから。 魔法が融けてしまってもずーっと、私の事だけ思ってくれるように。  「貴方には、生きて欲しいの!」    今にもフェンスをよじ登ってきそうな勢いで、彼女はフェンスに手をかける。 きっと、5秒もあれば彼女は私に辿り着くだろう。 そしてきっと、一緒に死んでくれるかもしれない。 いや、きっとそうだろう 彼女は――栞は、私に心から囚われているのだから。  ――でも、私は彼女を連れて行かない。  いつだって、栞は私の傍にいてくれた。 私にこの「異能」が覚醒してから、栞とはずっと一緒だった。 研究所の中でも。生物兵器、KILLER(キラー)が散布されて、この世が地獄に変わっても。 この国が崩壊しても。 彼女は甲斐甲斐しく、私に仕えてくれた。 シナガワに私の居場所を作って、私を王にして。 私がこの世界に存在してもいいと、彼女は示し続けてくれた。。  栞は私を愛してくれた。  でもそれは、私の「異能」に彼女が囚われているだけなのだ。 私は初めて会った瞬間から、ずっと彼女を「魅了」し続けている。 彼女が私の事を深く愛してくれているのは、私の「異能」が彼女を支配しているからだ。  何度も大事そうに唇を重ねてくれるのも。 壊れる程、激しく私を抱くのも。 私が眠った後、布団をかけてくれるのも。 眠れない私に頬を重ねて、愛していると言ってくれるのも。  全て――。私の「魅了」の力によるものだ。 私が「異能」を失えば、きっと、彼女は正気に戻って、私から離れてしまうだろう。  最近、自らの力に揺らぎを感じる。 「魅了」がコントロールできない。出力が安定しない。 自分の力が縮退しているのが何となくわかる。  きっと、早晩。私の「異能」は消えてしまう。 そうなれば、このシナガワも護れないし、栞も離れてしまうだろう。 そんな地獄で、私は生きていくことはできない。  「――栞。いい子だから、そこに座っていて」    最後の力で栞に「魅了」の力を行使する。 決して、彼女が「風」の「異能」で私を救わぬように。 私の「魅了」に囚われた栞は、トロンとした表情になり、膝を折る。 それを確認し、私はビルの上から身を投げる。  さよなら、栞。 貴方に捨てられてしまうくらいなら――。 私、貴方の永遠になりたかったの。 *******************