気が付いたら懺悔の念に満ちた光に飲み込まれていた。 あばら屋の中は劣悪だった。 刺さるように冷たい風が壁の切れ目から吹きすさび 乾いた硬いパンと水のように薄い冷めたスープが投げ捨てるように置いてあった。 やせ細った体でベッドに横たえられた彼女の命は残り少なくないというのが見て取れる。 薄く開いた乾いた唇で懺悔を呟く彼女。 その瞳はかすかにしか物事を映していない。 『ずっと懺悔を唱えていたのか……』 指先に絡まるロザリオを力ない手で握りしめて懺悔する。 丈夫じゃなくてごめんなさい 神様の試練に耐えられない体でごめんなさい お父さんとお母さんに悲しい顔をさせてごめんなさい はくがいを受けるのは私だけでよかったのに 生まれてきてごめんなさい 神様、どうか私以外の家族だけは祝福を……。 繰り返される言葉は茫然としておらず切実な願いが込められていた。 力になれないか、と思うことも難しいほどに彼女の体は死に魅入られている。 美しい魂のまま死せる娘の魂を掬いあげることがせめてもの情けか。 ふいに片手を細い枝のような手に捕まれる。 「……君は美しいね」 本心から出た言葉だった。 悪魔として人をかどわかすこともできた、しかしそれをせずに神を騙るように彼女に期待をさせた。 静かに涙をこぼす彼女と抱き合い、ぬくもりを与え、分かち合う。 ツンと冴えわたる朝の空気のように彼女の心は清廉だった。 涙がこぼれるほどに美しく清浄な魂を抱く。 それがこれほどまでに心地よいとは知らなかった。 抱き合いながら涙をお互いに拭い合う。 そう、私たちは優しさに対してこんなにも脆かった。 柔らかな春の風に髪を揺らす彼女に涙を拭われる。 どうしたのかと聞きたそうな顔は以前とは違いふっくらと年相応に丸みを帯びていて健康そのものだ。 「いや、昔のことを思い出しただけだよ」 零れた涙を指先に乗せ、唇でキスをする。 彼女の無垢な瞳とその仕草に笑みが浮かぶ。 「私で本当によかったのかな」 純白のワンピースをひらひらと春の風にたなびかせながら嬉しそうに手に懐く。 彼女の瞳は言葉はなくともよく語った。 「愛しているよ」 親愛なる妻へ純白なる口付けを。 頬に捧げたはずなのに、抱きつかれて唇も貪られた。