本編と続編の間のお話になります。 時系列としてはSS「変わったかもな」の後になります。 本編を視聴後にご覧ください。 ****************  「わー、こんなに星が近いなんて」  「星、好きだっただろ? 一緒に来たかったんだ」    2カ月前。 少しだけ、先生とすれ違った。 セックスしている最中、これ以上は続けたくないって――私が意思表示をしたのだ。 私だけイカせてもらっておいて、セックスを途中で止めるのもどうかと思ったけど。 やっぱり、私は嘘を吐きたくなかった。  先生は、辛そうな顔をしていた。 何か多分、私に言えないことを抱えているんだと思った。 それは、仕事のことかもしれない。プライベートのことかもしれない。 私にはわからないし、話すまで聞いてはいけないんだと思った。 ――先生はそれを、多分セックスで薄めようとしていたんだと思う。  薄まるようなものであれば、それはそれでよかったけど。 ――私を抱く先生の顔が少し苦しそうで。 だから私は、それに逆らった。  あれから2カ月。私達はセックスをしていない。 先生とのセックスは好き。でも――。私は先生にセックスに溺れて欲しいわけじゃない。 ――上手く言えないけど、私達は肌を重ねるところから始まってしまったから。 肌を重ねないことも大事なんだって、思った。  普通に会話をして、お茶を飲んで。 仕事の話をして。映画を見て。――何気ない日常を、何気ないよう過ごす。 そう言う2か月だったと思う。  そして、先生から3日前に連絡があったのだ。 「星が綺麗に見える場所に行かないか」と。  それが、このグランピング施設だった。 手が届きそうな程に空の近さを感じる場所で。――私は先生と今、バーベキューセットを囲んでいる。 目の前でじゅーっと美味しそうな音を立てたお肉が、網の上で横たわっている。  「昨日、引き払ってきた」  「??」  「セラピールーム」  「はぁ?」    全く聞いていない。そんなこと全く知らなかった。 いや、先生の様子だと、私は分かっているという感じで話が進んでいそうだ。 だから、何があったのか、2カ月前のあの夜を思い出す。  『俺は、俺のして来たことを精算する』    あの言葉の意味は、そう言うことだったのか――と、今気づく。 焼け始める肉。周囲の野菜もいい感じに焼けてきて美味しそう。でも、それを取る心の余裕がない。  確かに、待っているって言った。 それは、借金とかそう言うことなのかなって思ってたし。 他に付き合っている女の子がいるんだろうなと思ってたし。そう言うことだと、認識していた。 だから、精算するって言われた時。「待ってる」って言った。 それは確かに、あの時。ちょっと悲しくなって。私だけじゃないんだって思ったらポロポロ泣けちゃったけど。 分かってて、好きになったし。覚悟して、恋人になったから。 それは、それで受け入れてたのに。  先生は、精算してきたんだ。色々。色々。    でも、それが嬉しいと言うよりは、私の頭の中で心配の方が先に立つ。 ――先生、セラピールームやめちゃって、生活大丈夫なんだろうか。 車の維持費とか、マンションとか。どうするんだろう。 色々ぐるぐるぐるぐる、頭の中が混乱して回った後。 私は、お皿と箸を持ったまま、木製の椅子から立ち上がる。  「分かりました! 私が養います!」  「待て、何が分かったんだ。いいから座れ。肉焼いてる最中なんだ、立つと危ない。後お皿出せ」  「――はい」    言われた通りに座って、お皿を先生に渡す。 先生は少し笑いながら、トングで美味しそうなお肉といい感じに焼けた野菜を私のお皿に載せてくれる。 「冷めないうちに食べてくれ」と先生は苦笑しながら、私に食べることを促す。 でも、心配な私は箸を動かさずに先生の顔をじっと見つめる。  「――仕事はもう見つけてある。アスリートのメンタルケアの仕事だ」    良かった――。安堵したらやっとお肉を食べる気持ちになって。 もぐもぐと分厚いお肉を口にする。フィレ肉、とっても美味しい。 さすがグランピング。    「遠征で、少し海外に行くことになると思う。――寂しい思いをさせるかもしれない。でも必ず帰ってくる」  「待つのは、得意ですから」    2カ月前と同じ言葉を口にする。 あの時の様な悲しい気持ちは一欠片もない。 この人はきっと、私の所に帰ってきてくれる。そう――なんだか、確信めいたものを感じるから。    「あぁ、帰ってくるよ。――さぁ、俺も肉食うぞ。美味そうだからな」    先生も安堵した表情で網からトングで肉を自分の皿に置き、それをフーフー言いながら食べる。    「美味いな」  「サイコーです」  「追加するか? 俺の奢りだ」  「――いいんですか?」  「あぁ、罪滅ぼしでもあるしな」    景気よく、持ってきたワインもポーンと開ける。 ――きっと先生がいない間、ちょっとはまた寂しいんだろうけど。 お星さまの下、明るい笑顔をしている彼が大好きだから。――私は彼の背中を押して、待とうと思う。  待つのは私、得意だから。