本編と続編の間のお話になります。 時系列としてはSS「帰る場所」の後になります。 本編を視聴後にご覧ください。(当サークル別作品、「Noir-暗闇の中で-」のオーナー→先生のお話となります) ****************  「最近変わったよね」  「そうか?」  「セラピールームを畳むんだって?」  「何で知ってる」  「君の所に紹介したお客さんから聞いたよ。――君に遊んでもらえなくなったから、いい男紹介してくれって。何? 本命できたの?」  「まぁな」    学生時代のシェアハウスでルームメイトだった男が、久しぶりに僕の店に来た。 僕は本店の方にいたのだが、彼が来てくれたと店のスタッフから連絡があったから、急いで徒歩10分かけて支店のバーに足を向ける。 まぁ、本店は会員制クラブ。――その中で行われているのはいかがわしい乱交パーティだ。 女に困っていない彼が来るところじゃなかったから、支店のバーに来たのは頷けるのだが。  ドアを開けた瞬間、雰囲気が変わっていて驚いた。 何と言うか、柔らかくなったのと。少しだけ、疲れたような気がして。 それで先日、本店の方で男を漁っていた女の一言とやっとリンクしたのだ。  「畳まなくても良かったんじゃない? 結構儲かってたでしょ?」  「俺がもたん」    意外だな、と思った。 元々学生時代から年上にモテるヤツだったし、そう言うのは切り分けられる男だった。 僕みたいに、あまり他人に興味がないわけでもなく。 もう一人のルームメイトの光一みたいに、一人の女にのめり込むタイプでもない。 中庸で、バランスがいいタイプ。そう思っていたのに。  「意外だね。これはこれ、それはそれっていうタイプだと思ってた」  「じゃ、お前は今、他の女抱けるのかよ」  「ん−、必要であれば。――でも、僕じゃないといけない女なんて。この世界の一人しかいないよ」    僕に惚れたとしても。それが身為だけであれば。他にいい男なんてごまんといる。 それを動かして、宛がってやれば僕が動く必要はない。 だから、僕を求める女はたった一人で。 僕が求める女も、たった一人なんだ。  「――彼女に沈黙することで、嘘を吐くってのが嫌になったんだ」  「ホント、光一も君も。真面目さんだよねぇ」  「俺達は、まぁ、そうは言っても一般人だからな」    僕は口元を隠して小さく笑う。 そうだ、彼等と僕との間には明確な境界線がある。 彼等はまともな一般人。僕は法の外側の"闇の淵"で生きる人間。 その物差しが違うことを悲しくは思わない。 それでも、僕達は友達でいられるから。  「で? 僕に会いに来た理由は?」  「別れ話がこじれそうな女が2人ほどいる。 両方とも、セックスまでは至ってない、元クライアントだ」  「OK。彼女の身の安全の確保と、後は別れさせ屋な的な者を準備すればいいかな? あ、準備するのは男でいいんだよね?」  「俺は、女しか興味がない。ってことで、相手も女だ」  「OK。それじゃ、店の奥来てよ。――細かい話をしよう」    どうせそんなことだろうと思った。 彼が僕を頼るときは、もうどうにもならなくなった時だ。 僕は法の外側の"闇の淵"で生きる人間。金で動かせるものは何でも動かせる。  「――3割引きにしてあげるよ。友達だからね」  「どーも。――株全部うっぱらうから、何とかしてくれ」  支店の奥の部屋に彼を通しながら、僕はバーの棚からウィスキーを拝借する。 ジャパニーズウィスキー。最近では、手に入りにくいそれを手に取って。 グラスとアイスペールを後で持ってくるように部下に伝えると、奥の部屋に足を向ける。  さぁ、数少ない友達のお願い。――ま、叶えて上げようじゃないか。