ネタバレがありますので、本編視聴後にご覧ください。 グッドエンドの前の時間軸のお話です *****************  鳴り響く音。押し寄せる光の渦。見慣れた空間。 わかってるんだ。これが求めていたものじゃないことなんて。 俺が探していたのはこれじゃないし、こんなこといつまでも続ける気もなかった。  「涼介はさ、もう就職決まったっけ?」  不意に仲間に問いかけられて、曖昧に笑う。 ――ここが潮時なんだ。そう、自分でわかっていた。  「うん、決まってる。これからちょっと忙しくなりそうだけどさ、また遊ぼう」    その「また」が来ないことは、きっと誰も気づかない。 俺がいなくなっても、きっとここは変わらない。 今日も明日も、明後日も、笑って過ごすんだろう。 サークルのメンバーが変わっても、このサークルのノリは変わらないんだろう。 明日のことなんか忘れて、ただただ騒いで。 未来のことから目を逸らすためのサークル。 それが、ここなんだから。  でも、俺にはもう、「ここ」は必要がない。  クラブの外に出て、俺は深呼吸する。夜の空気は少し冷えていて。 夏が過ぎ去ったことを酩酊した俺の頭に強制的に教え込む。  父さんからの着信履歴に指を滑らせて、折り返しかける。 遅い時間だというのに、2コールほどで父さんは電話に出てくれた。  「よぅ、涼介。まだ、遊んでんのか? 終電あるうちに帰れよ?」  「父さん。――この間の話、受けるよ。俺に、商売を教えてくださいっ!」  「――そっか。どういう風の吹き回しだ?」  「――すっごく好きな子ができた。だから、キチンとした生活をしたい」  「そっか。まぁ、お前のセンスは俺達も欲しいから。商売のやり方教えてやるから、明日から来い」  「――わかった。よろしくお願いします!」  「根を上げるなよー。こちらこそ、よろしく。じゃーな」  断り続けていた父さんの申し出を受けたのは、好きな女の子ができたからだ。 俺と遊びじゃなくて、真っ直ぐに付き合ってくれる子。 パリピな生活に流されちゃうかなと思って、出会って半年見ていたけど。 彼女は結局、本当の意味で流されなかった。  彼女は裕福じゃなくて。暮らしも質素で。 でも、頑張り屋さんで。作ってくれるご飯がおいしくて。 ――気づけば、あんまり遊び歩かなくなっていた。 このイベントサークルからも、いつの間にか足が遠のいていた。  今日ここに来たのは、皆に心の中でさよならを言うため。  指を走らせ、彼女にダイレクトメッセージを送る。  「俺、これからちょっと忙しくなるけどさ。ちゃんと毎日メッセージするからさ。――俺のこと、待っててくれる?」  数分後、既読になったメッセージに添えられた肯定のスタンプ。 俺はそれを見て笑いながら、スマフォをポケットの中に入れた。