肌を刺す冷気が和らぎ、春の訪れを感じる日々。  青春を謳歌する者たちは、いつにも増して騒がしい。  学生や社会人を問わず、この季節は多くの変化が起こる。僕らに当てはめて言えば、間もなく行われる卒業式での『別れ』があって、そして入学式を終えれば新たな『出会い』が始まる。勉学に加えて、他者との繋がりを重んじる彼らにとっては、大切な時期なのだ。  何て愚かで、下らない連中だろう。  しばしば、人間は一人では生きていけないと言われる。  だがそれは間違いだ。  単に、孤独を楽しむ方法を知らないだけ。  例えば、そう──────。  愛読書を片手に、空想の世界に耽り。  僕を蔑む奴らを懲らしめる方法を考え。  マスクの下でニタリと嗤いながら。  『学園のお姫様』を眺める、とか──。 「そうっ。在校生代表で挨拶することになって──」  白い手を口元にやり、照れ臭そうに微笑む彼女。  その小さな所作からも、育ちの良さが窺える。  僕とは違う世界を生きている。まさにお姫様。  春の温もりを帯びた風に揺られて揺蕩うのは、艶やかな黒髪。一本一本、毛先まで潤いに満ちた高貴な質感。それらの束が揺れ、ふわり、と甘い香りが舞った。彼女を取り囲む連中のみならず、教室中の男子の意識が奪われる。当然、僕も読書に集中できずに、鼻孔を膨らませた。清楚可憐。その言葉が相応しい、彼女の極上の匂いを──すん、と嗅ぐ。  冬服。紺色のブレザーに包まれた肢体は、遠目から見ても『柔らかさ』に溢れていた。細身でありながら、女性らしい曲線を描いている。下半身も同様だった。透明な声を発する度に、健康的に肉付いた臀部を隠すプリーツスカートがひらひらと踊る。黒のタイツで包まれた両脚も素晴らしい。太腿はむっちりとしているのに、足先に近付くにつれて細くなっていく理想的な美脚に、思わず生唾を飲む。あぁ……やはり、あまりにも可愛い──。 「緊張するけど、それ以上にやりがいを感じられるから……。  卒業する先輩の心に届くように、精一杯頑張らないと……。  ふふっ。うん。りーくんも応援してくれてるの──」  心なしか、最近どうも色っぽくなった気がする。  僕との『経験』のお陰なのか。それとも──?  漆黒の刺々しい感情に舌打ちをしてから。  例の、爽やかな男子生徒を思い浮かべる。  嫉妬。憎悪。心が濁っていく。  しかし僕は、すぐに冷静さを取り戻した。  文庫本を閉じて、スマートフォンを握り締める。  震える指先で『とあるアプリ』を起動した。  偶然入手した、あの『催眠アプリ』を──。 「…………姫宮小春さん……」  ぼそっと。彼女の名を呟いた瞬間。  背筋に電流が走り、『記憶』が脳を駆け巡った。  去年の夏休み──『催眠アプリ』の機能が本物かどうか、孤独な実験を重ねた。その過程で得られた確証を胸に、始業式後の九月上旬、姫宮さんに初めての催眠を仕掛けた。周囲にはピアノのレッスンだと嘘を憑かせ、僕だけの『性処理メイド』を演じさせた。そして、見詰め合いながらキスをした。乳首やお尻を舐めさせた。処女を奪った・・・・・・。騎乗位で奉仕させた。肉体を密着させた甘い体験。姫宮さんを手にしたという感覚があった。それが『偽り』だと気付かずに、告白をして──失敗した。だから、もう一度犯した。小さなお口に無理やり陰茎をねじ込んで、腰を振った。窮屈な膣をハメ倒した。他でもない『本物』を求めて──。  ──────。 『そんなの……知らないよ……。  何度言われても、キミとは付き合えない、から……。  お願い、だから……もう、やめ……て──……っ』  ”ぎぃぃぃ──ぃイイ──んッ──♡♡” 『っ゛っ……♡ ふっ♡ ん゛ぎゅッ……♡  おっ……♡ お゛っ♡ お゛、お゛ぉ……♡  い゛……や♡ やめっ♡ へっ♡ え゛ぁ♡』  ──────。 『……はい。ご主人様。ご条件を、復唱いたします』  可憐な声音。それから、いやらしい舌なめずり──。  濡れた唇が機械的に動き、現実離れした言葉を滔々と紡ぐ。 『私……姫宮小春は、一人暮らしをするご主人様の家へ、週に3日、通いのメイドとして行動します。メイドの仕事には、掃除、洗濯、炊事、排泄……全ての家事の他に、ご主人様の性処理も含まれます。……はい。性処理は、性行為とは異なります。ご主人様のお射精のための、メイドの大切な仕事です。……また、ご主人様のことは、クラスメイトではなく、ご自宅でしか会わない別の男性として認識します。メイドとしての仕事は、該当時間以外にはピアノの習い事と自己認識し、家族や友人にも同様に説明し、行動します。平常時は、メイドとしての記憶は取り出すことができません。……以上となります』  ──────あぁ。  思い出すたびに、虚しさがどっと溢れる。  結局、僕のこの手には、何も残ってはいない。  『僕だけの性処理メイド』なんて、幻想である。  そう思い知らされたというのに、僕は──。 「…………あっ────」  姫宮さんと目が合った。  けれど、すぐに視線を逸らされる。  ……明らかに、避けられていた。  数か月前のあの日。『二回目の告白』に怯えられた上に、しつこい、と拒絶されて以降、冷えた態度をとられているのだ。理由は分かっていても、胸が、痛む。 「……ッ……」  僕を忌避して、仲良しな男女グループとの会話に夢中になるその姿に──苛々する。時折、こちらを盗み見ては、不安げに俯いたり、肩を震わせて怖がったりする様子に──腹が立つ。誰にも愛される『お姫様』に嫌われてしまった事実が、心に重たくのしかかってくる。  どうすればいいのか。正解が分からない。  だから僕は、未だ『偽り』に浸っている。  週に三日。親や友人にピアノのレッスンだと言い、僕の家を訪れる『ヒメミヤコハル』と愛しあっている。こんな僕を『ご主人様』だと崇め、自らセックスを懇願してくる『偽物のお姫様』を抱いている。もう、これしか残されていない。決して、後には引けないのだ。  陽が傾く。帰りのHRが終わる。  がやがやと賑わい始める教室の片隅。  僕は歯を食い縛り、姫宮さんの横顔を見詰め──。 (姫宮さんは、僕だけの性処理メイドなんだ……。  絶対……絶対にそうなんだ……だから……っ……)  ──今日の『ご奉仕』も楽しみにしてるからな。  ふーっと鼻息を荒げて、急いで席を立った。 「えっ……。悩み事でもあるのかって……?  ふふっ。心配してくれたんだ。ありがとう。  やっぱり、りーくんは優しいなぁ……。  でも大丈夫だよ。私はいつも通りだから。ねっ?  最近、ちょっとだけ疲れが溜まってるだけで──。  ────あ。そろそろレッスンの時間だ……。  じゃあ、私は先に帰るね。うん、ばいばい。  また明日──学校、で────……っ……」  ”ぎぃぃ──ぎッきィ────ン──ッ……♡♡”  ”ぎィン♡ぎィン♡ぎぎッ♡ぎィ────ッ♡♡” 「えッ……やだ──何、この音……ッ……?  ッあ……♡ ……んッ……ぉ……あ゛……♡  い゛っや……♡ 嫌ッ……♡ 嫌ぁ──ッ♡♡  ……ふぅ……♡ ふぅ……♡ ん、ふぅ──♡  あぁ──早く『ご主人様』のお家へ行かなくちゃ……♡」    ◇   ◇   ◇  ばくん。ばくん。ばくん。  学校生活で疲弊した心臓が、強く鼓動を刻んでいた。  『この瞬間』だけは、何度味わっても飽きる事はない。  宵闇を背に、ぎぃぃ──と玄関の扉を開くと──。 「お帰りなさいませ♡ ご主人様っ♡」  可憐な笑顔を咲かせた姫宮さんが、出迎えてくれた。  しかも、予め指示しておいた『僕好みの衣装』で。 「お待ちしておりましたっ……♡」  レース付きのカチューシャに、露出度の高いメイド衣装。瑞々しい肩も、胸の谷間も丸見えだ。おへそも晒されている。女性経験の乏しい僕には、刺激が強すぎるコスチューム。そんな姫宮さんは、嬉しそうな顔のまましゃがみ込んで、僕の革靴を揃えてくれた。  高級感に溢れる、貞淑な手つきだった。  学校での冷たい態度とは真逆。  僕だけを信奉する、盲目な淫乱メイド。  背筋を伸ばした彼女が、身を寄せてきた。  桜色の唇を開き、甘い香りを漂わせる。 「予定より遅かったので、心配したんですよ?♡」 「あぁ……ごめんね。少し寄り道をしてたんだ」 「んもぅ……♡ ご主人様ってば……♡」  ぷくり。姫宮さんが頬を膨らませた。  その上で両手を腰に当て、ぷりぷりと怒ってみせる。  完璧に躾けられた従順なメイドとして、口にはしないものの、その顔には「一秒でも早くご主人様のお顔が見たかった」と書いてあった。現実での本物の恋を忘れ、虚構の淫欲に塗れている。そうやって、好感度MAXで僕に傅く姫宮さんの姿に──母性たっぷりの甘い一時に──限界を迎えた僕は、姫宮さんのちまっとした両肩を掴み、勢いよく顔を近付けた。 「──んむっ……!♡ む゛ぐ、ひゅっ♡  ごひゅじんっ、ひゃまぁっ……?♡  やらぁっ……♡ いきっ、なりぃ……♡♡」  弾力ある唇を奪い、素早く舌を滑り込ませる。  ミントの香りがする口腔内を舐り尽くす。 「んぶもっ……♡ んぢゅっ♡ ふゅぅっ♡  ちゅっぱっ♡ ちゅ♡ んぢゅるるぅ……♡」  強引なキスにも応じてくれるその優しさに付け込んで、歯茎を舐め回した。姫宮小春の唾液。吐息。舌。それらの感触と匂いを容赦なく堪能して、僕の色で侵していく。 (姫宮さんのお口、ねばねばであったけぇ……)  去年の夏以降、姫宮さんとは何度もベロキスをしてきた。  慣れた温もり。とろとろの涎。甘美な匂い。  驚いていた姫宮さんも次第に落ち着いていって、僕とのキスに夢中になる。細長い舌を絡めてくれる。至近距離で熱い眼差しを注いでくれる。今日、学校で感じていた不安が一気に解消されていく。悦び。幸福感。快楽。麻薬じみた感覚で、頭が染まっていく。  ──ちゅぱむちゅちゅれぇるれろれろれぇあ♡  ──むっちゅぅぅ……♡ちゅっぱっ♡れぇる♡  いつしか僕らは、互いの腰に手を回していた。  仲睦まじい恋人同士のような接吻の最中、僕は──。 「いつもみたいに口を開けっ……」  荒々しい命令にも、素直に従ってくれる姫宮さん。  僕を見上げて口を開き、紅色の舌を突き出した。 「んぇぁ……はぇぁ~……♡」  その、無防備な美貌を凝視しながら。  少し背伸びをして、唾液を咀嚼し泡立てる。  そして、彼女の『お口』へと──垂らしていった。 「ふみゅぉ……おっ……ふぉっ……♡♡」  重量感のある涎の塊が、太い糸を引いて落ちていく。清潔に保たれた姫宮さんの口腔内が穢れていく。「ぶっ、ぶっ──」道端に痰を吐き捨てる不良のように、執拗に注ぎ込んだ。小柄なお姫様を『痰壺』扱いしている事実に、愉悦が湧き、腰の辺りが痺れていく。 「ん゛っ……♡ あッ……♡ んぇあっ……♡  んれるぁ……れぇる……んれぁれろぉ……♡」  当たり前のように、一滴も零す事なく受け止めて。  顎を上げたまま、舌先で唾液を掻き混ぜてから。  僕の指示を待たずに、鼻から息を吸って──。  ────ごっ……きゅん……っ♡♡  繊細な喉を波打たせ、僕の唾液を飲み込んでいく。  華奢な身体を震わせる。唇を開き、大きく息を吐く。  やがて、まっさらになったお口を見せつけてくれた。 「ご覧くだふぁいまへ、ごひゅじんさま……♡」  綺麗な並びの歯を、麗しい唇を、舌でぺろりと舐める。  僕の汚らしい唾液を嚥下したと、暗に示しているのだ。  献身的な姿勢は勿論の事、以前と比べ、積極性が増していた。それが堪らなく幸福で、だからこそ胸が痛む。ふと、姫宮さんに二度目の告白を断られた時を思い出す。邪悪な欲望に憑りつかれていた僕は、勢い余って、『キスをする度にご主人様に恋愛感情が湧く』という催眠をかけてしまった。だが、その後の『偽りの告白』に耐えきれなくなり、キャンセルした。僕は、当時から何も成長していない。自嘲気味に笑う。悪人になり、姫宮小春を支配したいのか。善人ぶったまま、本物の恋愛をしたいのか。自分でも『自分』が分からない。  だから。嘘と欲望に、依存し続けている。 「あぁそうだ。姫宮さんに見せたいものがあって──」  彼女の腕を引き、リビングへと連れ込む。  そして、TVの電源を入れ、スマホと接続した──。  親の金で買い与えられた大型TV。  そこには、僕の家の脱衣室の様子が映し出されていた。画面の右下に表示された数字が示しているのは、本日の日付と、数十分前の時刻。  そう。これは『盗撮カメラの映像』だ。  換気扇の音だけが響く、無人の脱衣室。  やがて、小さな人影が現れた。  ────姫宮小春さんだ。  制服姿の姫宮さんが、まずは紺色のブレザーを脱いだ。クリーム色のベストが露わになるのと同時に、内側に籠っていた熱気が漏れ出る。僕の家まで急いで来てくれた証拠だ。そして、やや乱れた黒髪を気にする素振りを見せてから、透明な指先でブラウスのボタンを外していく。ぷちぷち。ぷちり。薄っぺらい布地が剥がれると、彼女の素肌が零れ落ちて──。 「──もうっ……♡♡」  その瞬間。  熱く隆起した股間に、姫宮さんの手が置かれて。  軽やかな手つきでベルトを外されていった。  ぶりん。力強く飛び出した陰茎を──凝視される。 「いくらご主人様とはいえ、私が着替えている様子を盗撮するだなんて許せません……♡ お仕置き……しちゃいますので……♡ 覚悟してくださいね……?♡ ふふ……♡」  甘い声で囁いた姫宮さんが、自らの掌に舌を這わせた。  れぇ──ろぉ~~っ♡と、ねっとりと舐め上げていく。  これは、彼女なりの手コキの下準備だ。利き手である右の掌に唾液を塗り、滑りを良くしているのだ。『ご主人様』に少しでも強い快楽を与えるための、下品な気遣い。三月の夕方、灯りをつけていない暗がりの部屋で、ぬらぬらと淫猥な光沢を帯びたその『手』が──僕の陰茎にぬっちゅりと絡みついて──間髪を入れず、ゆったりと上下に動き始めた。  ちゅっこ……♡ちゅっこ……♡ちゅっこ……♡  僕の家。姫宮さんと二人きり。  ソファに凭れて『手コキご奉仕』を受ける優越感。  それも、姫宮さんの『お着替え盗撮』を視聴しながら。 「あっ……♡ やだ♡ ここって……♡」  ちょうど、スカートを下ろすシーンだった。  薄布が足下に落ち、まっしろなお尻が晒される。  まるで白桃のようなそれは、桃色のショーツで包まれていた。  姫宮さんが一度深呼吸をして、鏡と向かい合う──。  この世の真理を微塵も知らぬ愚かな集団──『陽キャ』と呼ばれる連中と学園生活を共にしている彼女の制服が、全て脱ぎ捨てられた。かと思えば、その場に膝をついて、丁寧に畳んでいく。洗濯カゴの中にある、メイド衣装にちらりと視線を配りながら。  控え目ながらも確かな色気のある、純白の身体。  僕は、血眼になって姫宮さんの素肌を眺めていた。  口を「ほの字」に開き、ぐいっと腰を持ち上げる。 「んっ……♡ ご主人様の、ビクビクってしましたね……♡ 私の下着姿がそんなに興奮するんですか……?♡ ふふっ♡ そうお褒め頂けると、嬉しくなっちゃいます……♡ 盗撮されてるのに、ご主人様にならもっと見てほしいって思っちゃうんです……♡♡  こんなの……おかしい──ですよね……♡♡」  盗撮で興奮する僕に、愛情たっぷりの視線を注ぐ。  改めて、『催眠アプリ』の都合の良さを実感していた。  催眠を施せば、下劣な犯罪すら許容してくれる。日々勉学に励み、ノートに綺麗な文字を綴るその指先で、僕なんかの汚いちんぽをシゴいてくれる。幼少期から嗜んできたピアノも、大学進学後に挑戦したいと言っていた伝統芸能も、もう必要ない。このまま一生、瞳を淫らなピンク色で染めたまま、僕だけに隷属していればいい。そのように早口で言いながら、むぎゅ、と身を寄せてくる姫宮さんの頭を撫で──麗しき黒髪を摘まみ──その匂いを嗅ぐ。 「うっわ……姫宮さんの髪の毛、めっちゃいい匂いする……。お高いシャンプーでも使ってんだろうなぁ……。あぁ、良いこと思いついた。今度は入浴中を盗撮させてもらおうかな」 「やぁっ……♡ だめですよっ……♡♡」 「ははっ。嬉しそうな顔しやがって。説得力がないぞ」 「むぅ……♡ ご主人様のえっち……♡」  TVに映る下着姿の姫宮さんが、メイド衣装を着始めた。ほとんど水着のような、セパレート型。程良い膨らみの胸を包めば、むぎゅ、と谷間が形成される。続いて、腰にスカートを巻いた。黒タイツとの兼ね合いも考慮して、最も色気のある太腿の一部分──絶対領域と呼ばれる場所──がチラリと見えるよう、入念に丈の長さを調節する。仕上げに、フリルカチューシャをつけて、か細い首にリボンを締めたら──いよいよ、完成だ。  清楚可憐な制服姿の『学園のお姫様』から。  僕を悩殺する扇情的な『性処理メイド』へ。  盗撮されている事を知らぬ姫宮さんは、鏡に向かって笑顔の練習をしていた。そのままスカートを摘まんで、中身まで見せびらかす。着替えの途中で目にした、桃色のショーツだ。メイドらしいスカートに覆われているだけで、下着姿の時とは全く異なった卑猥さを放つ。『ご主人様に喜んでもらえるかな……♡』不安げな呟きが聞こえ──盗撮映像が終了する。 「…………あの……♡」   リズミカルな手コキを続けながら、ぽつりと漏らす。 「生のパンツもご覧になりますか……?♡」  姫宮さんは、左手でスカートの裾を握り締めていた。  ────見たい。見せろ。見せろ見せろっ。  僕の返事に小さく頷いてから、引っ張り上げていく。 「はい……♡ どうぞ……?♡」  ──ひらっ……♡  ────む、っわぁぁあ……♡♡  予想を遥かに上回る光景が、目の前に広がった。  予めショーツの色も柄も知っていたとはいえ、実際に目にすると凄まじい迫力があった。生々しさがあった。映像からは感じ取れない質感に感動してしまう。しかし、それ以上に驚いたのが、濃厚な匂いだ。発生源は言うまでもない。姫宮小春の秘所、おまんこだろう。『ご主人様』との卑猥な一時を妄想し、勝手に『濡らして』いたのだ。膣口から溢れる、とろみのある蜜液。雄を誘う甘い香りが、リビング全体に広がり、恍惚としてしまう。 「うぉ……匂いやっばぁ……最高すぎだろ──……っ」  腰を痙攣させながら、思い切り仰け反る。  だが、暴力的な幸福感に浸っていたのも束の間──。 「──────……」  姫宮さんは何故か、力なく俯いていた。  熱量を高める僕とは対照的な、冷え切った様子。  顔を覗き込むと……瞳に、黒い影が落ちていた。  いや、それは、普段の『姫宮小春』の色であって。  何故か彼女は、無機質な言葉をボソボソと並べる。 「……私、小さい頃から物を盗まれたり、勝手に写真を撮られたりした経験があって……今でもたまに、同じ事をされるんです……。頼れる人……両親や、りーくんに相談するんだけど、やめてくれる気配がなくて……。だから……盗撮、とか……やめたほうがいいと思う、の……。女の子の気持ち……考えられないのかな……。本当に……最低、だよ…………」  がっくりと項垂れ、非力な呼吸を紡いでいた。  本来の意識と、催眠の狭間で、彷徨っている。  僕と目を合わさずに、緩んだ口から涎を垂らし続ける。  ぜ──は──ぜ──……は──……っ。  泣きじゃくる一歩手前みたいな、そんな雰囲気。  ……催眠の、効果が、薄れて、しまって、いた。  けれど……もう……こんな状況にも慣れっこだ。  すかさずスマートフォンで催眠アプリを起動する。  『本物』なんて見たくもない。聞きたくもない。  甘ったるい幻想の世界にだけ、溺れていたい。 「うるさいな……うるさいんだよ……。  黙って僕専用の性処理メイドとして振る舞え……っ」  さっさと『元』に戻ってちんぽをシゴけよ。  歯を食い縛りながら、画面に親指を押し付ける。  ”ぎぎッ──ぎィ──ン──ぎぎィ──ン”  特徴的な異音が響き渡り、彼女の脳を嬲る。  姫宮さんは、衝撃を受けたように仰け反っていた。 「う゛ッ……ぐ……。い、や……ッ……。  これッ……もぅ……いヤ、ぁぁ……ッ」  哀しみを訴える様子に、乾いた笑みが零れる。  正常と異常が重なった曖昧な状態だからこそ、理解してしまった。半年以上に渡って催眠で蹂躙された結果、彼女の深層心理は、己がハメられている事に気が付いたのだ。それ故の、先程の台詞。もう嫌だ。催眠にかかりたくない。そんな悲痛な叫びに、興奮が爆発する。 「お願い……やめ、ッてぇぇ……ん゛ぁ……ッ!」  ”ぎぎぎィ──♡ぎィ────ン♡ぎぃぃぃん──♡♡” 「んッ……お゛♡ う、ひゅ、……ッ……♡」  ”ぎッ♡ぎッ♡ぎッ♡ぎィ────んッ──♡♡” 「あ゛っあ゛っあ゛ッ♡♡ふみゅ……ぉ゛~……♡♡」  繰り返し催眠を重ねた。無意味な事は知っている。  姫宮小春は、顔を真っ赤にしていた。双眸からは悲哀が消え、虚ろな淫色のみがあった。意識混濁状態。記憶も認識も不鮮明な彼女に、低い声で耳打ちをする。僕が望むもの。僕が望むご奉仕。僕が望む姫宮小春。僕が望む世界。全てを吹き込み、実践するように命じる。 「……♡♡ ……んゅぅ……♡♡ やぁ……♡♡」  姫宮さんは、すぐに僕の胸板に頬擦りをしてきた。  そして濡れた唇で乳首に吸い付き、いやらしく舐る。  陰茎を扱く手の速度を、上昇させながら──。  ちゅっこ……♡ちゅっこ……♡ちゅっこ……♡  ちゅこちゅこちゅこちゅこ♡ちゅこちゅこちゅこ♡ 「んっぷれぇる……♡ んれぇぁ♡ れるれるれろれろれるぅ……♡ んべぁ♡ んべぇ~る♡ れぁっ……♡ はむっ♡ んちゅっぱ♡ ぶ♡ぢゅぅぅぅん……っ♡♡」  涎塗れの唇でしゃぶりつき、ねとねとの舌で舐め回す。素早く左右に振り、僕の乳首に刺激を与えてから、優しく甘噛みをする。淫らな雰囲気を盛り上げる為だけに下品な音を奏でる。スカートをだらしなく捲り上げたまま、パンツ一枚のケツ肉をふりふり♡と揺らす。確かな技量を以て行われる適確な乳首責め、というよりは、肉欲を剥き出しにした求愛だった。  これこそが、僕の望む『姫宮小春』。  ニヤける。鼻水を啜る。生温い息を吐く。  催眠アプリを連打しながら、吠える──。 「盗撮が何だって? もう一度言ってみろ……っ!」 「んぷっは……♡ 盗撮すきです♡ ご主人様に見られるのだいすきです♡ 入浴中も排泄中も盗撮して頂いて構いませんし♡ 下着もいくらでも盗んでください♡ だって──私……姫宮小春のすべては……ご主人様の所有物なのですから……♡ んはぁ、むっ……♡♡」  ちゅこちゅこちゅこちゅこちゅこっ──♡ 「ぶちゅるれぇ♡ ぢゅれぁ♡ んぢゅっぱ♡ ぶっちゅぅぅぅ♡ んれぇ~るれるれるれるっ……♡ んぶもっ♡ ぢゅっ♡ んぢゅぅぅ♡ ぷっちゅぅぅぅ……♡♡」  甘い毒の雨が降り注ぐ。全身が浸っていく。  心臓が壊れ、細胞が歓喜し、射精感が膨れ上がる。  イク。イク。イク──。  最後に──射精を促す言葉がほしい──。  乳首にしゃぶりつく淫乱メイドに、そう懇願すると──。  ──じゅれるれるれぇる♡んじゅっぽ♡ちゅぷぷぅ♡  ──ぶッ……♡ん゛ぢゅぅぅぅ……♡ぢゅぷぅぅぅ♡ 「ちんぽイって♡せーえきだひて♡♡ごひゅじんひゃま♡♡」  彼女の温もり。柔らかさ。匂い。甘い刺激。  あの姫宮小春の声音での、射精指示。  既に快楽は十分だった。その上で、我儘な欲望すら叶った。ぶちん。飽和する。腹筋が引き攣り、腰が浮く。ぶちんぶちん。視界が明滅する最中、僕は、声を荒らげた。「しゃぶれっ。飲めっ。急げっ──」決壊するまで残り僅か。賢い姫宮さんは、華麗な身のこなしで僕の両脚の間に入り込み、「んぶぢゅぅぅ……♡」と陰茎を根元まで咥え込んでくれた。  ──ぶぽぽぽっ……♡ん゛ぶっちゅぅぅ……♡♡  ぬめぬめのお口まんこによるねっとりバキューム。  姫宮さんの余裕ぶった表情に、雄の征服欲が擽られた。   最後、彼女の小さな頭を掴み、陰茎を喉奥へと押し込んだ。苦しそうに拒んでいるが、無視。『本物』の姫宮小春を襲っているかのような気分のまま、射精──する──。  ──どぷどぷどぷっ♡どっぷ♡ぶり゛ゅりゅっ♡  ──ぶっぴゅ~~っ……♡どぴゅっ♡どっぽっ♡ 「ん゛ん゛ぶぉっ……♡♡ ん゛ぶほぉ──ッ……♡♡」  止め処なく精液が飛び出し、彼女の喉にぶっかかる。  その場に跪いた姫宮さんは、瞼を閉じ、必死に受け止めていた。睫毛が揺れる。鼻水が垂れる。僕に黒髪を毟られながら、くぐもった声を漏らす。頬を伝う涙。苦しさと悦び。相反する感情に翻弄されている。やがて、何も言わずに射精後の陰茎を労いはじめた。  ぶっちゅぅぅ~~ッ♡と豪快な音が鳴る──。 「おっほ……吸い付きヤッバ……姫宮、さぁんっ……」  精液は飲み込まずに、竿だけを舐め回される。  尿道口から分泌される残り汁を、絡め取られる。 「ははっ……丁寧にしゃぶりやがって……。  どんだけ僕が好きなんだよ……なぁ……?」  彼女が身を引くと、ちゅっぽん♡と陰茎が暴れ出た。  すぐに両手を口元に添え、精液を零さぬようにする。  そして背筋を伸ばした優等生の姿勢で、”ごっくん”した。 「んくっ♡ んくっ♡ ごっきゅっ……♡  ──────……ぷ、ッはぁ……♡♡」  精飲を終えた唇を、ちゅるり、と舌で舐めた。  彼女の吐息は、すっかりザーメン臭くなっていた。  弱々しい女の子座りのまま、僅かに腰を持ち上げる。  そして、絶頂したばかりの僕の陰茎の裏筋に鼻を当て、匂いを嗅いだ。すぐに清楚な微笑を浮かべ、また舌を出し、裏筋をべろりと舐め上げる。お掃除がてらの愛情表現だろうか。 「その……♡ 先程のご質問ですけど……♡  私の拙い言葉では、表現できないくらい──♡  ご主人様のことを……敬愛しておりますよ……♡♡」  まっすぐ向けられた敬慕の眼差し。  けれど僕の心は満たされない。  絶頂後の気怠さのせいなのか。  いいや……違う。  それが『偽物』だからだ。  催眠による、まがい物の感情。  無垢な笑み。透明な愛。爽やかな口付け。  それら『本物』は決して手に入らない。  いくら望んでも、全力で拒絶されるだけ。  ならば。僕は。どうすればいい。  分からない。分からないから。  きっと、僕はまた、姫宮小春に催眠をかけるのだ──。 第1話 END