恋は夜空をわたって STUDIO koemee「聴くanime」 第二話『絶対に炎上します』                                                     岬鷺宮 ◆登場キャラクター ヒロイン 御簾納 咲(みすの さき)・・・・・・ 花守 ゆみり 主人公 長谷川 壮一(はせがわ そういち)・・・伊藤 昌弘 主人公妹 長谷川 二胡(はせがわ にこ)・・・・岡咲 美保 ○翌週水曜日。放課後の図書室にて SE:チャイムの鳴る音。 長谷川「……うおー緊張する。でも、もう引き返せねえ……(深呼吸)。……よし!」 SE:図書室の扉を開ける音。続いてカウンターへ向かう長谷川の足音。 長谷川「お疲れ! 御簾納!」 御簾納「ああ、お疲れ様です、先輩」 長谷川「いやー! 今日も暑いな!(裏返った声で)」 御簾納「え、涼しいですけど。ていうか、声裏返ってますよ、どうしたんですか?」 長谷川「そ、そうか!? もしかしたら風邪気味だからかも、あははははは……」 長谷川「(小声で)やべえ。全然、普通にしゃべれねえ!」 御簾納「はあ……。なら、無理しなくてもいいですよ。辛いなら、早めに帰っていただいて」 長谷川「いやいや、そこまでじゃないから大丈夫!」 御簾納「そうですか?」 長谷川「うん。だから、普通に仕事はしてくよ!」 御簾納「……わかりました」 長谷川「(小声で)そうだ、逃げるわけにはいかねえんだ。あんなラジオ聴いちゃったし……二胡にも、啖呵切っちゃったし……」 ○回想。長谷川家、朝食の席にて。 SE:朝のニュースの音、家族が朝食を取る音。少し空いてドアの開く音。 長谷川「おはよう……」 二胡「おはようお兄……って、どうしたの!? めちゃくちゃ眠そうだけど」 長谷川「いやあ……ちょっとびっくりすることがあって。昨日、ほとんど眠れなかった。ふぁああ……」 SE:長谷川が席に着く音 長谷川「ああそうだ、夜のうちにギター録っといた。メールしたから、聴いておいて……」 二胡「それはわかったけど……なにがあったの?」 長谷川「(二胡がしゃべる裏、小さな声で)いただきます」 二胡「びっくりすることって、どういう?」 SE:長谷川がご飯を食べ始める音。 長谷川「それがさ……なんか、知り合いがやってるっぽいネットラジオ見つけちゃって。しかもその中で、俺のことっぽい話してて……」 二胡「話ってどんな? まさか、悪口?」 長谷川「いや、悪口とかじゃなくて……やや好意的な感じの……」 二胡「へえ。ならよかったじゃん。わたしがラジオで悪口言われてたら、マジギレしちゃうもん。再起不能になるまで追い込んじゃう」 長谷川「怖……。再起不能て……」 二胡「学校は透明な戦場なんだよ。生き残ろうと思ったら、報復が必要になることもあるのです」 長谷川「どういう世界観で生きてるんだよ、お前は……。とにかく、それで悩んでて。これからそいつとどう接すればいいんだろうって考えたら、眠れなくて。ああ〜、どうすっかなあ〜……。放送聴いたよ、っていうのも気まずくなりそうだし。隠したままっていうのも罪悪感あるし……」 二胡「んー。ちなみにそれって、100%相手がその人って、確定した感じなの? フルネームで本名名乗ってるとか、その人しか知らない情報話してるとか」 長谷川「ああ……そういうわけじゃないんだけどな」 二胡「だったらまずそこじゃない? それっぽい話題で反応を見たりして、確証が掴めるかどうか」 SE:二胡が箸を置く音。 二胡「ごちそうさま」 長谷川「なるほどなあ。まずはそこからか……」 二胡「うん。で、やるなら慎重にね」 SE:二胡が席を立ち食器を片付ける音。 二胡「お兄、そういうのめちゃくちゃ下手そうだし」 長谷川「そ、そんなわけねえだろ! むしろ得意だよ、駆け引きは……」 二胡「でもさ、相手って、昨日言ってた例の冷たい後輩でしょ?」 長谷川「うぇ!?」 二胡「しかも、彼女に好意的に見られてて、動揺してるんでしょ? そんな状況で、上手く立ち回れるかなー」 長谷川「な、なんで分かるんだよ!? 御簾納のことって……。俺、一言も言ってないよな!?」 二胡「ほらー、引っかかった。今のが探り。ただの勘だよ、後輩でしょって言ったのは」 長谷川「マジか……!」 二胡「こんなのに引っかかるお兄が、難しい御簾納ちゃんを誘導できるのか……先が思いやられるね。まあ頑張ってー」 SE:二胡がリビングを出て行く音 長谷川「が、頑張ります……」 ○放課後の図書室。 長谷川「で、今日は、仕事の割り振りどうする!? どっちが貸し出しやる!?」 御簾納「声大っき……。えっと今日は、谷崎先生から、二人でブックカバーをかけてほしいと言われています。準備室に入荷した本が結構来ているので、それを全部」 長谷川「ああ、そうなんだ。でも、その間カウンターは?」 御簾納「谷崎先生がやってくれるそうです。もうすぐ来るらしいので、わたしたちは作業始めちゃいましょう」 長谷川「おう!」 SE:二人が椅子から立ち、ともに準備室へ向かう音。 ○図書室の準備室。 SE:ブックカバー作業中の音 長谷川「……あ、あのー。御簾納、やっぱカバーかけも早いな。俺よりもう、全然手際がいいっていうか……」 御簾納「だから、先輩が遅すぎるんですよ。迷うと空気も入りやすいですし、さっさとやるのが一番なんです」 長谷川「そうだよな。勉強になるわ……」 SE:引き続きブックカバー作業の音。気まずい無言が再びあってから話し出し。 長谷川「……御簾納はさ、食べ物は何が好き!? 和食と洋食だったら、どっち派!?」 御簾納「……どっちかっていうと、和食派ですけど。でも、アボカドはすごく好きです」 長谷川「ああ! アボカド! うちの妹も好きだわ、あれ!」 御簾納「へえ、妹さん、いるんですね」 長谷川「うん、一人、いる……」 御簾納「そうですか」 SE:引き続きブックカバー作業の音。気まずい無言が再びあってから話し出し。 長谷川「……その、御簾納は――」 御簾納「――なんなんですか? さっきから」 SE:作業音ストップ。 御簾納「不自然に話しかけてきて。雑談してる暇はないですよ。さっさと終わらせましょうよ」 長谷川「あ、いや……じゃあ、あと一個! あと一個だけ、聞かせてほしいんだけど……」 御簾納「なんですか?」 SE:作業音再開。 長谷川「えっとー、その。御簾納って……ネットとか、やる?」 御簾納「そりゃ、人並みには」 長谷川「じゃあ、SNSとかも結構やったり?」 御簾納「その辺は苦手ですね。アカウントこそ作りましたけど、放置してます」 長谷川「へえ……。なら、その……(かなり間を空けて)……配信とかは、興味ある?」 御簾納「時々見ます。読書してるときに、チル系のインストの生配信をかけたり。あとは、夜の高速道路の景色とか、夜行列車の車窓を流しているような配信も好きです」 長谷川「あー、そういうの。ちなみに……自分で配信、やったりとかは……」 御簾納「……わたしが? しそうに見えますか?」 長谷川「まあ、見えないけど。……ほらー、その! 配信者って、今沢山いるだろ? だから俺も試しにやってみたくて。もし、詳しかったら何か教えてもらえないかなって、思ったんだけど……」 御簾納「すいません、ならお力になれそうにないですね」 長谷川「そっかそっか。そうだよな、うん……」 御簾納「それに、先輩には配信、あまりお勧めできないですね」 長谷川「なんで?」 御簾納「絶対に、不用意なことを言って炎上します」 長谷川「……くそ、反論できねえ」 ○長谷川自宅、長谷川の部屋にて。 SE:DAWの再生を止め、二胡がヘッドフォンを外す音。 二胡「うん、やっぱりいいよ、この曲。次は、これにしよう」 長谷川「おう、わかった。じゃあこれで、ひとまずワンコーラス作ってみるわ」 二胡「お願いね。……そうそう、ところでさ」 SE:椅子のタイヤを軋ませ、二胡が長谷川に近づく音。 二胡「例の、後輩の子に探り入れるの、どうだった? 上手くいった?」 長谷川「ああ、あれな。やってみたんだけど、うん。やっぱり俺の勘違いだったっぽいわ。あの放送、御簾納じゃなかったんだと思う」 二胡「そうなの? なんで?」 長谷川「結構深めに探ったんだけど、全然動揺してなかったんだよ。で、考えてみれば、やっぱりあいつのキャラと、放送内容が全然合ってないんだよな。だから、うん。別人だ。あの配信は」 二胡「えー……。なんか納得いかない。どうせお兄、めちゃくちゃ下手くそに探ったんじゃないの?」 長谷川「失礼なやつだな! ちゃんとできたって!」 二胡「でも、今日もまた配信あるんでしょ? だったら、それ聴いてもう一回考えてみなよ。もしかしたら、やっぱりあいつかも、って思うかもしれないし」 長谷川「んん……まあ、それは別に、構わないけどさ……」 ○夜、長谷川自室。 SE:御簾納の配信。BGMの調整などする音(マウスのクリック音、マイクの位置を調整するなどゴソゴソしているような音)。 長谷川「始まった……!」 御簾納「……あー、どうでしょう。音量、大丈夫でしょうか? 声大きい? 少し下げます……はい……」 御簾納「ということで、恋はわからないものですね。皆さんこんばんは、サキです。今週も、ラジオ『恋は夜空をわたって』を、やっていきたいんですが。……ねえ皆ー!」 SE:配信の向こうで、御簾納が机に肘を突く音。 長谷川「うおっ!?」 御簾納「今日は……ちょっとヤバかった。本当にヤバかった……。ごめんなさい、まずはその話、させてもらっていいですか?」 長谷川「どうした!? なんだ、このテンション……」 御簾納「あのね、好きな人に……例の彼に、配信がバレたかもしれなくて!」 長谷川「ええっ!?」 御簾納「今日また、二人になる時間があったので、少し話をしたんです。でね、その中で彼が急に、『配信に興味ある?』なんて聞いてきて……」 御簾納「ほんといきなりでした。どういうこと!? まさか気付かれた!? って心臓飛び出しそうになって。でも、なんとか冷静を装って、興味ありますよ、結構見ます、みたいに話を合わせたんです。そしたら今度は『自分でやってみたことはないの?』って……。もう、頭の中真っ白でした……。心臓バクバクだし、ぶわーって汗出るし……」 御簾納「でね、これ以上踏み込まれたらごまかしきれない。どうしよう、って焦ってたら……先輩が……『実は配信やってみたくて』『詳しい人探してるんだ』って」 御簾納「……そう。それだけだったんです。彼が配信やってみたかっただけ。うん。このラジオに気付かれたわけじゃありませんでした。わたしの勘違いでした……。ということで、びっくりさせてすいません! そんなことがあったって報告でした。あー……もう本当に、ほっとしました。よかったー、完全にバレたと思いました……」 御簾納「あ、ちなみに彼の方の配信は、やめた方がいいって言っておきました。配信者同士になっちゃったら、見つかる可能性上がりそうですし……」 SE:御簾納の放送BGMフェードアウト 長谷川「……本人じゃねえか! やっぱり、御簾納本人じゃねえか!」 SE:椅子に体重を預ける音。 SE:ED『Sigh』スタート 長谷川「うわあ、どうしよう。これから俺、どうやってあいつに接すればいいんだ……」 SE:しばし椅子をギシギシさせる音。 長谷川「……でも、いつ俺を好きになんて、なったんだろう?」 長谷川「そんなタイミングあったか? 出会った頃って、あんな感じだったし……」 終わり