STUDIO koemee「聴くanime」 第一話『俺ぇ!?』                                                     岬鷺宮 ◆登場キャラクター ヒロイン 御簾納 咲(みすの さき)・・・・・・ 花守 ゆみり 主人公 長谷川 壮一(はせがわ そういち)・・・伊藤 昌弘 主人公妹 長谷川 二胡(はせがわ にこ)・・・・岡咲 美保 ○夜、御簾納家。御簾納の部屋。 SE:放送の準備中。機材位置を微調整し、マウスを何度かクリックする音。 御簾納「……マイクOK、ヘッドフォンOK、アプリOK、お茶OK。んん……(咳払い)。喉もOK」 御簾納「よし……(深呼吸)……スタート」 SE:クリック音 SE:OP。タイトルコール「恋は夜空をわたって」 ○夜、長谷川家。長谷川の部屋。 SE:必死にノートに何かを書き写す音。 長谷川「くそー、課題全然終わんねえ。多すぎだろ、テスト前でもないのに」 長谷川「……はぁ。配信でも聞きながらやるかあ」 SE:ペンを置きスマホを手に取り、画面をタップする音。 長谷川「YouTuber、Vtuber、芸人……。お、このネットラジオ、高校生がやってるのか。視聴者百五十人。始まったばっかりっぽいし、これかな」 SE:御簾納のネットラジオ開始。音量などが調整される音。 御簾納「……えー、音量、大丈夫かな? 大丈夫そうですね。それでは……恋はわからないものですね。こんばんは、サキです」 長谷川「へえ。配信主、女の子か」 御簾納「今週も始まりました。ラジオ番組『恋は夜空をわたって』。今夜も、一時間くらいかな。お話できればと思ってます。最後までお付き合いください。さて、この一週間、皆さんいかがお過ごしでしたでしょうか? だいぶ涼しくなって、読書日和でしたね。天気もよかったですし」 長谷川「……ん? なんか、この声……」 御簾納「わたしはね、帰ってからさっきまでずっと本を読んでいました。久々に、当たりの小説見つけちゃって、あの、ご飯中まで読んだりしてね。あはは、もちろん怒られました」 長谷川「え……御簾納? この声……御簾納じゃないか!?」 御簾納「皆さんも、趣味はほどほどにしましょうね。ここまでだらしないのは、わたしだけかもしれませんけど。あ、ちなみに恋の方は……うーん、わたしは特に、代わり映えなしですね」 長谷川「恋!?」 御簾納「むしろあの、ちょっと失敗したこともあって。このあとまた、メールを交えつつその話もできればと思っています」 長谷川「マジで……!? あの御簾納が恋バナ!? ……いや待てよ、落ち着け。本当に本人か?冷静に思い出そう。御簾納の声……今日、あいつと話したこと……」 ○放課後の図書館 SE:チャイムの音とパソコンを打ち込む音 御簾納「こちら二冊、返却は来週水曜日です。祝日を挟むので、忘れないよう気をつけて下さい」 長谷川「ふぃー、お疲れ御簾納、こっちは返却全部終わったよ」 御簾納「お疲れ様です、先輩。でも、声大きいです。図書室ではお静かに」 長谷川「えー。もう俺ら以外帰ったし、よくないか? 誰にも迷惑かかんないだろ」 御簾納「そういう問題じゃないです。ルールなんですよ」 長谷川「まあそっか。ごめんな、気をつけるよ。おし、四時半回ったしそろそろ締めるか」 御簾納「そうですね。行きましょう」 ○図書室の鍵を返したあと。職員室前。 SE:扉を開け閉めする音。 長谷川「失礼しましたー」 SE:廊下を歩き出す音。 長谷川「しかし御簾納、貸し出しマジで早いよな。委員会入って半年なのに、時間までに終わったし。俺だったらまだ捌けてなかったわ」 御簾納「普通ですよ。無駄な動きをしてないだけです。むしろ先輩が遅いんです」 長谷川「そうか?」 御簾納「バーコード読むとき丁寧すぎですし、表紙じっと見たりしてますし。 あと、時々借りに来た人に声かけてるじゃないですか。あれ、やめた方がいいですよ」 長谷川「えー。でも、気になる本借りてく人に、声かけたくならない?」 SE:下駄箱で靴を履き替える音。 御簾納「なりません。そもそも、図書室は私語厳禁です。わたしたちがそれを破ってどうするんですか」 長谷川「まあ、それもそうだけどさあ」 SE:靴を履き、歩き出す音。 御簾納「というか、先輩?」 長谷川「ん?」 御簾納「いつまでついてくるつもりですか?」 長谷川「え、だって御簾納、家二丁目の方だって言ってたろ? 俺もそっちだし、せっかくだからその辺までって思ったんだけど」 御簾納「あのですね」 SE: 立ち止まり、振り返る音 御簾納「わたし、一人で帰りたいんです」 長谷川「えー」 御簾納「色々考えたいこともありますし、静かなのが好きなんです」  長谷川「んん。でも、もう少しくらい話してもよくないか?」 御簾納「何を?」 長谷川「それは、そうだな。ほら! 好きな本のこととか?」 御簾納「好み合わないじゃないですか、わたしたち」 長谷川「まあそうだけど。御簾納の好きなやつ、俺全然わかんなかったけど……」 御簾納「逆にわたしは、先輩が好きな本はライトすぎだなと感じますし。だからすいません、ここまでで」 長谷川「はあ……。わかったよ。じゃあまあ、気をつけて。また来週な」 御簾納「ええ、また来週」 SE:御簾納、歩き出す音。 ○長谷川自宅。 SE:玄関ドアが開く音。 長谷川「ただいまー」 SE:二胡、リビングから出てくる音。 二胡「お帰りー、遅かったね、お兄」 長谷川「うん、図書委員会あったから」 二胡「そっか、今日水曜日か」 長谷川「ていうか、聞いてくれよー! 後輩がすげえ冷たくて。色々話しかけても塩対応でさー」 二胡「へー。お兄がしつこく絡むからじゃないの?」 長谷川「しつこかったかもしれないけど。でも、同じ図書委員同士、親睦を深めてもいいだろ?」 二胡「ふん……ていうかその子、女の子?」 長谷川「そうだけど」 二胡「じゃあ仕方ないよ。そういうとこで甘い顔見せると、勘違いして言い寄ってくる男子、結構いるし」 長谷川「そうなのか。そんな、帰り道話すくらいで……え、ていうか二胡も、言い寄られたりするの!?」 二胡「もちろん。結構モテるからね、わたし」 長谷川「マジかよ……!」 二胡「でもご心配なく。全部上手にあしらってるから。でね、わたしでもそんな感じだから、すごい美人だったりするともうヤバいんだよ。もしかしてその子も、きれいな子なんじゃない?」 長谷川「言われてみればそうだな。そっか、じゃああいつも、男子にしつこく絡まれた経験があるのかな……」 二胡「だから、今まさにお兄が経験させてるんでしょ」 長谷川「おいマジか!」 二胡「まあ、せいぜい通報されないよう気を付けてねー」 SE:二胡がリビングに戻る音。 長谷川「通報て……。いや、でも気を付けるか……」 ○夜中、長谷川の自室 SE:長谷川がギターを弾く音。『Sigh』のイントロ。 長谷川「(鼻歌。『Sigh』の歌のメロディを探る感じに)」 SE:部屋のドアがノックされる音。 二胡「おーい、お兄!」 長谷川「あー、入っていいよ」 SE:ドアを開け、二胡が部屋に入ってくる音。 二胡「今のギターよかった。新曲?」 長谷川「うん。俺も気に入ってる。次、これにしようか?」 二胡「さんせーい。まとまったらメールで送っといて。あと、お風呂空いたよ」 長谷川「ありがと。入るわ」 SE:ギターを置き、椅子から立ち上がる音。直後、紙が床に落ちる音。 長谷川「……って、ん?」 SE:紙をめくる音。 長谷川「あー! やべー完全に忘れてた!」 二胡「お? どうした?」 長谷川「今日世界史の課題出てたんだった。やり忘れてたー……」 二胡「そうなんだ。じゃあお風呂、お父さんたちに先入ってもらう?」 長谷川「うん、悪いけどそうしてもらうかな」 二胡「りょうかーい。そっち声かけてくるね」 SE:ドアが閉まり、二胡が去る音。 長谷川「ミスったなあ。でもまあ、思い出せただけよかった。……っし、やるか」 ○回想終わり。現在の長谷川の部屋。 御簾納「――ということで今週も、皆さんからのお悩み相談に応えつつ、一緒に色々考えていきたいと思います。一つ目のお便り」 長谷川「どう聞いても、御簾納の声だよな。マジで本人としか、思えない……」 御簾納「匿名でいただきました、ありがとうございます。えー、『好きな人がいるのですが、怖くて踏み出せません。気持ちが爆発しそうで、どうすればいいかわからないんです。サキさんは、そんな風に思うことありますか?』というメールですね」 御簾納「うん……あのね、すごく分かります。踏み出せないですよね、好きな人には。不安ですし、なんか変に距離取っちゃったりして。そう、それでね、わたしも今日、好きな人を突き放しちゃったんです。近づくのが怖くて」 長谷川「怖くて突き放す。あいつはそんなこと、しそうにねえよなあ……」 御簾納「あの、わたし、小説が好きだって話しましたよね? 学校でも図書委員会をやってて」   SE:ガタガタッ、と勢いよく椅子から立ち上がる音。 御簾納「それも結局、人と接するのが怖いからなのかなって思うんです。相手が物語なら、傷つけちゃうこともないでしょう?」 御簾納「そんなわたしに、この春好きな人が出来て……。うん。だからこのラジオを始めたんです。人と関わるのに、慣れておきたいなって。直接じゃなくて……なんていうのかな。ラジオっていう薄皮というか、そういうのを隔てて、人と関わる練習をしたくて。だから、あなたもなにか、練習をするのがいいように思います――」 長谷川「――いやこれもう、確定じゃないか? 図書委員って……。あいつ、配信なんてやってたのか。全然そういうタイプには、見えなかったけど……」 〇以下、御簾納の声をBGにする形で長谷川のセリフ。 御簾納「さて、続いてのお便りです。ラジオネーム『枇杷子』さんより。 『近所に住む、二十代後半の男性に恋をしてしまいました。けれど、わたしは高校一年生。思い切って告白もしましたが、年齢を理由に断られてしまいました。そのうえ、ショックのあまり酷いことを言ってしまい、以来絶交状態です。どうすればいいでしょうか』とのことなんですが」 長谷川「でもここまで来ると、さすがに他人ってことは……。あとそうだ、名前もサキって……。御簾納の本名と同じだし……」 御簾納「わたしね、これ、謝った方がいいと思います。あの、ショックなのは分かるんです。辛いよね、子供扱いされるのは。けど、相手の男性は……二十代後半。枇杷子さんは、高校一年生なんですよね。未成年と大人で、十歳くらい差がある。だとしたら、むしろ誠実な返事だとも思うんです。立場も人生経験も違いすぎるから」 長谷川「質問にも、めちゃくちゃ丁寧に答えてる。よくこんな、自分の考え言葉にできるな。しかも、視聴者もどんどん増えてくし。うわ、もう二百人……。これ、相当人気じゃね? 高校生でこれだけ集められるって、マジですげえんじゃないのか?」 長谷川「それに……好きな人、いたのか……」 御簾納「だから、そうですね。お勧めしたいのは、きちんと謝って仲直りすることかな。そのうえで、恋は諦めないのがいい気がします。相手の方は、きっと素敵な男性なんでしょう。なら、一度ケンカして終わりなんて、悲しいですよ」 長谷川「全然、気付かなかったなあ。どんな男子なんだろ。御簾納は、どんなやつを好きになるんだろう。俺の知ってる誰かか……?」 〇ここ辺りから、御簾納の放送をBGではなくきちんと聞こえるように。 御簾納「ということで、枇杷子さん、お便りありがとうございました。他人事とは思えなかったですね。好きな相手に、酷いこと言っちゃうとか……。あの、わたしも今日、それで失敗しちゃって……」 長谷川「あはは、御簾納、好きな人にまできつい態度なのかよ。相手も災難だなあ」 御簾納「はあ……なんでわたし、断っちゃったんだろ。あのとき、素直に先輩の誘い、乗ればよかった」 長谷川「ん……?」 御簾納「せっかく、一緒に帰れそうだったんだけどなあ……」 SE:御簾納の配信BGM止める。ポトリとペンを取り落とす音 長谷川「……俺ぇ!?」 SE:ED『Sigh』スタート 終わり