恋は夜空をわたって STUDIO koemee「聴くanime」 第六話『ぐいぐい来る…!』                                                     岬鷺宮 ◆登場キャラクター ヒロイン 御簾納 咲(みすの さき)・・・・・・ 花守 ゆみり 主人公 長谷川 壮一(はせがわ そういち)・・・伊藤 昌弘 主人公妹 長谷川 二胡(はせがわ にこ)・・・・岡咲 美保 ○放課後の図書室にて。 SE:チャイムが鳴る音。長谷川、御簾納二人して椅子から立つ音。 長谷川「よし、そろそろ締めるか……」 御簾納「そうですね。あの、先輩」 長谷川「ん?」 御簾納「今日も、一緒に帰りましょう?」 長谷川「……わかった」 御簾納「ありがとうございます。じゃあ、行きましょうか」 ○帰り道。 SE:二人で歩道を歩く音。 御簾納「先輩は……今、好きな人はいないんですか?」 長谷川「好きな人!? 今は、いないと思うけど……」 御簾納「じゃあ、どんな子が好みですか? 大人しい子? 元気な子?」 長谷川「……どっちかっていうと、大人しい寄り?」 御簾納「ロングヘアーとショートヘアーだったら、どっちがいいですか?」 長谷川「それは、ショート……」 御簾納「そうですか。ふふふ……(うれしそうに)」 ○長谷川自宅リビング。 SE:二胡がゲームをする音。 長谷川「ぐいぐい来る! 御簾納が、めちゃくちゃぐいぐい来る!」 SE:長谷川がテーブルに上半身を投げ出す音。 長谷川「色々聞かれるし、なんか距離も近いし。俺はどうすれば……」 二胡「まあ、そりゃそうなるよ」 長谷川「そうなの?」 二胡「当たり前でしょ。片思い相手が、デート中に相性良い的なこと言い出したんだから。そりゃ、御簾納ちゃんとしては追い込みに入りますよ」 長谷川「追い込みって。そんな狩りみたいな……」 二胡「狩りそのものだよ。わたしもその立場だったら同じことするもん。思わせぶりなこと言ったり、好み聞いたりね。御簾納ちゃんも、そんな感じじゃなかった?」 長谷川「うん、そんな感じだった……」 二胡「となると、次は自分のことをどう思ってるか探る、とかかな。試すような質問をして、相手にも意識させちゃう作戦だね」 長谷川「ええ……それ、俺はどうすればいいんだよ」 二胡「問題はそこだよね。お兄の態度。受け流すのか、さりげなくこっちも好意をほのめかすか……。そろそろ、マジで身の振り方考えた方がいいと思うよー」 長谷川「……身の振り方、か」 二胡「だって、音楽のことさえ話してないんでしょ? お兄側は、何も明かしてないじゃん。御簾納ちゃんだって、慣れない中頑張ってくれてるんだろうしね。あんまりこの状況続くと、しんどくなっちゃうかもよー」 長谷川「そうなあ……」 ○翌週。学校からの帰り道。 SE:長谷川と御簾納、並んで歩く音。 御簾納「ねえ、例えばなんですけど」 長谷川「おう、なんだよ」 御簾納「もしもわたしが、危ないことしそうになってたら、どうします?」 長谷川「危ない? 例えばどんな?」 御簾納「そうですね……じゃあ、同じクラスの男子に告白されて、わたしはOKしようとしてる。けど、その男子が明らかに酷い人だったら。誠実さのかけらもない人だったら、どうです? 先輩はどうします?」 長谷川「(小声で)二胡の言う通りじゃねえか! マジで、試すようなこと聞いてきてる……!」 長谷川「いやあ、なんもできねえけど……」 御簾納「……わたし、傷つくかもしれないですよ? 引っかかったりも、しないですか?」 長谷川「いや……まず、そいつが本当に不誠実かわからないだろ。そうだったとしても、心を入れ替えたのかもしれないし」 御簾納「んー……(不満そうに)」 御簾納「じゃあ、顔出しでネットで配信してたらどうします? しかも、ちょっときわどい内容だったりしたら。肌見せたりとか、そういう」 長谷川「えー……いやそれも、俺からは何にも言えねえな。御簾納がやりたいならいいんじゃない?」 御簾納「……じゃあ! 見知らぬ男性と腕を組んで歩いてたら! しかもそれが……お父さんくらいの年齢の、おじさんだったら!」 長谷川「本物のお父さんかもしれないだろ。特に何もしないよ……」 御簾納「お父さんじゃなかったらですよ! あきらかに、道徳的でない関係だったらです!」 長谷川「そ、そんなの、見ただけじゃわかんないって……」 御簾納「……そうですか。はぁ……。じゃあ、今日はここまでで。さようなら」 長谷川「おう、また来週……」 SE:御簾納が去って行く足音。 ○夜の長谷川家。長谷川の部屋。御簾納の放送中。 御簾納「……そうだ、ねえ聞いて下さいよ。例の、先輩の件なんですけど」 長谷川「な、なんだよ」 御簾納「今日ね、落ち込んじゃうことがあって……。最近は、仲良く出来てるなって思ってたんです。ほら、一緒に出かけたりして、すごく楽しかったから。もしかしたら、期待して良いのかなって。先輩も……少しはわたしのこと、特別に思ってくれてるのかなって」 長谷川「そりゃ、特別では、あるけど……」 御簾納「でも、不安じゃないですか。はっきりそう言われたわけじゃないですし。だから、最近色々聞いてみてるんです。好きな子はいないのか、とか。どんな子が好みなのか、とか。それでも、なかなか本心が聞けなくて……だから、今日は踏み込んで質問したんですね。わたしが危ない男子と付き合いそうだったらどうします? 知らない大人と、良くない関係になってたらどうです? みたいな。あの、本気でそうしようと思ってるわけじゃないんです。ただ、わたしは……気持ちを知りたかっただけで。心配してくれるかな、とか。止めてくれるかなとか。あとは……その……ちょっとくらい、焼き餅焼いてくれるかなって……」 長谷川「そう言われたって、なあ」 御簾納「なのに先輩、全然そんな感じじゃなくて……。別に、本人の自由だから、止められない、みたいな……。はあ……。わたしだけ舞い上がってたのかな。全然、相手にされてなかったのかもしれないですね」 長谷川「そんなことはねえよ! こっちも、ちゃんと色々考えてて……」 御簾納「……まあそれでも、好きな気持ちは変わらないですからね。ふふふ。これからも、もう少し頑張ってみたいと思います。よければ応援して下さい。あと、次もダメだったらさすがに落ち込むと思うんで……そのときは、慰めて下さいね。あはは……」 SE:長谷川、放送を止め(マウスをクリック)イヤフォンを外す音。 長谷川「……そっか。御簾納も頑張ってるだけなんだよな。慣れないことを、頑張って……」 長谷川「じゃあ、俺は……あいつに、どうやって……」 ○翌週の図書室。 SE:チャイムの鳴る音。 長谷川「よし、時間だな。締めよう」 御簾納「そうですね」 SE:片付け、戸締まりを始める音。 御簾納「……そうだ、図書室便りの件ですけど」 長谷川「あ、ああ」 御簾納「次号のコラム、わたしたちに任せたいって言われていたじゃないですか。谷崎先生から。あの件 相談したいんですけど……」 長谷川「そうだな……どうする? このあとカフェとか行って話すか?」 御簾納「いえ、できればゆっくり話したいですし、その……この土日で、先輩の家、お邪魔しちゃダメですか?」 長谷川「え、俺の家?」 御簾納「ええ。あの、なにかと都合がいいかなと」 長谷川「……ごめん、ちょっとうちは無理だわ」 御簾納「そうですか……。あの、散らかってるとかなら、大丈夫ですよ? 妹さんとも、会ってみたいですし……」 長谷川「いや、散らかってはないけど。その、見られたくないものが、あるというか……」 御簾納「見られたくない……あ! 別に気にしないですよ! そりゃ、先輩も男子ですし……」 長谷川「そういうことじゃねえよ! そういうのじゃなくて……」 御簾納「じゃあ、どういうのです? わたしが来る間だけ、お片付けとかも難しいんですか?」 長谷川「どういうのかは、言えない。片付けるのも、ちょっと……」 御簾納「……もしかして、わたしが家に行くの、嫌ですか? なんか先輩、最近妙にわたしを避けますよね」 長谷川「そんなつもりは……」 御簾納「でも、そうじゃないですか。心配してくれないし、気にもかけてくれないし。本当は、うっとうしいんじゃないですか?」 長谷川「そんなことないって!」 長谷川「ほら……やっぱり男子の部屋だからさ、色々汚いんだよ! 掃除不足で。そういうの、綺麗にしようと思ったら時間かかるし……週末には、ちょっと間に合わないなって」 御簾納「……そうですか」 御簾納「わかりました。そういうことなんですね」 長谷川「うん。マジで、それだけだから」 SE:御簾納、カウンターから鞄を取り出し歩き出す音 長谷川「あれ、帰るの? 今日は、一人で?」 御簾納「はい」 長谷川「そう、か。じゃあまあ、気を付けて。また来週」 御簾納「ええ」 SE:御簾納、立ち止まり。 御簾納「先輩、さよなら」 SE:御簾納、去って行く足音。 長谷川「……どうしたんだよ、あいつ」 ○数日後の昼間、長谷川の自室にて。 SE:ギターを弾いているところに、スマホの着信通知バイブ音。 長谷川「……はい、もしもし」 長谷川「ああ、谷崎先生。こんにちは。いえ、大丈夫、ですけど」 長谷川「はい、はい……」 SE:ED『Sigh』スタート 長谷川「……え?」 長谷川「御簾納が……水曜担当を辞める?」  終わり