恋は夜空をわたって STUDIO koemee「聴くanime」 第七話『Sigh』                                     岬鷺宮 ◆登場キャラクター ヒロイン 御簾納 咲(みすの さき)・・・・・・ 花守 ゆみり 主人公 長谷川 壮一(はせがわ そういち)・・・伊藤 昌弘 主人公妹 長谷川 二胡(はせがわ にこ)・・・・岡咲 美保 ○長谷川家、夕方。長谷川の部屋。  図書委員顧問、谷崎先生と電話する長谷川。 長谷川「はい……そうですか。御簾納、他の曜日に……。いえ、言い合いとかは特に。でも、そうですね……俺に、うっとうしがられてると思ったみたいで。……わかりました、詳しくは週明け。こちらは大丈夫なんで。失礼します……」 SE:通話を終える音(スマートフォンをタップする音)。 長谷川「はぁ……」 二胡「(ドアの向こうから)お兄! 入るよー!」 長谷川「おう……」 二胡「(ドア開けながら)話は聞かせてもらったよ! 御簾納ちゃんと、ケンカしちゃったの?」 長谷川「盗み聞きするなよ。ていうか、ケンカはしてねえけど……」 二胡「盗み聞きも何も、うちの壁薄いんだから。隣にいれば丸聞こえなんだよ。とにかく、御簾納ちゃん他の曜日に移るんだよね? お兄が冷たくしたせいで」 長谷川「まあ……そうだと思う」 二胡「で、どうするの? どうやってここから仲直りするの?」 長谷川「……できないだろ、仲直りなんて」 二胡「……は?」 長谷川「もう担当曜日も変わるし、会うこともなくなるし……だから、どうしようもないだろ」 二胡「……本気で言ってるの?」 長谷川「本気だって。しかも、御簾納がそれを望んでんだから。こっちとしては、それでいいと思うしかないよ」 二胡「……んー」 長谷川「……なんだよ」 二胡「色々と、言いたいことはあるんだけど。ここで話しても効果はないでしょう。だから、一つだけお兄に聞きたい」 長谷川「……おう」 二胡「本当に、それでいいって思ってる? 今回のことは、すれ違いとか勘違いのせいじゃなくて、仕方ないものだって思ってる? つまり……自分の気持ちを、御簾納ちゃんは正しく理解してると思う?」 長谷川「それは……その……」 二胡「してないよね? ていうか、お兄がちゃんと伝えてないよね? 初めて人とこういう関係になって、言い出せないでいたでしょう」 長谷川「……そう、かもしれない」 二胡「だから、ちゃんと考えなよ。本当にそのままでいいのか。こんな風にして終わって良いのか。言いたいのは、それだけ」 長谷川「……わかった」 二胡「力になれることがあれば、何でもするから。遠慮なく声かけてね。それじゃ……」 SE:二胡、部屋を出ていく音。 長谷川「俺が伝えてない、か。それは……その通りで。でも、今さらどうすれば。御簾納と話せるわけでもないし、どうやって……」 SE:スマホをタップする音。御簾納のチャンネルに飛び、動画一覧を見る。 長谷川「あいつの配信、アーカイブ全部残ってる。ずっと、一人で放送してたんだな。一人で、俺達の話を……」 SE:御簾納の最初の放送スタート。以下、御簾納の初回の配信に限ってはBGMなし、マイクノイズあってから。 御簾納「あー、これは……始まってるんでしょうか。どうなんだろ……え、視聴者二人。は、はじめまして……。音、大きいですか!? すいません、すぐ下げます……。あ、BGM……。用意してなかったですね……ごめんなさい、次回までに考えておきます」 長谷川「危なっかしいな。大丈夫か、こんなんで……」 御簾納「えっと……初めまして、サキって言います。配信をするのは、初めてです。高校一年生です。実は、その……好きな人が出来まして。皆さんと、恋の話をしてみたくて、こんな放送を始めました。拙いところはあると思いますが、よろしくお願いします――」 長谷川「――こんな感じだったんだな。今でこそ慣れてるけど、最初はこんな手探りで……。他のも聞いてみるか――」 SE:御簾納の過去放送を、立て続けに聞く。 御簾納「――今日は、結構先輩とお話しできました! あー、ドキドキしたー……。これからも、毎回あれくらい話せるといいなあ――」 御簾納「――番組タイトル、決めないとですよね。考えてきたんですけど……『恋は夜空をわたって』って、どうですか? わたしが、皆さんと恋バナをするのに、ぴったりだと思うんですけど――」 御簾納「――先輩、彼女いないそうです! うれしい……ですね、そう、うれしいんですけど。チャンスがあるとわかると、緊張します――」 御簾納「――うーん、難しい。難しい問題だ……。はあ……恋はわからないものですね。……ん? 良かった? 今のセリフですか? ……えー、毎回言うんですか? なんか、恥ずかしいな……」 御簾納「――『サキさんは、先輩とは仲良くされているんでしょうか?』とのことですが。あー、結構言い合いにもなりますよ。そんなにこう、人のタイプが合うわけじゃないんで――」 御簾納「――でも、そばにいたいって思うんです……」 御簾納「そう思ってる自分に気付いたときに、初めて理解したんです。ああ、これが恋なんだなって。わたし、先輩が好きなんだって……」 SE:長谷川、再生を止め頭を抱える音。 長谷川「……御簾納……このままでいいわけないだろ……クソっ……!」 SE: 椅子から立ち部屋を出て、二胡の部屋の前へ移動する長谷川。 長谷川「二胡! ごめん! ちょっとお願いがある!」   SE:ドアの開く音。 二胡「ん? どした?」 長谷川「今から……曲、完成させたい! 最近作ってる、あの曲!」 二胡「え……いいけど、まだ歌詞ないよ? なんか、上手くはまるの思い付かなくて……」 長谷川「それなんだけど……今回は、俺が書いてみていいかな?」 二胡「お兄が!?」 長谷川「うん」 二胡「どうしたの!? そんな急に。初めてじゃん、歌詞書きたいなんて……」 長谷川「……俺は、御簾納が大切なんだ。あいつのこと、特別に思ってるんだよ。一緒に過ごした時間は楽しかったし、嬉しかったし……うん。あんな風に感じるのは、あいつが初めてだった。それを……ちゃんと伝えたい。御簾納にわかってもらいたい。そのためには音楽しかないって思ったんだ」 長谷川「だから、手伝って欲しい! 一緒に曲を作って欲しいんだ! 頼むよ、二胡!」 二胡「そっか……そっか。いいじゃん、最高じゃん。さっそくやろうよ、絶対に良い曲が出来るよ!」 長谷川「ありがとう! じゃあ……よろしくな!」 ○長谷川の部屋。 SE:ノートパソコンでメモを取る音。 長谷川「だからそう、芝生で横になって……すごく幸せだって思ったんだ。まぶしくて、暖かくて……」 二胡「ふんふん……それは、御簾納ちゃんも隣で横になってたの?」 長谷川「うん、あいつも隣で寝てた。それで……そうだ。こうしてると、空も飛べそうな気がするとか、そんなこと言ってて」 二胡「あーいいね、じゃあそれも取り込もうよ……」 SE:ギターレコーディングの音。 長谷川「……よし、今のは大分よかったんじゃないか?」 二胡「うん、綺麗に弾けてたと思う。OKでしょう」 長谷川「おし。ギターは全パート終了だな。歌録りいこう。あー、その前に夕飯食べとく?」 二胡「ううん。気分乗ってるから、このままいけるとこまでいきたい!」 SE:二胡に意見聞きながらミックス。 長谷川「……どう? ヘッドフォンで聴いたときも、声埋もれてない?」 二胡「若干……リズム大きいかも。逆に、ギターはもうちょっと出して良いと思う」 長谷川「おけ、調整してみる……」 SE:全ての作業が終わり、パソコンの前に座る二人。 長谷川「……ふう。できたな」 二胡「そうだね……。大丈夫? やり残したこととか、ここもうちょっと、みたいなとこはない?」 長谷川「ない。ていうか……うん、よく出来たと思う。ちゃんと、俺の気持ちはこもったと思う」 二胡「ふふふ……わたしも同感だよ。なるほど、これがお兄の、大事な景色なんだね……」 長谷川「そう言われると、恥ずかしいけどな……」 二胡「……あのさ、お兄。きっと伝わると思うよ。お兄が大切に思う気持ち、きちんと御簾納ちゃんに伝わると思う」 長谷川「……ありがとう。だといいな。よし、一回通して聴いてみるか」 二胡「……だね。あー、緊張する」 長谷川「俺もだよ。じゃあ……いくぞ!」 二胡「うん!」 SE:ED『Sigh』フルコーラススタート   終わり