恋は夜空をわたって STUDIO koemee「聴くanime」 第五話『それ、ほぼ告白だよ!!』                                                                     岬鷺宮 ◆登場キャラクター ヒロイン 御簾納 咲(みすの さき)・・・・・・ 花守 ゆみり 主人公 長谷川 壮一(はせがわ そういち)・・・伊藤 昌弘 主人公妹 長谷川 二胡(はせがわ にこ)・・・・岡咲 美保 ○図書館を出たところ。 SE:自動ドアが開き外に出る足音。 長谷川「よし、回収完了。あとは、これを学校に持ってくだけだな……」 御簾納「ええ。よかったですね、天気良くて暖かい日で。これで雨でも降っていたら、悲惨でした」 長谷川「だなあ。本濡らすわけにもいかないし……」 御簾納「……ところで、その。そろそろお昼時ですね。なにか食べていきます?」 長谷川「ああ、それでもいいよ。今日この辺に来るって言ったら、妹がおいしいハンバーガーの店、教えてくれたんだ……」 御簾納「へえ……ハンバーガー」 長谷川「しかも、アボカド入ってるんだってさ」 御簾納「決まりですね。そこにしましょう」 長谷川「あはは、本当に好きなんだな、アボカド……。よし行こう。こっちだよ」 SE:二人で歩き出す音 御簾納「それにしても……妹さん、今日出かけること知ってるんですね」 長谷川「……まあな。(小声で)むしろ、こうなったのも二胡の提案で……」 御簾納「わたしは一人っ子なので、なんだかうらやましいです」 長谷川「いやーいいことばっかりでもないよ。生意気に、色々口挟んでくるし……」 ○数日前、長谷川家自宅。 二胡「ええ!? 御簾納ちゃんに、一人で行かせるの!?」 長谷川「うん……なんか、そういう話になってた。日曜の、図書館での寄贈本回収。でも、そんな驚くことねえだろ……」 二胡「何言ってるの!? デートチャンスだよ!? 荷物持ちで参加するって言いなよ!」 長谷川「デートて……。まあいいけど、確かに量多そうだし」 二胡「ていうかそれ、御簾納ちゃんも期待してたと思うよ。お兄が一緒に来てくれるの」 長谷川「そうかあ?」 二胡「前回の放送では、何も言ってなかった?」 長谷川「ああ。いつもどおり普通に相談受けて答えてた。結婚観とか、そういうの」 二胡「結婚観! それはそれで気になるな……。とにかく、御簾納ちゃんには自分も参加するって伝えること! どうせお兄、日曜も暇でしょ!?」 長谷川「んん、わかったよ。なんか、気まずくなったりしそうだけどな……」 ○公園の芝生にて 御簾納「この辺にしましょうか」 長谷川「芝生の上か、いいね。テイクアウトにして正解だったな。……あー、このハンカチ、敷いたら? スカート汚れるだろ」 御簾納「いいんですか? ありがとうございます。洗って返します……」 長谷川「いや、適当で良いよ。おっし……と」 SE:芝生の上に座る音。買ってきたハンバーガーの袋を広げる音。 長谷川「じゃあ、いただきまーす」 御簾納「いただきます。……考えてみれば、先輩と一緒にご飯食べるの、初めてですね」   長谷川「だな。ていうか、図書室以外で会うこと自体、ほとんどなかったからな。新鮮だよ。これだけ明るいところに、御簾納がいるのが」 御簾納「わたしもです。どっちかっていうとわたし、夜型なんで。不思議な気分……。そう言えば、妹さんが色々口を挟むって言ってましたけど。今日のことも、なにか言われました? アボカド以外で」 長谷川「ああ、大したことじゃないんだけど、色々世話焼かれてさあ……」 ○当日朝、長谷川家リビングにて。 長谷川「おし。ちょっと早いけど、そろそろ行くかあ」 二胡「……え、待ってお兄」 長谷川「どした?」 二胡「まさか……その髪型で行くつもり? そのボサ髪に何もせず、もさっとした感じで行くつもり……?」 長谷川「そうだけど」 二胡「よし、洗面台行くよ! 五分だけちょうだい!」 長谷川「え、なんでだよ! 何するんだよ!?」 二胡「カットとかできないのはしかたない! だからせめて、お父さんのワックス使って整えるよ! そうだな……ボリューム抑えて前髪分ければ、それらしくはなるか。あー眉毛もヤバい! ここも最低限きれいにして……」 長谷川「眉毛!? そこまで気合い入れるのかよ……」 二胡「当たり前でしょ! 今気合い入れないで、いつ入れるの!」 ○公園の芝生にて。 長谷川「そんな感じで、髪とかいじられて。だから今日、こんな感じだったんだよ」 御簾納「そういうことだったんですか。わたし、急に先輩がお洒落になったから、気になってました」 長谷川「そりゃそうだよな。ふぁああ……しかしなんか、食べたら眠くなったな……」 御簾納「日差しも暖かいですしね。わたしもちょっと眠いです……」 長谷川「しかも、最近寝不足だったからなあ……」 御簾納「ふふ……。じゃあ、もう少しゆっくりしていきましょう。時間もありますし……」 長谷川「本当に? なら、せっかくだし横になるかな。おし……」 御簾納「いいですね。わたしも……」 SE:二人して横になる音。 長谷川「……うわー、風が気持ちいいな」 御簾納「ほんとですね。こうしてると、空も飛べそうな気がしてきます……」 長谷川「わかる。開放的になるっていうか……。あーやべえ、本当に寝そう……」 御簾納「ちょっとくらいなら、いいですよ……」 長谷川「でも、図書室に一時半着だろ。あんまりゆっくりするのはなあ……。あー、ずっとこうしてたい……(ため息)」 御簾納「そ、そうですね……」 長谷川「そう言えば、妹が言ってたんだけどさ……恋人になるのに、必要なこと、みたいな話……」 御簾納「え!? 恋人ですか?」 長谷川「うん……」 ○数日前、長谷川家。 二胡「で、さっき言ってた結婚の件。御簾納ちゃんは、なんて言ってたの? どういう結婚観語ってたの?」 長谷川「あー、なんだっけな……。人付き合いが苦手だから『この人!』と強く思った人と付き合いたい。できることなら、そのまま結婚できちゃうくらいがいい、みたいな。もちろん、理想の話だろうけど……」 二胡「へえ、意外と自分の恋には保守的なんだね、御簾納ちゃん……」 長谷川「だな。まあそういうやつもいるだろ」 二胡「うん……でもちょっと、危ない気もする。高校生でその感じは」 長谷川「危ない? どの辺が?」 二胡「だってさ、お付き合いとか結婚とかって、人と人の距離がグッと近づくことじゃない。デートしたりいちゃいちゃしたりだけじゃなくて、ネガティブなことも見えてくるわけ。普通に難しい人間関係なんだよ。けど今の御簾納ちゃんは……そこに柔軟性がないよね。それが小姑として、ちょっと不安です」 長谷川「小姑て……。ていうか、二胡はなんでそんなに詳しいんだよ。既婚者かなんかかよ……」 ○デート中。芝生の上 長谷川「だから……うん、恋人になるなら憧れだけじゃなくて、人間として噛み合わないと、みたいなことを言ってて……」 御簾納「そう、ですか……」 長谷川「でも、今こうして……御簾納と横になってて……ふぁあああ……。こういうの、いいなって」 御簾納「どういうことですか……?」 長谷川「こんな風に、一緒にうとうと出来る相手は……噛み合ってるよなって……思ったんだ……」 御簾納「……マジですか……」 長谷川「……うん」 御簾納「寝ぼけてるでしょ。適当に言ってますよね?」 長谷川「寝ぼけてるけど……適当じゃあ、ないよ……。色々あるけど……俺達は……相性いいと思う……」 御簾納「ええ……。ええええ……」 ○デートのあと。長谷川家。 長谷川「ただいま……」 二胡「(リビングの扉越しの声で)お帰り、お兄」 SE:長谷川が部屋に戻り、ベッドにダイブ。もがく音。 長谷川「うわあああああああ! ああああああ! ああああー!」 SE:ギターを手に取り弾きまくる音。  続いて、二胡が部屋に駆け込んでくる音。 二胡「ちょっと、どうしたのお兄! うるさいんだけど!」 長谷川「やらかしたあああ! 完全にやらかしたあああ!!」 二胡「何があったの!?」 長谷川「御簾納に、めちゃくちゃ恥ずかしいこと言っちまった……眠気で、ぼんやりして……すげえことを……うわあああああ!」 SE:ギター弾きまくる音。 二胡「落ち着いてよお兄! 恥ずかしいことって、何を言ったの?」 長谷川「その……。芝生で寝っ転がりながら……。俺らは相性良いし、人として噛み合ってる、的な……」 二胡「おおおー! すごい! それ、ほぼ告白だよ! やるじゃん、お兄!」 長谷川「あああ! 記憶消したい! なかったことにしたい!」 二胡「いやいやいや、いいよ! ファインプレーだよ! きっと向こうも喜んでるよ!」 長谷川「だとしてもおおお! そんなつもりじゃないのにいいい!」 二胡「やー……びっくりだ! まさか、そこまで急展開するなんて。これは、次の放送が楽しみだねえ……」 長谷川「俺は不安だよ! ぐううう〜……」 ○翌週の水曜日。長谷川の部屋。 SE:御簾納の放送が始まる音。BGMの調整。 御簾納「あー……どうですか? 音量。大丈夫……そうですね。ということで、恋はわからないものですね。サキです。今週も、ラジオ『恋は夜空をわたって』、一時間やっていきたいと思います」 長谷川「始まった……!」 御簾納「あのね、今日はみんなに報告したいことがあって。例の好きな人と、週末にお出かけしてきたんです。あはは。うん、それがすごく楽しくて」 長谷川「やべ、色々思い出しそうだ、ぐおお……」 御簾納「その日は一緒に仕事して、ご飯食べて、芝生で横になってって感じだったんだけど……。初めてだったんです、彼とそんな風に過ごすの。普段出来ないような話も、色々出来ました」 御簾納「それでね……うん。もっと沢山知りたいって思ったの。こうして、夜中に好きな人の話をするのもいいけど……晴れた日の下で、相手のことを知るのも大切だなって」 御簾納「だから……決心しました。自分の殻を出てみようと思います」 御簾納「ちょっとずつでも、前に進めたらって今は思います。放送を始めて何ヶ月も経つけど……ようやくそう思うようになりました。だから、よければ見守っていて下さいね。わたしと、わたしの恋がどうなっていくのか――」 SE:ED『Sigh』スタート ○放送終盤の御簾納の部屋。 御簾納「――ということで、『恋は夜空をわたって』、今週もお付き合いありがとうございました。また来週も是非聴いて下さい。それじゃあね。おやすみなさい」 SE:配信をストップする音(マウスをクリック)。 御簾納「ふう。よし……。やるぞ、がんばろう……」 御簾納「先輩に……もっと近づくんだ!」 終わり