「ホント、貴女は好きなことに夢中ね」  「うん。本読むの大好き! 大きくなったらずーっと、本を読んだり書いたりしたいの!」    ずっとずっと、好きなことだけ研究をしていたい。それが、小さな私の夢だった。 お父さんとお母さんが病気で亡くなってからは。医学の基礎研究をすることが私の夢になった。 お金が無ければ、叶わない夢だ。だから、諦めようと思っていたのに。 ――私の夢を繋いでくれたのは「どこかのお金持ちの女性、足長お姉さんの寄付」だった。  「貴方の成績が、今回も学園一位だと聞きました。おめでとう。生活に不便はありませんか?」  1カ月に1回くらい。その女性は私にお手紙をくれる。 綺麗な綺麗な文字。封蝋は季節によって色が違って。 キラキラしてて、とってもとっても嬉しかったから。――最初のお手紙から、1つ残らず、取ってある。 彼女は名前を明かさない。どこに住んでいるのかも、分からない。 私書箱サービスを使ってお手紙をやり取りすることはできるけれど、足長お姉さんの正体は謎のままだ。  でも、彼女は私のことをたくさん気遣ってくれる。 まるで、いつも近くにいるかの様に、必要な物資やお金を送ってくれる。 そう、近くにいる様に。  「貴方が興味を持ちそうな本を同梱しました。学習の役に立ててください」  そう言って送られてくる素敵な学術書は、皆図書館にはないものばかりで。 私が「見て見たいな」と思っているものばかりだ。  「学園ではお友達はできましたか? 嫌な思いはしていませんか?」  そう言ったメッセージをもらったのは、時雨さんとお友達になったころだ。 「優しいお友達ができました」とお手紙を返送したら、心なしか、翌日の時雨さんが嬉しそうにしていた。  ――本当は全部気付いてる。本当は全部、分かってる。私の「足長お姉さん」が誰かなんて。 でも、きっと、彼女が「匿名」にしたいと言うのならば、やんごとなき事情があるのだろうと思う。 だから、私は気づかないふりをする。 だって、彼女がそうしたいのであれば、それは正しいことだから。  ねぇ、時雨さん。 私の夢を。応援してくれてありがとう。 私のことを、大事に思ってくれてありがとう。 私もね。時雨さんの事、とってもとっても大好きで。――顔を見ているだけで、本当は、ドキドキしてるんだよ。 いつかね。私が研究で成果を出すことができたら――。 「全部気付いてたよ。ありがとう。大好き」って言うからね。  今月のお手紙の封筒に、目を閉じて鼻を近づける。 そのお手紙からは。 嗅ぎなれた時雨さんの香水の香りが――、華やかに香った。