全裸となった私は、深夜の屋敷の廊下を一人、熱に浮かされたように歩き、やがて執務室の前に辿り着いた。  そのドアは私を待ち侘びていたかのように静かに開く。  ドアを開けたのは予想に違わず、あの文官の男だった。  男は、私の全身を舐めるように見回し、口元でクヒヒ、といやらしく笑った。  男の招き入れるような身振りに促され、私は部屋の中へと入って行く。  夢遊病か、催眠にでも掛かったかのような、ふらふらとした足取り。  だが、これは間違いなく私の意思の為せる業だった。  他の誰でもない。  私がそうすべきだと、そうしたいと考え、ここに至ったのだ。  私の背後でドアの閉まる音がした。  続いてカチリ、という鍵の掛かる音。  シンと静まり返った室内。  薄暗い灯。  インクと紙の臭い。  全ての事物が私の感情を昂ぶらせるためにあるのではと思った。  ここに歩いて来るまでの間に、私の身体は十分に発情し、顔は上気し、頭は、いやらしい考えでいっぱいになっていた。 「あ……の……、わ、私を、調教して、ください……。  ろしゅ……、露出、奴隷に……、調教、してください……」  それは、あの日記の中の女が言わされていた言葉だった。  生活に窮し、男に身体を売るしかなかった女が、変態的な嗜好を持つ日記の主によって、無理矢理口にさせられた屈辱的な台詞。  それを私は、自ら望んで口に出していた。  調教されることが……、調教してもらうことが……、私が心の奥底で密やかに生み、育ててきた、倒錯的な願望だったからだ。  少し前まで、この男を殺して口封じをしようとしていたことなど綺麗に忘れ、今はこの背徳的な悦楽を、もっと味わいたいと思ってしまっている。  男は私のその恥ずべき願いを聞き入れる前に、私の覚悟を尋ねた。 「いいだろう。だが、後戻りはできんぞ?  お前がいくら泣こうが喚こうが、俺は調教を続けるが、いいな?」  男の声にはすでに奴隷の主人としての風格があった。  未熟な奴隷を言い含め、手懐けるための、優しくも威圧的な口調に、私は小さいながらも、ハッキリと答えるのだった。 「……はい」  もう後戻りできない……。  自分がそう返事をしたことで、私は確かに、もう引き返すことのできない底なしの沼にハマり込んだという絶望と、それに耽溺する自分を感じていた。  足を開け、と男が言い、私は短く、はい、と答えた。  声や表情には出ていない筈だが、私は既に命令される悦びに打ち震えていた。  誰とも知らない一介の文官からの命令に、言われるがままに従ってしまう自分に興奮する。  男は私の目の前に椅子を置いて、そこに座った。  靴を脱いで足を組み、私の太腿の間にその足を差し挿れてくる。  腰を落とせ、と男が言い、私は短く、はい、と答えた。  ゆっくりと膝を曲げ、腰を下ろしていく。  差し出された男の爪先は、今や私の濡れそぼった陰部に、当たるか当たらないかという微妙な位置に据えられていた。  もう少し腰を落とせばアソコに当たる筈……。  だが男には、敢えてそれを触れさせないようにしている節があった。  男の指示が鋭く飛んだ。 「手は胸だ。両手で自分の胸でも揉んでいろ」 「はい……。分かりました……」  私は言われるままに、自分の乳房に触れ、ためらいがちに愛撫を始めた。 「ぁ……、ふ……、は……」  胸に触れるだけで、私の肌は敏感に励起し、私をゾクゾクと興奮させた。  自然と儚げな喘ぎ声が漏れ出てしまう。  いつもなら、そんなことあるはずがないのに……。  今の私は、身体中、どこを触られても感じてしまうのではないか……。 「自分が今、どれだけ卑しく無様な恰好を晒しているのか分かってるか?」  男は、今の無様ななりを理解しているのかと、嘲るように言って私をなじった。  そんなこと、分かっていない訳がない。  私は全裸で、足をガニ股に開き、自分の胸を揉みしだきながら喘いでいる。  あまりに下品で、淫らな自分の姿に眩暈を覚えるほどだ。  私がそれを口に出して認めると、男は爪先を上げ、足の指で、私のアソコを無造作に刺激した。 「あぅっ……!」  思わず大きな声が出る。  情けない、メスの鳴き声だ。  自分が足の指などで感じ、喘ぎ声を漏らしてしまったことに動揺する。  愛液でしっとりと濡れた私のアソコを、音を立てて弄り上げながら、いつからこんな有り様にしていたのかと、男は私を意地悪く問いつめた。 「あ……、は、始めから、です……。  部屋を出たときから、ずっと、期待して、興奮、してました……」  今にして思えば、そうだとしか思えない。  あの淫らな日記によって、この男による連日の凌辱によって、私の心と身体は、すっかり出来上がってしまっていたのだから。  男が矢継ぎ早に問いかけ、私がそれに答える。  そうしながら私は徐々に、自分の歪みきった性癖を自覚していくのだった。 「お前は命令をされたかったのか?」 「は、はいそうです」 「違うだろ?ただの命令じゃない。いやらしい命令だ」 「……ぅ……ぁ、はい……。そうです」 「はいやいいえじゃない。きちんと説明しろ!」 「……ぁあ……、は、はい……。  始めから、いやらしい命令をされたかったんです。  ……私は、命令されて、いやらしいことが……、  恥ずかしいことが、しっ、したかったんです!」 「立派な露出奴隷になりたいんだったな?」 「そ、そうですぅ!ろ、露出奴隷に、なりたいですぅ!」 「俺に言わせれば、立派な、は余計だな。奴隷に立派もクソもあるか。  お前は最低の露出狂女だよ」  男は私のことを最低の露出狂女だと吐き捨てた。  最低、という響きが、私が秘めたマゾヒスティックな心を躍らせる。  そう呼ばれるだけで、自分が、最も低い位置に落ちぶれてしまったという哀愁が漂うようだった。  私のその内なる悦びを見透かしたように男が嗤う。  まずは自覚が大事なのだと男は言い、私のために用意された、最低な自己紹介の文言を繰り返すように命じた。 「気に入ったか?よし、まずは自覚が大事だからな。  私は最低の変態淫乱露出狂女ですと自己紹介を繰り返せ」  ああ、ひ、酷い……。なんて酷い自己紹介なんだ……。  そう思いながらも、これは命令なのだから仕方がないのだと自分に言い聞かせ、私はそれを口にし始める。 「……わ、私は、さ、最低っ、最低の……うぅ……」  胸を揉むのが疎かになっていた私に対し、男の叱責が飛ぶ。 「おい、胸を揉み続けろ!誰がやめていいと言った!?」 「はっ、はい。すみません!  ……私は、最低の、変態……淫乱、露出狂女、です……」  さらに胸の揉み方が甘い、乳首もいじれとの叱責。 「手を抜くな。もっと馬鹿みたいに快楽を求めろ」 「は、はい!……んっ、あっ……、んんっ……んんん!」  そうして私が、敏感になった乳首から刺激を得るのに夢中になると、今度は自己紹介が止まっているとの怒声が容赦なく飛んだ。 「俺は自己紹介を繰り返せと言ったんだぞ?  いちいち一つの命令しか聞けない馬鹿なのかお前は?」 「……私は、最低の、変態淫乱露出狂女です。  ……私は、最低の変態淫乱露出狂女……です……。  私は最低の変態淫乱露出狂女です。  ……私は最低の変態淫乱露出狂女です。  ……わっ、私は最低の、女……。露出狂女……。  変態で……淫乱な、さ、最低の女、最低の女です!  露出好きの、へっ、変態女っ……!」  自らが口にする言葉で勝手に興奮するあまり、言葉を乱してしまった私を男が叱り付ける。 「やめろ……。お前はこんな単純な命令も覚えられないのか?  それと……、俺のこの足を見てみろ」  私は胸の愛撫を一旦やめ、男に促されるままに、自分の女性器の真下に据えられた男の爪先を覗き込んだ。 「どうなってる?」 「……び、びちゃびちゃに、濡れてます……」 「何故だと思う?」 「……私が、……擦り付けたから、です……」  間抜けな口上を述べながら、私は無意識のうちに、より深く腰を落としてしまっていたのだろう。  腰を落とすことで、そこに据えられた足の爪先から刺激を得ようと、みっともなく、ヘコヘコと腰を振った……。  いや、無意識でというのは嘘だ。  だって、しょうがないじゃないか。  使ってくれと言わんばかりのそんな位置に。  始めから、何故そんな中途半端な位置に足を置くのかと、恨めしく思っていたのだ。  アソコを擦り付けた私に対し男は、俺がそんな命令をしたかと、何故お前はそんなことをしたのかと、侮蔑を込めて糾弾した。 「し、してません。私が勝手にやりました。  き、気持ち良くなりたくて、腰を、振りました……。……んあっ!」  男が足を跳ね上げて私のアソコを蹴り、私は無様な嬌声を上げた。  いやらしい愛液が湛えられた私の秘所からは、ボタボタとそれが滴り落ち、男の足と、その下の床を濡らす。  追い討ちをかけるように、男は器用に足の指を操り、私の割れ目を開いたり、クリトリスを擦ったりした。  これがいいのか?……と、男がいやらしい笑みを浮かべる。 「ああっ!あっ、いいですっ!いいっ!」  私が喘いで身をくねらせていると、男はさっと足を引いた。  そして、信じられない程いやらしい台詞を、私に復唱するようにと強いるのだった。 「言え。私は男の爪先でマン擦りをする馬鹿な変態女です」 「わ、私は、男の人の爪先で、マン……マン擦りをする、  ……馬鹿な変態女です」  男は言った。  言い淀むなと。  俺が言えと言ったら何も考えずに口にしろと。  繰り返してじっくり反芻し、そうやって自分の人格に染み込ませるのだと。 「……はい。分かりました」  そう答えたあと、遅れて、背筋をゾワゾワとくすぐる悪寒が走った。  こ、これ?ちょ、調教が、始まってるんだ。  私きっと、こうやって、調教されていくんだ……。  次に男が指示した言葉は、私には想像も付かない卑猥な内容だった。  その淫らで下品な言葉を聞いて、私は居ても立ってもいられなくなる。 「言え。愚かな私にオドー様の膝を使ってオマン擦りさせてください」 「愚かな私にオドー様の膝を使ってオマン擦りさせてください。  愚かな私にオドー様の膝を使ってオマン擦りさせてください♥  愚かな私にオドー様の膝を使ってオマン擦りさせてください♥♥  愚かな私にオドー様の膝を使ってオマン擦りさせてください♥♥♥」  愚かな私は、言われるがまま、この男、オドーに指示された言葉を復唱していた。  オドーが言うように、何度も唱えることで、そんな言葉を紡ぐ最低な女の乱れた情欲が、自分の中に染み込んでいくように感じた。  私がそうしたいと……、そんな願望を抱いていたという事実が、まるで、最初から存在していたかのように感じるようになる。  オドーが足を組み直し、ローブの裾を捲って片膝を出す。  鋭角に曲がったただの武骨な膝関節が、私の目には非常に艶めかしい物に映っていた。  ああぁ、し、したい……♥オマン擦りがしたい♥このエロい膝に、オマンコを、思いっきり擦り付けたいぃ……♥  よし、やれ……と、短い命令が飛んだ。  私は躊躇なく進み出ると、差し出されたオドーの足を深く跨ぎ、自分の濡れそぼった割れ目を、そこに押し当てて擦り始めた。  ゴツゴツとした膝の皿で、勃起したクリトリスが押し潰されると、その度に電撃が走ったような刺激がもたらされる。  私はたちまちその行為に夢中になった。  そんな私に向かって、またもいやらしい台詞が強要される。 「言え。膝オナニー気持ちいい。オマンコ擦り擦り気持ちいい」 「膝オナニー気持ちいい♥オマンコすりすり気持ちいい♥  膝オナニー気持ちいい♥オマンコすりすり気持ちいい♥  膝オナニー気持ちいい♥オマンコすりすり気持ちいい♥」  オドーに促されるまま、私は恥知らずな台詞を、馬鹿のように何度も繰り返す。 「言え。英雄フィリスは今日から貴方の僕です」 「救国の英雄フィリスは今日から貴方のシモベです。  救国の英雄フィリスは今日から貴方のシモベです。  救国の英雄フィリスは今日から貴方のシモベですぅ。  救国の英雄フィリスは、今日から貴方の、シモベです!」  あ、ああ、そうだ。今日から、わ、私はこの男のシモベになるのだ。  それは決定事項で、覆しようのない、事実なんだ。 「私はこうしてマンコを擦ることしか能のない愚かな女です」 「私はこうしてマンコを擦ることしか能のない愚かな女です。  私はこうして、マンコを擦ることしか能のない、愚かな女です。  私はこうしてマンコを擦ることしか能のない愚かな女です。  私は、こうしてマンコを、擦ることしか能のない、愚かな女です♥」  二度目の復唱で言葉のとおりである自分を自覚し、四度目を言い終わるときには、何故この人は、私の恥ずべき本質を言い当てることができたのかと、畏敬の念すら覚えていた。  そうです。そのとおりです。  私はマンズリが大好きで大好きで堪らない、オナニー中毒の、それしか能がない、馬鹿なドスケベ女なんです。  オドーは私の手を払いのけると、ピンと張った私の乳房を鷲掴みにし、下から持ち上げるようにして揉みしだき始めた。 「んん……、あっ……♥んっ……、んんっ♥」  胸の弾力をしばらく愉しんだあとは、片手を腰に回し、私を抱き寄せ乳首に吸い付いてくる。  自分で揉むのとはまるで違う。予測不能な刺激によって、私はしばし声もなく喘いだ。  自分ではない誰かに肉体を弄ばれる新鮮な悦び。  男は私の身体を堪能し、私は男に求められることに、女の……、淫らな女の本懐を見出していた。  もっと触って欲しい……。  嬲って欲しい……。  男に可愛がられたい……。  オドーは乳首から口を離し、片足を上げて組み直す。  両手で私の腰を引き寄せると、膝の皿に再び私のアソコを当てがった。  そして短く無造作に、跨がれ、とだけ命令した。  そう言われたものの、組まれた膝の位置は高く、それを跨ごうとすると床に足が付かない。  私は体重の半ばをオドーの膝に預けるようにし、爪先立ちとなって、ようやくその上に跨がった。  オドーの肩に手を置き、懸命にバランスを取ろうとする私に対し、オドーは下から膝を突き上げて振動を与え、容赦なく責め始めた。 「んっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ……♥んんっ……♥んっ……♥んっ……♥んっ……♥んっ♥」  快感の波に耐えながら、私はオドーの命令に従い感謝の言葉を口にする。 「言え。淫乱女のオナニーを手伝っていただきありがとうございます」 「いぃ淫乱んん♥女のぉ♥オナニーを、てっ、手伝っていただっき、  ありがとうござっ、ますっ♥……淫乱女のっ♥オナニーっ♥  手伝っ♥……てぇいただきっ♥ありがとうっ♥ござい、ますぅっ♥  淫乱女のオナニーをぉ♥手伝ってへ♥いただひぃ♥  ありがとうっ♥ございまふぅ♥」  オナニー……。  オナニーなのだこれは……。そうか。  肌を寄せ合っているが、気持ち良くなっているのは、一方的に、私だけ。  オナニーを、させていただいている……。  ありが、たい……。ありがたい……。 「淫乱女のオナニーを手伝っていただき、ありがとうございます……」  最後には心の底からオドーに対する感謝の気持ちが籠っていた。  静かな部屋の中、ひゅーひゅーと呼吸音が響く。  もう……、限界だ……。  気を抜くとイッてしまう。  足で身体を支えられなくなってしまう……。 「言え。私は命令してもらわないとオナニーもできない最低の馬鹿女です」  オドーがまた、私に酷い台詞を強要する。  ああ、そ、そんな台詞……、そんな酷い台詞……。  言いたい……。い、言ってしまう……! 「私は、命令してもらわないと、オナニーもできない、最低の馬鹿女です。  私は命令してもらわないと、オナニーもできない最低の、馬鹿女です。  私は命令してもらわないとオナニーもできない最低の馬鹿女です。  私は命令してもらわないとオナニーもできない、最低の、馬鹿女、です!」  そう、そう、……そうだ。  こんな気持ちのいいこと。  馬鹿な私ではきっと思い付きもしなかった。  この人に命令してもらわなければ。  私は満足に自慰すらできない、最低の馬鹿女なのだった。 「言え。オドー様、変態の馬鹿女をどうかイカせてください」 「オドー様!変態の馬鹿女をどうかイカせてください!  オドー様ぁ、変態の、馬鹿女をどうか……、どうかイカせてください!  オドー様、ああ、オドー様オドー様……!  ヘンッタイの、馬鹿女の私を、どうかお願いします!  イカせてくださいませ!お導きくださいませ!」  またも無様な興奮により、大切な口上を乱してしまった私に対し、オドーは落第の判を押す。  不出来な奴隷には、これからもたっぷりと調教が必要だと……。  そう言って、オドーは激しく膝を揺すり始めた。  親指でクリトリスを弄り、これでもかと私を責め立てた。 「ああっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥おっ、お願いしますぅ♥  調教ぉっ♥してっ♥してください♥躾けてくださいぃ♥  躾けっ、躾けてぇえ♥  奴隷にぃ、最低の奴隷にしてくださいぃっ♥  ああっ♥あっ♥あっ♥あっ♥……は、はいぃ、はいぃぃ!  ……イイ♥イイ♥イキます♥イッちゃう♥イッちゃう♥もうイクッ!」  オドーから絶頂の許しが出ると、私はすぐさま無様に果ててみせた。  これまで堪えていたものが一気に解き放たれる。  ギリギリで身体を支えていた爪先が宙に浮き、全ての体重が会陰部へと圧し掛かる。  押し寄せる浮遊感に、止めどない多幸感に、私は前後不覚となるのだった。