//---------------------------- //01_媚薬を試す相手は決めている //---------------------------- 【いろは】 「は、はーい……何か御用でしょうか?」 【いろは】 「えっ。神社の境内に落とし物、しちゃったんですか?」 【いろは】 「はい……はい……んんぅ、本が入ったバッグ。……それってもしかして、私みたいな獣人のことについて書かれてる本?」 【いろは】 「あっ、ううんっ。ごめんなさい。バッグを見たわけじゃなくて」 【いろは】 「実は以前、お兄さんのことを境内で見かけて……その時、真剣な顔で読んでいたのが、獣人の本だったから」 【いろは】 「あっ、やっぱりっ。そうなんだ」 【いろは】 「ふん、ふん……獣人の本以外には、民俗学の本に、心理学の本、大学ノートが何冊か。うん、わかりました」 【いろは】 「それじゃあ確認してくるから、ちょっと待っててね……じゃ、なかった。しょ、少々お待ちくださいっ」 【いろは】 「ごめんなさい、お兄さん……。ありませんでした」 【いろは】 「ふぇ? わ、私が謝るのはおかしい、ですか? あ……そっか。おかしいかも。癖になっちゃってるのかなぁ」 【いろは】 「え、ありがとう……ですか?」 【いろは】 「えへへ……お兄さん、優しい。見つからなかったのに、わざわざお礼言ってくれるんですね」 【いろは】 「もちろん、見つかったらすぐにお伝えしますよ! えっと、お兄さんのお名前と連絡先、教えてくれますか?」 【いろは】 「なるほど〜。すぐそこにある大学の! そこの学生さんなんですね〜」 【いろは】 「えっ? あ、私の名前……? あ、し、失礼しましたっ」 【いろは】 「私、九重いろは、っていいます。見ての通り獣人で、狐の耳と尻尾が生えてます……」 【いろは】 「は、はいっ! よく知ってますねっ。獣人はあくまで通称で、生えてるケモノの耳と尻尾の種類で全部種族が違うんですよ!」 【いろは】 「はぁぁ〜〜。大学では獣人の文化の研究を……それはなんだか、嬉しいです」 【いろは】 「そうですよ。お兄さんみたいに、私たちのこと知ろうとしてくれる人、珍しいんですから」 【いろは】 「お兄さんの探し物が見つかってないのにこんなこと言っちゃうのは申し訳ないけど、今日はいい日だな♪」 【いろは】 「だって私、ずっと前からお兄さんとお話してみたかったんだもん」 【いろは】 「前に獣人の本を読んでたのを見かけたって言ったでしょ?」 【いろは】 「うん……だから、どんな人なんだろう、ってずっと気になってて」 【いろは】 「1週間に1回くらいのペースで、神社に参拝もしてくれてますよね。お掃除してる時に、何度か見かけました」 【いろは】 「でも、えっと……私、人見知りで、今までずっと話しかけられなくって……」 【いろは】 「この性格、直せるなら直したいなって、思うんですけど……」 【いろは】 「えっ、人見知りしないためのコツ、お兄さんが教えてくれるの?」 【いろは】 「うんっ。すごく興味ある。夕方までやらなきゃいけないこともないし、全然大丈夫だよ」 【いろは】 「ふんふん……座れる場所がいいんですね?」 【いろは】 「へぇ〜。リラックスできる香水なんて使うんだぁ……なんか本格的〜」 【いろは】 「匂いのあるものだったら、他のお客さんの邪魔にならないところの方がいいかな……」 【いろは】 「それじゃあ、社務所の奥に畳の休憩所があるから、そこに移動しよ?」