……はい、そうですね。  腕、切り落とされた時の話、しますね。 そんなに前の話でもないんですよ。  ここに売り飛ばされる直前の、ほんの二ヶ月ぐらい前の話です。  だから、とてもよく覚えてます。 あの日はヤクザさんが新人を連れてきたんです。  新人歓迎会だって言ってました。  私よりも一歳下で…… それで、その人は私のことを知ってたんです。  剣道の大会で私を見たことがあるって、すごく強くて、竹刀を振る姿がカッコ良かったー、なんて、全裸で括り付けられて股を開いている便器に熱っぽく言うんですよ。  もう、早く犯してくださいって思いました。  そうしたら終わるのにって思ってたのに、他のヤクザさんが面白がって、こんな事を言い出したんです。 今からコイツに竹刀持たせて、俺たちに勝てたら解放してやろうって。  もちろん、私を解放する気はないってわかってました。ただ、抵抗する私をみんなでボコボコにしてねじ伏せて犯すのを楽しみたいんだってわかってました。  でも、逆らうなんてできるはずもなくて、言われるままに竹刀を持ったんです。 久しぶりに持つ竹刀はすごく重くて、構えた腕が震えて、立っている脚がつらくて、惨めなへっぴり腰でヤクザさん達に向かい合いました。  みんなニヤニヤ笑いながら囃し立てるんですよ、カッコいいー、凛々しいー、流石は剣術小町、怖くておしっこ漏らしちゃいそうだぜーって。  さっきまで私を見ていた新人のヤクザさんも、すっかり私を見下した目で一緒に囃し立てていました。 最初は元ボクサーのヤクザさんでした。  せめて直撃は避けようって竹刀を強く握りしめて、踏み込む脚をしっかり見ていたんです。  でも、飛び込んでくる拳が早くて、見えていたのに身体は全く動かなくって。  避けなきゃ避けなきゃって思いながら、迫ってくる拳が私のお腹に吸い込まれていくのを見ていました。  皮膚に触れて、押し込んで、お腹の奥を硬い拳が持ち上げて、それで、ドンって衝撃が置いていかれました。 お腹がひっくり返ったみたいでした。  胃がビクンビクン跳ね回るのがわかるんです。  視界がぐるぐる回って、お腹を押さえて崩れ落ちても身体がずっとビクビクしてるんです。  胃が跳ねたせいで嘔吐して、飲まされていた精液と小便が鼻の穴から吹き出ました。  呼吸しようとしたら、自分の吐瀉物が気管に入って咳き込んで、咳き込むとまたお腹が痛むんです。 右手を蹴り飛ばされて、それでまだ竹刀を握ってたんだって気がつきました。  頭を掴まれて、ゲロに顔面を擦り付けられて土下座みたいになって。  それで私は、いつものようにお尻を振りました。  犯して下さい、謝りながら顔面で床を掃除して、おまんこを差し出しますのでどうか許して下さいって、何度も何度も何度も繰り返した言葉を告げました。 押し潰すみたいにして、上からお尻を犯されました。  おまんこはもうとっくに緩くなっていたので、みなさんそっちを使うんです。  雑魚でごめんなさい、卑しくてごめんなさい、おまんこ緩くてごめんなさい、生きていてごめんなさいって叫びながら床を舐めて、その度に思いきりお尻を叩かれました。  お尻の穴から内臓をぐりぐり押し上げられて吐きそうになりながら、自分が吐いたゲロを舐めとりました。 殴られたお腹の外側はずきずき疼いて、お腹の内側も痛くって、心から許して下さいって言いました。  そうしたら顔を持ち上げられて、正面に立っていた、新人さん…… 私を知っていた人と目があったんです。 ごめんなさいって、言いました。  それで、その人に、顔を殴られました。  犯してたヤクザさんはいつのまにか射精してたみたいで、そんな私を笑いながら離れて行きました。  次が詰まってるから、って言って、無理矢理立たされて、竹刀を構えさせられました。 二人目の人は、鞭を持っていました。  ああ、違うんです。鞭って言ってもバラ鞭じゃなくて、乗馬鞭みたいな棒状の硬いやつです。  持ってるだけだと真っ直ぐなんですけど、思いきり振るとしなって、元の形に戻ろうとする勢いと一緒に、思いきり肌を叩くんです。  もちろん、そんな物で叩かれたら痛いだけじゃ済みません。  皮膚は裂けちゃいますし、肉の薄い部分を叩かれたら骨なんてヒビが入ります。  叩かれた肉がグチャって潰れて、骨がビリビリ痺れて、痛みがずっと引かないんです。  振動してるみたいに叩かれた場所が震えて痛くて、風があたるだけで焼かれたみたいに痛くなるんです。  ここに来てからも何度か使われましたが、毎回本当に痛くて、ショック死してしまいそうになるんです。  本当に死んでしまう子も多いらしいですね。  あ、そうですね。右足の脛のところが、ちょうどそういう鞭で叩かれて、割れたところです。  皮膚も少し色が変わってるの、わかります?  あれは確か、お尻にホットソースを入れられた時だったかな…… あれ? タバコの時だっけ……?  ……っとと、話が逸れちゃいましたね。申し訳ありません、私がバカなせいで。 ええと、そう、二人目のヤクザさんでした。  でも、アレは勝負みたいな形式さえとれませんでした。  鞭を持ったヤクザさんを見た瞬間に、足が震え出してしまったんです。  その人、私の歯を抜いた人だったんです。そう、さっき話した、お父さんの腕を、へし折った人です。 あの人、すごく怖いんです。  歯を抜いた後も、何度も何度も壊されました。  指をへし折られたり、骨を折られたり、爪を剥がされたりしました。  私を壊している間はいつも、歯のない口でしゃぶらされて、それで最後は、壊された場所を精液で汚されました。  お父さんを直接襲撃したのもこの人だって言われても、もう憎いとかじゃなくて、怖いとしか思えませんでした。  私、本当にどうしようもなく折れてしまったんです。痛いのと辛いのと怖いので何もかも壊れちゃったんです。 だから、竹刀で打ちかかろうなんて考えることもできませんでした。  竹刀を持ったまま、身体を抱えるみたいに縮こまって、ガタガタ足を震わせるだけで。  周りを囲むヤクザさん達に囃し立てられて、蔑まれて……  ああ、中にはアクビをしてる人もいました。  私が惨めで無様で無力な豚だなんて、もうとっくに知ってるから面白くもないって。 そうしたら、鞭を持ったヤクザさんが、言ったんです。  『その場で漏らせ』って。  ……はい、すぐにその場で、立ったままオシッコを漏らしました。  竹刀は持ったまま、じょぼぼって床におしっこを漏らしました。  すぐに勢いがなくなって、太腿に伝って、あったかいなぁって思いながら、脛もくるぶしも、足元まで濡らして。  一拍置いて、みんな笑い出しました。  あんまりに惨めな私が、本当におかしかったんです。今までも何度もオシッコももらしたし、ウンチだってしてきましたけど、竹刀を構えたまま、命令されただけでお漏らしするほど無様な奴隷の…… いえ、もっと卑しくてどうしようもない私は、本当に滑稽で笑えたんです。  私までおかしくて仕方なくなって、一緒になって笑いました。  無様なゴミ女、いえ、ゴミを笑いました。  でも、漏らしたオシッコで濡れた太ももが寒くなった頃に、笑ってる場合じゃないなって気がついたんです。  急いで、床に這いつくばりました。 だって、私はお漏らししたんですから。すぐに掃除しないと怒られてしまいます。  オシッコで濡れた床は苦くて、酸っぱくて臭かったですけど、そんなのいつものことでした。  早く早くって舌で掬いとるようにして床をベロベロ舐めて、私の舌はなんでこんなに小さいんだって泣きそうになりながら舐めました。 ……でも、私が舐めるのは本当に遅くって……  バチーンって音がしてから、お尻を鞭で叩かれたんだって気がつきました。  鞭に限らないんですけど、いきなりだと叩かれたって気がついてから、痛みを認識するまで本当に一瞬だけ時間があるんですよね。  だから、その時間に必死に考えるんです。  どうしたら少しでも痛いのが抑えられるかなって、どうやれば次の痛いのを許してもらえるだろう、どうすればいいんだろうって、必死に考えるんです。  そんなの、無駄だってわかるはずなのに、どうしようもないバカだから、ついつい考えちゃうんです。 泣き喚きました。  お尻を鞭で叩かれて、痛い痛いって泣き喚きました。  当然、うるさいってまた叩かれました。  それで歯を食いしばって悲鳴を堪えたら、今度は黙るなって叩かれました。  痛過ぎて身体がぎゅうって縮こまって。お尻の穴から、さっきの精液を漏らしました。汚いって怒られてまた叩かれました。  たった4回叩かれたですけど、もう痛すぎて、叫びすぎて、動くことも叫ぶこともできなくなりました。  震えながら死体みたいに這いつくばっただけの私を見て、飽きたんでしょうね。  部屋の隅からホースを引っ張ってきて、放水が始まりました。  すごく冷たくて、裂けた皮膚に染みて痛かったんですけど、それでも、ドロドロに汚れた体が綺麗になっていくのは少し嬉しかったです。  まあ、私なんか内側が汚いんで意味がないって言われればそれまでなんですけど、やっぱり痒くなったりしないのはありがたいので。 ああ、それで、三人目です。  もう私、まともに立てなかったんですけどね。  無理矢理立たされて、竹刀を握らされて……  前に立っていたのは、今日来た人でした。  ええ、昔の私を知っていて、さっき、私の顔を殴った人です。 その人は、竹刀を持っていました。  ちゃんと剣道の構え方をしていて、ああ、この人は剣道をやっていたんだなって。  私も竹刀を持っているのに、足がガクガクして、腕も今にも落ちそうで、腰は引けていて、比べるまでもない有り様でした。  こんなのが昔は剣術小町だなんて言われて、竹刀を振るって連戦連勝だったなんて、きっと誰も信じられないと思います。 一気に踏み込んできて、まずは右の小手を打たれました。  痛いというよりも、痺れたみたいでした。  感覚がなくなって、ビリビリ痺れて、そのあとでじんわりと痛みが染みていくんです。  ひうっとかなんとか、そんな風に哀れっぽく鳴いて、私は縮こまりました。  反撃しようとか、防ごうとか思わなくって、やめて欲しいって思ってました。  でも、そんな私を見てもっと苛立ったみたいで、思いっきり、脳天に竹刀が振り下ろされました。  私はもう、そのまま叩かれちゃっても良いかなって思ったんですけど……  私が死んだら、お父さんや友達が同じ目に合うっていう話を思い出しちゃって。  だから、必死で竹刀を持ち上げて防ごうとしました。  もちろん、二年間も監禁されてた私の腕じゃ止まる訳ありません。  そのまま押し切られて、頭にパーンって竹刀が打ち付けられて、血の匂いがしました。  後で気づいたんですが、鼻血が出てたみたいですね。 クラクラして、視界がチカチカして、倒れそうになったんですが、倒れたらもっと叩くぞって言われて、頑張って立ったんです。  そうしたら竹刀が振り上げられて、ああ、これは面と見せかけて胴を打つやつだなってわかったんですけど、私はこのまま打たれるしかないなって思って、スパーンって、お腹を打たれました。 はい、さっき殴られたのと近い場所です。  たぶん、内出血してました。  お腹をひどく叩かれると、痛いっていうより、気持ち悪いんですよね。  胃の下のあたりでドロドロした物が蠢くみたいで、吐きたいのに吐くこともできないんです。  竹刀も下にさげちゃって、お腹を押さえてえんえん泣いてました。 それから、何度も何度も叩かれました。  腕を打たれて、お腹を打たれて、肩も脚も、頭も叩かれました。  死んじゃいそうなやつだけは防いで、あとはもう、ボコボコに叩かれました。  え? ああ…… はい、全部見えてました。  重心の動きから腕や肩の角度も、視線の向き先や竹刀の動きも、そんなつもり無いのに見えてました。  ……別に、不思議でもなんでもないことなんです。  だって私、ずっと剣道やってたんです。  捕まってからは使う機会がなかっただけで、剣や動きがわかるのなんてずっとでした。  当たり前のこととして体に染み付いていたから、当たり前に見えていたんです。  ……だから、当たり前だったんです。 ……私の竹刀が、スパンって音を立てて、男の人の頭を叩きました。  ……本当に、そんなつもりはなかったんです。  叩かれすぎて、クラクラして、向こうの竹刀が私の頭を狙って振り下ろされて、でも、それがどう動いて、どう力が入っているのかがわかって、勝手に腕が動いたんです。  竹刀同士を擦り上げるようにして、まともに立てなかったので倒れ込む勢いのまま竹刀を傾けました。鍔を弾かせるようにして、相手の剣を逸らして、こちらの剣を傾けると、勝手に剣尖が相手の面に向かうんです。  はい、私の家の流派、高森流の技です。『釘断ち』って言うんですけど。  あんな技、実戦で使うことなんてほとんど無かったんですけどね。それでも、稽古はしていたんです。  道場に立っていた日は、毎日毎日、32個の型を全部必ずやってました。  へとへとになっても、腕が痛くても、必ずやっていたんです。  だから、私の腕はまだそれを覚えていたんです。二年ぶりに握った竹刀でしたけど、14年間やってた剣術を、私の腕はまだ覚えていたんです。 感覚でわかりました、ちゃんと真芯で打ったなって。だからまあ、打たれた人は当然倒れちゃいまして。  ……あ、はい、力は入ってませんでしたが、ちゃんと打てば一発で倒せるんです。少なくとも、私の振るう剣は、ずっとそうでした。  それが、誇りでした。 ……それで、次の瞬間に後ろから殴りつけられて、首輪を引かれて手術台に固定されたんです。 ふふっ、ちょっと違います。逆らったことは、最後まで怒られませんでした。  無様で滑稽なゴミのくせに、剣術なんか使って逆らおうとしたから腕を切り落とされたって訳じゃないんです。  私も初めは、逆らったからだと思いました。  だから、手術台に固定されてからは必死で許しを乞いました。  きっと殺される、生きたままバラバラにされちゃうんだって、そう思ったんです。 そうそう、その時の命乞いがすごかったんですよ。  最初は普通に『許してください!』『なんでもします、全部やります!』とか言ってたんですけどね、そんなこと毎日言ってますし、ヤクザの皆さんが私の命乞いを聞き流しながら注射器とかノコギリとか取り出すのが見えて、すごいこと言ったんですよ。  『そ、そうだ! 子供、子供産みます! 私はどうしようもない豚ですが、出産して、子供作れます! 育てなくても、売ったり、遊んだりできますよ!! ど、どうですか?』って。 ……ふふっ、あっはははは!! ひ、ひどいですよね?  仮にも、仮にも人間が、人間じゃなくても、一欠片でも、倫理とか、尊厳とか、あるなら、絶対、絶対言えないですよこんな事!  もうこれにはヤクザさんも大笑いで、俺たちよりもワルじゃねえかとか、こんな畜生は見た事ないって大笑いで! あ、あはっ、あははは……っ!  ……くっ、ふ…… ぐっ、ふうっ、う……(すすり泣く) ……でも、この通りです。やめてもらえませんでした。  どんどん準備が進んでいくんです。腕に止血帯が巻かれて、口に猿轡を噛まされて、麻酔代わりに麻薬を打たれました。  脚の方にも何か機械が繋がれてました。たぶん、生命維持のための機械だったんだと思います。  私は猿轡をされたままひきつったように笑い続けて、それで、気が付いた時には、大の字に拘束されてました。 怖くて怖くて、もうどうすれば良いかわからなかったんですけど、少しだけ、安心もしてたんです。  だって、死んだら全部終わるんだって。  お父さんや友達のことはあるけど、それでも、もうこんな酷い日々はこれで終わる、逃げられるんだって思って、もうなんか、それなら全部どうでもいいかなって思って。 ……でも、そんなのお見通しだったんですよね。  言われたんです、殺したりしないって。  ……あの時言われたこと、よく覚えてます。  『オマエは、まだ残ってる物がある。だから死にたいだなんて思えるんだ。だから、まだ死ぬな』  『オマエの剣は見事だった、素晴らしい。人生でどれほどの時間を費やしただろう、生まれ持ったセンスもあるだろう、そこまで鍛え上げた理由もあるだろうし、そのために諦めた物もあるだろう。  それだけの価値がある成果だ、この二年で汚されて踏みにじられて壊されて落ちたオマエの、未だに残る価値だ。誇っていい』  『だから、オマエの腕を切り落とす。二度と剣を握れないように、絶対に元に戻らないように切り落とす』って、言われたんです。  あの時…… 私、なんて言おうとしたんだっけな、思い、出せないや。 ……あ、えっと、そんなことどうでもいいですよね、ごめんなさい。  腕、切られた時、ですよね。  えっと、実を言うと、腕を切られ始めた瞬間はわからなかったんです。  麻酔代わりに麻薬を打たれていたので、腕の感覚なんて結構あいまいでして。  ノコギリで切り始められた時も、初めは本当に、身体が震えているだけなのかなって思ったんです。  だから、気が付いたのは音が先でした。  ぴちゃっ、て水音がしたんです。  遅れて、左右の腕に冷たいような感じがして。それで、すごく怖くなって、見たくなかったんですけど、見ないでいるのがもっと怖くって、ほんの少し、ほんの少し、右側に首を傾けたんです。  そうしたら、細長い物が前後に動いてました。それは鈍い銀色をしていて、ヤクザさんがその端っこを以て、前後に動かしているんです。  よく見れば、その鈍い銀色はギザギザしていて、ああ、アレってノコギリなんだ、ノコギリをギコギコと動かしてるんだなってわかって、それで、それでーー!! 【SE:身じろぎする音(両腕がないので暴れてると言えるほどではない)】  腕! 私の、腕!! 腕が!!!! やだ! いや、私の腕が!! 切っちゃ、切っちゃダメなのに!!  私の、私のーー!! ダメ、できなく、できなくなる!! あ、ひーーーー!!!! 【SE:ガタンと小物が倒れる】 はーっ、はっ…… は……… ごめん、なさい。  いえ、大丈夫、です。話せます。話します。  はい、ええと、切られてることに、気が付いた後です。  それまでは痛いと感じなかったのに、気が付いてからは痛くて痛くて。  ずっと殴られたりしていたんだから、痛いのには慣れてたつもりだったんですけど、麻薬でマヒした感覚のはずなのに、すごい痛いんです。  右の腕から肉が引き潰されて、左の腕からぐちゃぐちゃぶちぶち言いながら神経がズタズタにされていくのがわかって、両腕の中が燃えてるみたいでした。  猿轡を強く噛みながらびくびく震えて…… ああ、でも、そんなのは大したことが無かったんです。  すぐに、本当にすぐに、コツンって音がしました。  わかりました、肉が終わって、ノコギリが骨に届いたんだって。  これから私は、両腕の骨をノコギリで切られるんだって、わかりました。 怖いとは、もう思いませんでした。ただひたすらに、悲しくて。  わたし今まで、何してたんだろうって思って、いろんなことを思い出してました。  お父さんに剣術を教えてもらって、道場で剣を振って、うまくできたら口をほころばせて、流石だなんてほめてくれて。  出来なかった技が使えるようになると、すごくうれしくて、剣の先が自分の腕と一緒になって、自由に動くのが本当に楽しくて。  剣道部も、本当に楽しかった。  部員はみんなひたむきで、ちょっとふざけたりもするけど練習には手を抜いたりなんてしなかった。  大会で、みんなに応援されて、強い人だっていて、それでも、私はその人達に勝って優勝して。  ああ、そう、優勝した後、お父さんはそろそろ免許皆伝かななんて、本当に、本当にうれしくて楽しくて、私は、もっと頑張ろうって、毎日毎日道場で、一日も休まなかったのに。  全部、全部、ダメになっちゃうんだって、私の腕、切り落とされて何もかも、私が必死で積み重ねてきたものが、大事なものがなくなっちゃうって、悲しくて、悲しくて涙が止まらなくて。  それでーーゴリって、音がしました。 骨って、音を伝えるんですよね。  だから、とても良く聞こえました。  ゴリゴリ、ゴリゴリ、私の骨が削られる音が、腕から直接頭の中に響くんですよ。  左右の腕がガリガリ削れて振動と痛みを乗せて音が頭の中でぶつかって響くんです。  私の全部が、切り落とされる音がするんです。  びくびく身体が震えて、大小便を漏らしていることに気が付きました。  たぶん、痛みとショックに身体も耐えられなかったんです。  どうしてか気絶はすることができなくて、骨の周りが削られる痛みと、骨の内側が抉れる痛みと、どうしようもない喪失をじっくりと味わっていました。  ……そうそう、ノコギリって、引くときよりも押すときの方が痛いんですよ。  押されるたびに骨の外側のところが、そう、ひどい凍傷を受けたみたいな、冷たいような痛みがして、それなのに骨の内側は焼けてるみたいに熱いんです。  肉を切られるのなんてもう痛くも何ともありませんでした、切られていく骨が痛すぎて、しかもそれが左右同時に切られていくんです。  ノコギリが引かれる度に、骨の中が抉られて神経が引き潰されて死んじゃうぐらい痛いのに、次の瞬間にそれが押されると中も外もバラバラにもっと痛いんです。  痛すぎて息が止まりかけて、身体が限界になって息を吸うと、呼吸の振動が骨に伝わってビリビリ痛くてまた息が止まるんです。なのにノコギリは止まらないんです。  気を逸らすなんてできません、頭の中が痛みと音でガンガンして割れてしまいそうで、猿轡を噛んでる歯茎から血が流れても、私が、腕ごと自分自身が切り落とされていることしかわからなくなっていって。 ゴリゴリ、ガリガリ、腕が削れて切れて、音と振動と痛みで気が狂いそうでいっそ狂いたいのに狂えなくて、もう、私の全部が、無くなってしまうんだって。  ああ、それで、思ったんですーー  剣術なんて、剣術なんて、やらなければ良かった。  そう思ったら、もう、何も考えられなくなって、目の前が真っ白になってーー  ぶちんっ、て音が、しました。 ……その後は、死なないように処置をされました。  止血して、固定して、切り口を塞いでーー痛くて、まだ痛くて仕方がなかったんですけど、もう何も考えたくなくって、大体の処置が終わったころになって、やっと私は気を失うことができました。 ……目が覚めた時は、切り口に包帯が巻かれてて、それで、腕が…… 腕が、無くて。  ……ずっと泣いてました。  悲しくて悲しくて、殴られても犯されても怒られても、ずっと泣いてました。  それで、ある日『価値が落ちた』って言われて、コンテナみたいな箱に押し込められて、ここに売られてきたんです。  ……一万円しなかったって、言ってました。  売り飛ばすその瞬間にまで、価値がないことをなじられて、怒られて、嘲られて、それでも、私が死んだらお父さんや友達だった子がどうなるかだけは丁寧に説明されて、売られました。  私の価値、あの人たちが切り落としたのに怒るだなんて、ひどいですよね。ふ、ふふっ、ふ、う、ぐ…… ここに来るまでの話は、こんなところです。  いかが、でしたか?  はい、愉しんでいただければ何よりです。 あ……  ご奉仕、いたしますか?  おまんこは、もうゆるくなってしまっていますが、お尻と、口はお楽しみいただけます。  はい、口はもちろん、入れ歯をはずしてのご奉仕をさせていただきます…… え? 手で?  あの、私、腕はこの通り無くて……  え? ああ、はい…… かしこまりました。  断面の、縫合痕で、お客様のおちんちんにご奉仕すればよろしいのですね……  はい、それでは、はじめさせていただきます。  チャック、口でおろさせていただきます…… 【SE:チャックを下す】 ひっ、お、おっきい……  あ、いえ、大丈夫です。  そ、それでは…… この、切り落とされた私の腕の断面で、ご奉仕させて、いただきます…… 【SE:切断痕でしごく】 ……いかが、でしょう、か?  も、もっと、強く、ですか、かしこまり、まし……  あ、いたぁっ!! い、いた…… うで、腕が、痛い……  ひ…… う…… ご、ごめんなさい……  わた、わたし、幻肢痛が、あるんです。  切り落とされた、腕が、痛むんで、す……  だから…… え? それで、やれ?  あぁ…… はい…… かしこまり、ました…… 【SE:切断痕でしごく(一回目より大きな音)】 い、ぎ…… ぐ、う……  は、お、お客、さま、いかが、でしょ、うか……?  あ、ぎっ!! やめ、断面に、ぐりぐり、しない、で!!  腕が!! あ、わた、私の、腕の、中が、えぐられて!!  いやぁ!! うで、腕が、犯されて!!!  ひーー! わ、わかりました、しごきます!  縫合痕で、しごき、ますーー  あーー ぎゅうううう!! いだ、いだ、いだいいいいいいいいい!!!  あ、ゆる、まだ、まだ、ですか!?  ひ、腕が、私の、腕が!!  やだ、やだ!! いたい!! 私の、大事な!!  あ、きゅーー!! 【SE:射精】 かーー はーー  あ、あつ…… うあ、腕、に……  うあ…… ちが、うで、は、もう…… あーー はい……  お掃除、させ、て、いただき、ます……  お手数ですが、入れ歯を外して、ください…… 【SE:口内をいじる】 あが、こ……  【SE:入れ歯を外す】  しょれへは、しふれいいたしまふ…… 【SE:お掃除フェラ】 ちゅ、じゅる…… ずじゅっ、ぢゅぅうう…… じゅるじゅる…… ずじゅう…… じゅるるるる…… ちゅぷっ いはあ、えしあは……? 【SE:入れ歯をはめる】 あ…… お楽しみ、いただけ、ましたでしょうか…… はい、では、またのご来店をお待ちしております…… 【SE:ドアを閉める】