せんぱーい。手が止まってまーす。  もう。部誌の締め切り、来週ですよ?  今回余裕あるとはいえ。  先輩ってば、さっきからずーっと『ぽわー……』ってなってます。  わかってますよー。また。桐生さんの事考えてたんでしょ。  あっ。やっぱり。  先輩の頭は、月曜からずーっと桐生さん一色ですもんね。  『いつもと違う道で登校したら、大事件に巻き込まれただけじゃなく、可愛い子に告白された』。  そんな運命の出会い。しちゃいましたもんねー。  へー? ほんとですかー? ほんとに時々思い出すだけかなー?  私にはそうは見えないですけどねー。  へ?  えっ? その件についてはですねぇ……。  ……。  んっ。んー。  えー。それはですね。  単に。言う機会がなかったからですよ!  だって言わなくないですか?  『先々週、先輩が拾ったスマホの持ち主は、実はうちのクラスの桐生さんです』  『しかも私とは『桐生』と『久我』で出席番号が連番だから、結構話す子だったんです』  なんて。  そんなの先輩が聞いても『へー。すごい偶然だねぇ』で終わりじゃないですか。  先輩なんて、スマホ何台も拾ってるんだから。   ねぇ?  だからわざわざ言うまでもないかなー? って。思ってただけですから。  そんな事よりっ。桐生さんとはその後どうなんですか?  すぅ、知りたいなー。  いや、知らないですよぉ。  席近くなるのだってテストの時だけだし、普段はグループも違いますから。  で。どうなんですか?  うんうん❤  えっ。いい感じじゃないですか!  毎晩メッセでおしゃべりしてるって事ですよね?  どんな話してるんですか?  ほうほう❤  むーちゃん推しって事までお話ししたんですか!  えっ。じゃあもう先輩の描いたむーちゃん絵も見せてたり?  えっ。いいじゃないですか!  いやあのですね、実は『どんなお話ししてるのかな』『ちゃんと盛り上がってるのかな』って、心配だったんですけど……。  そんなに話が合うなんて、すごいじゃないですか!  世間ではそれを。『盛り上がってる』って言うんですよ!  じゃ、付き合うんですね?  え? 付き合わないんですか?  弱気ですねぇ。まぁ、まずはその理由を聞きましょう。  はぁ。  はぁ。  えぇ……? から、かわれてる……?  あの、これは純粋な質問なんですけど。  先輩は。なんでそう思うんですか?  はぁ。  うんうん。  えぇーっ……?  つまり先輩は、桐生さんが可愛くて、頭もよくて。  月曜の件でもすごく頼りになったから。  『自分とは生きてる世界が違う。だから、からかわれてるだけ』って、思ってるって事ですか?  むむむむむ……うーん……。  ……あの。  先輩は『スマホ拾っただけ』って言いますけど……。  それだけじゃないですよね?  道に迷ってるおばあちゃん駅まで案内して。  おばあちゃんがばらまいちゃった荷物集めて。  倒れちゃった自転車も直して。  それから、遅刻しちゃうってわかってて、拾った定期入れ交番に届けて。  そーくんのお母さん、ちゃんと見つけてから学校行ったんですよね?  私。先輩のそういうとこ、すごいと思うんです。  で。桐生さんは、それをずっと見てた訳じゃないですか。  それでもそう思っちゃうんですか?  んー……私はすごいなぁって思いますけどね。ていうか……。   なんか先輩、さっきから。  桐生さんがどうとかじゃなくて。  『自分なんて、大した事ない』『だから、からかわれてるだけ』って事にしたいみたいです。  違います?  ほら……。  きりゅーさん!  桐生さんの話してた❤    ……!  ……。  あー……。なるほどぉ……。  何しに来たんだ? ってそりゃ。  先輩に会いに来たんだと思いますよ。  あっ。  あーっと。それは……それはですねぇ……。  うう……。  はい。ごめんなさい。先輩の言う通りです。  私と桐生さん、ずるしました。  私桐生さんに『今日先輩と一緒にフードコートで作業してるから、バイト前においでよ』って言いました。  でも桐生さん、バイト五時からだから。間に合わないかもって言ってたんです。  それでも来てくれたって事は……ほんとに。  ほんとにちょっとでも、先輩とお話ししたかったんだと思います。      先輩。確かにさっきのは私もびっくりしました。  『からかわれてるのかも』って思う理由も、ちょっとわかりました。  でも……。  え?   先輩? どこ行く気ですか?  追いかけるって……。  あっ……!  待って。待って下さい。そういう事だったら……急がなくて大丈夫です。  私、桐生さんのバイト先知ってます。  働いてる時でも。ちょっと声かける位なら、きっと大丈夫なとこなんです。  だから、一緒に……二人で『頑張ってー』って、してきましょう?  ……えーっと。レジのとこには、居ないみたいですねぇ……。  そう。私達がさっきいたBタウンのフードコートからまっすぐ行った、Aタウンのスーパー。桐生さんはここで働いてます。  うーん。毎日かどうかまではわかんないですけど……。  いつも学校終わって、十時位まで働いてるみたいな事言ってました。  あの。先輩。一回サービスカウンターの。  ……あれって、桐生さんですよね?  え……どうします……。なんか。警備員さんとか呼びます?  それがいいですよね?  え?  先輩?  あっ。あの、あそこです。お願いします……!