;//////// ;Track0 タイトルコールとこの音源の楽しみ方 ;//////// ;ナレーション(タイトルコール) ///;環境音 竹林、風 ;9 ;参)https://youtu.be/F9ivCYi1fJ0 「♪ すずめー すずめー おやどはどこだ チチチ チチチ こちらで ござ―― んん?」 「もう時間なん? せやったら……あれれ? ひよ、なにするんやったかのし」 「ん〜〜↑? ん〜〜↓ ん〜〜↑?  ――あ、思い出したのし。 ええとな? ひよな? "たいとるこおるやら"いうんよ。 えっへん」 「『あやかし郷愁譚 送り雀 ひよ』」 「ええとな? あんな? ひよいうんはな、うちのお名前。 ほんでな? ひよな? 送り雀いうあやかしやのし」 「で、ええと……。 んー、あー……ややこしいて忘れてしもたのし。 ちとかい待ってな?」 「ひよな? はじめにお話聞いた時、 あんまりややこしいさけ、きっと忘れてまう思ぅて、 ものべののカミさんに、いわなあかんことな? 帳面に書いてもろーとるのし」 「えへへ、この帳面もカミさんにもろたもんのし。 まぁるい雀の絵ぇが描いてあって、かわいいやろぉ」 ;SE 帳面めくる 「『人間の男はんとおなごはんのみわけかた』――違う。 『おいしいおせんべかえるとこ』――大事やけどちがう。 ……あ!」 「あった。これこれ。えへへ。 えとな? 『このボイスコンテンツはバイノーラル安眠ボイスコンテンツです』やて」 「ばいのーらるあんみんぼいすこんてんつ――って、何やろか。 あいやんは、知っとるかいねぇ?」 ;SE 帳面めくる 「あ! 帳面の続きに書いてあるのし。 ん、と―― 『バイノーラルとは、立体音響のこと。 ヘッドホンやイヤホンでお楽しみいただけますと、 まるでその場にいるかのような音響効果でボイスコンテンツを楽しめます』やて」 「……そげなこと、ほんまにできるん? ウソとちゃうかなぁ。 あいやん、ちとかい、ひよに試させちょおくれ?」 「ほんならなー。(息吸う)」 :SE 9→11 てててと軽い足音 ;11 「みぎみみー」 「どおお? あいやん。これ、右耳から聞こえとる?」 「え? 『左耳から聞こえる?』って―― ええと……んと……あ! そやなぁ、ほんま。 お茶碗もつほうが左手やもんなぁ」 「ひよが右と左、まちごうてしもたなぁ。 失敗失敗、失敗やのし」 「ほんならな? やりなおし。 『ひだりみみー』」 「どおお? あいやん? 左耳から聞こえた? 聞こえた! へぇぇ、ほんなら、もーちとかいためそ?」 ;SE ててて 11→13 「えへへー、『だぁーれだ』」 :SE ててて 13→15 「と思わせといて右からー! 『ひよでしたー』 :SE ててて 15→9 「あいやん? ひよの声な? 左、うしろ、右、前って、ぐるーって聞こえた? 聞こえた! わぁ。ばいのーなる、すごいなぁ!」 「ん? 『ばいのーなるじゃなくて、ばいのーらる』 あ! ほんまやー。 えへへ、ひよ、まちがっちょったね」 「おしえてくれて、ありがとうのし。 あいやん、ばいのーらるのこと、なんや、ひよよりくわしそお」 「ほんならな? 説明なんてややこしこと、この辺でもうやめてもええ? ひよな? こんなんうたとーてたまらんよし」 「あー、『うたとい』って、お歌うたうことちゃうのんよ。 お歌うたうんはな? ひよ、だいすきやのし。 ちとかいも うたといこと あれへんよ」 「ちがくてな? 『うたとい』は……んと…… あ、『めんどくさい』とか、『うざったい』といかその辺の意味やのし」 「そもそもな? 人間のことばは、おんなじことでもいろんないいかたあって、うたとすぎやのし」 「でな? ひよな? 頭つかうの苦手やのし。 そやから、ややこしことの説明とかもう、うたとーてうたとーて――え?」 」 「わ、やめてもええのん? えへへー、あいやん、やさしいなぁ。 ひよな? やさしくされると…… えへへへ、うれしいのしー」 「ほんなら、ええと―― トラック1やらいうとこで、おはなしの中でまた会おうなぁ」 「うん。おはなし。 ひよとあいやんは、お話の中で会うってものべのカミさんに聞いたのし」 「え? ああ――ひよ、うっかりやなぁ。 だいじなこと、いうてなかったのし」 「あんな? 『ものべの』いうんは、四国の山ん中にある、あいやんみたいな人間と、ひよみたいなあやかしが、なかよーくらせる、隠れ里みたいなちっこい村のこと」 「そのものべので、これからひよとあいやんは―― 出会って、そうして、なにするんやろかねぇ 楽しいことだとええねぇ」 「まぁ、そないなわけやさけ、ひよ、先にものべのでまっちょるねー」 「ほんならな、またあとで。 きげんよーして、遊びにきてなー?」 ;環境音FO ;//////// ;Track1:送り雀と竹やぶで(イントロダクション) ;//////// ;環境音。竹藪の中。風が竹やぶを揺するなど ;SE 雀の声 :SE 下草を踏み分けて歩く足音、男一人 ;16 遠い(編集で遠くから途切れ途切れに聞こえる感じに) ;参考)https://www.youtube.com/watch?v=2ygI8b9O6i0 「♪ ちいちいぱっぱ ちいぱっぱ〜 」 ;SE 足音止まる ;1 ;エフェクト、遠いがさっきよりは明瞭に 「♪雀のがっこの せんせーはー ;足音再開。 ;歌声だんだんフェードアップしていく 「♪むーちをふりふり チイパッパ 生徒の雀はわになってー」 ;SE 竹やぶをかき分ける。がさり 「っ!!?」 「………………(呼吸音)…………」 「んと……(呼吸音)……んと、な? あいやんが誰かはしらんけどな? ひよな? いま、おうたの途中やのし」 「あいやん、ひよのおうた、邪魔しにきよったん? ……(呼吸音)――あー、えへへ。 違うならよかったのしー」 「ほんならな、うたいなおすさけ、ちとかいまっとってな? ひよな? おうた途中でやめると、ムズムズするのし」 「♪ チイチイパッパ チイパッパ    すずめのがっこのせんせーはー    ムーチをふりふりチイパッパ        生徒のすずめは わになって    お口をそろえてえ チイパッパ        まだまだいけない チイパッパ    もいちどいっしょに チイパッパ       チイチイパッパ チイパッパ    ――うんっ!」   ;SE 拍手 「えへへー、ありがとお。 おうたはうととるだけでも楽しいけど、 誰かにきいてもらえると、もーっとよーさん、楽しいなぁ」 「……ところでな? あいやん、誰やの? どこからきよったん? いきなりぬうって現れたから、ひよな? ちとかいびっくりしたのし」 「ほぇ? あー、『あいやん』いうのんは、 なんや――んと、テレビのことばでゆうたら―― あー、『おにいさん』? のことやのし」 「ん? あぁ。 あんな? ひよの言葉は紀州弁、和歌山ことば」 「ゆーても、ひよ、あやかしやさけ。 こーみえても80年はいきとるさけ。 人間の、今の和歌山ことばとは、ちくとちごーてしもとるけどなー」 「な? あいやんは、どこの人間? こげな竹やぶん中、どこからどげして迷いこんできよったん?」 「ふんふん……(呼吸音)……へぇへぇ……(呼吸音) ほぁー、あいやん、旅人なんかー。 旅の途中で、ひよの歌声ききつけて、 わざわざ聞きにきよったん」 「あいやん、ものずきやなー。 え? 『聞きつけた』んじゃなくて? 『聞き惚れた』 」 「……(呼吸音)……えへっ、えへへー、 ひよ、なんや褒められてるやんなぁ。 えへー、そっかー。 あいやん、ひよのおうた気に入ったんかー」 「ほんならな、ひよな? あいやんに、他のおうたも聞かせてやるのし――あ」 「そげならな? えへへー、ひよな? ええこと考えたのし」 ;1 「あんな? ひよな? 和歌山のあやかしやさけ、 おみかん大好きで、たーくさんこーてもろたんよ」 「『誰に』て、ものべののカミさんに。 ひよな? おひっこしイヤやってんけど、 『そのまま和歌山にいたら、いずれは消えてしまうっスよ』といかゆーて、ものべののカミさんに脅かされたのし」 「ほんでな? ひよな? 『でもおみかん食べれなくなるのはいややのし』いうたん。 そしたらものべののカミさんな? おみかんたーんとくれるて、約束してくれよったんよ」 「せやさけひよな? ものべのにおひっこししてきたん。 けど、おみかんな? あんまりよーさんありすぎて、 ひよ一人だと、たべきれんで腐らせてしまいそうやのし」 「な? あいやん。 ひよのおうちに遊びに来て、おこたでぬくまって、 ほんでな? おみかんたべながら、 ひよのおうたをきかれへん?」 「ええの? やったぁ。 ほんならな、いこのし」 ;3 「あいやんが迷わんよーに、ひよな、おててつないであげるさけ。 でもな?、ひよな? ちとかい歩くんおそいさけ、 あいやん、あんまり早足で歩いたらいけんよー?」 「『ゆっくりあるく』? えへへ、ほんなら安心やのし。 したら、のーんびり、ひよと行こぉなぁ」 ;SE ふたり並んで竹やぶ歩く 「えへへー、ひよなー、おててつないで歩くのって、はじめてやのし。 これ、ええなぁ。 つないどるとこぽかぽかってして、歩くの楽しくなってくるなぁ」 参)https://youtu.be/mov3YCZA4Wc 「♪ おててつないで 野道を行けば    みんな可愛い 小鳥になって     歌をうたえば 靴が鳴る    晴れたみ空に 靴が鳴る」 「えへへ〜 あんまりたのしぃて、 おうたが勝手に、のどから出てきてしもたのし」 「え? 『うたうのほんとに好きなんだね』って―― そんなん、あったりまえやのし」 「だってな? ひよな? 送り雀やもん。 ほんでな? 雀はな? うたって飛んで、ちゅんちゅん遊ぶもんやのし――わっ!?」 「なんね、あいやん。どーしたん? え? 『竹の切り株につまづいた』……って、 あーあーあー」 「あんな? ひよな? 送り雀で、あやかしやさけ、 こんなナリしとってもな? ふよふよふよふよ飛べるんよ」 「せやさけ、この竹やぶに通り道つくるときな? なんやもうえらいうたとくなってな?」 「竹の根本じゃなくて、切りやすいとこで、 ぽいぽい竹切って “通れればもうそれでええ”いう道つくったんよ」 「せやさけ、飛ばんで歩くとな? 足元……えらいぼこぼこやのし」 「あいやん、ごめんなぁ。 横着したら、いけんなぁ」 「ひよ、ひよのおうちに人間が遊びに来てくれるなんて、 思ったこともなかったさけ――え?」 「『このくらいなら全然平気?』 えへへ、あいやん、頼のもしなぁ。 ほんなら、いこな? もーちとかい行けば、ひよのおうちにつくさけな?」 ;SE 足音 :SE 足音とまる 「ついたー!」 ;環境音 F.O, ;9 マイクと逆向き 「んー」 ;SE 木の引き戸、開く ;9 マイクむき 「あいやんにはちっさいおうちかもしれんけど、はいってはいって。 ひよな、すぐな、お茶をわかして、おみかん用意するさけな」 ;環境音 囲炉裏の火、パチパチ :SE 薬缶のお湯湧く、しゅんしゅん :SE お茶つづからお茶っ葉を急須に :SE 茶碗にお茶を注ぐ 「はぁい、あいやん、おまたせー――って!」 ;1  「あいやん、何しとるん!? おみかん、なんでそげしとるん?」 「『普通に剥いてるだけ』って―― そんなん! おみかんいきなり剥いたらいけんよ。 おみかんはな? 割ってから剥くもんやのし」 「ほぇ? 『どうやるの』って―― そないなこと、決まっとるよし。 まず、おみかんをこう、机の上に置くやんな」 「ほんでな? こう――手のひらでころんして、 ヘタのところを、一番下にむけるんやのし」 「ほんで、ヘタの反対側のとこ。 みかんのおへそのとこに、こう、親指を―― <みかんのへそに親指差し込む>――ずぶうって差し込んで……」 「ほんでな? そこからふたつにパカって割るよし。 で、割ったんまたええあんばいに割ってわけたら―― ほぉら」 ;SE 割ったみかんむく 「おみかんの皮、らくらく綺麗に剥けるのし。 ほんでな? あいやん――『あーん』」 「――(呼吸音)――えへへ〜っ。おいしうたべてな? どーぞっ、ほいっ」 :SE むしゃむしゃ 「な? 甘いやろー。ええへー。 あんな? ひよな? 割ったほうが最初から剥くより、 なんでやしらん、おみかん、甘くなる気がするよし」 「せやさけひよな? おみかん最初から剥いてしまうん、もったいないって思うんよ」 「ゆーか……(呼吸音)――あいやん、おみかん、えらいおいしそうに食べるなぁ。 えへへー、ほんならひよも、おしょうばんしよっ」 「はむっ――(もきゅもきゅ)――(ごくん)――んー、あまーい」 「えへへ。このおみかん大あたりやんなぁ。 粒もちっさくてかいらしし。 ひよな? おみかんはちっさい方が好きなんよー」 「その方が甘み、ぎゅうってしてる気がしよるし、 それにお手玉するにも――あ」 「せやったせやった。あいやん、ひよのおうた聞きに来てくれたんやったのし」 ;9 「ほんならな? ひよな? みかんお手玉しながらな? お手玉歌とーてあげるさけ…… えへへっ、きいとってなー」 「おみかんは……ひい、ふぅ、みぃ――よぉ! 今日はひよ、あいやんがみとってくれるさけ、 よっつおてだま、うまいこと行きそうなきがしとるのし」 「ほんならなー、おてだまするさけ、ん……っと」 ;以下、お手玉歌の間、みかんお手玉の効果音 ;お手玉歌は ;https://www.youtube.com/watch?v=XACYA47dt40 ;の04:50〜を参照ください 「♪ 新町通りの おみかん屋    おみかん一貫 いくらです 五百です    まあちょっと まからんか さがらんか ホイ    あなたのことなら まけてやる    ひい ふう みい よお    いつ むう たた やあ ここ とお」 「――えへへー! でけたー! おみかんよっつで、お手玉こぼさず、うたいきれたのし」 「ひよもなかなかやるやんなぁ。 えへへー、あんな? きっとな? あいやんが聞いとってくれたおかげよし」 「ひよ、おみかんよっつで歌いきれたのはじめてやさけ ――あ! なぁなぁ? あいやんは、お手玉いくつでお手玉しよるん?」 「え? ――『したことない』って――。 えええ、そーなん? どないして? お手玉、えらい楽しいのに――あ!」 「えへへ、ええこと考えた。 あんな? ほんならな? ひよな? ――あいやんの、おてだまのせんせーになったげるのし」 ;環境音 F.O ;//////// ;Track2:ひよせんせーのお手玉教室(ハンドリフレ) ;//////// ;9 「♪ 新町通りの おみかん屋    おみかん一貫 いく――ありゃ」 :環境音  囲炉裏 F.I 「あいやん、あんがいぶきっちょさんやなー。 ほんならな? ひよな? もっかい、おてだまのコツ、おしえたげるな?」 「あんな? おてだまはな? おてだまがぽーんとお空にういとる時間を、なるたけぜぇんぶおんなじにすると、やりやすいのし」 「せやさけ、左手から右手に送って、右手でぽぉんてお空にほるやりかたのお手玉は、実はえらいむつかしいのし」 「でなくて、右手と左手でじゅんぐりにぽおんぽおんて高くほおって、 逆の手でそれをじゅんぐりにつかまえて。 またじゅんぐりにほおてくほおが、見た目はややこしけど、ずっとずうっとやりやすいのし」 「な、あいやん。こまではええ? ひよのいうこと、わかってくれた? ……(呼吸音)…… えへへー、ちゃーんとわかってくれとるねー。さすがあいやん。うれしいなぁ」 「ほんならな? 2個からもっかい、やりなおしてみよ?」 「♪ 新町通りの おみかん屋    おみかん一貫 いくらです 五百――ありゃ」 「わえやなぁ。どしてもポロって、とりこぼしてしまうなぁ」 「……ひょっとしたらあいやん、つかれてとるんとちゃうん? な、な? あいやん。右の手ぇ貸して? 右の手ぇ」 ;2 「ん――っと―― わわ! 二の腕のお肉ガッチガッチやんなぁ。 こないになっとって、痛いことない? ひゃっ!?」 「はふぅって、今の声…… ツボをおしたん、えらい効いたん?」 「ふんふん……(呼吸音)……はぁはぁ。 なるほどなー。 ほんならあいやん、手と肩に、つかれがたまってしもとるんやなー」 「ほんならな? ひよな? あいやんのつかれ―― えへへ、ほぐしてあげるのし。 まずは肩たたきしたげるからな? あいやん、ひよに、おせなむけて? おせな」 ;5 「んふふー、あいやん、ひよよりずーっとおっきなおっきな背中やなぁ。 ひよのこと、さんびきくらいおんぶできそな大きさやのし」 「ほんならな? お肩たたくな? んーー(呼吸音)――<肩叩き音>―― どおお? あいやん? え? 『もっと強く?』 ええよー、ほんならなー」 「んしょっ――<肩叩き音強>―― ん〜〜っ――<肩叩き音強>―― こらしょ〜っ――<肩叩き音強>――」 「はぁ……はぁ……はぁ…… これなら効いた? あー、ええあんばいならよかったのし〜」 「けどな? ひよな? これ、えらいつかれるのし。 せやさけ、やっぱり肩叩きよして、ツボ押しするな?」 ;2 「まずは右手の……ここ――ん〜〜〜っ」 「んふふっ、効いとるねー。 ふはーって声、いた気持ちよさそうで、 ひよもなーんや、『やったー』いう感じするよし」 「もっかい――んっ……(呼吸音)―― ん――(呼吸音)――え? あ、ええよ? ひよに聞きたいことなら、なんでも聞いてくれてかまわんのし」 「うん……(呼吸音)――んっ――呼吸音――。 あー、『三匹くらいおんぶできそー』ゆうたんは、 ただのたとえばなしやのし――っと」 「あいやん、息がおちついてきたなぁ。 ほんなら、右手の手三里(てさんり)はもうええねー。 こんどは、な? 左手かして? 左手」 ;8 「えへへ。ほんなら、こっちも――んっ――(呼吸音) ――んんっ――(呼吸音)―― ああ、あいやん、まっことえらいつかれためとるんねぇ」 「手三里のツボはな? ん……(呼吸音)―― 特に胃腸がつかれてるときによぉ効くツボやのし。 え? (呼吸音)――ああ、そらそうやねぇ」 「旅の疲れは、確かに手足と胃腸にきそう…… ん――(呼吸音)――やし―― 念入りに――(呼吸音)――ツボ押し、したげんと―― ん――(呼吸音)――なぁ」 「あ。うん。そうそう、話の続きな? ん――(呼吸音)―― 三匹は、単なるたとえばなしで――んっ、(呼吸音)―― 仲間とか家族と、一緒にくらしとるとか、ないのし」 「ん――(呼吸音)――と、ここはこれでよさそうやのし。 ほんなら、今度はこのまま手首の付け根の―― 養老(ようろう)のツボ、ほぐそーな? んっ――(呼吸音)――」 「あははー、効いとる。やっぱりここも効いとるねー。 ここはな? ん……(呼吸音)――肩と腕のつかれとな? んっ……(呼吸音)―― あとな? おめめのつかれにも、よー効くツボやのし」 「ん……(呼吸音)――ゆーかな? もともと―― んっ……(呼吸音)――ひよ……送り雀には―― (呼吸音)――家族も、なかまも、おらへんやのし」 「送り雀は――ん――(呼吸音)――あ、 養老ももうよさそうやのし。 ほんなら、また右手にもどらしてなぁ?」 ;2 「ん……と、右手の養老――あ、ここやのし―― ん――(呼吸音)――ああ。うん。さっきのつづき」 「送り雀は、人を守るために産み出された―― んっ――(呼吸音)―― 人の願いの結晶みたいな、そんなあやかしなんやって。 ん――(呼吸音)―― ものべののカミさんが、ひよにそー、おしえてくれたのし」 「え? なにからって…… ふふっ――ん――(呼吸音)―― そらそうやなぁ。あいやんがもし知っとたら、 ひよも、ここにおらんかもしてんしなー」 「あんな? ん……(呼吸音)―― ひよはな?――(呼吸音)―― “送り狼”いうあやかしから、人を守るために産み出されたあやかしやのし」 「ほへ? ちゃうちゃう、そんなんとまるでちゃうよー ん――(呼吸音)―― 『お酒を飲ませて酔っ払っったおなごはんを家まで送る』 なぁんてあやかし、ひよな? んっ――(呼吸音)―― 見たことも聞いたこともあれへん――よしっ!」 「えへへー、ほんなら、しあげに手のひらのツボおしたげるよし。 んっ――しょっ」 :1 「ほんならな? あいやん、両手一緒に、ひよにまるっとあずけてな?」 「手のひらってな? ひっつけおーてるだけでもつかれ、 やわらこーなるのし。 せやさけ――ん……(呼吸)―― まずはこーして、ひよが両手で、 あいやんの両手、つつんだげるのし」 「けど……(呼吸音)――あいやん、おてておっきいなぁ。 ちとの手ぇやと、だいぶんはみ出しちゃうよのし」 「ほんなら、な? 両手とも、指と指の間をいっぱいにひらいて、ひよに手のひらむけてなぁ?」 「ん――そー。そうしたら――<手が重なり、こすれあう> えへへ――ええ塩梅やなのし――ん……(呼吸音)――」 「ゆびとゆび、こないにいれちがいにしたら―― ん……(呼吸音)―― てぇちいそーても、指の間を――<てこすり>―― こしこし、ほぐしてあげられるのし」 「ん……<手擦り>――ふっ――(呼吸音)―― ああ、そう――送り狼のはなしやったなぁ」 「送り狼はな? こわぁいあやかし。 夜道で音もたてんとひっそり、 歩いてる人間のあとをつけて、そうして――(呼吸音)」 「がぶーーって! 噛み付いてまるごと食べてしまうあやかし。 え? 食べられた人間? そんなん、死(い)んでまうにきまっとるよし」 「あ――あいやん、手、ちょこっと冷えたなぁ。 固くなってしもたのし。 せっかくほぐしちょったんにー」 「ほんなら……ん…… えいっ――(呼吸音)――あはは、やっぱり効いとるのし」 「ここな? 合谷(ごうこくいうて)ツボの王様みたいなツボなんよ。 乱れた気持ちを落ち着けて、体の流れも、それで整えてくれるツボやのし」 「せやさけ……んっ――(呼吸音)―― このまましばらく――ひよがこうしてあげるさけ。 あいやん。深呼吸したら、もっと気持ちが楽になるのし」 「え? ひよといっしょに? えへへ、あいやん、あいやんなのに甘えたさんやなー。 ええよ? ほんなら、いっしょに、な?」 「すってーーー (すーーーーっ) はいてー (はーーーーっ) もっかいすってー (すーーーっ) もっかいはいてー (はーーーーーっ)」 「ん! あいやんのおてて、またポッカポッカになったなぁ、 これならきっと、お手玉、上手にできるのし」 「ほんなら、な? もっかい、お手玉ためしてみよー? <足音>――あ、その前に――」 ;3 顔寄せささやき 「あいやん、ほんまにありがとねぇ。 “送り狼”のこと、ちゃあんと思うて、怖がってくれて」 ;10 「んふふっ? ほんなら、お手玉しよなー。 ひよな、おてだましやすいちっこいおみかん、 あいやんに選んであげるさけ」 ;環境音 F.O. ;//////// ;Track3:ひよの耳かき(右のお耳) ;//////// ;9 「♪ 新町通りの おみかん屋    おみかん一貫 いくらです 五百です    まあちょっと まからんか さがらんか ホイ    あなたのこと――とととっ――ありゃっ」 ;環境音 囲炉裏 FI 「あいやん、さっきより上手になったな。 えへへ、きっとな? ひよが手ぇほぐしたげたんが、きいたんやのし」 「ゆーても、ここから先に進めんなぁ。 おんなじトコで、何回もつっかかってしもうとるのし 」 「もーちとかいでぜぇんぶ歌いきれるんやけどなぁ。 ん〜……あとなんが足らんのかなー」 「あいやん、わかる? わからん? うーーーん……(呼吸音)――ん?」 「あいやん、おみみかゆいん? いま、小指の先いれてほじったよし。 ちとかい、おみみひよに見せてとくれよし」 ;3 「んー……これ。奥にみみかすつまってるかもしれんのし。 あ! ひょっとしたら、そのせいなんとちゃうかなぁ?」 「お耳がつまって、ひよのおうたな? ちゃんとちゃんとは聞こえんで。 せやさけ、拍子がとりづろーて、おてだまコカしちゃうんとちゃう?」 「ふんふん……『そうかも』って、あいやんもそげに思うん? ほんなら、おみみそーじしよ? あんな? ひよな? お耳掃除もできるのし」 「えへへ、あいやん? <ひざぽんぽん> ひざまくら。 右のお耳を上にして、ひよのおひざに、おつむ乗せちょくれよし」 「わ。あいやん、おつむ重いなぁ。 ひよのおひざ、ずしっとするのし。 とりあたまのひよとちごおて、あいやんのおつむには、大事なことが、いっぱいいっぱいつまっとるんやろぅなぁ」 ;(口寄せ囁き) 「(ふ〜〜〜っ)――けどな? あいやん」 ;3 「お耳のかすまで、たくさん詰めたらいけんのし。 せやさけ、ひよが、きれいきれいにしたげるな?」 「えへへ、耳かき。 これ、な? ちいさな竹の耳かき。ええもんでしょお。 これもものべののカミさんが、ひよにっておいてってくれたもんやのし」 「ん? あ――もちろんよ? あいやんが初めての人間のお客さんやさけ、 耳かきすんの、ひよ、これが初めてやのし」 「けどな、あいやん。怖がららんでもへーきよ、へーき。 ひよな? ぜったい上手にできるさけ」 「ん……(呼吸音)……ん〜〜。 そげに心配やったら、そーっとそーっとしてあげるのし」 「そーっと、そーっと。ん……<耳かき音>…… っ……<耳かき音>――(呼吸音)―― あさいとこ、コリコリしよなぁ――<耳かき音>―― ん――んふふー? な? 上手やろ?」 「『はじめてなのにどうしてって』――そんなん―― んっ……<耳かき音>――ん――<耳かき音>――ふふっ。 そんなん、ひよが、送り雀だからに決まっとるのし」 「さっきちとかいだけ言うたやん?……<耳かき音>―― ひよは、送り狼――人間を夜道で食べてまうおとろしあやかしから――<耳かき音>―― 人間を逃がすため、ねがわれて産まれてきたあやかしやゆーて……<耳かき音>」 「ゆーたら、ん……(呼吸音)―― ひよ、人間の味方のあやかしやのし。 せやさけな? ひよ……<耳かき音>―― 人間をたすけること……たぶん、最初っから上手にできるんよ――<耳かき音>――」 「せーやーさーけー……ん〜――<耳かき音>―― ほぉら、えへへへー。 こーんなおっきな耳カスも、はじめてやのにじょおずにとれてしまうんよー―― ひよもななかなか、やるもんやのし」 「ん? ……(呼吸音)――あー……<耳かき音>―― なるほどなー、 いわれてみれば、ふしぎに思うとこかもしれんなー」 「あんな? あいやん。 ひよ、人間の味方やのに、いままで人間とちとかいも触れおーたことがなかったんはな?――<耳かき音>―― ひよが――<耳かき音>――ん…… "人間を逃がすあやかし"だからやのし」 「……(呼吸音)――夜道あるいとって、送り狼に付け狙われたら、もう人間は逃げられへんの――<耳かき音>――ペロリ食べられて、ほんで、お終い……(呼吸音)――」 「そんなのもちろんイヤやさけ……<耳かき音>―― 気づけるように、逃げられるよに――<耳かき音>―― 送り雀が、ひよが、ん……(呼吸音)――きっと、産み出されよったのし」 「……<耳かき音>――夜道でな? 人間が送り狼につけねらわれてるの見つけたらな? ひよ……<耳かき音>――大声で鳴いてあげるんよ」 「『ちゅんちゅんちちち、ちゅんちちち』って。 ほいたら人間、だーって走って逃げたらそれで、絶対に助かるんよ」 「そ。送り狼は、送り雀……ひよの鳴き声きいて逃げ出した人間には――<耳かき音>――ぜったい、ぜーったいに追いつけへんの――<耳かき音>―― ひよは、そげな性(しょう)に産まれた――<耳かき音> 『送り狼から、人間が助かるため』の、あやかしやさけ」 「え? あ、そーそー。やっぱりあいやん、かしこいなぁ。 ――<耳かき音>――おつむ、ずっしりしとるだけのこと、 あるなぁ――<耳かき音>」 「ひよの声きいた人間は、一目散に逃げ出すか――<耳かき音> そうせんかったら、送り狼に食べられるかしか、あれへんの」 「せやさけ――<耳かき音>――ひよ、こげなふうに、な? 人間と――<耳かき音>――はなしたり、ふれあったりするのは、はじめてなんよー」 「えへへ――だから――<耳かき音>ひよ――うれしいのし。 あいやんがひよを見つけてくれて、会いに来てくれ――ひゃっ!?」 「あ、あいやん。急にビクってうごいたら、危ないのし。 お耳のおく――(ふーーーっ)――つっついてしまいそで、ひよまでビクってしちゃったのし」 「あ……せやけど……ん――」 :耳寄せささやき 「ん……ん〜〜っ――(ふーーーっ)」 ;3 「右耳、いつの間にすっかり綺麗になったなぁ。 ほんなら、仕上げな? このぽんぽんの方で、 こまかいの、ぜぇんぶとってあげるのし」 「ん――<綿毛耳かき>――んしょっ――<綿毛>―― えへへぇ――あいやん――<綿毛>―― あんばいよさそな――お顔やねぇ――<綿毛>――ん!」 「(ふ〜〜)――うん。おみみ、ぴかぴかになったなぁ。 ほんなら、次は――って、あいやん?」 「どげしたん? 急になんやら思い出したみたいな顔して、 びくびく、あっちこっちをみたりして――え?」 「『ひよちゃんと会えてるっていうことは、送り狼が近くにいるんじゃ』――って――あはは、あいやん。 あれへんよ。大丈夫やのし」 「もしもそうなら、ひよは大声で鳴いちょるのし。 『ちゅんちゅんちちち、ちゅんちちち』って」 「鳴いちょらゆーことは、送り狼もおらんゆーこと。 ……ゆーかな? あいやん。 送り狼は……もうおらんのし」 「え? 『どういうこと?』って…… んー(呼吸音)――えいっ」 ;7 「あはは、あいやん。ごろーんてした。 んふふ、綺麗にころげたなぁ」 「その話はな? すこぉしだけ長くなるさけ。 左のお耳。お掃除しながら――聞いてほしいのし」 ;環境音FO ;//////// ;Track4:ひよの耳かき(左のお耳) ;//////// ;環境音 囲炉裏 FI ;7 「ん……<耳かき音>――んっ……(呼吸音)―― あ、ここ――んっ――<耳かき音>―― ありゃ、けっこうひつこいなぁ――<耳かき音>――ん」 「あいやん、寝る時、左のお耳が上になって寝とるん? え? 『どうしてそう思うの?』って――<耳かき音>―― そりゃ、こげに……ん――<耳かき音>――な? 左のお耳のほーが、よーけに汚れとるからのし」 「下になってるお耳の方が、お耳のよごれも寝とる間に――<耳かき音>――下におっこちそおな気がするでしょお」 「ほんで、上になってるお耳には――<耳かき音>―― あ――(ふーーーーっっ)――ん。こげなふうに――<耳かき音>――ほこりやらチリやらがはいって。 ほんで……ん――<耳かき音>――よーけに汚れるんとちゃうんかな? って」 「ん? 『どうだか次から気にしてみる』……って? ――<耳かき音>―― あー、ほんまやなぁ――<耳かき音>―― ひよもゆーたら……(呼吸音)―― 自分がどげして寝とるかなんて……<耳かき音>、おもいだせんのし」 「ま、どげして寝とっても――<耳かき音>――ん? ああ……送り狼のお話な? ん……<耳かき音>―― 送り狼、な……(呼吸音)――」 「……送り狼、もうおれへんのし。 和歌山にも、ものべののにも…… 日本のどこにも、その他のどこにも―― おれへんの」 「……(呼吸音)――『どうして』って…… ん――<耳かき音>―― ん、と、な? あいやん――<耳かき音>――」 「んとな? <耳かき音>――あいやんは、 あやかしって、どげなもんか――<耳かき音>―― 考えたこと――ある?」 「あんな? ひよもな――<耳かき音>―― たった80年くらいしか生きちょらんあやかしのし。 ん――<耳かき音>――ものべののカミさんに聞かされるまで、少しもしらんかったけど――<耳かき音>」 「あやかしゆーんは、『人の想いが形を持ったもの』やゆー話なん――<耳かき音>―― たとえばな? 大雨も大風も地震もなーんもあれへんのに――<耳かき音>――山がいきなり崩れちょったとするやんなぁ――<耳かき音>」 「どーしてだどーしてだって、頭を捻って、みんなで崩れたとこ見てな?――<耳かき音>―― ほんでだれかが、『崩れたところが大きな足跡みたいになってる』とか言い出して――<耳かき音>――」 「そうしたらな? 答えがでんのはイヤやさけ、 わからんままじゃ、ちとかいも安心できんさけ――<耳かき音>―― 『大きな足が踏みつけたから、土砂崩れがおきた』――って――<耳かき音>―― むかしむかしの人間は、そげなふうに考えたっていう話のし」 「で、そげな話が広ぉ広ぉに広まって、みんなが噂するようになって、 芯から信じ込むようになると――<耳かき音>―― 『大足』いうあやかしが、この世にひょっこり、産まれよるのし――<耳かき音>」 「でな? “送り狼”もおんなじやのし――<耳かき音> はじめは、野のけだものか、ひょっとしたなら人間か―― “誰か”が、人間をぺろりと食べて――<耳かき音>―― この世からあとかたものー、消してしもーて――<耳かき音>」 「怯えた人間が。そげなんを『見えない狼』の仕業だとかなんとか言い出して――<耳かき音>―― ん……みんながそれを信じこんだら……<耳かき音>―― “送り狼”いうあやかしが、産まれよるんよ」 「人間が、芯から信じて怖がる気持ちが、送り狼を強い存在のあやかしにして――<耳かき音>―― ちとかいそれが行き過ぎて、助けてほしい気持ちが強まり、固まって……<耳かき音>――そうして産みだされたんが、“送り雀”――ひよいうことに、なるやんなぁ」 「あ……<耳かき音>―― ん……(呼吸音)――せやなぁ。 あいやんは、ほんまにえらいかしこいなぁ――<耳かき音>」 「ひよが産まれて、人間をどんどん助けて――<耳かき音>―― “送り狼”が大したことないって思われよったら……<耳かき音>―― そんなんなったら、だぁれも送り狼を怖がらんし、信じんよーに、だんだんだんだん、なっていくよし……<耳かき音>」 「ほんで、ラジオやら、テレビやら、インタアネットやらが、あやかしたちの暮らしてた場所を――<耳かき音>――夜の闇の真っ暗さを――<耳かき音>―― どんどん、剥がしてしもたさけ……<耳かき音>」 「人間がだぁれも信じんよーになって、怖がらんよーになったら、ぱあっと、な?――<耳かき音>――」 「“送り狼”――気が付かんうちに、ほんまに、ぱっと――<耳かき音>―― この世から、綺麗に消え失せてしもーたん……(呼吸音)」 「でな? 送り狼がおらなくなったら――<耳かき音>…… そしたら当然、送り雀も……忘れられて、語られなくなるのし――<耳かき音>―― だってそんなん、おる必要さえもう無いもんなぁ」 「さやさけ、ひよな?……<耳かき音>―― 『ひよもそのうち、消えてしまうんやろなぁ』思うて……<耳かき音>――それはちとかい、さみしいような気がするなぁ、て――<耳かき音>―― そげにおもうて、くらしとったんよ――<耳かき音>」 「けど……<耳かき音>―― ものべののカミさんがさそうてくれて……<耳かき音> しつこいくらいに――何度も何度も、さそうてくれて……<耳かき音>」 「おみかんもおうちもくれるいうさけ――<耳かき音>―― 『どーせきえるなら、一度くらいは旅いうもんをしてみてもバチあたらんかなー』て――<耳かき音>―― そう思うてな? ひよ、ここにおひっこししてきたん」 「え? ――(呼吸音)――うん。 せやなぁ、ほんま。えへへへへ――<耳かき音>―― ひよ、おもいきってものべのにこしてきて――<耳かき音>――うん。ほんま、ほんまによかったなぁ」 「あいやんに会えて、おうたもえらい褒めてもろーて……<耳かき音>―― 肩叩きやらツボ押しやら……ふふっ――<耳かき音> ――な? こないして、みみかきやら――<耳かき音>」 「しっとったけど、したことないこと――<耳かき音>―― 一度でいいからしてみたかったこと――<耳かき音>―― よーさん、試すことできて――あ」 「けどけど、ここで満足したらいけんねぇ――<耳かき音>―― んっ……<耳かき音>――あいやんには、 ひよのお手玉と、お手玉歌と……<耳かき音>―― きっと、覚えてほしいのし――<耳かき音>――うん」 ;7(接近ささやき) 「だいたい綺麗になったさけ―― ひよに、お耳のおくまで見せてな? ――(ふーーーーーっ)――」 ;7 「ん――ええあんばいやのし。ほんなら、ぽんぽんで仕上げてしまおなー。 あいやん、もーちとかいだけ、うごかんといてな?」 「ん……<綿毛>――んっ――<綿毛>――うふふっ。 おみみがぜぇんぶきれいになって――<綿毛>―― ちとのおうたで、ちゃあんと拍子とれるよーになったら――<綿毛>――」 「あいやん、おてだま――<綿毛>―― うたいきるまで、続くんかなぁ?――<綿毛>―― ちと、楽しみやのし――(ふーーーーっ)」 「はぁい。できた。 ほんなら、な? もーいっかい。 おみかんお手玉、ためしてみよねぇ」 ;環境音 F.O. ;//////// ;Track5:ひよのこもりうた ;//////// ;9 「♪ 新町通りの おみかん屋    おみかん一貫 いくらです 五百です    まあちょっと まからんか さがらんか ホイ    あなたのことなら まけてやる    ひい ふう みい よお    いつ むう たた やあ ここ とお ――わ」 ;1 「できた。あいやん、おてだまうたのおわりまで、 おてだま、続けられたなぁ―― すごい、すごいな。さすがあいやん、すごいなぁ」 「えへへー……うれしい。うれしいなぁ。 ひよな? なんだかえらい安心できたのし。 えへへ、お手玉、あいやん覚えてくれたなぁ」 「あいやんこれから、おみかんみると、 おみかんお手玉、おもいだすやろ? ほいたらきっと、ひよのおうたも、お手玉うたも、 一緒におもいだしてくれるやろ?」 「そいがな? えへへ―― ひよには、えらいうれしいことやのし」 「え? 『どうしてそこまで』……って―― ん……(呼吸音)――うまいことことばにできるかわかれへんけど―― あんな? あいやん」 「ひよな? ひよが生きとったってうとーてたこと。 消えてしもたら、だーれも覚えててくれんのは…… それはやっぱり、さみしいなって――え?」 「『ひよちゃんは消えない』って―― いや、ひよな? 送り雀で、送り狼から人間を逃したげるためのあやかしやのし。 せやさけ、送り狼が消えてしもたいま、だぁれもひよのことなんて――え?」 「あ……(呼吸音)…… あ……(呼吸音)―― ほんま、やなぁ。 あいやんが、人間が、ひよのこと、 ‘送り雀”いうあやかしのこと―― いま、知って、覚えて、思ってくれとるんやもんなぁ」 「ほんなら、えへへっ、ひよ、消えんなぁ。 あいやんが生きとって、ひよのこと忘れんかぎり―― このまま、うとーて、わらって、おみかんたべて、 くらせるなぁ――あ」 :環境音 家の外で雨 F.I 「雨音……ああ、結構つよぉに降っちょるのし。 これ、あいやん、外にでるの――んっ」 「ほんならな? 外も暗ぉになってきとるしな? あいやん、とまっていえばええのし」 「お客さんのおふとんないけど、ひよな? こげにちんまいさけ。 あいやんが寝取るふとんの隅っこで、 一緒にはいって、ちとかいも邪魔にならんと思うのし」 「ん。えへへ〜っ。うれしいなぁ。 ひよ、あいやんと、もっとたくさんおはなしできるなぁ」 「ほんなら、な――おふとん。あ」 ;2 「えへへ、あいやん。一緒にしいてくれるんやなぁ。 ほんなら、一緒に――んしょ――よいしょ」 ;1 「しけたー! ほんなら、あいやん? ごろんして、おふとんもぐって? あいやんが寝たら、そのおとなりに――」 ;SE 布団もぐる ;3 「えへへー。ぬくいなー。 あいやん、体ぽかぽかやのし…… えへへ、ここちええなぁ。安心やなぁ」 「ん――(呼吸音)――ふふっ。 ぬくくて安心したらもう、 だんだんねむぅくなってくるなぁ」 「……(呼吸音)――雨の音も、な? ひたひたしずかで、ここちええなぁ。 ものべのぜぇんぶ、お水の底にざぶんてつかって。 お布団の船で、あいやんとひよとふたりだけ、 ぷかぷかういとるこころもちやのし」 「え? ……(呼吸音)――うん――(呼吸音)―― うん。 あー、ほんま、あいやんのいうとおりやなー。 他の人間ともたくさんあえば、それだけたくさん、 ひよのことしって、覚えてもらえて―― 消えるの、とおざけられることになるなぁ」 「……けどな? あいやん。 あいやんは、ひよのお歌を聞きに来てくれた物好きやけど――え?」 「あ――(呼吸音)――ん――(呼吸音)――うん。 いわれてみたら、そげかもしれん。 ちいさいこなら、ひよのおうたも、おてだまも、 よろこんで覚えてくれるかもしれんなぁ」 「うん……ふん……『たくじしょ』いうて?―― ちいさいこどもをあずかって―― わ。ほんでおちんぎんまでもらえる、そげなお仕事が……あ――」 「お仕事……ん……(呼吸音)…… お仕事、なんて……ひよ、お仕事、とか……できるんかなぁ?」 「ひよ、うたといことちとかいもすかんし。 頭もかしこいことないし――え?」 「うん?……(呼吸音)――うん――(呼吸音)――あ。 ほんまやなぁ。えへへっ――ひよ、 ‘送り狼から人間を逃がす”大事なお仕事。 80年。ずっと、ちゃあんとできとったんやなぁ」 「ほんならひよにも―― たくじしょ? のお仕事……できるかなぁ」 「うん……うん……(呼吸音)――うん」 「……あんな? ありがとおな? あいやん。 ひよ、初めてあえた人間が、あいやんでほんま、よかったなぁ」 「けど……な? あんな? あいやんが、ひよをえらいことたすけてくれるさけ―― その……ひよ、わからないことがでてきたら、 きっとぜったい、あいやんに頼りたくなってしもうて――あ」 「……いつでも連絡してええのん? えへへ、うれしい。なんや、とくべつな感じがするなぁ。 うれしいなぁ」 「あ――(呼吸音)――そっか。 うん。これが、『おともだち』いうもんなんやなぁ。 あんな? ひよな? あいやんとおともだちになれて―― えへへへっ――えらいうれしうて、ふわふわ浮いてしまそうやのし」 「うふふっ、わかっとるよぉ。 うくのは、一人でもできるもんなぁ。 いまはあいやんと、ひとつおふとんでぬくぬくと、 おねんねをする時間やもんなぁ――あ」 「えへへっ、あいやん、あくびした〜。 もう眠たいん? えへへっ――ほんならな? ひよな?」 「和歌山のうた。ねむいたいときにうたううた。 あいやんに――ひよのはじめてのおともだちに―― こころをこめて、うたうのし」 「あいやん? ね? めぇつむってな? 聞いとくれのし――(すうっ)」 ;参)https://www.youtube.com/watch?v=eDp9ldwm8d0 ;歌詞は下記でお願いします 「♪ねんねんころりよ おころりよ   ぼうやはよいこだ ねんねしな   ねんねのおもりは どこへいた   あのやまこえて さとへいた   さとのみやげに なにもろた   でんでんだいこに しょうのふえ   なるかならぬか 吹いてみよ   これをくわえて ねんねしな」 「……(呼吸音)――あいやん? んふふ? ねんねしたん?」 「(リップ音)――おやすみ、あいやん。 ひよもねるなぁ? ほんでな、あしたも――あいやんが旅に出てまうまでは」 「いっしょに、たくさん、おしゃべりしよな? あそぼーなぁ」 「ふぁ……ん――」 ;口寄せささやき 「おやすみ、あいやん。ひよの、はじめてのおともだち」 「(寝息)」 「(寝息)」 「(寝息)」 「(寝息)」 ;環境音F.O →無音に ;おしまい