;//////// ;Track0 タイトルコールとこの音源の楽しみ方 ;//////// ;ナレーション(タイトルコール) ///;環境音 冬山深くの森の中 :5/後近(囁き、脅し) ;SE 火縄銃の火縄が燃える音 「動くでね」 「あんちゃ、誰(だ)? こん山さ登ってきだのは、どっただ用でだ?」 「(呼吸音)」 「ああ……ものべののカミさの使いのもんか。 脅かして悪がっだな。 冬にわざわざヒノキノ山さ登っでくるよーなもんは、悪さするヤカラが多いでな」 ;5/後近→3/右近  「へば、鉄砲(てっぽこ)の火縄、消さねばな。 <火縄の火を、先端ごと引きちぎる> ――ん? なしてたまげた顔しとるの?」 「あははっ、心配ありがどな。 んだども、火縄さ指先で引きちぎるくらい、なんでもないもの」 「ほ? 『指先で引きちぎったのにびっくりした』って。 こっただこど、鬼だったらできねーほうがおかしいべ」 「ありゃま。またたまげた顔して。 あ――ひょっとしてあんちゃ、 オラ……サキが山鬼(さんき)――山の鬼だってこどもしらされんで、オニの棲む山に登らされたな?」 「(呼吸音)――はぁ〜、ものべののカミさんもずいぶんとイタズラなこどするもんだなぁ。 ゆーか、カミさんは、なんの用があってあんちゃのこどよこしただ? こどづけさあるなら、サキ、聞いたげるべさ」 「ん? ああ。『タイトルコール』いうやつな。 確か、前に送られてきた手紙に―― ええと――<ガサゴソ> ああ、こいだこいだ。 へば、読む――あああっと。 あんちゃの正面の、さっと離れたトコに立って読むよーにって」 ;9/前遠 「へば――」 ;流暢なNA口調で 「『あやかし郷愁譚(きょうしゅうたん) 山鬼・三吉鬼(さんき・さんきちおに) サキ』」 「『この音源は、あなたをリラックスさせ、ここちよい眠りに導くことを目的とした、安眠バイノーラルボイスコンテンツです』」 「『コンテンツをよりゆったりとお楽しみいただくため、 ヘッドホン、もしくはイヤホンのご利用をおすすめいたします』」 「「『あたたかで、居心地がよく、いつ寝入っても大丈夫な場所で――どうぞ、サキとの山での時間を、お楽しみいただけますと幸いです』」 ;もとの口調 「んっ。こっただとこか―― んぁ? あんちゃ、そっただポカンとして…… サキがタイトルコオルさしてる間に、 なんかいぐねーもんでも食ったべか?」 「んん?  『あんまり綺麗に、見事な標準語で読むもんだからびっくりした』――って。 あははっ、サキ、標準語もつがえねよーに見えただな」 「いやいや、失礼でもなんでもね。 無理もねーこどだで。 こげな山奥に棲む、山鬼だもんなぁ」 「んだども、サキはな? サンキチサマって呼ばれて、 人間の神様として祀られたこどもあったくれえだからよ。 読み書き算盤くれのこだ、じょさねぇだ」 「ん? あぁ―― 『じょさねぇ』は、『造作(ぞうさ)ねぇ』―― 簡単なこど、っていう意味だ」 「ん……今のでもナマリ抑えでたつもりだども、通じねぇだか。 へば、もーさっと、標準語に寄せでみっか」 「ん? あー、そのくらいは楽勝。 いっときとはいえ、人間の神様してたんだもの。 だで、バイノーラルやらゆーもんの楽しみ方も、 さっきの手紙読んだだけで―― んふふ〜」 ;3/右、接近囁き 「み・ぎ・み・み」 ;7/左 接近囁き 「(はぁ〜〜っ)、んふふっ、ひだりみみ♪」 ;5 「な? これで正解だべな? あんちゃ、えへへっ、いまこそばゆそーな顔したもんな」 「ん? …… 『なんで神様をしてたのに、今はこんた山ん中で一人で』 ……だか? 「(呼吸音)……そこは……物語の中―― Track1から始まる物語の中で―― もしもあんちゃが聞きたいんなら、ゆるり、話すだ」 「……そんときのこど。あんちゃが聞きに来てくれるこど。 サキ、のんびりと待ってるがら」 「へば、またな。 今度は道に迷わんよーに、気ぃつけて」 :環境音F.O. ;//////// ;Track1:サキのアイスマッサージ ;//////// :環境音 FI 冬。山中。木枯らし :SE 冬枯れの山道を男一人歩く足音 :SE パキ、小枝を踏む ;SE ずるっと滑り、山道を滑り落ちていく ;SE ダッシュの足音 16/左前遠→8/左前近 ;SE ガシっと腕をつかまれる ;8/左前近 「…………大丈夫だか? 危ねかったな。 あんちゃ、そこから滑り落ちたら、ケガではすまんかったかもしれんな」 :SE 谷底から拭き上げてくる風 「って、このままだったらあんちゃの腕がきついべな。 いま、ひっぱりあげるだで、肩ぬけんよーに、力いれてな?」 「いでぐねーよに、ゆっぐりすっから―― そーっと――そーっと――ん!」 ;SE 両足が地面につく ;9前遠 「あんちゃ、平気か? まっすぐ立てっか? 膝こ肘こさ、擦りむいでねか? 「ん……怪我のねーよーなら何よりだな。 んであんちゃ、なしてこげな山ん中まで登ってきただ?」 「『ここはどこ――』って…… ああ、迷いこんで来ちまっただか」 「ここはな? ものべの。 人とあやかしがともにくらせる隠れ里の、 そのとっぱずれの山ん中―― ヒノキノ山の、山奥だ」 「『あやかしってなに?』って―― あんちゃ、なーんも知らんでよーもまー、 ものべのにまで迷い込んできたもんだな」 「あやかしいうんは、 もののけやら妖怪やらいわれるもん――バケモンもこど。 そのどれかくらいは、いくらなんでも聞いたこどあんべさ」 「ん? 『化物とかならわかる』だな? あははっ、んだばよかっだ。 へば、そっから話、聞かせるな?」 「化物ってのは細かぐいうと、あやかしの仲間のほんの一部。 モノやらケモノやらが、化けてなるもんだから、“バケモノ”」 「で、もののけいうんは、もーさっと狭い意味。 物の怪(ものの、かい)。物のバケたんで、もののけ」 「長い長いこど人間につかわれた物が付喪(つくも)して、 あやかしとして動いたりしゃべったりするようになったもんが、もののけ、な?」 「んで、あやかしいうんは、 鬼だのかっぱだの天狗だの―― 人間でねくて、もののけやばけものでもねえ存在のこど」 「で、妖怪は、あやかしとバケモノ、物の怪のぜぇんぶひっくるめた呼び方。あやかしが妖(よう)で、物の怪・バケモノが、怪(かい)。 あははっ、書いだまんま、文字の通りだな」 「ものべのではまぁ、妖怪いうこどばはあんまつかわれでねーみてーだな。 だでここじゃ、バケモンのこどもひっくるめでぜーんぶで、“あやかし”」 ;8 /左前近 「ん? まーだあんちゃときだらぽかんとして。 どしただ? ん? ……(呼吸音)……ああ。 サキがあんまり物知りだから、さっとたまげたか」 ;9/前遠 「あははっ、ま、たまげるべなぁ。 こげな山奥に一人で暮らしとる、 角もギラギラしとる鬼こが、 人間の言葉の意味を人間に教えてやるだなんて、 あははっ、まんずおかしな話だもんな」 「ん? ああ、サキいうんはオラの名前(なめぇ)な。 山鬼、山の鬼だから、サキ。 あははっ、簡単な名前だけど、その分、覚えやすいべ?」 「ゆーか……んふふ〜。 あんちゃもずいぶんとキモの座ったあんちゃだな。 こげな山奥でよ?」 ;1/前近 「こぉんた近くに鬼こど居って、恐ろしいことねえんだか? サキが人食い鬼だったらさ、あんちゃ、頭からぺろりといかれでるかもしれねのに」 「んん? …… 『落ちそうなところ助けてくれたし、かわいいから怖くない』――って! あんちゃ! あははっ! サキがかわいいって、 冗談のうめえあんちゃだなぁ」 ;SE 背中バンバン 「ああっ!?! ごめんなぁ、痛でかっただか!? サキ、手加減したつもりだったども―― んぁ? ――『痛いのは背中じゃなくて』――ああ…… 足こが今になって傷んできただか。 どれ――」 ;1/前近 しゃがみ 「……あー、熱もってっだな。 さっと挫いてっかもしれねがら……あっ」 ;SE 風吹く 「……あんちゃ、いま震えたな。 人間にゃ、この北風は冷たすぎか」 「……この近くによ、避難小屋っていうのがあっだ。 屋根と壁と床と、暖房器具もついとるで―― そこで足こさ見でやるほうが、あんちゃ、きっと落ち着くな?」 「……ふふっ。やっぱりか。 へば、そこまでサキが、あんちゃのこどつれてってやんな? ――よっと」 :マイクに背中向ける 「……ん? なにしてっだ? 早よ乗れ、おぶされ」 「なぁーに遠慮しでっだ。ええからええから。 サキはな? こう見えても筋金入りの鬼だでよ。 あんちゃの百人の二百人。 あははっ! ぽぽいのぽいで背負えるでなー」 :1/前近 マイクに背中向 「ん――<背負う>――んっ! あんちゃ、見だ目よりもっと軽ぃなぁ。 もっとたーんと食べねばダメだ。 へば、いぐな?」 ;SE 足音 ;SE 縦開きの木のドア、開 「ついただ。 今おろすから、足こさ、余計に傷めねよーに、 気ぃつけてな? ん……<下ろす>」 ;SE ドア閉め ;環境音 Vol↓ ;1/前近 「靴、脱げっだか? 脱げんようなら…… あ、んだか。 自分で脱ぐ気ぃつけて、足こさひねらんようにな?」 「脱げたら、あがって楽にしとけな? サキは、火ぃ起こして湯さ沸かしどくから」 ;14/左後遠  マイクに背中 「灯油は……よしよし、入っでる入っでる」 ;SE 石油ストーブ点火(チチチチ――ボッ) ;以降、環境音「石油ストーブ」 ;14/左後遠 マイク向 「ん? あっ――腰かげんなら、そこの敷物(しきもん) とこのほうがええべ。 尻こさ、その方が痛ぐねし、あっだまるしな」 「湯さ沸かしたら、すぐに足こさ見でやっから、伸ばしで楽に、楽になぁ」 ;16/左前遠 マイクに背中 「……お、しめしめ。まだ凍っでね。こんたら水も――あははっ、出だ出だ」 :SE 薬缶に水道の水を満たす ;16→15/左遠 マイクに背中 「よ――っと」 ;1  「待たせただなや。へば、足こさ見んな?」 「ん……(呼吸音)――さっと伸ばすな? ……どんだ? 痛むか?……(呼吸音)―― あー曲げ伸ばしで傷まねなら、良かったなぁ」 「左足は? ん……(呼吸音)―― ああ……(呼吸音)――なるほどなぁ」 「まんず不幸中の幸いだ。 挫いではね――ただな、あんちゃ……」 「冬の山道、備えもなしに迷い込んできちまっだから。 足この肉がこわばってこわばって―― そんで、動かすと痛でくなっちまってるみでだな」 「んだでよ、しゃっこくしてほぐしてやれば、 きっと少しは楽になるべな」 「ああ、避難小屋の外に井戸こさあったな。 なんぼかだけ待っててけれな?」 ;SE 足音 1/前近→5/後近→13/後遠 ;SE ドア開、ドア閉 ;SE 綱がギシギシきしむ :SE 氷割れる ;SE 井戸のつるべあがる ;13/後遠 マイク背中(編集でドア越し感) 「んっ」 ;ドア開、ドア閉、足音 13/後遠→5/後近→1/前近 ;SE しゃがみ込む ;1/前近 「バリーンって、おっきな音したなぁ。 たまげさせちまったか? ん―― あははっ、平気ならよかっだ」 「今な? 井戸に張っとった氷こ割って、 うふふっ、カケラこたぁんと持ってきただ」 「これを――<氷がぶつかりあう>――こっただして―― サラシこ巻いて――んっ――(呼吸音)―― ああ、よー冷えるなぁ」 「サキにはちょこっとしゃっこいけどな、 あんちゃの熱もった足こには、 きっとひんやり、気持ちいいべな」 「したら、そこにゴローンんて寝てけれ。 一番痛でのは――ん。ふくらはぎだな。 へば……ああ、その前にズボンぬがねば、濡らしちまうな」 「ん? (呼吸音)――ああ、濡らしちまうのは、氷でだ。 人間の技で、アイスマッサージていうのがあるで。 あんちゃの足には、きっとそれが―― 氷こ使って、もみ冷やすのが、一番いいって、サキ思うでな」 「もちろん、あんちゃがイヤなら――ん。 『気持ちよさそう』なら、やっでみるべな。 したっけ、ズボン――――ええ、と――はうっ」 「へ、へば! 早くぬいで、ほんでぺたーって、 腹ばいに寝そべってほしいだよ。 その間、サキはそっぽをむいてるでな」 ;1/前近 マイクに背中 「……(呼吸音)……もおええだか? 脱いで、腹ばいにぺたんてしただか? ……(呼吸音)――」 ;5/後近 マイク向き 「ん! へば、アイスマッサージはじめるな? 右も左もいっぺんにした方があんちゃもきっと楽だと思うで――」 「ん。それでええなら、 両足ぎゅうって、隙間つくらんよーに…… ああ、そうそう、そっただ感じで」 「へば、氷こを―― あ、しゃっこすぎたら、さらしこもっと巻くだで。 遠慮とかしねで言ってな? まずはふくらはぎ、試しにさっと揉み込んでくでな?」 ;SE さらしを撒いた氷で肌をなぜる 「ん――あははっ! ビクってしただな? しゃっこすぎだか? ん――平気? んならよかっただ。 へば、もーなんぼか強めで揉み込むな?」 「ん……(呼吸音)――<氷揉み>―― ん――(呼吸)…… ど? 痛ぐね? しゃっこすぎねか?」 「ん……(呼吸音)――うん――ああ―― 気持ちええなら――あはは、ちゃあんと効いでっだなぁ。 よかったー、ほんたら、このまま続けんな?」 「ん……(氷揉み)――ふっ――(氷揉み)――」 ん……(氷揉み)――んっ――(氷揉み)」 「ストーブでポカポカしてる部屋でさぁ―― ん――(氷揉み)―― アイスマッサージ、なんて――(氷揉み)――んっ―― なーんか、えらい贅沢さ しでる……(呼吸音)―― 気が、しねか?」 「んだな。とっても――(氷揉み)贅沢だなぁ。 氷こ、溶けてぬるぬる滑って――(氷揉み)―― あんちゃの熱っついふくらはぎこ冷やして――(氷揉み) ――けど、ストーブの火で――すぐに――(氷揉み)―― ぽかぽか――(呼吸音)――ぬくまっで――んっ――」 「氷と炎で揉んでんだもんな――(呼吸音)―― 肉の疲れもそりゃ――(氷揉み)―― んっ――凍えて、燃されて――あははっ――(氷揉み) ――あどがたもなく、消えちまう、だな――(氷揉み)」 「ふうっ――(呼吸音)――こっただもんでど? 『気持ちよくって疲れもぬけた』? あははっ、そんたらなによりだー」 「あんちゃの足こさ握り潰さしたらいけんでなぁー、 力を抜きに抜いたでな、気づかれしたけど―― えへへ、楽になったんなら、よかったな」 「(呼吸音)――うん。 ちゃあんと効いてくれたんならさ、 足の他んとごも、アイスマッサージでほぐした方が、 もっとあんちゃ、楽になるなぁ」 「んふふっ、あんちゃもしてほしいなら、よかっただ。 へば、今度は上むいてごろんだ。 あんちゃのふともも、サキがもみほぐしてあげるなぁ」 「ほーい、ごろんっ」 ;1/前近 「あ……細っごく見えて、案外にたぐまし足してんな。 それだけに、ん……<素手でさする>―― 熱もってパンパンにふくれでるんが、痛痛しぃなぁ」 「疲れたべな? がんばったなぁ。 あんちゃ、よっぽど長いこど迷ってたんだな」 「へば、お腹もすいたべな? あ! んだんだ。こないだ仕留めた鹿こさ埋めであっがら、 ちょうどそろそろ食いごろだべさ」 「えへへっ、体ほぐしたらよ、鍋こにしよな? あんちゃと食べるもみじ鍋、楽しみだなぁ」 「へば、そろそろ太ももほぐすな? ん――<肌さすり>――っっと、 したらな? また足こぎゅーってしめでけろ?」 「――そうそう――<氷揉み>――おおっ!? あははっ! さっきよりもーっとたまげたみでだな」 「腿の方がふくらはぎより効いたんだなぁ――<氷揉み>――ああ、氷の溶けも……<指先で溶けた水をぴちゃぴちゃ> ……ん、ふくらはぎんときより、早けみでだな」 「疲れがそれだけたまってるってことだもんなぁ。 へば――んっ――<強氷揉み>――おおっ!?」 「あははははっ! 今のあんちゃ声、 絞められっどきのイノこみでだったなぁ」 「ま、イノこと違っで、あんちゃの肉じゃ―― <撫でさすり> うふふっ、たどえ喰っでもちょびっとすぎて、 酒の肴にもならなさそーだな?」 「ん? ――ああ――<氷揉み>―― サキはな、お酒が好きなんだぁ。 お酒が好きで大好きで――<氷揉み>…… えへへっ、お酒欲しさに、人間の手伝いいーっぱいしたなぁ」 「手伝って呑んで、手伝って呑んで。 手伝って呑んでたらいつの間に――<氷揉み>―― 人間が、サキのこと慕うようになっでくれてな」 「……お酒とおんなじくれにさぁ――<氷揉み>―― サキ……(呼吸音)――あはっ、 人間の笑った顔も、好きだったなぁ―<氷揉み>」 「っと――<氷揉み>――あんちゃ、案外回復力あっだな。へへ。 太ももも、ほぐれでやわこくなってきたな。 へば、アイスマッサージはこのくれでおしめぇにしどくか」 「揉み返しが来ちまっだらかえってよけいにしんどぐなるし―― あんま長げこど氷あてすぎて、しもやけにでもなったらそらそれで面倒だでな――っと! <手のひらで肌叩く> 「んふふっ、やわこくなったあんちゃの肌さ、ぺちんていい音でなるもんだなぁ。 おなかいっぱいになったら今度はポコンてなるよに、なんのかなぁ?」 「ふふっ、ほんたら、鍋にするべな。 今、鹿の肉掘り返しにいぐけど―― あんちゃも、一緒するだか?」 「あははっ、冗談。冗談だぁ。 へば、さっといってくるだで、 あんちゃはそこで、火の番しててな?」 ;//////// ;Track2:サキとお鍋とストレッチ ;//////// :環境音 FI お鍋、ぐつぐつ ;9/前遠 「……ん。こんであと10分も煮込めば上等だ。 ふふっ、あんちゃの足も、ずいぶんとらくになっだみてえで、よかったな」 「で……あんちゃ、 どっただ理由でヒノキノ山まで……あー……うん……(呼吸音)」 「はぁ……はぁ……地図アプリみてたら? 仕事の連絡がとびこんできで――(呼吸音)―― はぁ、それに返事してるうちに重要な話になってきて? はぁぁ、あんちゃ、よっぽど夢中になったんだなぁ」 「あんちゃが落ちそうになったとこまで登ってくんの、 普通にしてたって、人間には大変なことだべや。 ……んだどもな、あんちゃ? どんただ大事なお話しでも、 命おとしだら、続けられなくなっちまうべな?」 「あ――んふふっ。 あんちゃは素直なええこだな。 『ごめんなさい』 に、 『ありがとう』。 ええ響きだなぁ。 サキ、何十年ぶりに聞いだかなぁ――ふふっ」 ;2/右前近 「素直なあんちゃには、もっと良ぐしてやりたくなんな。 ん――鍋こさ煮えるまで、もーだっとかがるし―― あんちゃの体、 サキ、もーちょっと見でもええだか?」 「ん。あんちゃも見でほしいんなら、よかっただ。 へば――」 ;1/前近 「どれどれ――<さわさわ>―― ん……(呼吸音)―― ああ――<さわさわ>―― なるほどなぁ――」 「あんちゃ、スマホとかディスプレイとか、 けっこう長い時間みちゃってねか? そんせいで、体がこう――前側にまるまるクセがついちまってるかもなぁ」 「あどは――ん……<ぽんぽんと体軽く叩く>―― ああ……やっぱだな……<ぽんぽん>――うん」 「体幹も、もーさっとでも鍛えだほうがええかもなぁ。 腰にかかる負担をさっとでも減らせれれば、 あんちゃ、もっと楽になんでもできるようになるだで」 「どっちもさ、えらいごと簡単なエクササイズでできるで。 なんら鍋こが煮えるまで、ここでためしてみてもええけど ――ん。あんちゃがその気なら、教えんな?」 「へば、まずは両手をだらっと垂らしで、 体の脇にくっつけてけれ」 「したらいま、親指が真正面。 顔の向きとおんなじ方にむいてんな」 「へば、少し力をいれて――んっ―― 肩から腕をまるごと全部ねじるみでにして、親指を外側にひらいて――ひらいて――(呼吸音)――」 「腕の内側も手のひらも、まるっと全部――(呼吸音)――できる、だけ――ねじって――ひらいて――」 「ん……(呼吸音)――こーすっど、肩甲骨と肩甲骨の間がせばまってぐのがわかるべや? そらつまり……(呼吸音)――まるまりグセがついてる体を――(呼吸音)――ひらいて伸ばしてるってこどだで」 「ねじれるだけ体こひらいたら――ん――(呼吸音)―― このまま……(呼吸音)―― ゆっくりと十(とお)かぞえようなぁ」 「ひの、ふの、みの、よの、いつ、むう、なな、やあ、ここ、とお」 「……へば、力を抜いて、体をだるーっとゆるめっだ。 最初はさっとな?  肩がばりばり、はがれるような気がするかもしんねけど―― うふふっ、繰り返しやれば、すぐに慣れるだで」 「どだ? 痛だぐねが? 少しでも痛だむようなら、痛だみがぜぇんぶ抜けてから、まだゆるゆると試せばええな」 「ん、もうちょっとためしたいだか? へば――今日は3セット、ためしてみんな? ええだか? いくだよ?」 「ひぃの、ふぅの、みぃの、よぉの、いぃつ、むうぅ、なーな、やぁあ、こぉこ、とおっ!」 「へば、またゆるめる。だらーん」 「ん。ええ感じだな。 んだども、無理すると痛めちまうで、 最後の一セットもいまとおんなじ、無理せずゆるーり、ひねっていくだ。な?」 ;2/右前近(接近ささやき) 「その分すこぉし。すこぉしだけゆっくり数えて、 サキがあんちゃのギリギリのとこ、見極めるだで」 ;1 「へば、ラストなぁ。 ひぃのぉ、ふぅのぉ、みぃのぉ、よぉのぉ、いぃつぅ、むうぅ〜、なーなぁ、やぁあぁ、こぉこぉ、とお〜っ!」 「ん、おづかれだなや……よーがんばったなぁ。 <SE お腹なる>―― あははっ、あんちゃ腹へっだだか。 あんな? サキもだ」 「へば、お楽しみの、鍋にすべ? あんちゃ、よそう? それともサキが、よそったげよか?」 「あはは、わかった。 へばな、たぁんとよそったげるで。 な? 座ろ?」 ;SE 藁の座布団に腰掛ける :10/右前遠 (囲炉裏を囲み直角に座り合ってる) ;環境音 お鍋ぐつぐつ→volアップ 「ん……あとさっとだけ待ってけろ。 仕上げに、えへへっ――上等の秋田味噌を――<味噌を溶き入れる>――ああ――(鼻すんすん)―― ほっとする匂いだなぁ」 「ん? あれ? いっでねがったっけか。 サキは、秋田の出身だ。 神様やっとっだころは赤沼(あかぬま)の方。 神様おわれでからは、太平山(たいへいざん)で暮らしとったでな」 「神様やる前は、ほうぼうだなぁ。 なんせサキは――えへへ、お酒に目がねぇで」 「呑ましてくれる手伝いがあるってきいちゃあ、 山ん中でも、海沿いにでも、どこでもほいほいでかけてったな」 「っと……火が通りすぎでせっかくの鹿が固くなってもうめぐねだ。 ほぉれ――(木のお椀に鍋よそう)――鹿肉に、長ネギに、 まいたけ、ごぼうに、セリに――うふふっ、だまこも」 ;2/右前近  顔寄せ 「ほぉれ、たんと[食え'け]。 へば――『いただきます』」 ;10/右前遠 「へへ、サキは鬼だで、ガマンが苦手だ。 だでな? 大好物の鹿から――(あむっ)――んっ〜っ (むしゃ、むしゃ、むしゃ――ゴクッ――) ああ〜っ、こりゃんめなぁ」 「鹿肉にはやっぱり秋田味噌だなぁ。 塩気抑えだ上品さが――(はむっ) (むしゃ、むしゃ、むしゃ――ごくっ)―― く〜っ! 肉の味さひぎだでで、まぁうめごとうめごと」 「あははっ――あんちゃの口にもあっでるみでだな。 もっと[食え'け]? たぁんと[食え'け]! 遠慮しとたら、鍋こさ空になっちまうぞ?」 「(はむっ――むしゃ、むしゃ――ごくっ)―― あ〜っ、だまこもうめなぁ〜」 「ん? ああ、あんちゃ、だまこ見るのははじめてだか。 んなら――ほぉれ。まずは喰っでみ?」 ;2/右前近 「あ〜〜んっ」 ;10/右前遠 「へへっ……(呼吸音)――んめか? んだか。 なら、なによりだ。 聞くより食うほうがわかんべな。 だまこは、お米。はんごろしにしたお米をまるめてつくった、おだんごな?」 「だまこにせんで、秋田杉の棒にくっつけてのばしたもんが――お! へへっ、さすがにあんちゃもしってっだっか。 んだ。だまこどきりたんぽは、まんず いとこ同士みてぇなもんだで――あっと」 「いげね。煮えすぎちまう。 な、あんちゃもな? どんどんけ、くってけれ」 「(はむっ――むしゃっ――むしゃっ――ごくっ)」 「(ずっ――ずずずっ――ずっ)――ふはっ」 ;ごぼう 「(もぐっ――こりっ、こりっ――ごくっ)」 ;だまこ 「(はむっ――)おっほっ――はふっ、あつっ――んっつ――(もむっ――もむっ――ごくっ)」 「っと、もう火から鍋、おろしてええだか? ん。なら――」 ;2/ 右前近 「よっ――っと」 ;環境音、囲炉裏パチパチに変化 ;3/右近 「へへっ――せっかくだで、あんちゃのお隣で」 「あんちゃ、おがわりは? ん? ああ、もうええだか? へば、サキも――<よそい>――ん、こんくれぇで、 しめえにすっだか」 「(はむっ――もぐっ、もぐっ――ごくっ) ふはっ――んめなぁ〜。 味はこってりしみきったのも―― まだ、最初とは違ううめさだな、こら」 「(ずずっ――ごくっ) ん〜っ。 (がぶっ――もぐっ――ぶちっ――もぐっ――ごくんっ) くあっ! 鍋なんてなぁ、ひどりでくっでもうめぐねーものな。 あんちゃが紛れ込んできてくれて……へへっ、サキ、ツイてたなや」 「あー。こっただうまい鍋こ囲んで、お酒のいっぱいものめねぇ言うんわ、辛いもんだで……呑みてぇなぁ〜」 「え? ああいや、ここ――ものべのでもな? 秋田おったころとおんなじに、力仕事しだお礼に、お酒だなんだはもらっでるから……切らしてるいうこどはねぐてな?」 「ただ……その……こないだ、ものべののカミさん怒らしちゃって…… 一月の間、お酒呑まない約束な? 結ばされちまったの」 「あ……(呼吸音)――んーとな? ものべのにも鬼がおるだよ、牛鬼。 とおこいう――こぉんたおっぱいおっきい牛鬼」 「でな? サキ、勝負ごと好きなもんだで。 鬼同士、ちからっくらのひとつもしたい思たでな? お相撲、挑みにいったんよ」 「んだどもな? とおこは、気が優しすぎでなぁ。 サキが勝ちたい勝ちたい思とるもんで遠慮しで、 勝負の最後で、ふうっと力がぬけちまってなぁ。 それでサキ――バカにされてるみたいに感じで―― つい、カアっとしてな」 「牛鬼のとおこにはな? 旦那さんがおっでな。 とおこはその旦那さんのこど、大事に大事にしとるって、 サキも、知っておったで――つい、なぁ……」 「『最後の勝負でも力こ抜くなら、 サキ、とおこの旦那さ、さらっちまうで』って―― 挑発さ しでしまっでな」 「したらようやく、とおこの目の色が変わったで、 さてはっけよい! って、山鬼と牛鬼がほんきでがっぷり組み合ったらよ――土俵が持たねで、割れちまっただ」 「当然勝負もなーんもなしだ。 あわててもとにもどせねぇかとあれやこれやとしとったら、 ものべのカミさんがすっ飛んできて―― まぁまぁ怒(おご)るの怒らねの」 「サキもよ、土俵こ割れだとき、 カァってしとったのいっぺんに収まっで―― カミさんと、牛鬼のとおこに、ひらあやまりにあやまったども……」 「とおこはと違っで、ものべのの神様は許してくれんの。 勝負の前の景気づけに、ほんの一杯、サキがお酒をひっかけてだのにかこつけて―― カミさん、許す条件に一年の禁酒だいいだしてなぁ」 「一年呑まねば干からびちまうで、真っ青になっで謝まっで―― したらな? なぁんととおこもな? サキといっしょに、神さんにあやまってくれたんだぁ」 「で、神さんも収めてくれで、 お酒さ断つの、一ヶ月だけでええいうこどになったんだ」 「この約束さ破っちまっだら―― 神さんにもとおこにも、申し訳ねぇだで…… どっただ こん鍋がうまぐでも、 あんちゃとの話が楽しぐてもよ―― (はむっ――もくっ、もぐっ――ごくんっ) ふぁ――今のサキには、酒は呑めねだ」 「ん? っと、肉も最後の一切れだなや。 へへっ――今日は、あんちゃがお客さんだで。 最後の一切れはあんちゃのもんだ」 ;2/右前 「ほぉれ。遠慮せんで。 あ〜〜〜――あっ!?」 ;箸から肉が滑り落ちて、汁気たっぷりの取り皿の中におちる。ぼちゃん→ぴちゃ! 「ありゃま。お肉が逃げ出しちまったな。 へば、あらためて――ん……」 :2/右前 顔寄せ囁き 「今度はおとさねぇよーに。うふふっ。 『あ〜〜〜ん』」 「……(呼吸音)――んふふっ、んめそだ顔だなぁ。 そっただ顔してもらえんなら、サキもうれしいだ。 うふふっ、『ごちそうさまでした』――ん?」 「あ、さっきぽちゃて跳ねたとき、しずくがあんちゃにかかってただか?  火傷しただか? 痛でとこねぇか?」 「え? 『痛くはないけど、耳になにか入ったかも』って――ああ!」 「へばな? ごろんて、してくれっだか? サキ、あんちゃの耳そうじしてやんなぁ」 「なぁに初めてのこどだども、心配いらねだ。 サキは、いっときはサンキチ様―― カミ様だった山鬼だでなぁ」 ;環境音FO ;//////// ;Track3:サキの耳かき(右耳) ;//////// ;環境音 ストーブの火。薬缶のお湯、しゅんしゅん。 ;3/右 顔寄せ 「(ふ〜〜〜っ)」 ;3/右 通常 「ん……えへへっ。人間に膝枕してやんのも初めてだどもな―― こら……うん。なんだかええもんだなぁ。 牛鬼のとおこがとろけだわけも、なんとなーくわかるなぁ」 「ああ――うん。 とおこはな? 旦那さんに膝枕してやってんの。 よく晴れたぽかぽかした日に、山ン中の開けたのっぱらで」 「……してるとおこもされてる旦那さんもしあわせそうで、 もうとろけそうな顔してなぁ。 ほんだでサキも、一度はしてみてぇとなぁって思うてたでよ」 「えへへっ――あんちゃが来てくれて、よかっただ。 耳かきもなぁ?  ふふっ、とおこにもらった新品があるで―― ほっただ……そろそろ、はじめっか」 「ん……(呼吸音)……んん? ゆーか……あんちゃの耳の穴、ちっせくねが? え? 『ふつうだと思う』…… ん〜……(呼吸音)――そんだか、こいが普通だか」 「とおこ、どーみても不器用そうなのに―― どっただしてこっただ小さな穴ん中にみみかきいれて、 旦那のこど、あれほどとろーんてとろげさせてっだろかなぁ」 「ん〜……んだども、とおこにできるこどならよ、 サキにきっとできるでな。 ……安心しろ? あんちゃ。 オラがあんちゃのごと、耳かきで、 とろっとろにとろけさせてやるからなぁ」 「(呼吸音)……ん……<耳かき音、軽> ――どげだ? あんちゃ。いまぐれのなら痛くねが? あー……うふふ、平気だったら、えがったなぁ」 「んだば、耳のフチとかその辺から、 まずはじわじわ、掻いてくなぁ?」 「ん……<耳・軽>―― ふ――<耳・軽> (呼吸音)――<耳・軽> ――よ……<耳・軽>――」 「あ……細けのなかなかとれねだな――<耳・軽>――ん……(呼吸音)」 「ふふっ――なんだかこうしてゆっくり耳かきしてるとさ――<耳・軽>―― あんちゃの耳で――<耳・軽>―― 宝探ししてるみてぇな気持ちになってくるなぁ――<耳・軽>」 「んだども――(ふうっ)―― ん〜あんちゃ、耳のフチ綺麗すぎて、すぐ終わっちゃうったなぁ。 いっつも手入れしてっだか?」 「あ……湯さへぇったとき手ぬぐいで―― そっただこどでも、ずいぶんちがってくるもんだろな」 「んだども――<耳・軽>―― これじゃやりごたえねぇべさ。ん……(呼吸音)」 ;3/右 顔寄せささやき 「……ゆっくりやるで。 な? もそっと奥まで――入れてさせて、なぁ?」 ;3/右 通常 「えへへっ。んだらば、やってみるなぁ? ん、と――(呼吸音)――(ごくっ) そーっと……そおっ――っと――<耳かき音>」 「ん……暗くて見えづれ…… 耳こさ さっと引っ張って、 いくらか見えやすくしても――あ、ええだか。 えへへ、あんがとな、あんちゃ」 「へば。んっ――<右耳の端ひっぱる>―― あ……見えだ……こら――おお―― 中にはいくらか、おっきいのころがってっだな」 「んまぐ取れるがな? ん……慎重に――慎重……に―― <耳かき音>――んっ――(呼吸音)――<耳かき音>」 「お……っと――<耳かき音>―― んっ――(呼吸音)―― っと! へへっ、みて、あんちゃ! いっことれただ。 あんちゃはどだった、痛ぐねがった? ……(呼吸音)――」 「あ――『気持ちよかった』なら、なによりだぁ。 えへへ、サキもうれしいで」 ;SE ティッシュで耳かきをふく 「へば、もーいっこ――ん……<耳かき音>―― っ――(呼吸音)――あれっ、逃げ――<耳かき音>」 「っと――あわてねで……(呼吸音)―― ん――<耳かき音>――おっ――<耳かき音>―― よしっ――(呼吸音)――んふふ〜っ」 ;3/右 顔寄せ 「あらかた取れただ。 さっきとくらべて、今のどだった? あんべぇよくて――えへへ、とろけちまったか?」 「ん……(呼吸音)――」 ;3/右 「あー……『今のはちょっと緊張した』だか。 そういわれだらもっともだ。 サキも力んぢまたもんなぁ。 とろけさすには、もーっと緩まねばいけんみでだな」 「へば――(呼吸音)――んっ!」 ;SE 顔をやさしくなぜる 「……なでなでで、まず形からゆるもうなぁ。 サキのなでなで、人間のこもりしどったときにも―― えへへっ、大評判だったでな」 「んだども……<なでなで>――んふふっ、 こっただおっきなわらしこ撫でんのははじめでだ。 ちっさなあかんぼのほっぺぷにぷにするのも悪ぐねぇけど……」 「<なでなで>――ん……(呼吸音)―― あんちゃのこど撫でるのも、悪ぐねな。 なんかこう……胸の奥んとこ、ぽーっと温もるよな感じがすんなぁ」 「って! 耳かきの途中だっだな。 ん――(ふうっ)――あどいっこ、おっきいの残っとるだで、とらねばな」 「ん……<耳かき音>――んっ――(呼吸音)―― よっ――<耳かき音>――え? サキのこどか? ――<耳かき音>――ああ――秋田で―― <耳かき音>――」 「んだ、なぁ。お酒さ欲しさに人間の荷物運んで、わらしこあやして、火事消して……<耳かき音>―― そっただこどをくり返す間に――<耳かき音>―― いつの間に――神社が出来て――(呼吸音)―― カミ様にまづられとったなぁ」 「ん? ……『そのカミ様が、どうして秋田を離れて』か?――(呼吸音)―― ん、だな……<耳かき音>――」 「……(呼吸音)――聞かせておもしれ話しでもねけど……<耳かき音>―― なんでかな。あんちゃにだったら――(呼吸音) 聞いてもらいて気もするな……<耳かき音>――」 「んだども……<耳かき音>―― ん――<耳かき音>―― っと――(呼吸音)―― よしっ! へへっ――<耳かき拭き>」 「ちょうどこっちの、右の耳こさ、すっかりまるっと綺麗になったで……」 ;顔寄せ 「(ふ〜〜っ) ……話の続きは、左のお耳、 綺麗にしながら、ゆるりど、な」 ;環境音 FO ;//////// ;Track4:サキの耳かき(左耳) ;//////// ;7/左 顔寄せ 「(ふーーーーーーっ)」 ;7/左 通常 「……こっちのお耳も、浅いところはだいたいきれいだな。 左の耳より、もっときれいかもしれんだで…… あんちゃの指先。 右耳の穴に入れやすいの形しでるのかもしれねなぁ」 「んだども――うふふっ――<顔撫で>―― どーでも同じだ どっちの耳も、サキがキレイキレイにするでなぁ」 「え? 『もう少し撫でてほしい』だか? ふふっ、冗談ごとでなく、 ほんとにわらしにかえっちまっただか? あんちゃ、めごいなぁ」 「……あんちゃに甘えられんのな? ――<顔撫>―― サキも、なんだか嬉しいんだわ――<顔撫>―― だけん、たぁんと甘えてけろな?」 「ん……<顔撫>――(呼吸音)――。 こっただ山奥来てもスマホで仕事だもんなぁ――<顔撫>―― あんちゃ、疲れで当だり前だな――<顔撫>―― しんどいなぁ――<顔撫>」 「……いいこだ。いいこ――<顔撫>―― あんちゃはいいこだ――がんばりやさんだ――<顔撫> ――んだども、今日は、うふふふふっ」 ;7/左 顔寄せ 「こわぁい鬼につかまっちったもんだでな?――<顔撫>―― 言うごど聞かねば、食われちうだ」 ;7/左 「んだでな? 仕事(しごど)も勉強(べんきょ)もなぁんもなんでもほったらがして――休まねばまぁ――<顔撫>―― わるぅい鬼この、命令だでな」 「ん? あははっ――だなぁ。 あんちゃも、サキもゆるんだなぁ。 あんちゃ、ほっとした顔しでるもん。 サキもか? んだか、ニコニコかぁ」 「したら、ナデナデはおしまいにして、 耳掃除――させでもらうな?」 ;7/左 顔寄せ 「ん……(呼吸音)――(ふーーーーっ)」 ;7/左 通常 「うん……<耳かき音>―― ん……<耳かき音>―― あ? ああ……(呼吸音)―― サキがどうして秋田を離れたが――<耳かき音>―― 聞かれてただな――」 「サキはな、普通の鬼だったでなぁ――<耳かき音>―― 鬼の両親から産まれでよ――<耳かき音>―― んだども、産まれてすぐに置き去りにされて……(呼吸音)―― 物心つくまでは、山のケモノとかよ、捕まえて喰っで、育っただ」 「わらしこの鬼にはよ、人間とケモノの違いも、わがんねがらな――<耳かき音>―― 山奥の深くに置き去りにさねでねがったら、 そのころにもし、人間と出会ってしまってたらさ――<耳かき音>――」 「ん……(呼吸音)―― サキも人食い鬼になってさ――<耳かき音>―― 人間の名のある侍に、退治されてたかもしれんなぁ――<耳かき音>――」 「んだとも、サキがはじめて人間とあったのは――<耳かき音>―― 右も左もわからんころでも、腹ぺこんときでもなかっただ――<耳かき音>―― クマこかなんか仕留めで喰っで、腹ぽんぽこで――(呼吸音)―― んふふ、そっただときにな? ガリッガリのじさまと出くわしたんよ」 「じさまは……今思うと坊んさんだったんだろぉなぁ。 ガリガリでまずそうなのに、おっとろくてな――<耳かき音> おっとろしいけど、サキも鬼だで、逃げるだなんて思いつかねで――<耳かき音>――」 「どうしでええかわからねで、動けんままでおったらさ―― ぷぅんて匂い――い〜い匂いが、サキの鼻こさ、くすぐってきただよ」 「ん。んだ――酒だ――<耳かき音>―― じさまが、とっくり取り出して、フタを開けたでま――<耳かき音>―― もうその匂いが、とっくりの中身が気になって気になって――(呼吸音)―― おっがねのも忘れで、ふらふら近づいちまっただ」 「んだどもな? じさまと来たら、サキが手ぇ伸ばしたら――<耳かき音>―― ひょいって、ひょうたんかくしちまうってな。 力づくで――とか思えるような相手でもなかったで――<耳かき音>―― オラ、どうしてええが困っちまって、また動けんよーになってな――<耳かき音>」 「したら、な? じさまがサキに言っただよ――<耳かき音>―― 人間の言葉なんて、聞いたこどもならっだこどもねがったのに――<耳かき音>――不思議なもんでな。何いわれてっか、わかったの」 「んだで、いわれたとおりじさま抱えて、峠さ超えで、じさまおろして――(ごくりっ)―― ああ、思い出すだけでも呑みだくなるなぁ」 「ご褒美にもらったひょうたんの中身の―― あのときの酒のうまがったこど! もうな、サキ――いっぺんでとりこになっちまったの」 「じさまはそれぎり――<耳かき音>―― サキのこどほったらかして山の向こうへと去っていったども――<耳かき音>―― ひとつだけサキに、人間の言葉、教えて残してくれてなぁ――<耳かき音>」 「んと、な? (呼吸音) ――『手伝いすっから、酒こ呑ませな?』 あははっ、こんたが ――<耳かき音>―― サキが一番はじめに覚えた、人の言葉だ」 「はじめは山に来たもんに――<耳かき音>―― それからだんだん――<耳かき音>―― 村やら町やらに、こっちからでかけて、でもそういって――<耳かき音>――」 「したらな? だぁんだん……<耳かき音>―― 人間の方から、サキを頼るようになってきたんだぁ」 「そんころにはさ――<耳かき音>――サキも、 人間の言葉をすっかり覚えで――<耳かき音>―― 人間のこども、まぁまぁ好きになってからなぁ――<耳かき音>―― 酒だけじゃなく、頼られるのもまぁ、嬉しぐて――(呼吸音)」 「火事も消したし、いぐねぇ長者をこらしめもした――<耳かき音>―― 山から材木たんと運んで、戦のときには鉄砲こかついで大砲かついで――<耳かき音>―― サキにお酒さ呑ませてくれた人間を、 必ず助けでやったの――<耳かき音>――」 「したらなぁ、いつの間にちっさい祠ができて―― 神社になって――(呼吸音)―― まぁ、カミさまに祀られたんな……<耳かき音>―― んだども……そこから、ズレはじめてちまってなぁ――<耳かき音>」 「人間たちがよ、神社にお参りするようになっで――(呼吸音)―― だんだんと、サキに直接、頼み事をしでこねよーに、なったのさ――<耳かき音>」 「『恐れ多い』だなんだって……<耳かき音>―― あははっ、こっちはさ? ご褒美のお酒が目当てなだけなのになぁ――<耳かき音>」 「『神社の酒もサンキチ様のものですだ』って、つきあいのあった年寄り衆なんかは言ってだけどな?――<耳かき音>―― そっただ飲んでも、盗みのみみででんめぐねーのな――(呼吸音)――」 「……人間のこど手伝って、手伝ってやった人間が顔くしゃくしゃにして笑ってさぁ――<耳かき音>―― そうして、一緒に呑むんでなげりゃ……<耳かき音>―― んめぐねーのな」 「んでな? そのうち―― サキが手伝ってやっとった人間たちが代替わりして、代替わりして――<耳かき音>―― そうしたズレが、すり替わるまでになっちまってな――<耳かき音>――」 「サンキチ様から、ミヨシ様―― 呼び名が変って、祀られるカミさまも、すりかわったの――<耳かき音>」 「サキが一度もあったこどもねぇ、むかしむかしの豪族が祀られてるってこどになっでな?――<耳かき音>―― 人間も、こっただ山鬼さ祀るより、その方があんばいよかったんだろぉなぁ――(呼吸音)――」 「そんたらなったら、もうだぁれも、サキのこど頼らんし、祀りもせんよーになっちまってな――<耳かき音>――ある日ぽこんと、サキはカミさまでのーなったのさぁ――<耳かき音>」 「ただの山鬼に……(呼吸音)―― いや、もう誰からも、頼られるこど恐れられるこどもね、 ……だれからも忘れ去られた山鬼に、なっしまっただ――<耳かき音>」 「……あやかしの力の源は、人間の恐れだったり、思いだったり、そういうもんだで――(呼吸音)―― 忘れ去られたあやかしは、消えでぐしかね……っと―― <耳かき音>――」 「ん……(ふーーーーーっ)――ありゃま。 話す間にすっかりど、左耳も綺麗にしちまっただな」 ;<ティッシュで耳かき拭き>   「ああ……いつの間にか日も落ちて……<顔撫>―― 退屈な話につきあわせちまって、悪かっただな」 「え? ――『退屈じゃなかった。話の続きが気になる』って…… はぁ……あははっ! あんちゃもそーとーな変わりもんだなぁ」 「あー……(呼吸音)――うん。 あんちゃみでな細っこいのを、夜の山ん中追い出すわげにも、いかねぇもんな。へば――」 「な? あんちゃ。今夜はここに泊まってげ、な? サキは本当は、星の天幕、草の布団が一番だども―― 一晩くらいは、綿の布団に――へへっ」 ;顔寄せ囁き 「……あんちゃどいっしょにくるまって寝んのも、」 まんず、悪くもなさそうだでな」 :環境音FO ;//////// ;Track5:布団の中で体幹を ;//////// ;環境音・無音 ;3/右 「ん……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――」 「……雪、降ってきただかな? 音が吸われて、とても静かだ―― なんだかさ……耳が、真っ白になっだみでだな」 「ん? 『おかげさまで』――って。 あははっ、んだか。 あんちゃ、サキの耳掃除、そっただ気に入ったくれただなぁ」 「え? …………あ……(呼吸音・照れ)―― ん――サキもだ。 あんちゃの耳掃除してたらな? 牛鬼のとおこがどおして、とろけるよーな顔こしてたか、 ちょべっと、わかりかけたよーな気がしたで、なぁ」 ;3/右 顔寄せ 「次会うとぎにも、耳かきして、な?」 ;3/右。 「そんあとは――あははっ。 ふたりでさ。旨め酒、しこたま飲もうなぁ――っと」 「……それまでにあんちゃにおっ死なれてもこまっちまうがら。 さっき教えそびれてた、体幹の簡単な鍛え方、覚えてほしいだ」 「えへへ――なら、一緒にしよな? あっ! 平気だ、そのままで。布団にいるままで。 寝たままで、動かず出来ちまう、鍛え方だで」 「まずな? 布団の中で腰を少しだけ持ち上げて、自分のヘソを、自分の鼻に向けてやるように――あんちゃ、できっか?」 「あ――ん。上手だ。 そっただできたら、次はなぁ? 持ち上げたのをゆっぐりぺっだ下ろしでみてなぁ?」 「ん――ええ感じだな。 へば、背中から腰がぜっんぶぴったし、敷布団にくっついとるで――」 「このまま腹こさへっこめて、、 背中と腰をしいてる布団に押し付ける―― 布団の綿のそん中に、自分の体を沈めるように―― 力んで、ぎゅーっって、してみてなぁ」 「ん……ふっ……ん…… 背中と、腰が、沈んでってる感じ、するだか? なら、な? そのまま――そのままで十、数えるだ」 「ひぃの、ふぅの、みぃの、よぉの、いぃつ、むうぅ、なーな、やぁあ、こぉこ、とお」 「んふふっ、ご苦労だったなぁ。 へば、すっかりと緩んでええで―― 力こぬいて――だらーーーん――うふふっ」 「……けっこうぐったりつかれるべ? 寝る前にやるクセつけとくと、 腹と腰回りを鍛えられっし、 その先の眠りは深くなるしで、ええこどだらけだ」 「ん? 『何セットやればいい』だか? ま――将来的には10セットやれれば上等だども…… 今夜のところは、あんちゃもクタクタだろかしさ むりせんで、あと1セットだけにしとこ、な?」 「ん、はば、あと1セット。 腰を浮かして鼻に向けて――戻して。 腹こさへっこめて力をいれて―― 腰と背中でぎゅーーーーっと布団をおして沈めて」 「ひぃの、ふぅの、みぃの、よぉの、いぃつ、むうぅ、なーな、やぁあ、こぉこ、とおっ」 「へば、ゆるむ〜 だらーーーん。 ぐたーーーー。 ふふふっ、本当にがんばっただな。 おつかれさまだ」 「ってか……(あくび)……サキもさっとは疲れただかな。 ……何百年ぶりだもんなぁ……人間のこど――ふふふっ――助けてやってさ――あ、いや、こったは、はじめてだなぁ」 「お礼のお酒もねでそれなのに…… サキさ、あんちゃを助けたもんなぁ」 「『どうして』……って――どーしてだろな? 最初はサキな? あんちゃのこどやりすごして、関わらんどこうと思とっただけど……」 「んだどもあんちゃが足滑らして、アブねて思ったら―― 体さ、勝手に動いとったでなぁ――」 「ああ……もしかして。 オラ、『さき』のこど、思い出したんかもなぁ」 「ん? ああ、『さき』は人間の娘っこよ。 オラとおんなじ名前の―― ってかよ? オラに、サキに、自分とおんなじ名前をくれた、娘っ子」 「大昔によ――さきも、山道で足を滑らせてな? オラが助けて、お礼いわれて、名前聞かれて、 『ただの山鬼(さんき)だ』ってこただえたらよ―― へへっ――『さきとおんなじおなまえだなや』って、 まぁ喜んで、懐いて、懐いて……」 ;3/右 通常位置でささやき 「……人間のわらしこは、めんこいもんなぁ。 あんためんこいもんだもの…… どっただしたって、嫌いにも恨みにも、おもえんもんなぁ――」 「……(呼吸音)――茂伸のカミさんの導きかもなぁ。 誘われたとき、このまま消えちまうんならさ、 どこで消えても変わらねかって、思うたけどなぁ……」 ;徐々に眠い 「……ここ来てさぁ、あんちゃと会えで。 あんちゃのおかげで――サキ、人間のこど好きなんだって―― やっぱり、思い出せたもんなぁ……」 「ん……(ふあっ)――なんだか――とってもぬくいなぁ―― えへへっ――ええあんばいだなぁ―― ぬくくて――しずかで――おだやかで……」 「……んふふっ――あんちゃも大あくびだな。 へば、寝んべなぁ。 このまま静かに目をつむってさ――ん?」 「寝る前に、ひとつだけ?」 「ああ、かまわねだ。 なんだなんだ? ナイショバナシか?」 ;1 密着 「……ふん……ふん……ふん――ああ、そうだなぁ、 そりゃいなぁ」 ;3/右 近い 「へば、次のときには、星の天幕、草の布団で、一緒に寝よなぁ。 上等の酒――ふふっ――ちゃあんとお礼に、もってくっだぞ?――ふあっ――」 「ああ、もう眠くで眠ぐてたまらんなぁ―― 目、とじるだで――おやすみな。 ん……(呼吸音)――ん――(呼吸音)――あ」 「ごめんな? あんな? ひとつだけ―― へへ、もうひとつだけ、さっと、試してもかまわねが?」 「……ありがど、あんちゃ。 へばな? あんちゃはそのままで…… 目さ、つむったままでかまわねからな」 ;3/右接近ささやき /ちゅはリップ音 「…………つむっったままで――(呼吸音)―― 目、あけんでな?――ん……(ちゅっ!)」 ;3/右 通常、 「えへへへっ――あのさ、とおこさがさ。 旦那さんにしてんの見だこどあっで―― あんまりしあわせそうなもんだでな」 「サキもいつかは…… 旦那にしたいと思えるようなあんちゃがもしもできたら、さ。 そんときは、一度でいいからやってみでえって思ってたんだ」 「え? あ……『一度じゃなくてもかまわない』って…… ふわ……わ――へば、な? ――へば」 「に、二回目とか……三回目とかは……その…… 草の布団の上でのときに…………はっ」 「な、なんでもねぇだ。 寝言だ、寝言。 サキはもう、すっかりぐっすりねちまってるだ」 「……うふふっ―― ねちまってるけど――おやすみ、あんちゃ。 くさいろの夢、星空のゆめ。 あんちゃといっしょに、みれたらいいなぁ――ふあぁ〜」 「ん……(呼吸音)――おやすみ、な? ん……(寝息)……」 「(寝息)×4」 「(寝息)×4」 「(寝息)×4」 「(寝息)×4」 ;四度目の寝息×4をF.O. ;おしまい