……はい。こちらは無事に到着致しました。  騎士様のお陰で、私達は一人として欠ける事なく、息災でございます。    はい。私が最も年長の、メルヤでございます。    はい。  はい……!    そうね。でも、まだ油断はできないわ。  騎士団の到着まで、できる限りの事はしましょう。    どうしたの?     ……!  あぁ……!  お目覚めになられたのですね……!  ……うん!  大丈夫よ。任せて。  チハこそ、よろしくね。    はい。ここに。メルヤでございます。  騎士様……もう心配ございませんわ。  貴方様のおかげで、私達は救われたのです。    はい。あの子、貴方様が目を覚まされるのを、ずっと待ちわびておりましたから。  もちろん、私も、他の子達もですわ。  騎士様、よくぞお目覚めになられました。  一時は少々……心配でございましたから……。  ……ええ。  チハが今言った通りです。  貴方様の容体は、未だ不安定。  病状について、詳しいご説明が必要な状況にございます。  でも、ご安心なさって。  チハには詳細を伏せております。  あの子達には、知られたくないでしょうから。      もしかすると、記憶に齟齬があるかもしれませんから。最初から振り返る形で確認してゆきましょう。  三日前、屋敷から脱出する直前。  私達がイザベラに吹きかけられた薬の事を、覚えておられますか?  然様でございます。  あの忌まわしい、甘い匂いのする液体です。  貴方様はあの時から少しずつ体調を崩され、どうにか歩く事はできましたものの、今朝、とうとう倒れてしまわれました。  ここまでは覚えてらっしゃいますね?  幸い、この屋敷まではもう、すぐ傍でしたから。  チハと私で運び、予定通り到着できました。  しかし、倒れてから半日を過ぎても、貴方様は目を覚まされず……。  現在に至るという訳ですわ。  はい。端的に申し上げます。  私達が浴びせられたのは、強い催淫性を持つ薬物です。  体内に入ると、次第に強い倦怠感に襲われ。  やがて、思うように身体を動かせなくなる作用がある薬です。   今朝まで、歩くのもお辛かった事でしょう。  今も、よく耐えられておられますね。  『どうしてそんな薬を』と申されますか。  そうですね。お優しい貴方様でしたら、あの女の下卑た思惑など、想像もつかぬ事でしょう。  しかし、私には察しがつきます。  この薬はおそらく、イザベラが奴隷を売る際に使っていたもの。  それを私達に浴びせる事で、身体の自由と理性を奪い。  やがて混乱した貴方様が痴態に及ぶように仕向け、貶める……。  おおかた、それが、あの女の目的だったのでしょう。  ですが、それは叶いません。  私が阻止しますから。  ご安心下さいませ。  貴方様の名誉は、私が必ず守ります。  はい。ご質問にお答え致します。  私が、貴方様と同じように薬を浴びながら、その影響を受けず。  また、こんなにも効能に詳しいのは。  私が亜人ではなく、淫魔だからです。  申し訳ございません。  この地方では極めて少ない種族である事から、これまで素性を伏せておりました。  しかし此度を緊急事態とみなし、チハ達やおじ様、おば様。ガラテア様達にはすでに正体を打ち明けております。  私は皆様の味方でございます。  淫魔の持つ全ての力を使って、皆様のお役に立つと約束致します。  ああ……良いのです。無理にお話にならなくて。  貴方様も、本当は『何かがおかしい。こんな亜人は見た事がない』とお思いになっていたでしょう?  仮に私が亜人なら、混じっている種族の数が多すぎますもの。  ですからこれからは淫魔の力をもって、貴方様を苦しめる症状を緩和するお手伝いを致します。  そしてガラテア様達が解毒剤をお持ちになられる時まで、一緒に待ちましょう。  ふふ。みなまで言わせないで下さい。  嫌なはずがありません。  私がそうしたいのです。  貴方様は、私の身体だけでなく、心までお救い下さった。  絶望しかけていた私達に、ずっと優しい言葉をかけ、ここまで連れてきて下さった。  屋敷にいた頃からずっと、私の心は貴方様のものです。  『お慕い申し上げます』と、言ったでしょう?  これより生涯、貴方様に私の全てを捧げましょう。  だから……もう、我慢なさらなくて良いのです。  さぁ……この手を握って。  今から沢山……気持ちいい事を致しましょう?