ああ、来たか。  時間通りだな。  そこは、我が家の人間らしいと言ったところか。  メルヤ殿。本日は君までお呼び立てして済まない。  手短に済ませるから、君も聞いて頂けるだろうか。  ありがとう。  では、単刀直入に。  先ほどの会議で、お前の処分が決まった。  『いかなる理由があっても、任務を放棄し、計画と大きく違う行動をとった者を、我が騎士団に置いておく事はできない。  貴殿の意向通り、本日付で退団処分とする』  これが騎士団の結論だ。  だ、が……。  おい。話はまだ終わりじゃないぞ。  実は現在、少々困った事があってな。  これは、我々としても予想外なのだが。  このところ、入団を希望する者が妙に多い。  ああ、申し訳ない。  メルヤ殿はこの街に来たばかりだったな。  我が街では、騎士を志す者に対し、広く門戸を開いている。  簡単に言えば、騎士団が運営する、独自の騎士学校のようなものがあるんだ。  専門の訓練を受けていない者でも、そこで一定期間学び。試験に合格する事で、騎士になれる仕組みになっているという訳だ。  ……まあ、言う程簡単なものではないがな。  しかし。  どれだけ『容易なものではない。生半可な覚悟では潰されるだけだ』と言っても、ちっとも希望者が減らん。  割合としては亜人の娘達。  次いで、ここ最近のニュースを聞きつけた若い娘が多いな。  『たとえ任務に背いても、人を助け、人に尽くす騎士は格好いい』  『そのような騎士であ・れ・ば。自分もぜひなりたい』のだそうだ。  という事でどうだ。  教える気はないか? 志願者達に。  そうだ。騎士はやめてもらうぞ。  それはお前自身の希望でもあるからな。叶えるさ。  だが、お前も知る通り、退役後に騎士学校で教えるようになった、ペルトマー先生のような方もいる。  つまり、騎士団には『厳密にはすでに騎士ではない人間』もいる訳だ。  お前にも資格がある。    我々としても、正直な所手が足りん。  『猫の手も』とは言わんが。  採用に足る実力があって、暇している奴がいれば、ぜひ来てもらいたいと思っている。  ……ミーシャも、お前は教師に向いていると言っていたしな。  ああ。随分熱く説明されたよ。  お前を支持する者達の署名まで集めてきてな。  随分慕われてるじゃないか。  鈍いお前はピンと来とらんのだろうが、一部じゃすっかりヒーロー扱いだぞ。  これなら、任せても問題ない。  そう判断しこの結論に至った。  そうだ。  今度は師として彼女達を。  お前を支持する者達を導くんだ。  自分のした事は間違っていないと言うのなら、これからの生き方で証明するといい。  ……まぁ、すぐにとは言わん。急に言われても困るだろうしな。  どの道、騎士学校の新学期までは時間がある。  考えてみてくれ。  ふむ。よろしい。  では、メルヤ殿。  この度は本当に世話になった。こいつの姉として、心から礼を言う。  いや、このまま。  メルヤ殿。こんな妹だが、どうかよろしく頼む。  こいつには君のような、聡明な女性が必要だ。  こいつと来たら、気が弱いのかと思えば、妙に頑固で危なっかしい。  もっと楽な道を選べばよいものを、肝心な所でいつも困難な方法を選ぶ。  苦労かけるだろうが……これからは私達もついている。  どうか私達と一緒に、こいつを支えてくれないだろうか。  ……ありがとう。  君がいてくれて、本当に良かった。  では、話は終わりだ。  一時から、また次の会議があるんでな。  では、またな。  今後の君達に期待している。