○チャプター2 セクハラの真相!? 「心配しないで♪大丈夫だから」 愛奈はああは言ってたが、だからといって「はい、そうですか」とはならない。 なんてったって、愛奈は僕が心から愛する妻だ。 心配するなという方が無理な話だ。 僕の名前は相馬春樹。 妻とは3年の交際を経て、今年の春に結婚したばかりだ。 僕は当初、愛奈には専業主婦になる事を望んでたのだが、元々活発的でサバサバとした感じの (有り体に言ってしまえばギャルっぽいのだが)彼女はそれを望まなかった。 愛奈は将来産まれるであろう2人の子供の為、借家住まいではなくマイホームを購入したい その為には共働きをしてマイホーム資金を貯めたいと言うのだ。 勝気で頑固な愛奈は言い出したらきかない性格だ。 それに「僕の給料だけでマイホーム資金なんか貯めれるさ」とはいいかねる僕の薄給では渋々、自分の意見をひっこめざるを得なかった。 その話をしてしばらくの後、愛奈は近所の喫茶店でバイトを始めたのだった。 そして昨日、僕は彼女から「店で店長からセクハラを受けている」と聞いた。 「大丈夫なのかい?なんなら僕がその店長に文句をいいにいこうか?」 という僕の心配に対する妻の回答が冒頭の台詞だ。 もう一度言おう、だからといって「はい、そうですか」とはならない。 次の日、僕は会社を早退して愛奈がバイトしている喫茶店へと向かった。 愛奈には悪いが彼女の事が心配で仕方ないのだ。 セクハラ店長にガツンと言って、妻へのセクハラをやめさせてやる。 愛奈のバイト先の喫茶店は自宅の最寄駅から少し離れた場所にあった。 店のドアを見てみると「準備中」の札がかけられている。 いわゆるランチタイムが終わり、夕方からの営業を再開するまでのアイドルタイム中らしい。 これは好都合だ。 恐らく愛奈は休憩中だろう。 店にいない可能性が高い。 だとすれば、彼女の意向を無視して僕が来た事がバレないだろうし、 店側も客がいる前でセクハラのクレームなど受けたくもないだろう。 カランカラン♪ 「あの~…すいません…」 喫茶店ならではのカウベルの音を立てて僕は店に入る。 「あ~お客さん、すいません~、ウチ、今、準備中でして~」 カウンター奥の厨房からでっぷりと太った禿頭の中年男性が面倒くさそうにでてきた。 「あ、いえ…客じゃなくてですね…あの…私、ここでバイトさせて頂いている『相馬愛奈』の夫なんですが…」 「ああ!!愛奈ちゃんの旦那さん?こりゃどうも!いつも、愛奈ちゃんにはお手伝いしてもらって助かってるんですよ~」 アルバイトの身内とわかった途端に相貌を崩す店長、しかし僕は自分の妻を「ちゃん」付けで呼ばれた事が気に入らない。 「もしかして、愛奈ちゃんに用事ですか?彼女、今、休憩中でちょっと外に出てるんですよ~」 「30分くらいで戻るとは思いますんで、良かったらどうです?コーヒーご馳走しますんでお待ちなりませんか?」 そう言って手を伸ばしてカウンターへと案内する店長。 「あ、いえ…お構いなく…でも、僕が用事があるのは妻にではなく、貴方になんです」 「え?私に?なんでしょう?」 大げさに自分を指差し驚いて見せる店長。 いちいち動作が大仰だ…それがまた僕の癇に障る。 僕はカウンターに座り、手を組みながら話し出す。 「実は昨日、妻…愛奈から聞きました…なんでも貴方から日常的にセクハラを受けているとか」 「なっ!?」 店長が一瞬たじろぐのを僕は見逃さない。 「やっぱり…貴方の態度を見て確信しました…どうやら妻の話は本当みたいですね」 「いや、その!なんていうか…タハハ…まいったなこりゃ…」 後頭部をボリボリとかきながらバツの悪そうな顔をする店長。 しかし、その顔には反省の色があまり見えない。 その事が更に僕の怒りを増幅させる。 「まいったなぁって!貴方ねぇ!!自分のやってる事に自覚があるんですか?」 「従業員で…なおかつ人妻に対して強引にセクハラするとか、男として…いや、人として常識を疑いますよ!」 「ちょ!ちょっと待ってくださいよ!相馬さん!!」 まくしたてる僕に割り込むように声をあげる店長。 「相馬さんは何か少し勘違いをなさっておいでのようだ」 「かん…違い?」 「そうです、勘違いです」 「先程、相馬さんは『私が強引に愛奈さんに対してセクハラをしている』そうおっしゃいましたね?」 「ええ、その通りです…違うんですか?」 「まぁ、確かに私は彼女にセクハラ…いやそれ以上の事もしてますが…」 「決して、相馬さんがおっしゃるように強引にしている訳じゃないんですよ?」 「え?…それって一体どういう事ですか?」 店長の言っている意味がわからない…。 強引じゃないって事はつまり…愛奈も同意しているという事か? しかし、彼女に限ってそんな事は考えられない…。 「訳がわからない…そんな顔をなさっておいでですね♪相馬さん」 「いいでしょう♪少し説明しましょう♪」 店長の顔にニヤけ笑いが浮かぶ。 この話の主導権を握って悦にいってるのだ…。 腹立たしいがここは店長の言う「説明」とやらを聞くとしよう。 「いや~、相馬さん…私は別にね、自分が無実だって言ってるわけじゃないんですよ~w」 「確かに貴方がおっしゃるように仕事中、休憩中問わず、私は愛奈ちゃん…おっとw相馬さんの奥さんにセクハラしてます」 「でも、ご安心ください♪勿論、彼女は抵抗しましたし、その度に散々怒られちゃいましたよ~♪」 「いや~♪怖かったなぁ~♪怒った時の愛奈ちゃん♪家でもあんな感じなんですか?相馬さんw」 「話をそらさないでください!」 確かに…怒った時の愛奈は怖い・・・前に一度だけ会社の飲み会で終電を逃して朝帰りした時なんか…。 い、いや!今はそんな事を考えてる場合じゃない…奴の話を聞かなくては・・・。 「えっ?ああ、すいません♪話が横道にそれちゃうのが私の悪い癖でして…アハハ」 「えーっと、どこまで話ましたっけ?ああ、そうそうwそれで、あまりに愛奈ちゃんがつれないもんだから…」 「ダメもとで彼女に提案してみたんです♪『お金を払うから相手してくれないか』ってね♪」 「私、てっきりいつもみないに怒鳴られるんだって覚悟してたんですけどねぇ~♪」 「そうしたら、彼女『いくら出すの?』って言ってきてw私も自分の耳を疑いましたよ!ええw」 「それ以降、愛奈ちゃんには毎回お金を渡して、相手してもらってるんです♪」 「だから、先程、相馬さんがおっしゃられた様に決して『強引』にしてるわけじゃないんですよ~♪」 「そりゃあ、確かにこんな事、旦那さんにはなかなか言えたもんじゃないとは思いますけど…」 ダンッ!!!!! 「嘘だ!!!愛奈が!!!!妻が!!!そんな事言うはずがない!!!」 カウンターを叩いた拳がジンジンと痛む・・・。 「貴方の言うことは信じられない!!妻が…そんな事に同意するはずがない!!貴方は嘘つきだ!!!」 「ちょっとちょっと~…相馬さん、落ち着いてくださいよぉ~」 「しかしなぁ~♪信じられないって言われてもなぁ♪」 「あ♪そうだ♪動画ありますよ?それを見てもらえたら信じてもらえますかねぇ~♪」 「ど、動画?」 「えぇ♪動画です♪愛奈ちゃんと私がその…してる奴なんですけどねぇ♪」 「なんていうかw私の個人的趣味でして…タハハw他人に見せれる体じゃないんですがねぇ♪」 「ええ、勿論、撮影には愛奈ちゃんの同意も頂いてますよ♪あの時は結構な金額を要求されたなぁ…」 「あ、すいません♪また話が横道にそれちゃいましたね♪」 「本来はこういうの見せないんですけど…相馬さんに私の話が本当だと信じて頂く為に特別にお見せしますよ♪」 信じられない…。 あの愛奈が…しかし、店長のこの自信満々ぶり…それに証拠の動画もあるという…。 こうなったら、店長の話が本当かどうか確認するしか選択肢はないか。 「わ、わかりました…それで、その動画はいつ見せてもらえるんですか?」 自分の提案にのっかってきた事にニヤける店長…。 「う~ん…そうですねぇ…さすがに今からだと愛奈ちゃんが休憩から戻ってきちゃうし…」 「そうだ♪相馬さんのメアド教えて下さいよ♪今日、店閉めた後で動画を送りますから♪」 人懐っこい笑みを浮かべウインクしてみせる店長。 クソッ!これが愛奈の動画じゃなかったら、男同士のよもやまエロ話として楽しめただろうに…。 僕は自分の手帳にサラサラとメールアドレスを書くとそれをちぎって店長に渡した。 「はいはい♪確かに相馬さんのメアド頂きましたよ♪」 「それでは、夜にでも送らせて頂きますね♪楽しみに待ってて下さい♪おっとw『楽しみに』だなんて、口が滑っちゃいましたね♪すいません♪」 「それでは宜しくお願いいたします!私はまだ貴方の言う事を信じたわけじゃありませんので・・・」 そう言い捨てると僕は喫茶店を後にして帰宅した。 ――――その夜 夜になり、仕事終わりの愛奈が帰宅してきたがいつもと変わらない様子だった。 どうやら店長は僕が店に訪れた事をふせていてくれたみたいだ。 そして、いつもの様に2人とも風呂に入りベッドで眠りにつく・・・。 しばらくすると、愛奈の寝息が聞こえてきた。 僕は彼女を起こさない様にそっとベッドを抜け出ると、スマホとイヤホンを手にとりトイレに入り、そっと便座に座る。 (ド、ドキドキする…もしあの店長の言ってた事が本当だったなら…) (その時、僕は…どうするんだ?) 正直、覚悟なんて決まる訳なんかないが、このままトイレでいつまでも悩んでるわけにもいかない。 勇気を出して、スマホを操作する…。 寝る前に店長からメールがきているのは確認済みだ。 あとはこの添付ファイルの動画を再生するだけ…。 ゴクリ…思わず息を呑む。 動画再生ボタンをそっとタップする。 そして、動画がはじまった…。